ロジスティクス・レビュー

第424号 海外生産の在庫管理Ⅱ(2019年11月19日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。

目次

1.需要予測は当たるか

  海外生産によるコスト低減効果が、発注担当者の無計画な製造発注と、欠品を許さない納品先の商慣習などによる在庫の増大で台無しになってしまっている。それを回避し在庫を適正化するには、「客観的な需要予測」と「適正な調達計画の作成」が有効であることは前回述べた。本稿では前者の「客観的な需要予測」について、その代表的な手法とEXCELを使った簡易的な算出方法を紹介してみたい。
  ただ、需要予測という言葉には抵抗が多いかもしれない。「当たるわけがない」「やってもムダ」という声も聞こえてきそうである。これも前回述べたが、需要予測が「当たるか、当らないか」の視点だけで評価すれば、あまり意味がないかもしれない。そうではなく、予測した数値が「どれだけ外れたか」「それはなぜか」を検証して、次の予測に反映していくことが重要なのである。その意味から需要予測に対する考え方を根本から変えて、むしろ「需要予測は外すためにやる」と考えた方がいい。
  そして、はずれ具合とその理由を検証するためには、需要予測を客観的な手法にもとづいて行わなければならない。経験と勘だけで行っていたのでは、なぜその予測数値が算出されたのか、なぜはずれたのかを検証しようがないからである。
  あまり杓子定規に考えないで、まずはどの程度の予測精度となるか、ゲームでも行うような気分で気楽に取り組んでみることである。2~3割は外れて当然と考えるくらいがいい。市販の高価なソフトを購入するのであれば、「費用対効果」を厳密に検討しなければならないところであるが、EXCELであればハードルは低いし、コストもかからない。

2.需要予測のモデル

  まず需要予測の前提として、過去の出荷実績のみをパラメータとして使用することとする。通常の需要予測には、過去の出荷データ以外にも商品特性に応じたさまざまなパレメータを用いることがある。単純な例ではビールの出荷予測などである。ビールの需要は気温、湿度に大きく左右される。自社のみならずライバル会社の新商品の発売動向なども影響するだろう。この場合、過去の出荷データだけでなく、こうしたビールの需要に影響を与える多くのパラメータを使用すれば、より精緻な予測を行うことができるかもしれない。
  ただ、こうなるとEXCELで簡易的に行うには無理があるし、物流会社のように商品の販売に直接かかわりを持たないプレーヤーなどには不向きである。したがって、ここではあくまでも過去の出荷実績から未来を予測する、という簡易的かつ単純なアプローチをとることとする。代表的な予測モデルとして次の3つを紹介する。
・単純移動平均モデル
・指数平滑モデル
・ウィンターズ・モデル

3.単純移動平均モデル

①移動平均とは
  移動平均とは、移動平均とは“変動を均(なら)した”平均である。株投資を行っている人ならなじみ深いだろう。過去のデータをある一定の期間で平均をとり、その期間を1日ずつずらしていく。

  右の表は1日から5日までの出荷トン数を対象とした「3日移動平均」の例である。最初に1日から3日までの3日間の平均を算出し、真ん中の2日の移動平均とする。この期間を2~4日、3~5日と1日ずつ移動しながら同じように平均を求めていく。3日間の平均を求めることによって、日々の増減という短期的な「ノイズ」が除かれ、中長期の出荷トレンドが見えてくる。移動平均の期間を長くすれば、よりならされた平均となるのでノイズが除かれた全体的な傾向がとらえやすくなる。


図表 2 移動平均の例
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  図表2は1ヵ月間の日別出荷トン数とそれに対する3日移動、5日移動平均をグラフ化したものである。日々の出荷は大きく変動しているが、3日、5日と期間を広げるにしたがって、変動がならされ(ノイズが取り除かれ)、月初から月末に向けて右肩上がりに出荷が増えていくトレンドが明確となる。
  株では1カ月や3カ月といった非常に長期の移動平均を利用する。株価は日々変動を繰り返しながら、長期的に上がったり下がったりのトレンドを示すことが多い。この日々の変動に惑わされずに長期のトレンドをとらえるために移動平均が用いられるのである。

②単純移動平均モデルによる予測
  単純移動平均モデルとは、この移動平均を使った予測である。図表3に3日移動平均による予測例を示す。
  ここでは9/3から9/5までの出荷実績を元に9/6、9/7の出荷を予測してみる。9/6の出荷予測は3~5の3日間の移動平均“(200+120+150)÷3”である157となる。9/7の予測は、9/4、9/5の実績に9/6の予測157を加えた移動平均142となる。
  では、単純移動平均モデルによる予測は実務の中でどの程度有効なのだろうか。実際のデータで検証してみよう。対象は中国や東南アジアで業務用の備品を委託製造し、輸入販売している中堅メーカーA社である。検証の方法は、過去の出荷実績5ヵ月をサンプルとして抽出、最初の3カ月の実績から残り2カ月分を単純移動平均モデルにより予測する。
  この予測数値とすでに結果の出ている2カ月の実績の絶対誤差を求める。絶対誤差とは、マイナスを除去した実績と予測の誤差である。プラスとマイナスで相殺されてしまうことを避けるため、誤差の大きさを客観的に把握することができる。


図表 3 単純移動平均モデルによる予測例
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ここでは、「過去の実績」からすでに答えの出ている「過去」を予測して実績との比較をすることで予測精度を評価してみる。
  図表4はその結果である。正確な検証のために、季節波動が小さい商品と大きい商品の2種類の予測を行ってみた。
  季節波動の小さい商品は5~7月の実績を元に、8、9月の移動平均を求めてみた。2カ月の合計では、絶対誤差率は実績に対し14%。予測の精度はかなり高いといってよい。
  季節波動の大きい商品はどうであろうか。8~12月の実績で検証してみる。特徴として8月と12月に出荷が落ち込む傾向があることがわかる。この商品も同じように、8~10月3カ月の実績を元に、11、12月の予測を行う。その結果、11月は予測125で実績とピタリ一致した。ところが季節波動が発生する12月は予測140に対して実績68と、105%もの誤差が生じてしまった。2カ月合計では37%の絶対誤差率である。これでは実用には少々厳しいかもしれない。
  あわせて、同じデータでマイナスも加味した誤差も検証してみよう(図表5)。季節波動が少ない商品では、8月の誤差がマイナス(予測値が実績よりも大きい)、9月がプラス(予測値が小さい)である。2カ月合計ではこのプラスマイナスが相殺されて、誤差率は3%と縮まった。予測精度はきわめて高い。これは、単月で予測するよりも複数月で予測した方が予測精度はより高まるということを示している。月をまたがった調達計画が必要となる在庫計画などへの適用ではある程度有効と思われる。
  一方、季節波動の大きい商品では、11月の誤差がゼロであったため、プラスマイナスの相殺がなく、誤差率は37%と変化なしである。

③単純移動平均モデルの特徴と使い方

  以上の検証から、単純移動平均モデルによる重要予測について、おおむね次のような特徴を指摘できるだろう。
  このモデルで予測算出の元となるデータは直近の実績である。したがって、予測対象が直近の出荷トレンドに大きく影響を受けるような特徴を持つ商品については、相当程度の予測精度が期待できる。
  とくに予測誤差のプラスマイナスの相殺を加味する必要がある、複数の月や日にまたがって行う場合は有効である。たとえば過去の出荷実績があまり蓄積されていない新製品、季節変動の少ない定番品のワイシャツや下着などである。
  それに対し、季節などで需要が大きく変動する商品について、季節をまたいで予測する場合などでは不向きである。
  これらの商品が季節をまたぐときは直近の実績よりも前年同時期の季節変動指数などの方が参考になるからである。ただ、季節変動が激しくても同じ季節の中での予測であれば有効になる場合もある。

  先の季節変動が大きい例では9~11月がシーズンと思われるが、11月の予測は完全に一致していた。
  また、移動平均の期間の幅をどの程度にするかによっても予測の精度は違ってくる。期間を短くすれば直近のトレンドがより強く反映されるし、長くとればよりゆるやかにトレンドが反映されることになる。その商品、アイテムの出荷特性や調達方針などに応じて、柔軟に使い分けることが重要である。
  さらに、重要なことは需要予測で示された数値をそのまま使用しないことである。ここで示したモデルは、あくまでも過去の実績を元に機械的に算出されたものである。現実の予測のベースとなる数値が提供されたにすぎない。実際の商品調達計画はこの数値を元に、その時点での製造計画、委託先工場の稼働状況、その時々の販売動向(大口受注の確定状況)などを加味して修正するべきものである。予測モデルはそのための基本情報を提供しているにすぎない。
  おそらくこのように最終的には人間の判断が欠かせないというステップは、今回示した簡易的な予測モデルに限らず、高度な予測ソフトなどによる予測でも同様だと思われる。すべて機械任せというのは危険である。

  今回は需要予測への入り口として、直近の需要動向のみを加味した予測モデルを紹介したが、実際は季節変動がある商品の方が多いだろう。次回は直近トレンドとともに季節変動を反映したより精緻な手法「指数平滑モデル」「ウィンターズ・モデル」の2つを紹介していきたい。

以上



(C)2019 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.


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