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ロジスティクス ・レビュー

ロジスティクスと経営のための情報源 /Webマガジン

ロジスティクス

第426号  令和になり、俄然注目され始めた社会的課題:誰がソーシャル・ロジスティクスの旗振り役になるか(2019年12月17日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.今、新聞で話題沸騰の事柄:時短営業~食品廃棄ロス削減、基本はロジスティクス

  令和という新しい時代に入り、新聞記事の内容が少し変わってきた。コンビニを始めとする時短営業、そして食品廃棄物やプラゴミの削減等々、これらはいずれもソーシャル・ロジスティクス(以下ロジと略)としての課題であろう。少子高齢化により人手不足が深刻となり、これが喫緊の課題であることは間違いないが、単に人手不足といった問題に留めるべきではない。それはサプライチェーン運営がもはや従来延長線上だけでは維持できなくなっていることを示し、その結果としてまさにグリーン又はリバース・ロジと呼ばれていた領域での取組みの重要性を訴えている。
  ロジのコアは需給管理であり、需要予測や在庫のリアルタイム把握等を出発点とした製販調整、そしてその結果としての在庫配分の精度不足が様々な問題をもたらしていると言える。さらにはマーケティングとの連動が不可欠であり、これが企業活動の根幹に位置付けられているかどうか、早急に再評価すべきである。またそれが安易なアウトソーシングに陥っていないかどうかを含めた、ロジ・システムの点検が求められる。アウトソーサーの側にあっては単に機能提供に留まらず、ロジ・レベルの顧客業務代行に耐えられるものになっているかどうかが問われる。
  これは単に一企業のビジネスモデルという枠を超えて、まさにソーシャル・ロジとしての社会最適システム再構築である。これを誰がリードし、適正な役割・コスト分担等を追求していくのか。国としてその問題意識はあるのか、だがそれは縦割り行政では解決しない。最終ゴールはあくまで顧客としての消費者であり、この新たな社会的合意作りが必要になっていく。さらなる新聞ネタでは、ネットビジネスの進展や、FTA・EPA・TPP等の国際的な貿易交渉の影響が喧しい。これは末端到達系やグローバル・ロジとして、前述の話題とも符合していく。もちろん令和になったから問題が噴出したということではないが、新しい時代の課題を暗示しているのではないか。

2.食品事業領域では鮮度・衛生管理が必須:流通温度帯の主流はチルド

  少子高齢化という厳しい与件をもろに被っているのが食ビジネスであり、その結果がコンビニやネットビジネスの利用であり、総菜を始めとした生鮮食品である。基本は365日24時間連続供給であり、在庫が持てない究極の無在庫型ロジ運営であり、その不具合が鮮度後退や廃棄ということになる。仮に365日連続供給が困難になると、不規則な稼働体制で需要予測が困難になる。一方生鮮品では加熱殺菌ができない商品が多く、また現在の検査判定前出荷という運営は一歩間違えば食中毒というリスクに繋がる。これは生鮮食品としての一次産品も同様で、生食するものも多いので同列に位置するロジ運営の課題ということになる。FTA・EPA・TPPの進捗と共に、輸出入というプロセスも含めたグローバルなシステムが再び注目を集めている。
  食品は大きく常温・チルド・冷凍という温度帯区分になるが、素材の持つ自然のままの美味しさ・健康志向から、チルドが注目を集めている。凍結する寸前から凡そ+5℃程度で流通させ、温度管理が物理的にも難しい。冷凍は凍結させて長期の保存を可能にさせるものとして、在庫管理は常温品に準じる。調理済みの利便性を提供するものとして、この温度帯のニーズも高い。食品ロジにおいては品質・衛生管理が大前提であり、物流工程といえども製造工程のHACCP・ISO認証等と同レベル管理が要求されている。また低温環境を実現する冷媒の地球温暖化防止への課題も大きく、ノンフロン化としての自然冷媒開発も急がれる。


(図表1:冷媒の種類と変遷)
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  賞味期限は各メーカーが独自の単位を設定しているが、流通における鮮度要求の実勢からはその大きな内数で後退限度が設けられ、この基準を超えたものは通常チャネルでは販売できないのが実態である。従来これが返品や商品廃棄の要因として見直しが叫ばれてきたが、ここに来て商品ロス削減の観点から検討の俎上に乗ってきそうな動きである。一方流通段階で在庫をどう持つかという、サプライチェーン全体における在庫配分が重要な課題になる。これはまさに需給管理の根本課題であり、環境問題から漸くメスが入ろうかという時代になってきた。


(図表2:食品の鮮度に関する表示義務)
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3.エコ対応がもはや不可避:食品廃棄ロス~プラ・ゴミ削減等

  物流領域が抱える基本問題としての省エネ・排ガス対応等に加え、前述した廃棄物やプラゴミ削減がもはや不可避の状況になってきた。発生している廃棄段ボールやプラスチック類は膨大な量に上り、これを回収廃棄するリバース・ロジの課題も重いはずである。問題の発端がコンビニにおける商品廃棄責任が店舗側の発注にあり、ここにしわ寄せされていたことがもう限界に達したということだろう。発注側にとって需要予測や販売促進という責任があることは当然だが、値引き処置を認めないということでは売り切るという努力にも限界がある。また365日連続稼働ではなく、ランダムな休日が入ると需要予測は格段に難しくなる。
  回収や廃棄を最小化・効率化するという課題は、従来からグリーン又はリバース・ロジとして語られていたが、いよいよ再利用も含め本格的に取組む時代がやってきた。これはサプライチェーン・マネジメントと表裏一体であるはずだが、誰しも中々力の入らなかったことは否めない。リサイクル容器やプラパレットの使用は進んできてはいるが、洗浄や衛生管理の問題がある。このコストを誰が負担するか等、未だ明確な線引きがなされていない。流通における力関係でそれが決まっていくのは、決して理に適っていない。レンタル・ビジネスがそれを解決するとはいっても、そのコスト負担の問題は未だ残るはずだ。
  基本としてのユニットロード化や一貫パレチゼーションが普及し、リサイクル容器による流通も促進されているとはいえ未だ万全ではない。衛生管理との整合性をどう取るかについては前述した。一方で省力化・自動化の条件整備も進んできてはいるが、これも同様であろう。物流業務に女性や外国人といった新戦力を活用していかなければならない状況で、業務体系そのものを改革しなければならない。その基本は業務標準化・システム化であり、単にハードを導入すれば済む話ではない。日常業務リスク対策としての改善活動、その結果として磨かれる業務標準化・マニュアル化が問われていく。

4.末端到達系が大競争の生命線を握る:ネットビジネスの進展と影響

  世はまさにダイレクト・マーケティングの時代であり、その手段としてラストワンマイルと呼ばれる末端到達系物流が成否を分けると言っても過言ではない。人口が減少し消費者の嗜好が多様化すればするほど、既存のマス・マーケティングの手法では通用せず、勢いワン・トゥー・ワンということになる。ネット通販の進展で、アマゾン・エフェクトと呼ばれる大きな影響を受けているのがメーカー・中間流通・小売りであり、さらにグーグルがこれに参入する動きを見せているという新聞報道があった。その対象商品は常温食品もさることながら、生鮮品も例外ではなくなってきている。
  この領域では宅配大手3社が存在しているが、これらのトップ企業は一時期業績が悪化し、業務量を抑制する挙に打って出た。人手不足により人件費が重くなり、そして料金引き上げにも踏み切っている。寡占状態だからこのような手法も通用するが、多くの同業者にはそんな簡単なことではない。低温系も同時配送の仕組みが一応用意されているが、万全ではない。3温度帯一括配送のニーズは外食産業等で旧くからあったが、未だハード・ソフト面で解決すべき課題はある。結果として低温系だけを独立させる動きもあるが、これでは配送効率面から余り意味がない。


(図表3:2016年度宅配便大手のシェア)
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  宅配便はいわば面をカバーする混載一括配送と言えるが、方法論としてこれしかないということでは決してない。例えばアライアンスで、これに挑戦している動きも見られる。地域の物流事業者が、共同配送で宅配便に競合していくことは非常に意味がある。ラストワンマイル系では、地域や顧客の個別事情に精通した事業者に強味があり、これを活かして配送密度や顧客への密着度を上げていく。もちろん個別に配送するだけではなく、一定の拠点に顧客が取りに行くのも一つの方法であろう。共同配送が再び見直され始めているが、ロジ視点でどこまで顧客業務代行を熟せるかが問われていく。

5.グローバル対応がますます求められる:FTA・EPA・TPP等の進展

  FTA・EPA・TPP等の進展で、外国から安い商品が大量に輸入され、一方で日本の良質な食品の輸出も拡大している。その代表例が牛肉であり、輸入国も多岐に亘るようになり、逆に国産牛の輸出も伸びている。最も好まれる温度帯はチルドであり、今後もさらなる拡大が見込まれる。その他ワイン・乳製品・果物等々、国産品の競争に与える影響は大きくなる。対抗措置として一次産業分野でもマーケティングやロジの活動を強化し、基本システムを再構築していくしかない。とりわけ自然を相手にした生鮮ロジは難易度が高いが、挑戦していくべきだ。日本の一次産品は非常に良質であり、潜在的な競争力を充分に持っている。
  輸出入に伴うサプライチェーン構築には、必ず通関・保税という国家が管理する機能が関与してくる。現在、日本の通関リードタイムは2日程度と考えられているが、生鮮流通ではこのタイムロスは大きい。貿易立国を任じるシンガポールでは、即日に許可される。この業務を代行するのがフォワーダー業界であるが、これはいわば3PLと呼ばれる業態である。ノンアセットでシステムを構築し、従量制による一括課金方式を基本に、これが顧客ニーズに合致している。つまり物流コストの変動費化に繋がる。物流料金体系の多くに、未だ固定費部分が残されている。
  このような時代背景の中で、一体誰が主導して全体を再構築していくのかが未だ見えてこない。一時、3PLや4PLといった概念が喧伝されたが、ビジネスとして確立されたという状況でもない。さりとて官や公共団体がその概念を形成して、実用化に向けたイニシャティブを取るということでもないだろう。物流業界も機能別に編成されており、これを横断的に連携させるのは不可能に近い。すると一企業のビジネスモデルに組込まれ、競争優位のメリットを享受するということになるが、それでは社会的側面が中々消化されにくいということになる。勇気ある突破口を、コンビニ業界が切り拓いていけるかどうか。

以上



(C)2019 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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