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物流システム

第274号 段ボールケースへの日付情報等のバーコード・ダイレクト印字(2013年8月20日発行)

執筆者 浅野 耕児
(一般財団法人 流通システム開発センター 国際部上級研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1991年より凸版印刷株式会社勤務。印刷業務システム、ITシステムのSE・企画開発業務に従事。
    • 2006年より財団法人流通システム開発センターに出向し、電子タグの標準化活動に従事。
    • 2012年より一般財団法人流通システム開発センターに勤務。以来、電子タグを始めとして自動認識関連の標準化、普及活動に従事。

 

目次

1.はじめに

  流通システム開発センターでは2012年度、段ボールにバーコードをダイレクトに印字するための技術検証を実施した。ここではこの検証の概要を紹介する。

2.集合包装上の情報表示の現状と課題

  商品を流通させる際には、集合包装単位、即ち段ボール箱に商品を詰めたケース単位で流通させることが多い。通常、このような段ボール箱には、これを識別するための集合包装用商品コードがITFシンボルとしてバーコード表示されており(場合によりPOS用にケースJANシンボルも表示)、受発注や入出荷検品業務等の自動化、効率化に活用されている。
  一方、加工食品業界では商品出荷時の日付逆転防止や在庫商品の有効期限管理等のために、流通段階においても賞味期限や有効期限等の日付情報が不可欠となっている。また、ヘルスケア業界でも医療事故防止にこれらの情報が活用されている。
  現状、これらの情報は、多くの場合段ボール箱に文字でダイレクトに印字されており、人間が目で見て判断している。このため、コンピュータで利用する場合には入力作業が必要となり、手間やミスが発生するだけでなく、自動化や効率化を妨げる要因ともなっている。
  このような現状からすれば、日付等の情報をバーコードで表示することができれば、流通業界全体の業務効率化につながると考えられる。

3.バーコード・ダイレクト印字技術検証の背景と目的

  集合包装用商品コードは事前に確定しており、段ボール上に前もって印刷しておくことができるのに対して、日付やロット等の情報は随時変化するため、商品の製造時に何らかの方法で印字する必要がある。
  可変情報のバーコード表示方法の一つであるラベル印字の場合、品質のよい用紙を使えるため、比較的品質のよいバーコードを安定して印字できる利点がある反面、ランニングコストは相対的に高くなる。
  一方、インクジェットプリンタ(IJP)を使用して段ボールに直接印字する方法は、これまでは文字を印字する手段として多く使われてきた。このため、バーコードの直接印字に関して、現在の技術レベルにおける印字条件や印字品質について、多くの企業が利用していくための目安となるようなものはなかった。
  以上のような背景から、段ボール素材を対象にしたIJPによるバーコード・ダイレクト印字について、現在の印字技術でどの程度の品質のバーコードが得られるかを確認することを目的に技術検証を行った。

4.技術検証の実施内容

4.1. 段ボールへのダイレクト印字と品質評価

  バーコードの品質評価にあたっては、主に、段ボール素材、印字時の搬送スピード、印字内容(バーコード化するデータ等)を変化させて印字を行い、その品質を検証した。なお、印字機器の対応状況や一般的に使われるか等を考慮し、実際に印字したのは383通りである。
  使用した印字機器は、協力いただいたプリンタメーカーのバーコード印字が可能な高解像度のインクジェットプリンタ5機種である。印字インクやワーク距離(印字ヘッドと印字面の距離)等はそれぞれの機種でベストとなるよう設定した。

4.1.1. 段ボール素材

  梱包用途によく使われる段ボール素材として、一般ライナ、白ライナ、白ベタの3種類を印字対象とした。一般ライナは一般的な茶色地の段ボールである。白ライナは白地の原紙をベースにした白色の段ボールである。白ベタは一般ライナの茶色地に白インクをベタ塗りして白色部分を作ったものである。
  今回の検証では、箱の状態ではなく、A4サイズの段ボール片に対して印字を行った。

4.1.2. 印字時の段ボールの搬送スピード

  加工食品業界等の実際の現場で一般的に使われていると想定される30m/分および40m/分の2種類の搬送スピードを比較対象として設定した。

4.1.3. バーコードの印字内容

  バーコード印字にあたっては、バーコードの種類(シンボル)、データ内容、最小バー幅サイズの組み合わせを表1のように設定した。

表1 バーコードの印字内容

4.1.4. ダイレクト印字バーコードの評価方法

  バーコードの品質評価はJIS X0520(ISO/IEC15416)「バーコードシンボル印刷品質の評価仕様-1次元シンボル」に準拠した検証機を用いて行った。
  JIS X0520では複数の評価項目を基に、品質をA, B, C, D, Fの5段階のグレードで評価する。厳密な定義とは若干異なるが、ここでは各グレードの意味合いを表2のように考えた。

表2 バーコードの品質グレード

  通常、グレードC以上がバーコード品質の推奨値とされているが、今回のような段ボール面を印字対象とした日付等のバーコード印字については、一般的な運用基準がまだないのが現状である。

4.2. ダイレクト印字バーコードの読取(参考)

  印字した383通りのバーコードから、品質グレード、印字機器、段ボール素材のそれぞれの違いが含まれるように45サンプルを抜き出し、それぞれ50回読取を行い、読取率を算出した。
  読取は、テスト用搬送ライン上で40m/分および60m/分のスピードで印字サンプルを移動させながら、レーザ・タイプ2機種、カメラ・タイプ2機種の定置式バーコード・リーダを用いて行った。
  なお、今回、読取検証までは予定していなかったが、一部関係企業の協力が得られたことから、急きょ暫定的に実施した。このため、以下ではあくまでも参考情報として扱っている。

5.結果と考察

5.1. 段ボール素材の違いによる印字結果

図1 ダイレクト印字バーコードの総合グレード

  白ライナへの印字では、90%がグレードC以上となった(図1)。印字機器毎のばらつきもなく、比較的安定してC以上の品質の印字が期待できる。
  一般ライナへの印字では、90%がグレードDであり、C以上の品質はほとんど得られなかった。一般ライナは茶色地のため、コントラストが低くなることがグレード Dとなる主な要因である。コントラスト以外の評価項目は、比較的良い品質が得られている。また、印字機器毎のばらつきは少なく安定している。
  白ベタへの印字では、32%がグレードC、53%がグレード Dとなったが、他の素材に比べてグレード Fや検出不可(ND)が目立つ結果となった。印字機器により印字品質にばらつきも見られ、白ライナや一般ライナほど品質が安定していない。
  白ベタの場合、印字機器によってはバーコードの印字インクが白ベタに染み込んでしまう現象がみられた。この現象が少ないとコントラストが向上するものの、この現象が強いと染み込みのために黒バー部分が薄くなってしまい、コントラストを下げてしまう。
  なお、印字インクの染み込み現象は、白ライナ、一般ライナでも若干みられたが、白ベタほど現象が顕著ではなかった。

5.2. 印字時の搬送スピードの違いによる印字結果

  搬送スピードが速くなると最小反射率が高くなる、すなわち、黒バーが薄くなる傾向がみられた(表3)。
  これは、IJPがインクを噴出するタイミングが一定であり、搬送スピードが速いほど印字インクが届く範囲が粗くなることが原因の一つと思われる。また、段ボール素材によっても最小反射率は異なる。前述の印字インクの素材面への染み込みや、スピードが速いとインクの定着性が低下するといったことが原因になっていると思われる。

表3 搬送スピード別の最小、最大反射率の平均値

5.3. 印字内容の違いによる印字結果

  バーコードの印字内容(バーコードの種類、データ内容、最小バー幅サイズ)による品質の変化はほとんどみられなかった。

5.4. ダイレクト印字バーコードの読取結果(参考)

  グレードC以上のバーコードでは、素材によらず、ほぼ100%読取が可能であった。一部例外として、バーコード品質の推奨値であるCグレードでも読取率100%にならないサンプルがあった。これは例えば、搬送時のスキャナ面とのズレが読み取りに影響していた可能性等が考えられる。
  一方、Dグレードのバーコードでは、読取率100%が86%であった。前述のような検証精度の問題はあるにせよ、Dグレードでもかなりの程度の読取が期待できることがわかった。
  なお、検証にあたっては、前述の搬送時のズレの調整を含め、読取率を上げるためのリーダに対する設定や調整は行っていない。今後これらを適正なものにできれば、さらに読取率向上の可能性も十分に考えられよう。
  今回は時間的な制約もあり、読取に使用したリーダの種類と印字サンプル数も少なかったことから、読取に関しては今後も改めて検証を行っていく必要があるといえる。

6. 今回の検証のまとめ

6.1. ダイレクト印字技術について

  白ライナであればグレードC以上の印字品質が期待できる。一般ライナではコントラストが低くグレードDとなるが、コントラスト以外の評価は良好であり、品質向上の余地はある。以上から、段ボールへのバーコード・ダイレクト印字の利用を検討していくための技術的土壌は整ってきていると言える。
  コントラスト向上策の一つである白ベタについては、白ベタインクと印字インクとの相性という課題があることがわかった。より安定した品質を得るためには、相性の良い白ベタインクと印字インクが必要となろう。

6.2. 読取技術について

  今回の読取検証はあくまで参考だが、グレードDのバーコードであっても、比較的高い読み取りができている。現状のITFシンボルやケースJANシンボルでも、一定の条件下で、一般ライナ上に印字(印刷)されたものがグレードDの状態で実際に活用されていることを考慮すると、今回は不十分だった搬送ラインやリーダの調整や設定によっては、グレードDでも実運用に耐えられる読取率が期待できそうである。

7. 段ボールへのバーコード・ダイレクト印字の今後の方向性

7.1. 目指すべきバーコード品質

  企業間での利用を前提にした場合、段ボールへの印字であっても原則はグレードCの品質を目指すべきである。特に一般ライナではコントラストの向上が品質向上につながる。白ベタがその対策の一つであるが、白ベタと印字インクの相性の検討が必要である。また、白ベタ以外では、バーコード・ダイレクト印字に適した段ボール素材(印字面)および印字用インクの検討が必要であろう。

7.2. 運用可能なDグレード条件の明確化

  現状の印刷ベースのITFにおいても、一定の条件下でDグレード運用が認められていることを考慮すれば、ダイレクト印字においても、Dグレードで運用可能な印字条件などを明確にしていくことも必要と考えられる。このような印字条件の明確化ができ、かつ、企業間での利用に問題がないことが担保できるのであれば、ITFのようにその条件下でのDグレード運用を認めてもよいのではないか。
  一方、バーコード・リーダの読取性能も向上しており、低コントラストのバーコードにも対応する可能性も期待できよう。少しでも多くのリーダがダイレクト印字のバーコードを読取対象として対応できれば、運用の幅も広げることができる。

8. 実利用に向けた検討課題

  今後は、今回の検証範囲以外にも実際の利用環境での検証が必要である。例えば、段ボールに内容物を入れた状態での印字や搬送ラインのスピード変化、あるいは印字後の環境による影響等が考えられる。実際の利用環境によって検証範囲も異なるため、利用者を中心に印字機器、リーダ、段ボール、マテハン等の関連企業と協力して利用環境に即した検証が必要であろう。
  また、実際に企業間での利用を行うには、データ項目、バーコードの種類、印字位置等、利用者間(業界等)での運用にかかわる取り決めが必要になる。
  日付やロット等のデータは、GS1標準ではAI(アプリケーション識別子:Application Identifier)を利用してバーコードに表示する。どのAI(データ項目)を使用するか、それをどのバーコード(GS1-128、GS1データバー、GS1QR等)で表示するかを事前に取り決めておけば、利用者間での活用が容易になる。
  データ項目の長さはバーコードのサイズに影響する。今回の検証ではサイズによる品質への影響は少なかったが、リーダの読取制限(読取桁数や対応バーコード等)にも注意が必要である。
  印字位置については、ITF等の既存バーコードとの関係を含めて検討が必要である。場合によっては既存バーコードも含めて読み取る必要があり、リーダの複数バーコードへの対応状況にも注意が必要である。

以上


(C)2013 Koji Asano & Sakata Warehouse, Inc.

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