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物流人材

第398号 物流メンバーの育成(2018年10月23日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
-物流改革コンサルタント Dr.SANTA-

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

 

目次

1.パートの採用が難しい物流センター

  物流センターは可能な範囲で低コストの人件費で運営をする必要があるため、「低い社員構成率」と「物流作業効率の向上」の両方を目指している。
  社員の時給を健康保険料、厚生年金保険料等の会社負担分も加算して換算すると、パート時給の約3倍になっている場合が多い。つまり、社員1人の人件費でパートを約3人雇用できることになる。
  パートと社員の作業効率が同じであればパートを可能な範囲で多く雇用して物流を運営すれば良いのであるが、「業務の標準化」と「パート採用」の2つの障害が立ちふさがる。少子化の影響もあり肝心なパートが思うように集まらないのである。物流センターは20年前と比較すると労働環境は良くなりつつあるが、それでも最先端の工場や事務所勤務に比べると埃っぽく、夏は暑く冬は寒いことも多い。また物流センターや工場が集中して立地している企業団地では、パートの取り合いになっているという話をよく聞く。

2.パートの採用と定着化の工夫

  昔はパートの採用手段としてハローワークや新聞の投げ込みチラシが多かった。しかし、その採用方法だけだと他企業に断られた高齢者だけということになりかねない。高齢者のパートが悪いという訳では無いが、パートの年齢構成は幅広く採用しなければ物流は安定しないのである。社員よりも物流の仕事を熟知して若手パートを育てているリーダー的なベテランパート、仕事に慣れている中堅パート、あらゆる事に適応しやすい若手パート。それぞれ必要となる。
  最近は新聞を取る世帯数も、最盛時と比較すると約1000万部が減少した。少子化による世帯数の減少もひとつの要因かもしれないが、パソコンやスマホで情報収集するので新聞をとらなくてよいという考え方の世帯も増加しているのも大きな要因と思われる。若手パートを採用するためには、インターネット求人サイトを活用しなければなかなか集まらない場合が多いのである。
  また、パートが集まらないのは募集条件にも問題がある。本来であれば、9:00~17:00で毎日出勤可能なパートが多くいればセンター長も出勤計画を組みやすいが、時給や労働環境等の好条件でなければパートは集まらない場合が多い。「勤務時間平日10:00~16:00」「1週間当り平日3日勤務」「勤務時間平日10:00~15:00」「社会保険付き」という様に労働条件を譲歩しなければ集まらないのである。
  やっとのことでパートが集まったとしても、離職率が高い物流センターもある。コミュニケーションが出来ていない物流センターはこの傾向が多い。新人パートの教育は社員でなく、ベテランパートが教育することも多いと思う。わからない事があった場合、新人パートがなかなかベテランパートに聞く勇気がなく、ベテランパートも聞いて欲しくないオーラが出ていれば益々聞きづらい。結果として、同期のパートに聞きながら作業を行うとそれぞれの仕事がストップして全体のスピードが遅くなる。社員やベテランパートにとっては、新人パートの仕事が遅いという不満がたまる。徐々に会話が無くなり、コミュニケーションさえ取れなくなるのである。
  この様な物流センターは定着率が悪くなり、慣れていない人の比率が高まり作業効率が上がらなくなるのである。また、他の企業では適応できない(例:物流ルールが厳しく、作業効率ノルマがあるのがいや)パートが多く残り、社員も「やめられたら困る」と思い、そのパートに対して強く言えずに甘やかしてしまう。こういうケースが少なくないのが実情である。

3.教育方法の工夫

  ベテランパートに新人パート教育をまかせていると、パート各人により教える内容が少し違い、新人パートが混乱してしまうことも多い。
  私は次の方法をお薦めしている。「①物流作業動画撮影」「②新人パート目線の教育マニュアルの作成」「③教育用作業動画の作成」の手順である。企業としては、「間違いが無く、作業効率が高く、企業ルールを守り、勤務態度が良い」人を望んでいる。マニュアルを作っている企業は多いが、ISOに通るための企業目線で作成されたものが多く、新人パートにとってわかりにくいものになっているのではないだろうか。

①物流作業動画

  教育ができていない物流センターは、人によってやり方が微妙に違う。例えばピッキング作業の場合、商品を取りに行く方法、商品の確認方法、数量の確認方法が少し違うのである。まず、早くて、ミスが少ない作業方法とは何かを企業として決めなければならない。出来るだけ多くのパートの物流作業動画を取ってまずは研究する必要がある。ピッキングが早い人は、どの部分が早いのか? 商品確認の方法はどうしているのか? 動画であれば、時間がカウント表示されるので作業効率も検証できる。

②新人パート目線の教育マニュアル

  物流作業動画で研究した後、教育マニュアルを作成することになるが、新人パート目線が必須である。専門用語は出来るだけ少なく、写真付きで、わかりやすくするのが原則である。(図1参照)。ピッキングとは何か? ロケーションのルールは? どの部分で確認をすれば良いのか? ひとつ用語がひっかかってしまうと、色々と説明を受けても頭に入らないものである。


(図1:教育マニュアル例)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  マニュアルを作成した後、別部署の新人パートに見せて、どこがわかりにくいかを意見を出してもらい改訂することも必要である。この繰り返しで、マニュアルは充実されていく。

③教育用作業動画

  教育マニュアルをもとに教育用作業動画を作成する。ピッキングを例にとると、「今からピッキングを開始します」と言って、ピッキングリストをズームアップし、「ピッキングリストのこの部分が倉庫の番地(ロケーション)になります。まずは棚に書いている番地の場所に移動します」と言って、棚の列を読み上げながら移動をする。それぞれの作業時の注意点を説明していくイメージだ。新人教育担当は、新人パートに対して、教育マニュアルで説明し、教育VTRを視聴してもらい、現場に行ってOJTで教える。このやり方をすれば、新人パートが早く理解しやすくなるのである。

4.評価制度

  パートや社員のレベルアップを図るためには、公正な評価制度が必要である。パートは頑張っても頑張らなくても時給が同じであれば、各個々人が持っている全ての力を発揮しない。同一労働同一賃金が原則のため、「勤務態度」「さまざまな業務に精通(多能工化)」「他のメンバーよりも作業スピードが早くミスも少ない」「新人パートに対し教育ができる」等の基準をもとに評価し、時給の上乗せをする必要がある。しかし、数字化できない基準があるのが問題だ。数字化ができずに一部のパートの時給を上げれば、その行為が正しかったとしても証明が難しいため、他のパートには「えこひいきをされている」と思われることがある。その結果、パートの不満がたまり時給アップが逆効果になってしまうことがある。
  勤務状況(勤務日の休み、遅刻、早退)は数字にしやすいので今回の話では除外するが、知識に関してはチェックリストを作成する。(図2参照)


(図2:パートの多能工化)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  細かく評価基準を作れば〇×で可視化でき、パートと共有化することができる。長期パートに物流管理の一部を委任するパートリーダーの育成は短期間では難しいかもしれないが、適任者には時間をかけて依頼していけばよい。
  一番難しいのは、作業効率である。各パートにピッキングリストの総枚数、総行数、時間を毎日申告してもらい、社員が集計して作業効率(例:総行数÷総時間)を把握する方法もあるが、「ピッキングをしている商品により大きな差がある」と不公平を必ず言ってくるパートがいる。この様な場合、ハンディシステムを導入すれば良い。ハンディターミナルを導入すれば、ピッキングをした時刻がすべて記録され、自己申告をしなくても個人別の効率がはっきりと出る。また、商品分類でデータを抽出すれば、同一条件で比較できるので不公平感が完全に無くすことができるのである。システム規模により違うが、ハンディシステムを導入すると1000万円程度発生することもあるが、5年償却だと月額費用は20万円程度である。公正な効率で時給を決めていけばパートのモチベーションがあがり、作業効率が上がる。時給が上がり、教育制度を充実すれば離職率も下がる。システム導入費は1~2年でペイできるかもしれない。上げた時給を下げることはできないため、公正な評価制度を導入するまでに「グループの評価と報奨→個人の評価と報奨」の様に段階的な導入する工夫は必要である。

以上



(C)2018 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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