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第527号 企業による研修効果の測定を可能とするためには(サカタウエアハウス株式会社)(後編)~ (2024年3月7日発行)

執筆者  横山 史生
(サカタウエアハウス株式会社 管理本部 総務経理部 サブリーダー)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 2017年 サカタウエアハウス株式会社 入社
    • 2023年 同志社大学大学院 ビジネス研究科 修了
    • 現在に至る

本論文は、当社管理本部 横山が、同志社大学大学院 ビジネス研究科 修士論文として作成したものを、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。
*前号(2023年2月8日発行 第525号)より

概要

  本稿は数値化できない、いわゆる定性的な能力向上を目的とした研修の効果に関する測定・評価について論じるものである。研修はたくさんの組織において多様な形で実施されている。また、研修については様々な分野において研究がなされてきたが、その効果については研修受講直後のアンケートなど、受講者の個人認知の測定しか実施されていないことが先行研究より明らかになっている。しかし研修を実施する以上、その効果については研修を実施する組織により測定や評価が実施されることが必要ではないだろうか。そういった考えのもと、本稿では研修の測定・評価に焦点を当てる。そのために、まず研修に関してどのような研究が行われてきたのかを確認することで、研修がどのようなものであるかを明らかにした。そのうえで、組織は研修を実施したのちその研修についての測定・評価を行っているのかどうかを明らかにすべく、調査対象組織へのインタビューを実施した。その際、対象とする研修については先行研究も踏まえ、数値化できない定性的な能力に関するものとした。インタビューの結果、研修への測定・評価は調査した組織においては行われていないことが明らかになった。それとともに研修の測定・評価に対する複数の阻害要因の存在も確認することができた。そこで、確認された阻害要因をどのようにすれば取り除くことができるのかについて考察を実施した。

 

目次

5.分析および考察

  質問表(中編4-2.「表4.質問表」参照) を使用してインタビューを実施し、それに対する回答を得た。インタビューの結果、各組織 の業務や規模の違いにより研修の体系や人材開発自体への捉え方に相違がみられた。ただすべての組織に共通していたことは研修の測定・評価を実施していないと回答したことだ。ただし、測定・評価の実施について必要性を感じている、あるいは実際に試みているといった組織も一部、存在した。また、組織によって能力向上とは何かということに対する考えが異なっていた。それぞれの質問についての回答を比較することで、インタビュー対象の組織がどのように人材開発と向き合い、研修の測定・評価に対してどのように考えているのか、検討していく。
研修の種類と体系、研修の位置づけ、そして研修後のサポートに関する前半3つの質問は、研修がどのように行われているのかということを明らかにするために実施した。それを踏まえて、それらの研修の測定や評価の実施状況について、阻害要因なども含めて後半の2つの質問にて明らかにした。

5-1.研修の体系と重視している研修について

  質問1、「どのような研修を行っているか」「どの研修を重視しているか」についてのインタビュー結果について検討する。インタビュー結果の要約を表5に示す。

表5.質問1についての回答
出所:筆者作成。
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  この質問では、インタビュー対象がどのような研修を行っているのかを明らかにした。組織ごとにその結果を確認していく。企業Wは外部研修と、それをもとにした内部研修を社内で企画して実施している。内容としては人間形成を中心とした外部研修の受講や社内でのグループ討論会を定期的に行っているという。専務B氏は外部研修の詳細について次のように述べている。

「三泊四日、九州でもう缶詰めでね。でも中身ってなんかこう、不思議なことではなくて人間的に成長してきて、社会に出て、自分ってこうなんだっていうのが確立してきて、仕事してるじゃないですか。でも、あなたってなんで存在してるんですかって。例えば親がいなかったら存在してませんよね。(中略)例えば感謝であるとか、自分が何のために存在するのかっていうのはもう当たり前になってるわけですよね。今まで理解してきたことを全部取り去る。真っ白にする研修なんですよね。」(下線筆者)

企業Wにおいては、これまでの経験により自分の中に形成された固定観念を取り去るという、マインドをリセットのための外部研修に社員を派遣している。企業Xもどちらかというと企業Wと似たような形で精神論的な研修を行っている。この2社はともに中小企業であるという共通点を持っており、それが影響しているのかもしれない。しかし、本稿における調査対象組織はこの2つのみなので、より詳細な調査が必要であると考えられる。

それに対して、企業Zは外部教育機関が設計した研修を内部研修として利用し、PDCAサイクルを通じて「自分はこうなりたい」という目標を立て、その目標達成のための課題を設定し行動に移すという考え方を身に着けるための研修を行っているという。営業部長E氏は部下に対して実施する研修について次のように述べている。

「私は、研修は社会人としての型を作るために行うものであると考えてます。そのために当社では、PDCAサイクルを使って研修の目的の意識付けを行っています。まず、目的を立てて、自分のあるべき姿、なりたい姿を自分で書かせます。それで、そのための課題を面談で話し合います。課題が定まったら実行に移します。これが一連のサイクルです。これを、仕事をする基本の型として、自分がこれから仕事をしていくときに活かしてもらおうと思ってます。研修は意識付けですが、会社がやるときは会社にメリットがあるからやるんです」

企業Zは有名大企業であり、一度に研修を受講する人数も多数である。そのためか、研修プログラムは外注したものを使用しているという。また、研修内容は業務をこなすための考え方という比較的方法論に近いもので、企業Wや企業Xのように精神論に近いものではない。このあたりが大企業と中小企業の研修の違いとして挙げることができると考えられる。インタビューにおいて、企業Wや企業Xからは「自分たちは大企業と違うので」と大企業を意識した発言もあり、中小企業が大企業との違いを意識していることを感じ取ることができた。
病院Yは一般の企業ではないこともあって他とは異なる体系の研修を行っていることが明らかとなった。子どもを対象とした作業療法を行う病院Yにおいては、病院という特性からどうしても内部研修中心ならざるを得ない事情があるのだという。課長D氏はクリニックでの作業療法士への研修について次のように述べている。
「OJT以外では書字プロジェクト とコミュニケーションプロジェクトっていうのをやっていまして。うちが小学校6年生までを専門にしてまして。それで書字の困りごとが出ているので、学会での発表を最終目標として、まずは文献を集めて、こういう課題があるかなっていうのを確認して、それでアセスメント をしてみてどう(患者さんが)変わったかなっていうのを効果検証してるんですけども、学校の先生を呼んで自主シンポジウムをしたりっていう感じですかね。(中略)研修はクリニックでできることはできるだけ基本内部で行うことが多いですね。内部でしかできないことは個別性のあるケースとか、1つのケースを深めていくっていうのは内部でしかできないですよね」

病院YのD氏によると実施する研修の中では新しい理論を学ぶなど、どうしても補えない範囲については外部研修を行っているという。D氏の研修は病院であるという点、さらに作業療法士の研修という性質上、一般的な「病気を治す」医療とは異なるためという点において、自分が行った施術への効果の評価も難しいことが予想される。そのため企業が行うものとは全く性質の異なるものであると考えられる。

5-2.研修に期待する効果について

  質問2では、質問1にて確認した実施している研修に対して「各組織がどのような効果を期待しているのか」について確認した。インタビュー結果の要約を表6に示す。

表6.質問2についての回答
出所:筆者作成。
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  企業Wは自分で考え行動できるようになることを大切にしている。その点については、インタビューでA氏・B氏ともに強調していたところである。
「何も言わなくても、ああ、これやらなあかんなっていうのが考えられることかな。基本的には物事ってやってても考えることをせなあかんのやけど、マニュアルに書いてある通り、なぜこうせなあかんのかなっていうのを考えることで成長する。でもそういうことをやってきてへんわけやんか。考える力をどう養うかっていうのが今のテーマかな」

最近の若手社員は、特に考える力が不足しているとA氏は主張する。「怒られたくない」という考えからか、自分から考えないことで考えなくてもいい状況に身を置くことを求めており、考えることを放棄しているのではないかとA氏は強調した。

企業Xにおいては、書籍を読んで、それについて意見を言い合うという勉強会をとおして、意思統一を図りコミュニケーションを円滑にすることを目的として研修を進めっているという。C氏は次のように述べている。

「みんな理解している内容っていうのは、たとえばコミュニケーションが大事やんなっていうけど、何か問題が起こった時に、しっかり伝えられてるのかって。その問題を掘り下げているときに。それで、こうこういいました、でももう一言足しとくべきやったんかって。(中略)それって結局受け手がカギやって、私たちの中では受け手を大切にしてて、伝え方が悪いから悪い理解がされないかって。そういうのが(ちゃんと)できてるって」

社長であるC氏は業務を行う上でのコミュニケーションにおいて、受け手(聞き手)がわかるように話をすることで円滑に意思伝達が行われることが重要であるとの考えのもと、勉強会を行っているのだという。

企業Wと企業Xが実施している研修は、経営者が何を重視しているのかという理念が強く反映されているものとなっていることを質問2にて確認することができた。それと比較すると、企業Zや病院Yは業務実施に直接関係する考え方やパフォーマンスの向上に直接的に関わるものであり仕事の行い方に直結しているものであった。

5-3.研修の効果を引き出すための施策について

  研修がどのように実施されているのか明らかにするための最後の質問として、研修に期待した効果を引き出すためにどのような施策を行っているのかについて確認を行った。各組織からの回答の要約を表7に示す。

表7.質問3についての回答
出所:筆者作成。
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   企業WのA氏は外部研修を受けて会社に帰ってきた社員たちが会社に良い影響を与えることができるための風土づくりが必要だという。

「我々の仲間でも多いのは外に研修に出したら教え込まれて、しゃきっとして帰ってくるけども風土がそうなってないと(帰ってきた社員の受け入れ態勢ができていないと)会社になじんだら効果がなくなるわけですよね。受け入れる組織体がまずいんですよね。(中略)今年は助成金を使って(研修を)受けさせてみたんですよ。じゃあ帰ってきて、これは全員に受けさせるべきですよ、て言うんです。それでお前ら教えられることないんかって聞いたら、これやったら教えられますって言うんです。それで彼らがプログラムを同じように組んでね。今年やりおったんですけど、やっぱりそれを社内に持ち込めるかっていう風土になってるかってことでね」

企業Wは外部研修を社内に活かす風土ができているのだという。それにより、研修受講者が研修を取り込むといったことにも挑戦できるのである。

企業Xでは研修にて相手の目線からのコミュニケーション能力を養うことを目的としていたが、そのために様々な視点を身に着けることを意識しているという。そのため、研修にて他人に意見を言うときは、必ず良い面を褒めることをルールとしているのだという。

「美点凝視で、絶対にその人を否定しない。いいところだけをみんなが言っていく。感想に対しても、その人に対しても。(中略)でも、2か月でも3か月でも、ずっといいところを言わないといけないんですよ。でも、人のいいところを言ってあげるのって、簡単なようで実は難しいんですよ。その見る視点って正面から見ておんなじことばっかり言えないじゃないですか。でも少しずつ視野が広がって、違う角度から見ることができるようになるんですよね」

企業Zでは、研修後、定期的に振り返り研修を行うことで受けた研修に対して活かせたこと、活かせなかったことの確認を行うのだという。

「研修においては目標設定ということであるべき姿やなりたい姿を設定します。研修が終わったら、1年ぐらいかけて、ここは活かせた、ここは活かせなかったということを振り返るために振り返り研修を行います。リーダー研修のようなものも行いますが、基本的にやることは一緒で、振り返り研修も行っています。それと同時にあまり伸びていない社員に対しては、モチベーションを上げさすということもやってます。その時には、できてるとこを見つけて、ここはできてるね、というようにしています」

E氏は部下のモチベーションの維持が自分の役割であるということを強調していた。

病院Yでは、研修で学んだことがどこまで実現可能なのかということから始めることから始めるという。そのうえで実際に活用してみて、有効なものについては新しい知見でも繰り返し使って自分たちが使いやすいように洞察を深めていくのだという。

「新しい知見を得て、得た状態でケースのことを評価して、内部の研修でも取り上げてみたりとか(中略)実際にやってみる中で、基本的に一人で終わるんじゃなくってほかの人もやってくれはったりするので、その中でクリニックの体制として運用できるかなとか。(中略)実際に運用していく中でどれだけ洞察を深められるかっていうことが、結局繰り返し使っていくことにつながるような気がします」

5-4.小括

  ここまでのインタビューにおいて、各組織内で研修がどのように行われているのか、組織の性質なども含めて明らかとなった。企業Wと企業Xは「風土」「人間形成」や「視野を広げる」といった抽象的・精神論的な言葉が目立った。それに比べると企業Zは考え方についての研修ではあるものの具体的な目標達成に関するものであり、系統だった研修を実施していることが明らかとなった。また、病院Yのケースでは研修にて得た新しい知見をすぐに実際の業務に導入し、検証することができる性質のものであるため、研修と業務が最も近いものであるということができる。
さらに、企業Wは研修に求めるものとして「人間的成長」を挙げたが、企業Zは「成長への意識付け」として目標を立てて課題を設定するいわば「成長の方法」を身に着けることを研修の目的としており、違いがあることが見て取れた。一部先行研究を参考に、表8に組織ごとの研修の性質をまとめた。

表8.研修の性質
出所:筆者作成。
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  続く節からは各組織が研修の測定・評価をどのように捉えているのか、実施の有無も含め検討していく。

5-5.研修の測定・評価の有無について

   実施している研修について確認したうえで、その研修に対して測定や評価を行っているのかについて質問を実施した。その結果、いずれの組織からも「していない」との回答が返ってきた。しかし、測定や評価を行わない理由、つまり測定・評価の阻害要因は各組織において異なるものであった。
表9に回答結果と、測定・評価についてどのように考えているのか、なぜ研修の測定・評価を行わないのかについての回答の要約を示す。
また、質問4への回答は質問5についての回答と非常に関連の深いもであったことから表10に質問5への回答の要約を示す。

表9.質問4についての回答
出所:筆者作成。
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表10.質問5についての回答
出所:筆者作成。
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病院YのD氏は研修の測定・評価について、その必要性を感じながらも、その業務の性質上、実施することができない原因があるのだという。その原因とは作業療法士の場合、何をもって能力向上とするのかが難しいことである。

「研修として、例えば院内報告会を行ったときなどは、フィードバックをもらうなどして研修の効果について評価してもらうことはしています。でも、作業療法士の能力向上っていうのは、医療計画に基づいて患者さんごとに(このような措置を取ればよいのではないかという)正確な仮説を立てて、治療計画を作ることができるかどうかっていうことになってきます。その能力には研修だけでなくて臨床も含めたいろいろな要因が複合的に影響しあっているので、一概にどこまでが研修の効果って言っていいのかわからないんですよね」

フィードバックをもらうことで最低限、研修の評価に代わるものを実施してはいるものの、「能力向上」には様々な要因が絡み合っているため研修の効果の範囲が捉えられないことが研修の測定・評価の阻害要因となっているとD氏は考えているようだ。ただ、フィードバックをもらうことで研修に対する評価に向けて取り組んでいるということもまた事実であり、その点では「全くしていない」という訳ではないことがわかる。

企業ZのE氏も研修の測定・評価に対して、「実施していない」としながらもその必要性は感じているようだった。ただ、研修の効果を数値化できないことにより測定・評価は実施することが難しいという。

「自分の目標の立て方を身に着けさせる研修は定性的なものなので、数値化できないんですよね。人的スキルやイノベーションなんかと同じで。例えば業績なら、数字で出てくるので定量的に判断できる。でもそうはいかない。でも私は部下の評価をしなければいけないわけで。なので定性的なものはできるだけ定量化できるように細分化して考えるようにしています。例えばコミュニケーションって言ってもそれって何なの?ってなりますよね。だから細分化することをやってます。細分化したほうが部下へのフォローもしやすいですしね」

E氏は定性的なものをなるべく定量化して代理変数的に捉えるようにするという工夫を行っているのだという。その方が研修におけるフォローもしやすく、部下も理解しやすい。抽象的な言葉よりもより具体的に伝える方が伝わりやすいのだという。

このようにD氏やE氏は研修の測定・評価について必要性を感じ、D氏はフォローアップをもらう、E氏は定量的に捉えられるよう細分化するといった工夫を行っていた。それに対し、企業WのB氏は研修の測定評価はできないとし、必要性自体にも疑問を持っているようだ。B氏にはメールでの追加調査に回答をいただく形となったのでその内容を一部抜粋して掲載する。

「技術的研修等であればその日の研修の最終段階でテストを実施して、出来ているか否かで数値化して理解度を測ることで評価はできます。弊社でも技術研修等では「テスト」を実施して理解度を測っています。
しかし、それ以外の研修では、研修の結果がすぐには現れません。だから単純に出来たか否かなどの評価では測れません。数か月、数年の変化を観察して、初めて成長した姿を観て、その評価が出来るのだと思います。(中略)1度や2度、研修をしたからといって人間はそんなに簡単に変わりません。その人間が仕事を通して、周りの物事の変化や人間関係にどの様に関心を持ち、どう解決してゆけば良いのかを考え、行動できる人間に、どの程度に成長しているかをみてゆくことで、成長した部分、まだ未熟な点をこちら側が判断して、その人間にあった方法で、問題点をアドバイスしたり、考え方を教えています」

企業Wにおいては人材開発を行う経営陣や教育担当が研修受講者のその後の成長を確認することで未熟な部分を見つけていくため、研修そのものへの測定や評価は必要ないとの考えのもとで教育を行っている。また、B氏は「研修の目的は評価することではない」として研修の測定・評価することに対して必要性を感じていないと述べている。
企業XのC氏は研修の測定・評価について、企業Wと同じく、研修の結果はすぐに出るものではないという理由で実施していないものの、その必要性自体は感じているのだという。C氏は次のように述べている。

「研修を受けたからと言ってすぐに効果が出るわけではないんですよね。リーダーシップ研修とかも含めて。時間が経ってから、チームとして効率が良くなってるな、とか感じることはありますけど、すぐに変わるもんではないですよね。人が変わるのって簡単ではないですし。研修を受けたとして、その内容を自分に落とし込んで、効果が出るまでには時間がかかるんです。あと、研修を受けたその人だけじゃなくって周りの環境とか、寄り添う人が重要なんじゃないかと思います。でも人の成長無くして企業の成長はないと思うんで、評価っていうのはツールの一つとして必要なんじゃないですかね」

C氏は研修の効果を受講者が自分自身に落とし込むためには周りの環境が必要なのではないかと考えている。周りの環境が影響することにより研修受講者が内容を落とし込むのだという。C氏は今後の課題として、研修内容をどれだけ早く落とし込む環境を作ることができるかということを挙げていた。
また研修の評価について、企業の成長のために研修の測定や評価は必要なツールの一つであり、受講者の持つポテンシャルなども配慮しなければいけないとしている。
研修に関すること以外では、企業Xは会社の規模が社員50人と比較的小さいという特性があり、社員ひとり一人を社長であるC氏が「よく見ている」ことがインタビューにて明らかになっている。これは社員の状態を把握できていることを意味することでもあり、主観的ではあるものの研修の測定・評価への可能性を秘めているのではないかと考えることもできる。
研修の測定・評価についてすべての組織が「実施していない」と答えたことから測定・評価の難しさが見て取れた。そして阻害要因が明らかになった。しかし、病院Yや企業Zは研修の測定・評価の阻害要因を受けてそれに代わる評価方法を取り入れていることも明らかとなった。
また、研修の測定・評価についてどれだけ必要と感じているかという点でも組織ごとに度合いが異なっていた。企業Wは研修の測定や評価は必要ないと考えているようであるのに対し、病院Yや企業Zは必要性を感じながらも実施できていないと回答した。研修の測定・評価に関する各組織の考え方や阻害要因について表11に示す。

表11.研修の測定・評価について
出所:筆者作成。
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5-6.阻害要因から考える研修の測定・評価実施についての考察

  調査対象者へのインタビューから調査を実施した組織では研修の測定・評価は行われていないことが明らかとなった。また、研修の測定・評価に対する3つの阻害要因が明らかになった。この阻害要因を取り除くことで研修の測定・効果は可能になると考えられる。だが、この阻害要因を取り除くことはできるのだろうか。それぞれの要因から考えていきたい。

5-6-1.研修の効果が出るまでに時間がかかる

  企業Wや企業Xにおいては「研修を受けて効果が出るまでに時間がかかる」や「人間は研修受講後すぐに成長するわけではない」といった考えが阻害要因であるということが明らかになった。ここでは考えるべきことが2つ存在する。1つ目は阻害要因を取り除く方法、つまり「人間の成長を早める施策」である。求める人間的成長がどのようなものかということにもよるだろうが、研修の方法を変えるなどの試行錯誤によりある程度の改善は見込めるのではないだろうか。
2つ目に考えるべきことは「研修の効果が出るまでに時間がかかる」ということが研修の測定・評価に対する阻害要因といえるのか、ということである。企業Zにおいては時間の経過により研修の効果が薄れることへの対策として、振り返り研修を行うことで研修の効果が時間の経過とともに薄れていくことを防ぐとともに、研修受講者に研修に対してリマインドを行う役割を果たしていた。企業Wや企業Xと企業Zでは研修の効果に何を求めるのかという点が異なっているとはいえ、求める能力によっては「研修効果が出るまでの時間」が阻害要因とはならないのではないだろうか。表8からわかるように、企業Wと企業Xは人間的成長などの精神論的な能力を高めることを目的としていたのに対し、企業Zは目標を立てて課題を設定するという考え方という方法論的な能力を研修目的としていた。
何が研修の測定・評価の阻害要因となるかは、求める能力によって異なると考えられる。具体的な分類についてはさらなる探求が必要である。

5-6-2.能力向上の要因が複合的である

  病院YのD氏は、研修効果として求める能力を構成する要素が複数存在し、ひとつひとつの研修について測定・評価ができないことが研修の測定・評価に対する阻害要因であるとしていた。そういった能力に対しては、細分化して能力を構成する要素ひとつひとつを明らかにすることで、それに対応する研修の測定・評価が実施することは可能ではないだろうか。病院Yは研修の結果に対してフォローアップをしてもらうことにより能力向上を測定・評価することを試みていた。様々な専門家からフォローアップを得ることで細分化した要素のひとつひとつについて測定や評価を行うことで、複合的な能力についても、完全な形ではないかもしれないが、研修の測定・評価を試みることができるのではないかと考えられる。

5-6-3.研修の効果が定量化・数値化できない

  企業ZのE氏によると、定性的な能力については定量化・数値化できないため研修の測定・評価ができないという。ただ、E氏はこれらの能力についてできるだけ細分化することで定量的に捉えられるとし、実際そのようにすることで企業Eにおいて評価を行っていた。代理変数であり完全なものはないが、「細分化」という工夫は定性的な能力についての研修の測定・評価の方法の一つと言っていいと考えられる。

6.結論

  本稿にて調査した組織においては「研修の測定・評価を実施しているか」という質問に対して「している」と答えた組織は存在しなかった。また、研修の測定・評価に対して、3つの阻害要因の存在が明らかとなった。しかし、研修の測定・評価の必要性については、全くないと考えられているわけではない。本章では、今回の調査から得られたインプリケーションを示すとともに、今後の課題について述べることとする。

6-1.阻害要因に関するインプリケーション

  今回、4つの組織に行ったインタビュー調査から、研修の測定・評価に対する阻害要因としては、「研修の効果が出るまでに時間がかかること」、「研修効果の要因が複合的であること」、そして「研修効果が数値化できないこと」の3つが明らかとなった。特に抽象的・精神論的な能力については測定や評価が非常に難しいと各組織が考えているようである。
また、経営理念や人材育成理念から研修の測定・評価自体を実施する意思がない、ないし、必要と感じていない企業が存在することも明らかとなった。このようなことも阻害要因といえるのかもしれないが、理念については組織外の人間により変化させることがほぼ不可能であると考えられる。そのような組織においては測定や評価を実施せずとも人の成長を捉える術を持ち合わせているのかもしれない。

6-2.研修の測定・評価を可能にする方法論に関するインプリケーション

  本稿において研修の測定・評価に対する阻害要因として3つの存在が明らかとなった。その阻害要因を取り除く方法として有効ではないかと考えられるものは「定性的な能力を定量的に捉えるために細分化すること」である。この細分化を実施することにより、能力向上以外についても数値化できないものを、ある程度は捉えることができるのではないかと考えられる。これが本稿における最大の貢献である。
しかし、この方法もすべての定性的能力の研修に対して用いることができるわけではないのではないだろうか。例えば、企業Wが実施していた研修の目的である「人間的成長」については細分化したところで代理変数化して表すことはできないと考えられる。

6-3.本研究の限界と今後の展望

  本研究の限界は調査を実施した組織が非常に少なかったため、どういった組織にどのような阻害要因が存在するのかといった、より深い分析を実施することができなかったことである。多数の企業や組織を対象とした調査を実施することができれば、さらなる分析が実施できたのではないかと考えられる。
本稿において研修の測定・評価への阻害要因が4つの組織への調査だけで3つ存在することが明らかとなった。それに対して、その阻害要因を取り除くために有効と思われる手段は1つしか示すことができなかった。よって、より多数の企業や組織において調査を実施すれば阻害要因もまた、多数発見することができるだろう。阻害要因を取り除く方法を導き出すためには研修の測定・評価の重要性をより多くの企業が認識し、実践していくことが必要であると考えられる。
ただ、特に日本においては研修の測定・評価に関する研究の歴史は浅く、研究蓄積は少ない。さらに本稿にて扱った定性的な能力に関しては測定や評価が難しく、企業内においても研修の効果をどのように捉えるのかが定まっていないケースも多々存在することが予想される。しかし、人材開発において研修の測定・評価が研修の効果を高めることは先行研究によっても示されている。これからは日本においても、それぞれの企業や組織によりフィットした形での測定・評価の方法を創り出すために、この分野の研究を進展させていくことが今後の課題である。
また、本稿においては研修に関する測定・評価について論じたが、研修だけが人材開発ではない。特にOJTは多くの企業で取り入れられている人材開発の手法であるものの、その効果への測定や評価に関する文献は筆者の知りえる限りにおいては見受けられない。研修のみならず、OJTなどの人材開発手法に関しての測定や評価を行うことで人材開発施策全体の見直しと改善を実施する必要があるのではないだろうか。今後の研究の進展に期待したい。




*12:病院に対してもインタビューを実施したため「企業」ではなく「組織」という表現を使用している。
*13:作業療法において小学生などに治療を施す際、学校の勉強へのサポートとして文字を書くなどの基本的な訓練を作業療法士が治療の一環として行うことがある。書字プロジェクトは正しく文字が書けるようにするために作業療法士は何を行うべきか考え、実行するプロジェクトである。
*14:ここで言う「アセスメント」とは、患者に対して行った施術がどれだけ有効だったかどうかを評価することである。
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