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ロジスティクス ・レビュー

ロジスティクスと経営のための情報源 /Webマガジン

ロジスティクス

第412号  最近の低温ロジスティクス動向:アマゾン・エフェクトの震源(2019年5月21日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.アマゾンが生鮮流通に展開~日配品へと進むか:インフラ整備が急務

  ネットビジネスの巨人・アマゾンが、日本で生鮮流通領域にも積極的に展開してきている。まずは一次産品を産直で消費者の元へ直接提供することになり、いずれ日配の要冷蔵加工食品へと進んでいくことになるだろう。既に関連小売業は大打撃を受けており、その中でアメリカではウオルマートが受けて立ち、競争はいよいよ熾烈なものになってきている。もう一つEC業界の雄であるアリババはアマゾンを上回る存在であり、こちらもこの分野に進出し始めている。

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  我国においてこれらのビジネスを支える低温ロジスティクスとしてのインフラは、未だ多くの課題を抱えている。まずコールドチェーンが完全なクローズドシステムになっておらず、温度管理の欠落が依然として生じている。例えば卸売市場は殆どがオープンシステムだが、豊洲新市場は漸く密閉型設備として建設され開業した。だが膨大なエネルギーコストの問題を抱えている。冷蔵倉庫や低温トラック等との結節点では、そのリスクが残っている。もちろん小売店のバックヤードも同様である。そしてこの人手不足の時代に、過酷な寒冷作業環境と、鮮度を維持するための365日・24時間型運営である。低温環境におけるマテハンも大きな課題となる。低温でも冷凍品は未だ在庫が可能で運営は常温品並だが、食品の美味しさを保持する生鮮チルドでは在庫が持てず、消費期限管理を前提とした多くの困難が伴う。
  そして食中毒のリスクは依然として除去できず、これは製造のみならず流通工程についても同様である。総菜等の日配品では基本的に非加熱・検査判定前の先行出荷であり、難易度の高い在庫ゼロの運営となる。これはさらに欠品を生じさせずに売り切ることが前提であり、厳密な需要予測を起点とした、まさにマーケティングとロジスティクスが連動できなければ完結しない。これをアウトソーシングに委ねる運営ではリスクが大きく、日常業務リスク対策と危機管理が不可欠になる。受託側もミストラブルが頻発しては、ビジネスとしての運営が難しくなる。

2.総菜が復活のキー、デパート・スーパー復活~コンビニ苦戦:検査判定前出荷リスク

  最近の小売業態ではコンビニが苦戦しており、既存店売上高で減少が続いている。その理由はもうオーバーストアであり、ドラッグ店との競合もある。店舗運営としての24時間対応を、辞退したいとする動きも生じている。最近のドラッグ店では生鮮三品を始めとして、前処理済野菜・総菜等の加工生鮮食品も多く並べられている。一方デパート・スーパーには復活の兆しが見えてきている。そのチャネルには訪日客のインバウンド消費があり、総菜等の食品も牽引している。共働き所帯が増加し、調理の時短や核家族化という背景もあり、調理食品や前処理済み食材の需要は堅調である。特にデパートではブランドとしての食品も人気がある。

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  基本的にはインストアクッキングとなるが、半加工品を大量に持ち込む運営が行われており、サプライチェーンにおける衛生・品質管理が大前提になる。その場合、コールドチェーンとしての課題は同様だが、全体の管理連鎖にも未だ問題がある。そして前述した無在庫流通におけるリスクである。検査判定前出荷ということはトレーサビリティーが不可欠であり、それは産地・製造履歴を追求するだけのものではない。異常が生じた場合、その製造ロットを追跡し流通を止めるという、リアルタイムの処置を行わねばならない。これが間に合わず、消費者の手に渡ってしまったというケースもある。年間400万tを超えると言われている、膨大な食品ロスを削減するという課題もある。
  ここでもアウトソーシングが多用され、委託側と受託側双方の役割・責任分担が重要になる。委託側は管理基準を定め、一度管理状態から外れたら速やかに具体的処置を講じて修復する必要がある。そのためには管理状況の可視化が必須となり、相互の機能を明確化しておかなければならない。これができていない状態では、単なる丸投げということになる。また基準値は環境変化に合わせ的確にメンテナンスする必要があり、これは委託側の責任である。

3.依然として制御できない食中毒~物流HACCPの必要性:流通工程の衛生管理

  О157やノロウイルス等による食中毒が依然として発生しており、製造工程だけではなく流通工程、そして最終小売店における陳列にも危害発生の可能性はある。原因となる種々の細菌は環境温度が低ければ増殖リスクは下がるが、それで死滅するわけではない。温度が上がれば再び活性が高まり、危険性は増大する。製造工程で細菌を基準値以下に制御し、それを活性化させないことがサプライチェーン運営の基本となる。これがその途中で欠落すれば、製造工程だけを厳密に管理しても意味がない。検査判定前出荷ではそのリスクも大きい。風味が損なわれるため加熱殺菌処理ができない商品では、これが極めて重要である。
  製造工程での衛生管理の基本は厚労省が定めた「一般的衛生管理手順」に則っているはずで、これは営業冷蔵倉庫にも適用されている。それは庫内で流通加工を行い、解凍した生食用チルド品を扱うことでは当然のことだが、工程としてクローズドシステムになっているかどうかが問題である。これを更に厳密に管理していくのが、HACCPという製造認証である。これはアメリカで定められた手順だが、物流工程にも要求する動きがある。荷主からの要請でこれに適合させるべく、新たな設計思想に基づいた低温物流センターも出現しているが、完全ではない。HACCPに基づいてハードだけを整備しても、厳密な運用が伴わなければ意味がない。

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  それは庫内を汚染と清潔ゾーンに分け、貨物動線が交差しないようにする必要があり、物流センターではこれが大変難しい。基本的には庫内にドライバーがそのまま立ち入り、不良品や梱包材等も同居している。物流工程においてもまずは「一般的衛生管理手順」を実行し、HACCPに倣った設備と運営を志向すべきである。これは法制化される動きもある。そして現在では品質管理国際認証であるISO9000シリーズとHACCPを合体させたISO22000が設定されており、物流工程といえどもこれに挑戦していかなければならない。ISOでは経営におけるコミットメントと、従業員の参加に基づく実践が義務付けられる。

4.TPP11の核となる一次産品~通関リードタイムの改革:鮮度管理の向上

  あれだけ鳴り物入りで交渉を進めたTPPも、アメリカ・トランプ大統領の出現で中心国が離脱する事態となった。残された国々でTPP11として協議は一応決着したが、不安定要因が内在していることは間違いない。しかしどのような事態になっても一次産業への影響は必至であり、とりわけ流通面での変革は必要不可欠である。それにはやはりマーケティングとロジスティクスの両面から考え、衛生・鮮度管理を基本とした低温ロジスティクス展開が必須になると考えている。
  一次産品流通では鮮度管理が生命である。生食するものもあるので、衛生管理が重要であることは他の生鮮食品と全く同様である。この分野では自然環境に左右されるという難しさはあるが、生鮮サプライチェーン・マネジメントに挑戦すべきであり、決して不可能ということではない。かつて農水省は産地における収穫物の予冷を出発点として、農産物流通のコールドチェーン構築に取り組んだ経緯はあるが、インフラ整備としては中途半端に終わっている。むしろ産地と消費地を直接繋ぎ、中間流通を省く方がやりやすいということになるだろう。しかし中抜きが前提ではなく、その存在意義を考えれば卸売業としての役割分担はある。
  高品質な日本の一次産品を、更に鮮度管理を軸にTPP11の核とするためには、輸出入の通関リードタイムが一つの重要な要素となる。現在、日本においては2日程度掛かっていると思われるが、鮮度管理面からみるとこれは大きなネックである。貿易立国を任じるシンガポールでは、即日に許可が出る。日本でも特別な手続きを取れば時間外等の規定外対応は可能だが、システムとしてこのリードタイム極小化が求められる。通関業務を申請するフォワーダーという業態は、これをベースにしてノンアセット型物流を行ういわば3PLである。情報システムを基盤とした企業よりは、有力な存在となっていくだろう。

5.難易度が高い生鮮ロジスティクス~究極の無在庫流通:働き方改革を超えて

  鮮度を維持するためには必要量だけを製造し、それを売り切っていくという究極の無在庫型運営となる。勢い365日・24時間型稼働となり、働き方改革が実行されようとしている状況で誠に過酷な与件となる。アウトソーシングはもちろん避けられないが、丸投げの危険性は前述した通りである。温度帯も美味しさ保持の上で一番好ましいのはチルド帯であるが、外食・中食産業では冷凍・常温を含めた3温度帯一括物流のニーズがある。そのインフラはハード面を始めとして未だ課題も多く、運用面も含め整備が急がれる。この人手不足の時代に運営はかなりの困難が伴うが、品質管理強化を前提に国民的な合意作りが必要である。環境負荷の少ない冷媒や、省エネ技術開発等も同様であり、豊洲市場でも多くの試みが実行されていく。一方で賞味期限を伸ばすことは製造工程における無菌化技術や、包装・包材技術面等でも進められている。
  特に検査判定前出荷については、万全な品質保証体制が求められる。更なる日常業務リスク対策や危機管理が重要であり、アウトソーシングの併用も含め経営としての重大な課題となる。それを含めたフルアウトソーシングは、丸投げで無責任である。顧客満足を得られるまでが管理範囲であることを再認識する必要がある。在庫を持たない究極のロジスティクスは極めて難易度が高く、マーケティングとロジスティクスが連動しなければ実現しないことは前述した通りである。ロジスティクスのコアは需給管理であり、情報を駆使した計画と統制である。これは単なる物流管理レベルではなく経営実務そのものであり、それをアウトソーシングすることは基本的に不可能なはずだ。できるとすれば標準化された実務部分である。
  低温ロジスティクスはコスト高になると思われがちであるが、逆に設備をフル稼働させて、固定費を365日・24時間で分散させることで相対的に抑制することができる。一方、品質管理をどう具現化するかが重要な課題である。それはシステムツールのみに頼るのではなく、従業員全体の参加が重要であり、これを経営としてどこまでマネジメントできるかが問われる。小集団活動という方法論は有効であるが、そこにデータによる課題の定量化を基本に、積み上げ型活動だけではなくマネジメントレベルでの改革型リーダーシップがなければ、活動は生きない。

以上



(C)2019 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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