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ロジスティクス

第361号 在庫改善事例(2017年4月6日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
-物流改革コンサルタント Dr.SANTA-

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

 

目次

  

1.在庫適正化への課題

  在庫金額削減は多くの企業の経営目標のひとつと言えるが、在庫金額削減が計画通り実現したという成功事例はあまり聞かない。また、在庫金額を把握していても、過剰在庫金額を把握している会社は極めて少ないのが現状では無いだろうか? 今回は在庫金額の削減を実現したある企業(製造卸)の事例を紹介する。
  物流改革の共通した手順であるが、まずは問題点の可視化から入る。在庫改革の場合は勿論過剰在庫の把握である。具体的には、①単品在庫管理、②在庫精度の向上、③単品毎の在庫目標の設定、が必要になる。
①単品在庫管理
  当事例企業では在庫管理をしていたが、代表品番を一部使用していた。代表品番は、ひとつひとつ商品コード登録をするのが面倒であり、商品コードを登録しても検索が面倒なため安易に使ってしまうが、過剰在庫の集計ができなくなる。代表品番は非在庫品(取寄せ品)のみと限定し、全商品の在庫管理を実施した。受注業務の負荷が若干増加したので、暫定的に受注業務の増員を行った。
②在庫精度の向上
  単品在庫管理をクリアしてもコンピュータ在庫と実在庫が合致していなければ、在庫分析をしても全く意味が無い。棚卸を実施した時に在庫差異の原因分析を行うことで問題解決をしていった。「誤出荷の改善」「入力業務のチェック強化」「入荷処理の迅速化」「受注入力を通らない出荷業務のルール順守」がその例である。当初は半期毎の棚卸であったが、在庫差異が発生する原因をすべて明確にするために、同一の100アイテムのみ毎月棚卸を実施し、在庫差異の原因分析~改善策の検証を毎月行い、半年後には在庫精度に問題が無いレベルまで向上した。
③単品毎の在庫目標の設定
  今回の事例企業は製造卸である。自社製品は発注リードタイムが3カ月で、仕入商品はメーカーに在庫があれば2~3日後に納入されている。在庫目標の第一段階として、自社商品は在庫6ヵ月、仕入商品は1カ月を目標に設定した。少し甘い目標かもしれないが、目標を達成した後に次の目標を設定する運用を考えた。
  また、在庫保有日数目標の登録方法は次の手順で行った。商品マスタに主要仕入先を登録しているので、EXCELに商品コード、商品名、主要仕入先を出力して、EXCELフィルタ機能を使って10分程度で目標在庫保有日数を登録。このデータを商品マスタに取り込んだ。

2.過剰在庫商品の検討

  商品マスタ、在庫データ、入荷データ、出荷データをもとに、情報システム担当者にEXCELで在庫分析データ(図1参照)を出力してもらう。過剰在庫金額の計算式は、「(現在庫数-目標在庫数)×在庫単価」。目標在庫数の計算式は、「6カ月平均1日出荷数×目標在庫保有日数」とした。このデータを過剰在庫金額の多い順に並び替えた状態で、在庫プロジェクトメンバー(物流担当役員+物流部長+物流課長+業務部長(発注責任者)+業務部課長+情報システム担当者+営業部長+経営企画課長)を集めて検討を開始した。尚、受注開始後6カ月未満の新製品に関しては、データから除外している。


図1:過剰在庫の原因分析
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


①過剰在庫発生原因の検討
  過剰在庫のデータ(EXCEL)をカラープロジェクタでスクリーンに表示し、検討を始める。図1の表は右にスクロールすると、13カ月の月毎の月間入荷数、月間出荷数、月間返品数のデータが並んでいる。よって、「●月の発注数が結果的に多かった」「●月の返品数が多かった」等の振り返り分析ができる。
  発生原因の分析例として、「まとめて買うと安くするとメーカーに言われて買ってしまったが、お客様に安く販売しても売れなかった」、「得意先の在庫確保をしていたが販売予定の半分程度しか売れず、フリー在庫に切り替えて他のお客様に販売推進を考えたが手遅れになった」、「シーズン商品がシーズン終了後に大量に返品された」、等色々な原因がわかってくる。
②販売推進の検討
  結果として過剰在庫になった商品は販売するしかない。過剰在庫金額の多い順に、この商品は通常価格で売れるのか、値引き販売すれば売れるのか、原価割れ販売しか方法は無いのか、捨てるしかないのか、をひとつひとつ検討していく。値下げも含めて売る商品はリスト化して、営業部長経由で営業マンに依頼をかける。捨てるしか方法が無い商品は、決算も考慮しながら、単価が安くかさばる商品から処分を進めていく。
③発生原因対策
  過剰在庫発生→過剰在庫の販売推進」の繰り返しでは、何の解決にもならない。過剰在庫を発生する原因対策が必要である。対策例としては「勘による発注をしない」、「安くても不要な商品は購入しない」、「在庫アイテム数は現状維持が原則で、売上が少ない商品は廃盤にする」、「どうしても廃盤できない商品は取寄せ品にする」、「ロットをまとめた仕入単価減少のための発注ではなく過剰在庫金額を削減する発注に切り替える」、「営業から得意先販売推進情報を今まで以上に収集する」、「メーカー返品できる商品は迅速に実行する」、「在庫精度を向上させるため、入荷は遅くとも翌日朝までに入力を完了する」等である。

3.在庫改革計画

  改善計画は色々な部署が実行しなければ実現しない。「業務部:廃盤予定表、過剰在庫商品の原因分析、品薄商品の原因分析」、「物流:倉庫の在庫状況報告、多頻度入荷による発注単位の見直し提案」、「営業:過剰在庫の販売推進計画の状況、得意先長期取置き商品出荷計画」、「情報システム:毎月の在庫プロジェクト3日前まで過剰在庫ワーストを作成し、全員に渡す」、がその例である。


図2:在庫削減計画
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  在庫金額削減計画を立案し、共通の目標を立案(図2参照:在庫アイテム数202アイテムの削減、在庫金額6000万円の削減)し、各セクションが何をすべきかを明確にする。毎月の定例会で推進状況をチェックした上で、物流担当役員が役員会で報告する形をとった。

4.在庫改革の重要ポイント

  在庫改革を推進する上で、下記の項目の順守が必要である。


図3:在庫適正化の条件
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


①全社参画の在庫プロジェクト
  在庫改革は、発注部署(業務部)だけでは改善が進まない。全社参画の在庫プロジェクトを構築する必要がある。また、プロジェクトメンバーは各部署の利益代表ではないことを意識づける必要がある。全社が良くなる(過剰在庫が大幅に削減される)のであれば、自部門の負担が大きくなっても良いという発想が重要だ。自部門の仕事に全く影響が無い様に進めると在庫改革は絶対に進まない。但し、その影響が最低限になる様に、人の配置の見直しやシステムの導入は必要である
②営業利益より計上利益重視の方針
  仕入単価を抑制するためには大量発注が必要になるが、売れない商品は在庫過剰になり、それに伴い物流コスト、原価割れ販売のリスクが増加する。今後の発想は、営業利益の拡大よりも、経費(物流コスト等)を考慮した経常利益の拡大を目指す。この考え方は難易度が高いため、時には失敗することもある。うまくいったり、うまくいかなかったりの繰り返しで徐々に良くなっていくものである。全戦全勝ではなく、8勝2敗ぐらいのイメージで取り組んでほしい。在庫プロジェクトで発注方法を決めるため、失敗しても発注部署の責任ではない。
③過剰在庫の早期処分の体制
  在庫プロジェクトで検討をしても、過剰在庫は必ず発生する。お客様がいらなくなってから売ろうと思っても、なかなか売れない。非常に難しい決断になるが、まだ多少なりとも売れている状況で販売をすれば、今よりも苦労なく販売ができる。
  また、営業の評価制度を考える必要がある。大部分の企業では、営業実績には過剰在庫の販売推進の評価はほとんど考慮されていない。例えば、売れている営業がいて在庫処分を全くしなくても良いのであれば、苦労をして過剰在庫を売りに行っている営業に対して非常に失礼なことになる。プラス評価として、過剰在庫販売推進奨励金があるが、1年目は効果があるが2年目以降はだんだん効果が出なくなる。過剰在庫の販売推進を意図的にしない営業にはマイナス査定を考える必要がある。
④在庫保有日数による評価基準の設定
  今回は、自社製品6カ月、仕入商品1カ月の評価基準であったが、もっと精度の高い目標を決めるべきである。「自社商品であっても政策在庫商品と一般的な自社商品の目標を変える」、「仕入商品でもケース単位の発注ができる商品と、バラ発注ができる商品と目標を変える」、「返品ができるメーカーの商品の目標を変える」、等である。将来的には、単品毎に目標設定をする予定である
⑤廃盤ルール精度向上
  少しでも売れている商品は、営業部門の廃盤(もしくは仕入在庫の取寄せ化)には必ず反対意見が出る。しかし、廃盤にしない限りは在庫が無くなれば発注することになり、その商品の在庫が急激に増加してしまう。1アイテムの過剰在庫金額はたいしたものでは無いが、それが数百アイテムにもなれば、馬鹿にならない。今後は、アイテム数の維持を前提に考えて、新商品投入時には同等のアイテム数を削るルールが根付けば何の問題もない。

以上


(C)2017 Taizo Hirano & Sakata Warehouse, Inc.

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