ロジスティクス・レビュー

第413号  正当性と資源動員-関係の中からいかに資源を獲得するか-(2019年6月6日発行)

執筆者  小宮 一高
(兵庫県立大学 国際商経学部 教授)
    執筆者略歴 ▼

  • プロフィール
      神戸商科大学商経学部卒業、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。香川大学経済学部専任講師、准教授、教授、兵庫県立大学経営学部教授を経て、2019年4月より現職。専門はマーケティング論、流通論。近年は、中小企業のマーケティングに関する研究に取り組んでいる。

目次

1.はじめに

  他者と協力しながら物事を進める、ということは、企業活動でも、社会生活でも誰もが経験することです。そこで行おうとすることを経営学的な視点から見れば、自身や他者の能力や資金など、何らかの「資源」をお互いに提供して物事を進める、ということになります。しかし、それがうまくいかずに関係が破綻する、といったことは少なくありません。
  経営学では、このような資源の動員に影響を及ぼす概念として「正当性」に注目することがあります。正当性の概念は新制度学派組織論と呼ばれる研究の中で注目を集め、現在では様々な領域に研究が存在します。本稿では、正当性と資源動員の関係を捉えた代表的研究を紹介し、どのような主張がなされているのか見ていくことにします。
  本稿のいう正当性はLegitimacy(レジティマシー)の訳語です。正当性には様々な定義がありますが、しばしば引用されるサックマン(1995)の定義は、次のようなものです。

「正当性とは規範、価値、信念、定義の社会的に構造化されたシステムのなかで、ある主体の行為が望ましい、妥当である、あるいは適切であるとする一般化された認識または仮定のことである。」(p. 574)

  言葉遣いの難しい定義ですが、端的に言えば、ある組織や企業のおこなっていることが、ある特定の社会の中で、正しい、望ましい、と感じられていれば、その組織や企業は正当性を獲得しているといえるでしょう1
  先にも述べたように正当性は、ある主体が他者から資源を動員したい局面でしばしば注目されます。資源を提供する側から見れば、提供先となる主体の行為が、正しい、望ましい、と感じられなければ、わざわざ資源を提供しようとは考えないからです。

2.正当性の意味

  本稿では正当性を理解するために、2つの点を確認しながら議論を進めます。1つ目は、正当性の意味に関することです。ある主体が正当性を獲得しようとすることを「正当化」と呼ぶことがあります。正当化というと、日本語のニュアンスでは「自分の言動などを、道理にかなっているように見せること」(大辞泉)というように、ネガティブに受け取られがちなことを正しく見せようとする、という意味が含まれます。しかし、ここで議論している正当化はニュートラルな意味で使われます。一般に、正当性を獲得しようとする側の行動が、正当性を評価する側の規範や価値、信念に一致した際に、正当性が付与されると考えます。
  また資源動員との関連で見ると、これも経営学の中で重要な概念とされる「信頼(trust)」との違いにも注意が必要です。相手を信頼するから資源を提供する、といえば、先の正当性と同じような現象を捉えているとも考えられるからです。
  クマーとダス(2007)は、2つの概念の違いを次のように説明します。先に述べたように正当性とは、価値観や信念の一致を通して得られるのに対して、信頼は相手の行為が予測できる際に得られると考えます。つまり、ある主体は、自身が期待するように相手が行動するだろう、と予測できるときに、相手を信頼すると考えるのです。この違いを意識すると、資源を提供するか否かを考えるときに、相手の行動はまだ予想できない、つまり信頼は得られていないけれども、相手のやろうとすることは正しいと感じられる。だから資源を提供しよう、という状況は十分に想定可能です。資源動員の局面では、正当性と信頼の区別が必要です。

3.企業活動における正当性の問題

(1)イノベーションの実現過程における正当性の問題

  もう1つの焦点は、正当性にはそれを獲得しようとする主体と、その主体に正当性を付与する相手や社会が存在する、という点であり、この二者は検討する問題に応じて様々な水準で捉えられる、ということです。ここではいくつかの研究を通して、異なる水準の正当性の問題を見ていくことにします。いずれの状況でも、特定の主体が他者からなんらかの資源を動員しようとする状況で正当性が問題となっています。
  企業のイノベーションを正当性の観点から見た著名な研究が、武石ら(2012)によるものです。この研究では、組織で生まれた革新的なアイディアが経済成果をもたらすまでのプロセスを「イノベーションの実現過程」と呼びます。この過程でアイディアを保持する組織構成員は、他の様々な組織構成員から、そのアイディアを通して事後的に経済成果が得られるであろう、という見込み、すなわち、正当性を得なければなりません。なぜなら、その見込みがなければ、イノベーションの実現に必要な資金や人材などの資源を得られないからです。ここで正当性を獲得しようとする側は、革新的なアイディアをもつ特定の組織構成員であり、正当性を与える側はその賛同者となる様々な組織構成員です。
  このような正当化は、事前の経済成果への期待が高くないアイディアがイノベーションとして実現される際に、特に重要となります。実際、そのような困難な正当化の過程を経て実現されたイノベーションが一定程度存在することも、この研究で示されました。多くの事例を比較検討した上で導き出された正当化の方法は、表1の3つとなります。

表1:武石ら(2012)による3つの創造的正当化ルート
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(2)ベンチャー企業の新製品導入における正当性の問題

  ベンチャー企業が新製品を導入する際の問題を正当性の観点から捉えたのが、ラオら(2008)の研究です。ベンチャー企業の利害関係者、特に投資家は、ベンチャー企業を懐疑的な視点(skepticism)で見ます。新製品が少なくとも最初の市場導入にたどり着く見通しが得られなければ、資金の提供は中止されます。投資家の懐疑主義の克服には、新製品の成功が必要ですが、そのためには資金が必要であり、やはり投資家の懐疑主義に直面します。
  この矛盾を克服するために、ベンチャーは利害関係者から正当性を得る必要があります。この観点では、正当性を得ようとするのはベンチャー企業であり、正当性を評価し、付与するのが、ベンチャー企業の利害関係者、ということになります。
  ラオら(2008)は、ベンチャーが正当性を得る理由を、①外部的なもの、②内部的なもの、の2つに分けます。外部的な理由とは、すでに一定の評価を得ている機関(企業や大学の研究者など)と提携関係を結ぶことです。このような提携関係は、ベンチャー企業の新製品に成功の見通し、つまり、正当性を与えます。この研究では、アメリカのバイオ産業のデータから、すべての条件が同じならば、外部の既存企業と提携関係を結んだほうが、そうでない場合よりも、新製品から得られる成果が高いことが統計的に示されています。
  また内部的な正当性の源泉は、a.歴史的(その企業の過去の新製品の成果)、b.科学的(科学的な裏づけ。例えば、経営者層に学術的な研究者が含まれるかどうか)、c.市場的(市場での対応能力を備えているか。例えば、確立された産業での事業経験をもつ人材が経営者層に含まれているか)、d.立地的(シリコンバレーに事業所があるというように立地場所から得られる優位性をもつか)という4つが示されています。これらがベンチャー企業内部に存在すれば、利害関係者から正当性を得ることができる、と考えます。
  ベンチャー企業に内部を源泉とする正当性が存在する場合には、外部企業との提携から正当性を得る場合に比べて、新製品から得る成果が高いことが予想されます。提携関係を結ぶことには様々なコストがかかりますし、すでに内部的な正当性がある場合に提携をすれば、正当性の二重獲得となり、そのコストを上回るほどのメリットが提携関係から得られないため、と研究は主張します。実際、データによる検証においても、立地的な正当性以外については、内部を源泉とする正当性をもつ企業の新製品からの利益は、提携から正当性を得た企業の利益よりも大きいことが示されています。

(3)企業間のネットワークにおける正当性の問題

  最後に、企業間で形成される協調的なネットワーク関係における正当性を扱った研究を見てみます。ペルソンら(2011)は、地域的なネットワークの正当性の問題に焦点を当てています。地域的なネットワークとは、地域の産業などの競争力強化ために、企業が協調関係をつくるもので、日本で言えば産地の組合組織などがこれに当たるでしょう。
  ここでの正当性をめぐるプレイヤー関係は複雑です。ネットワークでイニシアティブを取る企業から見ると、彼らはネットワークに参加しようとする企業や資金提供者に対して、ネットワーク(つまり参加企業の集まり)の正当性を獲得しようとします。一般のネットワーク参加企業から見ると、自身はまずネットワークに対する正当性を評価する側であり、それを感じればネットワークに参加します。他方で活動に参加すると、自身も他の参加者から正当性を獲得すべきネットワークの構成員となり、二重の立場に置かれます。
  ペルソンら(2011)は、この種のネットワークの形成過程では、しばしば参加企業のネットワークに対する正当性が低くなる、と主張します。ネットワークでイニシアティブをとる企業は、より多くの企業に参加して欲しいために、多くに対して共通の利益となる目標やビジョンを掲げる傾向があります。しかし、そのためにその目標やビジョンは曖昧となりやすく、結果的に参加企業は、ネットワークが自分にとって望ましいと感じにくくなるのです。
  ペルソンら(2011)は、スウェーデンの2つの地域ネットワークの比較事例分析を通じて、ネットワークの発展には参加企業が感じるネットワークへの正当性が強く関係していることを示しました。またネットワークが少数の参加企業によりトップダウン的に運営される際には、他の参加企業が正当性を感じるのが難しくなり、ネットワークの体制が整うのに時間がかかる一方で、多くの参加者が関わりながらボトムアップ的にネットワークを編成すると、その体制が整いやすいことを2つの事例の比較に基づいて示しています。

4.おわりに

  以上のように、正当性の問題は、何らかの資源動員が必要な多くの局面で問題となります。その意味では、上で取り上げた状況以外にも、正当性が意味をもつ状況はいくつも考えられるでしょう。他方で、様々な状況で正当性が果たす役割については研究が進んでいるものの、それをいかに獲得するか、という点については、まだ議論の余地が多くの残されているようです。また、最後に取り上げた地域ネットワークのような、企業が水平的な関係の中で資源を相互に提供するような状況が近年増加していますが、その正当性の問題は十分に解明されているとはいえません。その意味で、今後も正当性と資源動員に関わる研究には注目していく必要があるといえるでしょう。

以上


  
【参考文献】

  • Kumar, R. and Das, T. K. (2007) ‘Interpartner Legitimacy in the Alliance Development Process’, Journal of Management Studies, 44(8), pp. 1425–1453.
  • Persson, S. G., Lundberg, H. and Andresen, E. (2011) ‘Interpartner Legitimacy in Regional Strategic Networks’, Industrial Marketing Management, 40(6), pp. 1024–1031.
  • Rao, R. S., Chandy, R. K. and Prabhu, J. C. (2008) ‘The Fruits of Legitimacy: Why Some New Ventures Gain More from Innovation Than Others’, Journal of Marketing. American Marketing Association, 72(4), pp. 58–75.
  • Suchman, M. C. (1995) ‘Managing Legitimacy: Strategic and Institutional Approaches’, The Academy of Management Review, 20(3), pp. 571–610.
  • 武石彰,青島矢一,軽部大 (2012) イノベーションの理由 : 資源動員の創造的正当化, 有斐閣。

1 サックマンは、正当性を実践的、規範的、認知的の3つに分類しましたが、本稿で取り上げる正当性はすべて実践的正当性、つまり、評価する相手やその行為が自己の利益となると感じる際に付与される正当性であると考えられるため、分類については触れていません。



(C)2019 Kazutaka Komiya & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る