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経営戦略・経営管理

第39号企業におけるロジスティクス戦略の確立(2003年09月05日発行)

執筆者 植村 邦夫
富士通株式会社 コンサルティング事業本部 シニアマネージングコンサルタント
    執筆者略歴 ▼
  • 職歴
    • 1974年04月 富士通株式会社入社
    • 1975年~1994年 流通業を中心にシステム開発/システム技術/システム企画作業を実践
    • 1994年 物流プロジェクト発足。物流専任となる。
    • 1998年 @LOGISTICS VISION発表。シニアコンサルタント(ロジスティクス)認定。
    • 1999年 シニアマネージングコンサルタント(ロジスティクス)認定。
      現在に至る。
    専門分野
    • SCM、ロジスティクスに関するコンサルティング
    • SCM、ロジスティクス構想立案コンサルティング
    • SCM、ロジスティクス全般の情報システム構築コンサルティング
    • 物流センター構築コンサルティング
    • 物流情報システム構築コンサルティング
    • 輸配送システム構築コンサルティング
    • 情報システム開発、運用評価コンサルティング
    著書 「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」
    富士通ロジスティクスソリューションチーム編,白桃書房,1998年
    その他
    • 1996年~現在 日本ロジスティクスシステム協会
      ロジスティクスソフトウェア全国会議企画委員
    • 1997年~現在 日本ロジスティクスシステム協会
      物流技術管理士資格認定講座講師

現在の日本の企業は、雇用調整、設備投資調整、円高による調整圧力、資産デフレの悪影響等により、構造変革に迫られている。この変革が実現しなければ、中長期的に見ても企業の業績が抜本的に改善されることは期待できない状況にある。もはや、曖昧な戦略でも成長できていた時代ではなく、戦略策定と実行の両面での真価が問われる時代である。今、日本の企業に必要なことは、過去から引きずっているものを断ち切り、新しい価値基準や思考様式を打ち出し、構造転換のためのビジョンをつくり出すことである。
このような環境下にある日本の企業において、2つの経営戦略上の動きが見られる。
一つは温故知新とも言うべき、戦略論の古典の再評価である。戦略的リストラを実現するために、古典的なコンセプトである事業ポートフォリオの考えが再度脚光を浴びている。いままで理屈はわかっても実際に事業から撤退することは日本ではタブー視されていた。しかし、撤退事例が甚だ多く存在し、「日本企業は撤退しない、撤退出来ない」と言う従来のタブーが崩された結果、ポートフォリオ理論の価値が高まってきたのである。
もう一つの動きは、新たな戦略論理の必要性が増大していることである。新たな戦略理論とは、経営戦略と組織風土の融合、または、経営戦略とオペレーションの融合である。これらは、戦略論を構成する領域が拡大していることを示している。この例としては、ビジネス・プロセスについて、基本から再考し根本的な再設計を行うビジネスプロセス・リエンジニアリングが広まっていることが挙げられる。これは、長い間良しとされてきたビジネス・プロセスを見直すことにより、競合他社に対する優位性を再構築しようとする「価値連鎖の再構築」の延長線上にある考え方である。この白紙からの発想、改革の手法は、コンセプト自体何ら新しいものではない。
日本企業が従来の経験主義では切り抜けられなくなったことを痛感している現在、戦略理論を真剣に理解し、学ぼうという風潮が出ている
戦略とは、論理性と合理性だけでなく、創造性と革新性をももたなければならない。又、戦略理論も自己革新を続け、再創造されていかなければならない。
ここで、ロジスティクスについて、日本における企業の経営戦略の観点から考察してみたい。
これまでの企業における経営戦略は、マーケティングやマーチャンダイジングなどが重視されてきた。しかし、今日、これらと対等な位置付けを持つ戦略として、ロジスティクスが加えられている。ロジスティクスを簡単に定義すると「顧客の要求に適合することを目的として、調達・生産・販売・物流を効率的・総合的に行うこと」である。 ロジスティクス戦略は、経営戦略を満足させるものでなければならないことは当然であるが、営業活動を決定するマーケティング戦略と、商品を決定するマーチャンダイジング戦略とも不可分の関係を持つことを理解する必要がある。従来のように単に「物流だけを考えればよい」という部分的なアプローチでは充分な対応が出来ないことは言うまでもない。
近年、ロジスティクス戦略が改めて重要視されるようになった要因として次の二点が考えられる。
一点目は、物流コストの増加である。業種・業態によって異なるが、一般的に売上高の5~10%が物流コストとして算定されている。しかも、抜本的な解決策を見出せない限り、極端な削減は有り得ない。その主な要因は、ジャストインタイム物流への対応である。必要な物を、必要な時に、必要な量だけ、より低価格で供給しなければならない。しかも、これを多品種少量化の条件の中で、多頻度に求められるとなると、コスト負担が上昇することは素人でも理解出来る。
二点目は、物流の過程における高品質なサービスの要求である。一括納品や店着時間の遵守、値付けや検品代行、更に近年非常に重要視されている商品の品質管理などがある。これらは、主に流通機構における川下、更には最終消費者からの要求が多様化してきていることを意味している。
この二点の「コストとサービス」はトレードオフの関係にあり、企業戦略の上からどこまで対応するかの意志決定が重要なファクターとなっている。従来は、「相反する二つの事象を同時に取り組むのは無理」であるとか、「コスト重視の物流」と言われたケースが多かった。しかし、最近は「コストよりはサービス重視」の指向が強く、一時的な損益よりは中長期戦略的展開を推進する企業が増えてきている。このような現象を垣間見るに、企業の生き残りを賭け、物流をどう扱うかが経営手腕を問われる時代に入ったと言っても過言では無いと考えられる。 具体的に、ここ数年業界を賑わせているサプライチェーンマネジメント(以降SCM)を取り上げ、ロジスティクスとの関係について述べることにする。
SCMとは、今更言うまでもないが、原材料の調達から生産、流通へと、商品が最終的に顧客または消費者に至るまでの「供給連鎖(サプライチェーン)」全体を、最適な状態にマネジメントしていくことである。 このコンセプトは、「一企業の物流センターの改善に取り組む」といった、従来型の部分最適化のアプローチではなく、生産者や製造業である川上から、最終消費者や利用者である川下までの全過程を通じた視点で、取り引きや業務の見直しを行い、全体最適化を図る考え方である。従って、そこには、製造業、卸売業、小売業、運輸・倉庫業等々、複数の業種企業が対象となる。更にグローバル化が進んでいる近年では、物流体制の見直しを図る場合、日本国内はもとより海外での生産、海外からの調達・販売など、海外をも視野に入れた上で、高効率化を追求した配送拠点の分散・併合化を考えるという全体最適化の発想が必要となる。
このように、ロジスティクス戦略の検討、立案を推進するに当たり、SCMの考え方は極めて重要な要素となっている。企業間の戦略的な連携により、より大きな枠組みで、物流の効率化やロジスティクス改革に取り組む例が増えている。異なる企業同士が目的に応じて、あたかも一つの企業体のように密な連携を維持し行動する。これを「仮想企業体(バーチャルカンパニー)」と形容することが出来る。物流機能を考えた場合、共同配送や物流アウトソーシングによるECRや一括納品等の試みは、企業の枠を越えた構造改革であり、物流機能を軸とした「”物流”仮想企業体」を志向するものである。
もう一つ、近年、物流を大きく変えた要素がある。それは、「”生産者起点”のプッシュ型流通から”消費者起点”のプル型流通への変化」である。つまり生産者から消費者へのパワーシフトが起こったことである。所謂、生産者、製造業の川上から消費者に近い川下側のパワーが高まったことになる。従って、これからは、ロジスティクス動向を占うためには、川下に当たる消費者や小売業のトレンドを捉えておくことが非常に重要となる。
以上のように、ロジスティクス戦略は、企業の経営戦略の一環として、一企業経営の業務改革にとどまらず、関連する企業間で従来の商習慣の枠を越えて進める抜本的な「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」のなかで取り組むことが重要である。この時、ビジネスの原点である「カスタマ・フォーカス」、すなわち、消費者起点の考え方で再構築にあたる姿勢が強く求められる。
このように、ロジスティクス戦略においても、論理性と合理性だけでなく、創造性と革新性が是が非でも必要であり、自己革新の継続こそが企業の継続的存在感を与える大きなファクターとなると考える。企業は、常に創造と改革そして又創造と、その企業の再創造が繰り返し実行されていかなければならないと考える。

以上



(C)2003 Kunio Uemura & Sakata Warehouse, Inc.

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