第218号物流業界のブルー・オーシャン戦略パートⅡ(2011年4月19日発行)
執筆者 | 坂 直登 (ロジ・ソリューション株式会社 技術士(経営工学部門) 常務取締役) |
---|
執筆者略歴 ▼
目次
1.ブルー・オーシャンとは
レッド・オーシャンとは今日存在する全ての産業を表し、過当競争で血を流しながら戦っている市場を指すのに対し、ブルー・オーシャンとは未知の市場で競争の全くない市場を指す言葉である。ブルー・オーシャンの日本での事例としては、1000円の理髪店QBハウスや任天堂のWiiなどが取り上げられている。物流業界の事例では宅配便などが上げられよう。ブルー・オーシャンも何年か経つと追従者が生まれてレッド・オーシャン化していく運命にある。従って新たなブルー・オーシャンの開発が必要になる。
殺人や重罪が多発し、もはや警察の力だけでは収拾できないと言われていた荒廃したニューヨーク市を、やる気を失っていた現有警察勢力だけで二年も経たないうちにアメリカで最も安全な都市へ変貌させたのが、1994年に市警本部長に就任したブラットンで、その方法がブルー・オーシャン戦略なのだそうである。
前回(ロジスティクス・レビュー第183号|物流業界のブルー・オーシャン戦略」)に続いて、物流におけるブルー・オーシャン戦略について考えてみたい。
2.需要を作り出す宅配サービスのフランチャイズ・チェーンが急成長
2011年2月15日のテレビ東京のガイアの夜明けで「急拡大!宅配サービス新勢力」が放映された。宅配サービス新勢力とは、1200円で大間マグロのすし、322店出前最大手、感動弁当などである。
「大間マグロのすし」G社は宅配寿司のチェーン店である。100円寿司チェーンなどは、徹底的に機械化や合理化を進めることで安くても美味しいということで急成長してきた。
一方、老舗の寿司屋は、高級志向・本物志向で何十年来の常連客などを引き留めることができた。しかし宅配寿司G社は、老舗の寿司屋に匹敵するネタと味をお手ごろな価格で宅配をするということで老舗寿司屋の固定客を奪いつつある。確かに老舗の寿司屋は生ものという商品特性と寿司職人という特殊技術者によって参入障壁となりニッチ市場として存続してきた。G社は、まぐろの解凍技術や炊飯技術などのノウハウにより高級寿司店の味に肉薄し、老舗の寿司屋もついに大型店やチェーン店に侵食された町の八百屋や肉屋などの○○屋と同様な状況に追い詰められつつあるという。
特に冷凍まぐろの解凍時に旨みを逃さないためのドリップ流失防止解凍設備が、チェーン展開を可能にしたらしい。注目すべきは味と価格だけでなく、寿司を宅配するという付加価値が、意外と大きなアドバンテージとなっていると思われる。ピザの宅配は有名だが、寿司は外食というのが日本人の固定観念としてあった。しかし急の来客などの際に、多人数分を味や見た目も寿司屋に見劣りしないものを届けてもらえるサービスは有難い。配達も致しますというのは、店客優先で届くまで待たされがちだが、宅配寿司は宅配そのものを売りにしているので、そのような心配が少ないので重宝する。またこのG社では配送密度を高めて宅配効率を上げるための工夫として寿司のほかに釜飯宅配店も併設している。
3.”超”物流サービス
出前最大手のD社は、顧客から街中にある既存店の中華・和洋食などを受注し、その発注及び集荷と宅配及び代金回収を専門で行う買い物代行・宅配フランチャイズ店である。事業分類上は、配送車両が排気量125cc以下のバイクであるから貨物軽自動車運送事業の範疇にも入らない単なる買い物代行サービス業であるが、実態は宅配事業である。
出前希望のお客がD社のホームページに届けて欲しい場所の住所を打ち込むと出前注文が可能なエリアが特定され、そのエリア内の提携先店が全て表示される。お客はその中から好きなお店を一店選びそのメニューから特定商品を注文するとD社は当該の店に発注代行して、注文品を集荷して短いリードタイムで宅配してくれる。続けて他の店のものも一緒に注文すれば一括で宅配してくれる便利なサービスである。
D社は全国の人気のある既存店約1000社と提携しており、注文客に出前可能なエリア内のお店を紹介する仕組みである。D社は注文客から注文総額の15%の買い物代行料金を取り、各お店からもいくらかの取扱いマージンを取っている(筆者推測)と考えられる。
それらのお店は、D社に加盟登録することで店内座席数による店舗売上の限界を打破できるし、D社売上分は店舗コストがかからず限界利益がほぼ利益となるので魅力がある。お店は営業活動と受注活動及び集金活動も代行してもらえるので余分な販管費用が掛からないのだ。
注文客の方は人気店に長時間並んで待たずに食することが可能になるし、移動時間と交通費の節約にもなる。このように店にとっても顧客にとっても一挙両得である。
この宅配サービスは、人気の店舗に何時間も並んでまで待って食べるのにはちょっと躊躇していた新規顧客の掘り起こしであり、新たな買い物代行サービスである。前回、貧困層を顧客とするBOP(Bottom of the Pyramid)企業の急成長に対応するには既存の物流事業者では対応できないと書いたが、これらの宅配サービスも既存の物流事業者の商品では対応できないものである。今までの営業物流事業の範疇には入らないこのような”超”物流サービスが今後増大していく可能性がある。
4.Facebookの衝撃とビジネスへの活用を考えよう
政権サイドから拷問を受けたある若者の悲惨な顔写真がFacebookに掲載され、その情報が強風にあおられた野火のように瞬く間にエジプト国民の間に広まりムバラク政権を倒す引き金になったといわれる。Facebookにはアップした情報が世界的規模で瞬時にリンクが貼られて自動的に伝わる仕組みが内包されているからである。
世界中で6億人以上が利用しているという急成長のFacebookは、匿名ではなく実名によるネットワークであり、その情報信頼性が匿名のmixiやTwitterなど他のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)より高いことが普及した原因のひとつといわれている。
2004年にハーバード大の学生マーク・ザッカーバーグが開発し、元々は学生同士で友人や恋人などを探したりするためのツールであったから実名主義だった。
実名主義というその信頼性の高さ故にコカ・コーラなどの世界的大企業でもビジネスで活用しており、この執筆中の2/17にユニクロが自社サイト内にFacebookと連動したサイトを設けると発表した。個々人が投稿した近況や写真などに付いている「Like!」ボタン、日本では「いいね!」ボタンさえクリックすれば、自動的にリンクが貼られ、その投稿した話題に賛同した人数と各人の国籍、性別、年齢、出身高校・大学、趣味などの属性がたちどころに見える。もちろん個別にクローズ設定にすることも可能である。
私のFacebookのプロフィールに、ある好きな歌手の名前を深夜にアップしたところ、翌日には世界中の外国人733人から「いいね!」と回答があってびっくりした。それらの個々人に付いている「友達になる」ボタンをクリックして先方からOKの返事があれば、その友達の友達もリンクが繋がり鼠算式に友達のネットワークが世界中に広がってしまうことになる。自分の意思とは関係なく、何十万人、何百万人に自分のコメントや写真などが自動的に発信される可能性がある。これがFacebookの急速な普及要因でもある。
Facebook初心者の私は、恐ろしくて見知らぬ人の「友達になる」ボタンを今のところなかなか押せないでいるが、オバマ大統領のファンページでは、1000万人以上のファンを抱えており、それらのファンから実名の生の情報が24時間リアルに自動的に流れていくのだ。
またSkypeなどもインターネット環境にあれば、無料で世界中の人と顔を見ながらの電話が可能となる。今まで雑音の多い国際電話で高い料金を払って通話をしていたのに、数千円のカメラとマイクのセットを追加しただけで、会社のTV会議より高画質な動画で自宅におりながら無料国際通話ができてしまう。全く驚くばかりである。
これらをビジネスで活用しない手はないし、実際、ライブセミナーなどに同様な技術が使われて利用されている。明日から自宅をライブセミナースタジオに変えることが可能となったのである。語学学習や資格講座には最適であり、物流での活用も動き始めている。
5.すでに起こった未来
ドラッカーの「すでに起こった未来」では、未来の事業の萌芽は既に存在しているので、その萌芽に気がつきさえすれば、近未来がどうなるかは大体わかるのだという。これらの情報ツールが新たなビジネスを生む可能性が非常に高いし、逆に旧態としたビジネスは衰退していくことになる。iPadに代表される電子ブックによって、米書店第2位のボーダーズが2011年2月16日に破産申請を行った。インターネットの普及によって全国紙や全国TV放送局などマスコミの凋落も止まらない。今後はソーシャルメディアやソーシャルビジネスなどボトムアップの双方向情報発信型社会に大きくシフトしていくのであろう。
企業経営者は「2ちゃんねる」などに懲りてこれらの情報ツールを規制するのではなく、企業革新を行おうとする会社は、社員に積極的に使わせるようにしなければならないと思う。使ってみなければ良いも悪いも、何に活用できるかも、どんな市場の変化が起こるかも気がつくことができない。日本のITは、諸外国に比べて相当に遅れてしまったという識者の意見を多く聞く。それは日本企業のマネジメント層のITに対する不勉強が大きな原因ではないかといわれている。トップマネジメントがボトムアップに対する推進リーダーではなく、むしろ壁になっているのではないかとまで諫言する専門家もいる。
企業経営者は早速、FacebookやSkypeに触ってみてはどうであろうか。感動すること請け合いである。やはり木から林檎が落ちた現象しか見えない方は、これからの時代を牽引する経営者にはふさわしくないのではないかと自省する必要があるのかも知れない。
以上
参考文献
1. ガイアの夜明け—–急拡大! 宅配サービス新勢力
放送 テレビ東京 2011年2月15日
2. 日本人のためのフェイスブック入門
著者 松宮義仁
発行 フォレスト出版 2011年1月
(C)Naoto Ban & Sakata Warehouse, Inc.