第382号 卸売市場を主体とした生鮮食品サプライチェーンの現状と課題(後編) (2018年2月20日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (流通経済大学 客員講師 株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問) |
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執筆者略歴 ▼
目次
3.卸売市場流通の課題と展望
(1)卸売市場の課題
2項で述べたように、市場外流通比率の高まり等によって、卸売市場を取り巻く環境は非常に厳しく、荷受・仲卸の廃業・再編が進んでいる。図表1に掲げた札幌市中央卸売市場青果部でも2社あった荷受が、2018年4月に経営統合することが2017年6月末に公表された。
荷受・仲卸だけでなく、卸売市場の統廃合も進んでいる(参考文献4参照)。
さらには、地方卸売市場は規模も小さく購買力も少ないので、商品調達が十分にできず、東京・横浜・名古屋・京都・大阪等の中央卸売市場からの「転送」に依存している。
参考文献1によれば、卸売市場の機能として、以下の4つが挙げられている。
①集荷・分荷機能
全国各地から多種多様な商品を集荷するとともに、需要者のニーズに応じて、迅速かつ効率的に、必要な品目、量に分荷
②価格形成機能
需給を反映した迅速かつ公正な評価による透明性の高い価格形成
③代金決済機能
販売代金の迅速・確実な決済
④情報受発信機能
需給にかかわる情報を収集し、流通の川上・川下にそれぞれ伝達
2-(1) (前号第381号 https://www.sakata.co.jp/logistics-381/ 参照)において紹介した水産物流通で、具体的に説明しよう。
まず荷受が荷主(産地業者)から荷を集荷し、仲卸が買出人に荷を分荷し、卸売市場でセリや入札により価格を形成する。
荷受は販売手数料や荷役費(小揚などの荷役専業者に支払われる)などの諸経費を差し引いて、荷主へ販売代金を支払う。この支払いサイト(取引代金の締め日から支払い日までの期間)が5日前後と短いので、荷主は販売先(仲卸業者など)からの代金回収や与信のリスクがなく、資金繰りが楽になり、経営が安定する。
仲卸に対する買出人(スーパーマーケットの場合)の支払いサイトは長期だが、仲卸は荷受に対して短期の支払いサイトで代金決済を済ませる。そのため仲卸は資金力が必要である。資金力が必要なのは、荷受も同じであり、金額が大きい分だけ荷受は資金力が求められる)。
こうした取引によって、荷受から消費地の情報は産地へ、仲卸は荷受から伝えられた産地の情報が買出人(その先の消費者)に提供される。
このうち②③④は、これだけICT化が進んだ今日、卸売市場に依存しなくても可能であろうということは、市場外流通の比率が高まっていることからも明らかである。
しかし、実態は青果物・水産物の出荷者は、卸売市場(荷受)の「③代金決済機能」に大きく依存している。商社やスーパー・生協などへの直販の場合、代金決済は月末締め・翌月末払い等が多い。一方、卸売市場の荷受を通せば、5日ほどで現金決済される。
そこで、現物は事前相対等で大手取引先に渡しているが、販売手数料を払っても、資金繰りのために帳合だけは荷受を通すケースは多い。筆者が訪問した北海道南部の農協でも、道の駅などへの直接出荷も、一度は札幌中央卸売市場の荷受を通していた。
(2)物流面の課題
2項で、卸売市場法第二条の「定義」によれば、
「2 この法律において『卸売市場』とは、生鮮食料品等の卸売のために開設される市場であつて、卸売場、自動車駐車場その他の生鮮食料品等の取引及び荷さばきに必要な施設を設けて継続して開場されるもの」
とされている。
卸売場は「取引流通」のための施設であり、「自動車駐車場その他の生鮮食料品等の取引及び荷さばきに必要な施設」とは、まさに「物的流通」のための施設、すなわち物流センターやトラックターミナルそのものである。実際に後述の「ガイアの夜明け」のように深夜の市場を見ていると、参考文献1を引用すれば、以下のような状況である。
「仕事は真夜中から始まる。大型トラックが市場周辺に集まり、真っ暗なあいだにトラックから積み荷が場内のセリ場に運ばれる。場内には人が立ったまま運転する運搬用車両(ターレと呼ばれている小型特殊車両)がたくさん走りまわり、荷を運んでいる。マグロのような太物は「丸」のまま運ばれるが、ほとんどの魚は発泡箱に入った状態で運ばれ、品目ごとに専用のセリ場に上場される。(中略)次々と上場された魚が落札されていき、あっという間に終わってしまう。
(中略)
場内でおこなわれていた取引はいつの間にか終了し、仲卸の店には買出人が買付に来ている。まだ暗い。そこに群れをなすのは、魚屋、料理屋、スーパーマーケットのバイヤーなどである。(中略)
明るくなってくると、いつのまにか地方から走ってきた大型トラックは消え、場内には発泡スチロールの破片が散っていて、場内の食堂のなかの人影も消えている。このような光景が日々繰り返されている」(参考文献1より引用)
ここでは、消費地卸売市場の水産物部門を取り上げたが、青果物部門もほぼ同じで、1項で述べた神田市場も、筆者が務めていた会社に近い築地市場(中国からの研修生に頼まれて案内した)も、横浜中央卸売市場本場も皆同じ光景である。
築地市場などは、本来の東京都民向けよりも全国各地向けに転送する荷の集散地としての役割が大きいので、まさに方面別仕分けと積替えの「トラックターミナル」と化している。
築地市場の取扱数量は1日約1,400トンと言われるが、これは、セリや相対によって築地で「取引」される量である(築地で取引されない量は、市場の統計では把握できない)。築地を「通過」する量を加えれば、おそらくその2倍はあるだろうと言われている。
「取引」額に応じて施設利用料を収受している市場開設者(地方自治体)は、取引をしないで積み替えているだけの利用者(生産者・流通業者・物流業者等)からは施設利用料を収受できないことになる。まさにフリーライド(タダ乗り)の世界である。
また、各卸売市場向けの「荷」がトラック満載にまとまらないので、幾つかの卸売市場向けを積合せることが多く、セリ時間に間に合わせるため、トラック運転者は厳しい運行を求められることが多い。
筆者が、神奈川県内のトラックステーション(トラック運転者用の駐車・休憩場所)で、運転者から運行実態をヒアリングしたことがある。その一端を紹介する。
「青果物の出荷シーズンには、市場のセリに間に合わせるため、農家は夜から収穫している。集荷に行っても、箱詰めが遅れていて、手伝わされることも多い。
特に、レタスやセロリの出荷ピークは、農家もオレ達も大変だ。改善基準なんて言ってたら、青果物や水産物輸送はできないよ」
また、1項で筆者の体験も述べたが、卸売市場によってはトラック運転者が細かく仕分け卸ししており、手待ちを含めると荷卸しに数時間かかる例もある。
なかには、人手不足を理由として、卸売市場向け輸送から撤退するトラック運送業者も出始めていると、参考文献3でも運送業界から述べられている。
農水省では、ドライバー不足など他省庁からの働き掛けもあり、重い腰を上げて参考文献3の「連絡会議」が設置された。筆者は、同会議には厚労省も入って、労基法・労安法等の労働法規の観点からも検討・改善を進めて欲しいと思う。
参考文献3の「中間とりまとめ」(図表6は抜粋)では一貫パレチゼーションシステムの導入も提言されているが、パレットサイズ、回収システム、費用負担などの問題からあまり進んでいない(2017年10月31日「ガイアの夜明け どうする物流危機!」でも放送されていた)。荷役や手待ち時間の短縮は、運転者の長時間労働削減のためにも喫緊の課題であり、関係者の努力で早急な導入が望まれる。
なお、あまり知られていないが、少量の水産物(とくに高価な水産加工品等)では、一般雑貨用の「特別積合せ運送」の水産物版とでも言える、少量混載輸送ネットワークがあり、専業の輸送業者が北海道から九州までネットワークを構築している。
農産物の場合は「特別積合せ運送」でも少量輸送できるが、温度管理が必要な水産物の場合は、冷蔵・冷凍の「特別積合せ運送」システムはなく、クール宅配便システムでは運賃が高いので、このような少量の冷蔵・冷凍混載輸送ネットワークが開発されたと思われる。このネットワークで商業貨物として、北海道襟裳の冷凍煮ダコが九州まで運ばれていたり、福岡の明太子が札幌に運ばれている。
出所:「農産品物流の改善・効率化に向けて(農産品物流対策関係省庁連絡会議中間とりまとめ(案))」(2017年3月、農林水産省・経済産業省・国土交通省)に、一部加筆。
最近は、三甲リースや日本農業総合研究所などで開発した折りたたみコンテナ(写真4)に青果物を入れて、産地から消費地店頭まで直送する物流システムも導入されている。包装コストの削減や作業の省力化等の効果が期待される。
4.新たな市場外流通チャネルの台頭
2項で述べたように、農水産物は伝統的に、生産者→[産地卸売市場(水産物に限る)]→消費地卸売市場(荷受・仲卸)→小売業(買出人。スーパーや外食業者、八百屋・魚屋)→消費者という流通チャネルを経由している。最近は、スーパー等が産地から直接買い付ける「市場外流通」も、2-(1)項 (前号第381号 https://www.sakata.co.jp/logistics-381/ 参照)のように増えている
それ以外に、生産者と小売業・消費者が直結する流通、いわゆる「産直」と呼ばれる流通がある。産直も新たな「市場外流通」チャネルである。
かつての産直は、生産者が農水産物を消費地に自ら運んで、消費者に売るという「行商」が多かった。東京では今でも、千葉や茨城から農家のオバちゃんが早朝に収穫した野菜を背負って来るが、オバちゃん達の高齢化により減って来た
(前述の京成電鉄の行商電車も、行商人の減少と通勤客の増加で廃止された)。
そのような伝統的な「産直」以外に、インターネット等を活用した新しい「産直」が、農水産物流通の新しい形態として増加している。
(1)水産物のEC販売に乗り出した仲卸業者
水産物における市場外流通の増加に危機感を抱いた築地の仲卸業者が、2016年3月に立ち上げた、ECによる水産物販売サービス会社「いなせり」(https://inaseri.net/)の事例を紹介する。
「美味い魚をもっと手軽に」を目指して、多種多様な水産物を築地市場内に店を構える数百の仲卸から直接仕入れることができる。
街の鮮魚店ではなく、飲食店(寿司店・料理店)の店舗が対象で、最初に会員登録が必要である。取扱品目は、鮮魚、マグロ・カジキ、貝、イカ・タコ、干物、切身・凍魚、乾物・だし・調味料その他、仲卸業者が取扱う全品目で、午前2時までに注文を受けて、発注翌日にクール宅配便で配送される(配送エリアは本州と四国全域。代金決済はクレジットカード)。
まだ、設立後1年半なのでテスト期間と言っても良いが、新聞報道では、年内には北海道や九州にも拡大するとしている。
現時点で約600店の飲食事業者が利用しているが、配送地域の拡大により年内に3千店まで会員を増やす考えである。
また、同社では販路である飲食事業者を拡大するために、酒販店とコラボも始めている。さらに進めて、飲食店への酒類配送ネットワークを持っているカクヤスなどと連携すれば、販路拡大と水産物配送ネットワーク構築の一石二鳥ではなかろうか。
中央卸売市場の仲卸業者の連携による上記「いなせり」以外にも、水産物のEC企業が近年設立されている。
水産物のECは、「オイシックスドット大地」(https://www.oisix.com/)や「らでぃっしゅぼーや」(http://www.radishbo-ya.co.jp/shop/)など農産物の食材ネット通販がBtoCであるのに対して、主に飲食業を対象としたBtoBであることが異なる。
それは、水産物の場合、鮮度・品質に関するプロの目利きや、調理法などの食材の取扱い知識が必要ということも関係するのではないかと思われる。しかし、BtoBだけでは農産物の食材ネット通販で述べたようには会員数も伸びないし、市場流通を補完する新たな流通チャネルとしては弱いのではなかろうか。
一方で、2-(1) (前号第381号 https://www.sakata.co.jp/logistics-381/ 参照)で掲げた大手水産卸売業者が、市場外流通で仕入れた食材を武器に、百貨店・SCの鮮魚売り場に進出(席巻と言ってもよい)している現状を見ると、大手水産卸売業者が消費者を対象とした、水産物のBtoCネット通販を展開するかも知れない。
水産物のネット通販は、従来は各地の特産物などが贈答用として取り扱われていたが、「街の魚屋さん」が後継者問題等さまざまな理由で廃業するにつれ、その代替機能として進展するのではなかろうか。
(2)新たな農水産物流通チャネルとしての「道の駅」
最近は、全国各地の国道沿線などに「道の駅」が設けられている。
「道の駅」は、道路利用者への安全で快適な道路交通環境の提供および地域の振興に寄与することを目的として、1993年に創設された制度で、市町村等からの申請に基づき、国土交通省が登録する。
具体的には、道路利用者(ドライバーや同乗者)への駐車場・トイレの提供や、道路情報・観光案内などの情報提供のほか、飲食物・土産物などの物販も行われ、2017年11月現在では、全国に1,134駅がある(図表6参照)。
(出所)国交省資料 http://www.mlit.go.jp/road/Michi-no-Eki/list.html
その多くでは、その土地の農水産物が販売されていることが多いが、販売額についての統計がないため、流通チャネルとしての実態はよく分からない。
乱暴な試算であるが、各「道の駅」での生鮮食品売上高が1億円なら、全体で1,100億円強、10億円なら1兆1千億円強となり、図表2の全国主要漁港の水揚高と比較しても、大きな数字である。
しかし、週末や観光シーズン以外にも、物販施設の農水産物コーナーに多くの来客がある実態を見ると、地域においては重要な販売チャネルとして定着しているのではないかと推測される。
水産物の場合は、天候等による不漁で商品が不足して、他地域で水揚げされたものを集めるということも聞く(欠品を起こすと、次回の来客に影響する)。また、「道の駅」同士の競争も激しいようである。
一方で、「道の駅」での販売価格は、正規の流通チャネルよりは若干低価格ではあるが、生産者にしてみれば農協等に出荷するより高く売れるので、手取りが増える(写真5参照)。農協そのものが運営主体となって、農産物を「道の駅」で直販している例も多い。道南の農協は、はるばる道央の「道の駅」まで出荷している。
消費者側も新鮮な農水産物が安く手に入ることはもちろん、農産物の場合は、生産者名が明示されている場合も多く、「生産者の顔が見える」「安全・安心」との評価も高い。
最近、話題となっているフードマイル・地産地消という点からも、この「道の駅」という新しい農水産物の流通チャネルの拡大が期待される。
また産地では、地産地消体制がかなり進捗して、漁港や産地卸売市場に直売所がたくさん見られるようになった。農協の直売所に魚介類が陳列されることも少なくない。農家の直売所も大型化して、複数の農家が出店する広い駐車場を備えた「露店市場」も、横浜市内には散見される。
土日になれば近隣都市部から自家用車で買い物客が集まるようにもなった。観光バスのコースに設定されている直売所も多い。流通コストがかからないうえに、高価格で売れる魚介類も多い。
「道の駅」以外にも、アクアラインの「海ほたる」など高速のSA/PAは、ショッピングモール化しており、東名沼津ICから国道1号に向かう道路は水産物の商店街と化している。
このような「道の駅」をはじめとする、新たな流通チャネルが増えている。
5.卸売市場の再生を求めて
(1)3割市場の再評価
農水省では、2016年に卸売市場の機能を高めようという「第10次卸売市場整備基本方針」を打ち出している(図表7)。
上述したように、卸売市場流通のシェアは既に3割でしかない。わが国の食料品輸入の増大を考慮すれば、実態はもっと低率であろう。しかし、逆に言えば、国民の食生活を支える農水産物流通の3分の1は、未だに卸売市場が担っており、卸売市場流通の改善は重要である。
一方で、内閣府の規制改革推進会議の「規制改革推進に関する第1次答申~明日への扉を開く~」(2017.5.23)を踏まえ、閣議決定された「規制改革実施計画」(2017.6.9)では、
「卸売市場については、経済社会情勢の変化を踏まえて、卸売市場法を抜本的に見直し、合理的理由のなくなっている規制は廃止すべく、平成29年末までに具体的結論を得て、所要の法令、運用等を改める」
との工程表が示された。
卸売市場法を廃止して、食品流通構造改善促進法と一体化しようとも受け取れる内容である。
卸売市場の基盤である卸売市場法が廃止されて、卸売市場がどうなるかと言うと、開設者(地方自治体)の場条例に委ねる考えのようだ。地方財政難の上に、取扱高=施設利用料が減って赤字続きの卸売市場を、税金で補填している各開設者は、「これはチャンス」として卸売市場の廃止や民営化に走ることが懸念される。筆者が住む横浜市でも、鳴り物入りで冷蔵倉庫を新設した横浜南部市場(金沢区)が、赤字続きのため2015年3月に横浜市中央卸売市場(神奈川区)に統合・閉鎖された。
(2)地域社会を支える卸売市場
卸売市場が最も重視すべきは、国民生活への青果物・水産物の供給機能(①の集荷・分荷機能の一つ)ではなかろうか。
卸売市場がなくなったら、街の八百屋・魚屋はどこから仕入れたらよいのか。ますます、街の小売店が減少して、買い物難民が増えてしまう。
食や買い物の楽しみということを考えた場合、低価格や利便性だけを追求したスーパーやコンビニなどだけで、果たして良いのだろうか。
また、卸売市場から仕入れるのは、町の八百屋・魚屋だけではない。先ほどの「ガイアの夜明け」と前後して放映された10月28日の「報道特集」では、アマゾン・フレッシュで販売する鮮魚を、大手水産加工業者であるマルハニチロのバイヤーが、築地の仲卸店頭で実際に魚を目利きして調達する場面があった。アマゾンですら、卸売市場の商品調達力(集荷・分荷)機能に依存していると言えよう。
参考文献1に出てくる「大船仲通り商店街」は、魚屋の廃業だけでなく物販業が減って、スマホ販売店、エステ、消費者ローンなどが増え、商店街そのものの性格が変貌しつつある。
筆者の自宅から近い「横浜洪福寺・松原商店街」は、まだまだ物販店が多く活況を呈している。マグロなどの特売日には鮮魚店の前には、開店前から長蛇の列ができている。このような広域商圏からの集客の核店舗である八百屋・魚屋は、中央卸売市場がなくなったら、これまで通り新鮮で安い青果物・水産物を調達できるのであろうか。
卸売市場の盛衰は、地域の商業集積の盛衰に大きく影響するのではないかというのが、長らく中小企業診断士として各地の商業集積を見て来た筆者の感想である。地元の商業集積がなくなって地域住民が「買い物難民」化するのは、ニュータウンだけではない。
(3)まず物流面からの再生を
そのためには、まず何よりも重要なのは、卸売市場の①「集荷・分荷機能」=「物流機能」の強化である。先述したように、卸売市場の物流は標準化・機械化されておらず、効率も悪く、この人手不足に時代に対応できていない。
トラックドライバーから、「卸売市場行きは、到着時間が厳しいうえ、手荷役が多く、待ち時間も長いのでイヤだ」と嫌われている。
3-(2)項で説明したように、できるだけ早期に一貫パレチゼーションを導入すべきであろう。
その費用負担となると、卸売市場における取扱高の減少→荷受の販売手数料の減少→開設者の施設利用料の減少と「負のスパイラル」から、当事者間では透視能力がなくて困っている。しかし、このままではジリ貧が続くだけであり、実際には青果物・水産物とも取扱高に反映されない転送・積替えが増加しつつあり、とくに中央卸売市場は、農水産物の一大物流拠点として機能を果たしている。
広域的な物流拠点と再評価して、国民的な「サプライチェーン」はどうあるべきか、転送・積替えなど市場施設のフリーライダーには、どう受益者負担してもらうかという、新たなパラダイムで卸売市場の再生・機能強化を図るということも必要ではなかろうか。
一貫パレチゼーション以外にも、産地から卸売市場に事前出荷情報(ASN)を伝達して、トラック予約受付システムにより、狭く利用時間が限られた市場内の荷卸しスペースの効率的運用や、花きで一部導入されえいるような自動搬送システムのように、市場内物流のICT化・自動化等も喫緊の課題である。
卸売市場の今後については国民生活という広い観点から、上記(2)の地域社会面も含めて、生産者(荷主)・流通業者(荷受・仲卸・買出人)・消費者・行政(国・市場開設者)の全員で真剣に考える時期に来ていると言えよう。
本稿を書き上げた11月23日は「勤労感謝の日」であった。某紙社説では、
「感謝の思いは農業に従事する人だけでなく、農具の製造や農産物の運搬など直接目に触れることのない多くの人々の労働」(下線は筆者)にも感謝すべきと論じられていたが、この言葉を生鮮食品サプライチェーンに従事する全ての関係者にささげたい。
(筆者注:①の「集荷・分荷機能」以外に、街の八百屋・魚屋を支援する④「情報発信機能」をより高めた「リテールサポート機能」も中小企業診断士として論じたかったが、紙面の都合で割愛した。また、本稿の記載内容は、2017年11月の執筆時点のものである)
【参考文献】
- 濱田武士「魚と日本人」岩波新書、2016年。同「日本漁業の真実」ちくま新書、2014年
- 秋谷重男/食品流通研究会編「卸売市場に未来はあるか」日経新聞社、1996年
- 農産品物流対策関係省庁連絡会議「農産物物流の改善効率化に向けて(中間とりまとめ)」および同会議資料、2017年
- 農林水産省「第10次卸売市場整備基本方針」および同「参考資料」、2016年
- 内閣府規制改革推進会議「規制改革推進に関する第1次答申~明日への扉を開く~」(2017.5.23)。「規制改革実施計画」(2017.6.9閣議決定)
- 農林水産省・横浜市中央卸売市場・札幌市中央卸売市場・国土交通省・厚生労働省・内閣府ほか文中各社・団体のホームページ
- 日経ビジネス(2017.9.11号)、産経新聞(2017.11.23)他、各誌紙
- 流通ネットワーキング(2017.11~12月号)「特集『生鮮食品流通』」
- 「報道特集」(2017.10.28放送、TBS)「ガイアの夜明け」(2017.10.31放送、テレビ東京)他、各報道番組
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