第314号 一括納品物流を考える。(2015年4月21日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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目次
- 1.はじめに。
- 2.一括物流の概要
- 3.ドラック系(一括物流)の事例ご紹介
- 4.センターフィは、共存共栄の精神で全体最適を目指したいものです。
- 5.チェーン全体の合理化を意識した取り組みが肝要です。
- 6.最後に
1.はじめに。
小売業は、自社の販管費の改善を試行錯誤する中から、自社専用の一括納品拠点(物流センター)を設置しています。
メーカー、卸などの仕入先の商品を取りまとめて、自社の店舗に一括納品する基本的な納品スキームを大手小売業が中心に全国的に展開、これまでは、小売業から見た調達先となる卸業やメーカーなどの仕入先は、それぞれ独自にトラックを仕立てて、複数小売業の各店舗を廻り商品を納入していました。
仕入先商品を小売業が主導して、複数仕入先の商品を一括納品するスキームが大手企業を中心に広がりを加速して、ほぼ一巡しているように見受けられます。
そして、一括納品物流センターの運営事業の分捕り合戦が厳しさを増しています。
現在、通販市場の急拡大に加え、ドライバーと物流作業者の労働力不足があいまって、国内の宅配処理業務が飽和状態となっています。
これからの人口減による人手不足、高齢化社会を見据え、何か手段がないかと考え、この一括納品物流の仕組みを核にこれからの人口減、人手不足、高齢化社会、地域弱者への働く場(雇用)の提供など、地域おこしに繋げられないかを考える糧にしていきたいと思い、一括納品物流の概要を整理してみました。
2.一括物流の概要
小売業の一括納品物流には、仕入先から商品を入荷し、在庫として保管するDC機能(Distribution Center:在庫型センター)と仕入先から商品を入荷し、検品、仕分けして指定時間に小売店舗へ一括納品を行うTC機能(Transfer Center:通過型センター)の2つのタイプがあります。
DC、TCそれぞれにメリット、デメリットがありますが、業種業態、並びに納品形態によって適した方法を選択しています。
商品回転率が食品と比較して低い日用品や雑貨などは、DC型の一括納品物流が多く、食品スーパーは、仕入先で店舗別の仕分けをした状態で配送される事前店別ピッキング型のTC物流機能が多いようです。
ドラッグストアなどの商品の取り扱いアイテム数が多い一括納品物流は、総量納品で一括納品物流センターに配送、物流センターにて店別、カテゴリー別、ゴンドラ(陳列棚)別などに仕分けた後、カゴ車などで店舗に納品しています。
総量納品は一括納品物流センターでの作業負荷が大きくなるため、当然センターフィなどで差をつけることが肝要と考えます。
小売業は一括納品物流業務をアウトソーシングするのが一般的で、実際に一括納品物流を運営するのは卸売業または物流業者が元請けになることが多いようです。
在庫を管理するという点では、やはり卸売業が優れていますが、コストは物流事業者がローコストでの運営に強みを発揮しているようです。
3.ドラック系(一括物流)の事例ご紹介
総合的な品揃えをするドラック系小売業の各店舗への納品を多数の取引先(メーカー、卸)が個別に行うのではなく、新たな物流拠点(一括納品物流センター)を設け、DC+TC機能、並びに店舗で必要とする業務を物流拠点(一括納品センター)で事前に済ませ、店舗での納品はノー検、伝票レス、無人受入などを実施しているドラック店もあります。
納品先(小売店)の雑多で煩雑な店頭業務を効率化するためケースとバラ(オリコン混載)の複数仕入先の商品をカテゴリー別に集約、カゴ車に混載、トラックへの積み降ろしをドアツードアでスピードアップ、店頭業務の全てを物流拠点(一括納品物流センター)で処理を行い、輸送トラックもリフター付き(4tコンテナ)でハイブリッドに統一、ノンフーズ(70%)はトラック納品回転率の向上と台数削減を目論み、店頭では伝票レス、検品レスで夜間納品にて配達、店内バックヤードも廃止、ゴンドラ(什器)前の通路にカゴ車毎納品、店舗オープン前にパートさんに協力して貰い、品出しを済ませてスッキリした形でお客様を迎えられるようにオープン前の準備に力を入れました。
店内バックヤードの廃止は、商品配置スペース(ゴンドラ)の確保で増坪が可能となり、取り扱いアイテム数を増やすことで売上増への寄与ができました。
さらに、仕入先(メーカー、卸)の物流合理化に寄与すべくノンフーズ(70%)は総量納品で週2回、フーズ(30%)も総量納品で週3回納品としたことが特筆されます。
仕入先拠点が同一ゾーン内にある仕入先(メーカー、卸)に対しては、納品の効率化を目指してミルクラン方式や納品車両の立ち寄り納品を推奨したりしました。
ドミナント方式で出店場所を選択、その条件を活かすべく店舗エリア(ゾーン)別、カテゴリー毎の納品とゾーン単位に納品時間をずらすことで台当りトラックの納品回転率の向上、納品時間の短縮で、配送費の軽減に知恵を絞り、成果を享受していました。
店舗から仕入先への発注は店舗納品日(N日)を基準にノンフーズがN-1日のAM、一括納品センターへはN日のAM、店舗へはN日の夜間に納品しています。
フーズは仕入先への発注はN+2日のPM(閉店後)、一括納品センターへはN+1日の夕刻納品、店舗へはN日のAMに納品しています。
店舗側から見ると営業数値(販管費)改善のために物流システムのみに焦点を当てず、商品の発注回数とタイミング、発注リードタイム、曜日、発注単位、ゴンドラ(什器)と棚フェイスの関係、納品時間、店舗オペレーション、商品取引における商慣習の打破、全店舗のゴンドラ配置とカテゴリーの標準化などに重点を置きコンバイン物流(一括店舗納品)の考え方から「MDセンター」と言う位置づけに変革し、全体最適を目指しました。
特にコスト面では、共存共栄の観点から前述の如く納品車両台数の削減(車両回転数の向上)、積載効率(カゴ車20台以上/4tトラック)を意識した小売業と仕入先を巻き込んだ相互の物流コスト、店舗内諸条件を勘案したJIT物流(納品)で小売業の販管費の削減にも取り組みました。
コストウェイトの高い配送の合理化として下記の研究課題が挙げられると思います。
量販店(スーパー)では、中核となる卸業が、他の卸売業者の商品も集約して納品する窓口問屋制の採用が行われています。
指定された運輸業者が納入業者を回って集荷、それを一括して納品する納品代行制度の組み合わせも実施されています。
一方、小口多頻度納品が常態化しているCVSでは、共同物流センターを経由した共同物流、時差(曜日、エリア、etc)による共同配送方式が採られています。
常温、チルド(凍らない程度に冷却された状態)、定温(20℃)、冷凍(-20℃)といった温度帯別の一括物流、共同配送も実施されており、その良いとこ取りも必要と考えています。
4.センターフィは、共存共栄の精神で全体最適を目指したいものです。
一括物流を導入した小売業は、メーカー、卸業などの仕入先に「センターフィ」の支払いを要請します。
小売業の一括物流専用センターを設置することで新たなセンターの運用費が発生します。
そのセンター運用費をメーカー、卸業などの仕入先の商品代金の中からセンターフィとして天引きするのが一般的になっています。
適用するセンターフィは、仕入先側の納品拠点費(運営費)、物流作業費、配送費などを勘案して合意のもとに決定されるわけではありません。
実態としては、小売業とセンターの運営する委託業者がコストを勘案した料率を小売業経由で仕入先にお願い(言い渡す)するケースがほとんどだと思われます。
その結果、ベンダー側の商品構成、付加価値によっては、大きな合理化効果が享受できたり、逆ザヤが発生したりしています。
センターフィは通常、その仕入先がセンターに納品する商品の卸価格(通過額)に一定の料率を乗じて計算しています。
適用される料率はマチマチですが小売業が取り分を一部上乗せするケースもあります。
トータルでみると大手日雑卸の場合、概略3%のセンターフィを要求され、化粧品が多ければ3%は格安と言われており、元々、利幅の薄い卸業にとっては、甚大な影響のある金額であり、一括納品センターまでの輸送費の合理化で新たなセンターフィを吸収できるよう、一括物流センターの運営事業者の努力と小売業の協力が必須条件と考えます。
私が以前、取り組んだドラック系小売業は関東圏に約125店舗(取り組み当時)が点在、小売店舗への納品を仕入先がバラバラに行っていたのを小売業の物流拠点で商品を店舗別に取りまとめ一括して納品することで納品の流通革命を目指した企業がございました。
先ず、営業数値と物流システムの改善に焦点を当て、店舗オペレーションの変更や商品取引の商慣習の打破などに重きを置き、一括納品センター(TC/DC機能)という考え方から「MDセンター」という位置づけで、顧客サービスのための一括物流機能と役割を明確にして取り組みました。
さらに、仕入先(卸業やメーカー)の負担軽減を考え、ドミナント方式の出店、納品曜日の集約化、納品回数の削減など仕入先を含めた全体最適を意識した納品業務の改善で負担軽減を目指しました。
小売業だけの改善ではなく、共存共栄の精神で納品に関わる全体最適を目指し、仕入先と小売業は運命共同体(社長命)であるとの意識改革で取り組みました。
センターフィの負担割合(売上比)は、紙類、玩具・文具が大、日雑が平均値、食品関係は平均値+α、薬が小の傾向にありました。
そこで、共存共栄の精神を実現すべく概略のコスト試算から個々の仕入先の負担の分け合い(上限と下限のコスト調整)を小売側の仲立ちで行い業種業態別の売上高比で個別のセンターフィを策定、大多数の参加企業が良かったと言えるセンターフィを設定しました。
5.チェーン全体の合理化を意識した取り組みが肝要です。
従来は、店舗側の営業数値の改善のためだけに小売り側は、注視していました。
物流や輸配送に焦点を当てず、店舗オペレーションの変更や商品取引の商慣習の打破などには目もくれず、抜本的な改革を避けて目先のメリットを享受するために一括物流の導入を目指していた小売業が多いように思われます。
店舗側では、仕入先ごとに荷受けする手間が省け、仕入先側も店舗別に納品する必要がなくなり、国交省、経産省からの強いバックアップもあり、物流改善、輸送費の削減に繋がるとのことで、脚光を浴びていたのが一括物流でした。
一括物流を導入することで、小売側では仕入先毎に荷受けする手間が省けます。
理論的には問題のなさそうな取り組みですが、現実には、一括物流型の拠点が増え、センターフィを徴収され、サプライチェーンのトータルコスト、とりわけ商品付加価値の低い仕入先側のコストの増加という弱肉強食の事態を招いています。
これからの一括物流は、個別最適からチェーン全体の最適化へとシフトして阻害している要因にメスを入れ、メーカー~卸~小売業~消費者間で輸配送業務、メーカー工場からの単品大量一括輸送から勿論店舗や消費者宅への小口配送などの地域配送にも光を当てチェーン全体の最適化が享受できる一括物流モデルの出現を期待したいものです。
6.最後に
一括物流の結節点という機能、考え方を活かし、これからの地域社会にお役にたつ根幹物流システム(仕組み)づくりに取り組みたいと考えています。
地域配送で一番、人手がかかるのが「ラストワンマイル」と呼ばれる最後の数kmです。
特に、宅配便、新聞配達、宅食、ネットスーパーなどの個配と共に地域で毎日行われているポスティング作業、新聞、雑誌、企業のチラシ、行政の配布物などを一括物流のノウハウを駆使した新しい地域社会を網羅した個配システムをつくり上げたいものです。
それぞれの事業者と連携して、高齢化社会、人手不足の時代を乗り切る充実した生活インフラ、企業と地域住民がコラボして運営したり、地域自治の独立や地域企業が自ら財源を確保して地域に還元しながら地域社会の発展と地域住民、並びに高齢者、子育て中の母親の子育て支援、働く場の提供で経済的な支援など、弱者の社会参加の場、仲間が居る場、高齢者や障害者の社会的孤立を防ぐ地域弱者の見回り役を兼ねた安全安心の地域づくり、働き手不足、女性活用、高齢化社会を先取りしたイノベーション型地域個配ネットワーク網(地域創生)を一括物流のノウハウを生かした地域創生の土俵づくりのお手伝いしていきたいと考えています。
運営者や地域住民のやりがいを醸成する基本として「我も良し」、「他も良し」、但し「我、他よりもちょっぴり良し」の三河商法を鏡に製配販、地域住民が一体で取り組めるビジネスモデルをつくり、新しい働きがい、生きがいのある地域社会を実現したいものです。
以上
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