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第315号 買い物弱者のための宅配サービスと物流-上:買い物弱者に関する概要 (2015年5月14日発行)

執筆者 浜崎 章洋
(大阪産業大学 経営学部商学科 教授)

 執筆者略歴 ▼
  • (略歴)
    • 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。
    • タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会社設立を経て現職。
    • 日本物流学会理事。大阪市立大学、立命館大学、龍谷大学の非常勤講師。
    • 2004年度、2013年度日本物流学会賞、第12回鉄道貨物振興奨励賞特別賞受賞。
    (著書)
    • 「ロジスティクスの基礎知識」(海事プレス社)
    • 「ロジスティクス・オペレーション2級」(共著、社会保険研究所)
    • 「Logistics Now 2005」(共著、輸送経済新聞社)など

 

目次


 

【買い物弱者とは】

  ここ数年、「買い物弱者」という言葉がメディア等に頻繁に登場するようになった。「買い物弱者」とは文字通り、買い物が困難な一般市民のことで、「最寄りの店舗まで直線距離で500m以上離れ、自動車を持たない人」というように説明されている。具体的には高齢者、障害者、妊婦や小さな子どもがおられる方などである。経済産業省の調査では600万人、農林水産省の調査では900万人の買い物弱者が、いまの日本に存在すると言われている。日本の総人口は約1億2700万人なので、5~8%の国民が買い物弱者ということになる。
  なぜ、これほど多くの買い物弱者が存在するのだろうか。2008年に出版された杉田聡著『買物難民-もうひとつの高齢者問題-』をお読みになりご存知の読者諸賢も多いことであろうが、買い物弱者の原因について整理する。なお、「買物難民」という言葉は、少々刺激が強すぎ、現在は行政やマスコミ等も「買い物弱者」と表記することが多いため、本稿でもそれに倣い「買い物弱者」で統一する。
  なお、買い物弱者は、都心から離れた山間部や離島だけの問題ではない。昭和40~60年代に建設された各地のニュータウンにおいても、当時30~40歳代の住民の高齢化が進み買い物弱者になっている場合も多い。
  筆者は、日本物流学会関西部会の有志で構成された「物流まちづくり共同研究会」のメンバーである。本稿と次号、次々号で買い物弱者について報告する。

【買い物弱者の発生原因】

  これほど多くの買い物弱者が発生した原因は多数ある。ひとつは街の商店街の衰退である。例えば、若い家族層は品揃えが多く値段も安い郊外の大型スーパーに自動車で買い物に行くようになり、街の小さな店は閉店を余儀なくされる。また、街の店では将来性がないため息子は会社員になってしまい後継者がなく閉店するといったこともあり、近隣の商店街や店が衰退した。自動車を運転している間は問題ないが、高齢化で運転免許を返上したり、自動車を手放したときには、近所に買い物が出来る店がなくなっていたという状況である。
  また、サザエさんに登場する「三河屋のサブちゃん」ではないが、昔は米屋、酒屋、八百屋などは各家庭に御用聞きが訪問し商品を配達していたが、流通業の近代化により減少している。あるいは、豆腐屋や魚屋などは、行商をしていたものだが、商人の高齢化などで姿を消していった。余談ながら、筆者が子どものころは、お使いは子どもの仕事であったが、いまの子ども達は塾や習い事に忙しく、買い物のお手伝いをする時間はないであろう。
  もちろん、少子高齢化も大きな原因のひとつである。特に若い人向けの仕事が少ない地方では、若い世代は都会に出ていくため高齢者率が高くなる。都市部においても、核家族化により、高齢者世帯は買い物弱者になってしまうこともある。
  このように、買い物弱者が発生する原因は、さまざまである。

【一般的な買い物弱者対策】

  それでは、一般的な買い物弱者対策について説明する。
  少し前の日本では、近隣に地元の商店街や地域の小規模な小売店が数多く存在していた。また、御用聞きや行商などの販売形態が残っていた。そして、地域社会には相互支援の精神から助け合い精神があり、ご近所の方々が買い物に不自由な住民をサポートしていた。
  残念なことに、流通の近代化や地域社会の希薄化などで、また、高齢化により買い物弱者の問題がクローズアップされている。
  そこで、行政、生協、地域社会、営利企業が買い物弱者対策をしている。例えば、購入した商品を高齢者宅等に届ける来店宅配、買物弱者を商店・街・スーパーに送り迎えする買い物バス、移動販売車・移動店舗を走らせる移動販売、商店を作る・誘致する、店への移動手段、例えばタクシー券のサービスなどである。
  筆者の共同研究者で、買い物弱者に関する精力的な研究をされている近畿大学の高橋愛典教授が整理した買い物弱者対策が分かりやすいので紹介したい。
①流通からのアプローチ:共同購入、移動販売、ネットスーパー、御用聞き、買い物代行
②交通からのアプローチ:買い物バス
③来店者の自宅に配達 :来店宅配、タクシー券サービス
④小売業からの歩み寄り:小規模店舗、中山間地域に出店
⑤消費者からの歩み寄り:共同店、共食
  ①の流通からのアプローチについては、従来からある生協等の共同購入、地元の商店による移動販売、御用聞きなどがあげられる。近年では、ネットスーパーや買い物代行などが注目されている。②の交通からのアプローチとしては、小売業等が地域を巡回し買い物客を送迎する買い物バスなどがある。③の来店者の自宅に配達する機能としては、来店宅配やタクシー券のサービスなどがある。来店宅配とは、買い物に来た客の荷物を有料無料等で配達するサービスである。④の小売業からの歩み寄りとしては、閉店された商店跡や公民館などに週1~2回程度、仮設店舗や移動販売を行うパターンである。⑤の消費者からの歩み寄りとしては、町内会や地域のボランティアがバザーのような感じで販売をしたり、あるいは昼食会や弁当の宅配を行うといったものである。
  これらの例の多くは従来から行われているものであろう。最近では、ネットスーパーやコンビニの配達サービスなど新しいタイプの対策もある。

【買い物弱者対策は物流視点】

  買い物バスやタクシー券サービスは、主に交通手段による解決策であるが、それ以外のものは、「配達」や「現地へモノを移動させて販売」というように物流視点によるものである。筆者らは、買い物弱者対策には、物流が役立てると考えている。
  このような状況のもと、筆者が所属する「物流まちづくり共同研究会」では、これまでさまざまなタイプの買い物弱者対策を調査してきた。例えば、関東や関西のニュータウンでは、地域の主婦たちが主体となったNPOの高齢者向けの夕食(弁当)宅配がある。一食500円程度の弁当を希望者に配達するといったものだ。これらの多くは、単に弁当を配達するだけでなく、配達時に利用者の安否確認を行っている。独居老人の孤独死などが社会的な問題になっているため、行政等からの依頼で配達時に安否確認を行い、万一の場合は救急車を呼ぶなど対応している。実際に、年に数回は利用者が倒れており救急車を呼んで一命を取り留めたということがあるという。夕食宅配は、利用者自らが申込みお金を負担することもあれば、離れて暮らす息子さんらが親の安否確認と食事の確保のためにNPO等に依頼しお金を負担している場合もある。
  過疎地や離島などの調査も行った。この場合、民間の小売業者が移動販売や買い物バス、あるいは市町村などがシルバー人材を活用して買い物代行のサービスを提供しているなどの対策があった。移動販売や買い物バスは、収支的には厳しいものがある。移動販売用の車両が高額で、かつ過疎地の高齢者では一日の売上高にも限界がある。また、買い物バスの運行費なども結構な負担になる。多くの場合、赤字、良くて収支トントンといったところだ。地域のスーパーの社長らの「地域社会に貢献したい」という志で、なんとか存続しているというのが実情であろう。国や自治体から、買い物弱者対策のための移動販売車両などに補助金が出ていたが、近年は補助金額が減少傾向にある。
  余談ながら、民生委員や町内会役員など地域の方々にヒアリングしたところ、至れりつくせりの買い物弱者対策では高齢者が外出しなくてもよくなり家に引きこもってしまうため好ましくないという。買い物バスや来店宅配、あるいは移動販売などであれば、外出しなければならないし、買い物を楽しんだり、店員や知人とお喋りするなどができるので、高齢者にとっては元気を保てるようだ。
  次号、次々号では、地域のスーパーや行政の取り組みなどを紹介する。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。


(本稿は、日本ボランタリーチェーン協会機関誌『ボランタリーチェーン』に連載中の「高齢化社会を迎え、流通業は買い物弱者対策にどう取り組むべきか!」の原稿を加筆修正、再構成したものである)

※次号へつづく


(C)2015 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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