第2号カメラ業界における都市内共同配送の実際(2002年03月05日発行)
執筆者 | 高橋 昭博 高橋技術士事務所 代表 |
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目次
物流共同化は残された最大の効率化手法である。この事例の最大の特徴は、営業担当者がイニシアチブをとった点であり、ライバル企業同士の共同配送に、これほど有利な条件はない。
1.進む卸売業の構造変化
カメラ6社は95年、営業・物流担当から成る「カメラ共同物流協議会」を発足させ、各社の配送形態(チャーター車で商品を配送しながら修理品を回収)が類似し、かつ重複する店舗が多い東京地区での共配システムを検討。各社単独では積載率が2~3割と低いことから、共同化の効果が最も期待できる地区として17区を選択した。
都内には6社の商品を販売するカメラ店が合わせて750店舗あるが、全店舗を共配の対象にすると配送効率は落ちる。共配開始までの1年間は、共配エリアの絞り込みとコストダウンと配分方法を決定するためのシミュレーションに費やされた。検討の結果、共配の対象店として集積密度の高い都内17区の350店舗を選択した。シミュレーションでは、対象エリアの共配率は70%と見込まれた。
コスト配分は、出荷数量だけでなく①出荷数量、②配送店舗数、③1店舗当たり配送頻度を係数化し、配送効率を反映させてより公平を期する。車両台数は1~2トン車14台に固定(ルート配送)、積載効率が上がれば1個当たりの料金単価は下がる。逆にキャンペーンなどで臨時便が出るとコスト増になり、当該社の負担額が増える仕組み。
実施の結果、共配率はシミュレーションの70%を上回り、積載率は6割を超えた。以前は6社合わせて36~38台だった車両が半分以下の14台になった。ただし、対象から外れた地区の店舗では宅配便に切り替えたため、コストが上がった。
協議会では、近々この共配を都内の17区以外や関東甲信越へ拡大する。トナミ運輸の特別積み合わせネットワークを活用し、トナミ東京支店で集貨後、各地のハブセンターから専用車を仕立てて翌日配送する。特別積み合わせでは対応の難しい修理品の回収は、今後の課題となる。
2.共配に参加している甲社から聴取
(1)カメラの流通 (京セラのみ直販)
(2)共配の経緯
カメラ工業会で各社の営業・企画担当は互いに顔見知りだった。95年7月、1社から「共同配送を検討してはどうだろう」との提案があった。
工業会の十数社に投げかけ、各社が各販社と相談の結果6社(キャノン・ニコン・ミノルタ・ペンタックス・オリンパス・京セラ)が検討に参加することになった。
*当初はリコーが参加する意向だったが、その後組識改変があり、カメラ部門単体で動くことができなくなって辞退し、代わって京セラが参加した。
95年9月、「カメラ共同物流協議会」を発足させ、カメラ工業会内JCIIの会議室で初会合。協議会は運営委員会(意思決定機関、企画・業務部長)と業務委員会(実動部隊、営業・物流担当)から構成された。両委員会とも月1回定例会合。
まず運営委員会で、どこまで自社データを出せるか、また出すための条件はどうか等を検討し、結論として次のようになった。
- 差し障りのない範囲のデータを出して、全国物流の状況や配送テリトリー等を相互に理解する。
- 同レベルの情報を出し合って共有することで、共同配送の土壌づくりをする。
- データは、一定のフォーマットで各社がまとめる。(ただし、6社全体のデータをまとめるような加工はしない)
「業務委員会」は、毎月1回定期的に会合し、管理部門・営業企画部門から各社2名が参加した。半年かかって各社の出荷データが出そろった。当初は全国流動量調査をしていたが、お互いの意識疎通のプロセスの中から、「都内でのトラック使用の状況・積載率等を考えると、コストメリットが出そうなのは感覚的・概算的に都内配送だ」という共通認識がまとまってきた。
「カメラ共同物流協議会」として、運送事業者に参加してもらって専門的な意見を出してもらうことになり、コンペによって業者を選択することになった。将来のネットワークづくりも考慮して、小規模業者は除外した。各社がリストアップした運送業者は6社だった。運送事業者の提案は大きく次の3つの方向性をもっていた。
- 既存運送会社のネットワークを活用する
- 全く新たにネットワークをつくる
- 併用型
96年6月、トナミ運輸を選定した。選定理由はコスト・提案内容・意欲(姿勢)である。
トナミ運輸を加え、甲社が事務局になって、97年4月共配スタートを目途に検討を本格化した。業務委員会は月3回のペースで開催し、情報システム構築、顧客コードづけ、顧客別物量調査に時間をかけた。顧客の理解を得るために営業チームをつくり、とくに大手得意先の説得を各社で分担した。得意先の反発は比較的少なかった。これは根回しのよさと、共配は時の流れという理解があったためであろう。
(3)共配システム
参加メーカーの特徴
- 参加している企業は1眼レフを主力とする6社で、取引先はカメラ店である。
- 取引先は系列店ではなく、全て併売店である。
- 1眼レフは、本体のほかレンズ・フィルターなどの付属品が多く、かつ少量・軽量である
(カメラはコンパクトなシステム商品である)。
カメラ共配の特徴
- 競合関係にある
- 配送先が共通
- 荷姿が共通
共配の目的
- コスト低減(各社が”いいとこどり”をしても、つぶれない仕組みづくりが必要)
- 顧客の荷受け作業負荷低減配送先が共通
- 車両台数低減(社会的要請でもある)
- 川上サイドが努力できることの一つとして、共配によって、若干でも商習慣の見直しにつなげられないか
*川下サイドに主導権がシフトし、大手集中によりカメラチェーンのバイイングパワーがとくに大きくなっている。
共配先の選定:静脈物流(修理・返品)を重視し、ルート配送のメリットがある顧客を選定した結果、350店舗(都内17区)になった(*配送頻度の少ない顧客へは宅配便で配送する)。
(共配の概要)
共配のアイテム数:約10000アイテム
共通宛名ラベル(統一得意先バーコード、ルート・住所・TEL等)→店別外装箱に貼付
ルート別・店別配送リスト→ドライバー
- 各社受注締切り時間は13~14時(変更は余りない)→発伝→ピッキング→仕分け→届先別に箱詰め(出荷リスト封入)→集貨待ち
- トナミ集貨時間は18~19時 →ハブセンターで夜間に仕分け →翌日ルート配送→納品時に店頭でトナミが開梱して検品→受領印を受ける→修理品・返品を受け取る(受領証を渡す)→集貨時に各社に書類一式を届ける
- トナミ運輸の集貨先:ニコン(平和島)、キャノン、ペンタックス(足立区)、 京セラ(品川区)、ミノルタ、オリンパス(八王子)の各物流拠点
- トナミ運輸のハブセンター:江東区 辰巳
- 配送車両:14台をルート配車+臨時便(新製品発売時など)
- 配送状況はトナミ運輸が常時把握
- クレーム処理(誤配・品違い)は、各社の発注窓口で行なう(川上から追求する)
(4)共配コスト負担額の算出方法
計算を簡単にするため計算単位は梱包数(重量・容積・距離を無視した大まかな取り決め)
月間支払い運賃・料金の総額(A)
=運賃(14台×月間貸切運賃)+庫内作業料(変動費)+スペース費(固定費)
*(A)は、通常作業時の運賃・料金である。
*臨時便の運賃と特別に要した作業量・スペース費は、それをオーダーした企業が別途負担する。
(i) 配送回数、(ii) 軒先数(当月に配送した得意先数)、(iii) 合計梱数について、それぞれ一定の係数(ウエイト)を設定する。
当月の支払い運賃・料金総額(A)に係数を掛けて、「当月の(i)・(ii)・(iii)の6社総金額」(B)を算出する。
Bを、それぞれ「当月の6社合計の(i)・(ii)・(iii)の数」で割って各単価(C)を算出する。
Cに「当月の各社ごとの(i)・(ii)・(iii)の数」を掛けて、各社ごとの負担金額を算出する。
以上の手順を例示すると、次のようになる(表1参照)。
*例示は、全て仮の数値である。
- 係数(ウエイト): 販売回数(i)…40%、軒先数(ii)…30%、合計梱数(iii)…30%
- 当月の支払い運賃・料金総額(A)=1000万円
- 係数(ウエイト): 販売回数(i)…40%、軒先数(ii)…30%、合計梱数(iii)…30%
- 6社合計の「当月の(i)・(ii)・(iii)の金額」
(B):(i)=1000万円×0.4=400万円
(ii)=1000万円×0.3=300万円
(iii)=1000万円×0.3=300万円 - 6社合計の「当月の(i)・(ii)・(iii)の数」:(i)=250回、(ii)=50軒、(iii)=500梱
- 「当月の(i)・(ii)・(iii)の単価」(C):(i)=1.6万円、(ii)=6万円、(iii)=0.6万円
- 甲社の当月負担額:
(i)33回×1.6万円=52.8万円
(ii)3軒×6万円=18万円
(iii)71梱×0.6万円=42.6万円
合計=113.4万円
3.共配に参加していない丙社から聴取(共配に参加しない理由)
- 丙社はフィルム・カメラ・事務用機器等の事業部門をもっている。フィルム主体のメーカーであり、1眼レフ(共配の対象商品)を主力商品としていない。
- フィルムメーカーは、全国に多数のラボ(現像所)を擁しており、フィルムの配送はこれらへのプリント集配便に載せている。
- フィルムは日雑とほぼ同様の流通をしており、カメラ店に限られた共配は魅力がない。
- 丙社は4年前までに、自前の物流拠点を札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡に整備しており、ここからカメラ・フィルム・印画紙等一式をルート配送している。
- カメラの有力販売店は全国で約300社、このうち15社は全国チェーン展開しており、販売額のシェアは70%に上る。これらの各社は自前の物流拠点を持っており、そこへフィルム類も含めて一括納品している。
- カメラ店からの修理品回収は、1個ずつユーザーが異なるうえ、メーカーも違う。このため1個ずつ梱包が必要で、回収物流中の破損等の問題もある。検品も、1個ずつ必要である。また、修理出来上がりのタイミングも違う。
- カメラは時計と似て、特殊な商品である。電化製品と異なり、古くても写りは変わらない。手になじんだ遣い勝手、親からの譲り受け品など、心のこもった修理サービスが求められる。また、修理の結果や修理時の応対が悪いと丙社全体の不評につながり、フィルムも売れなくなるおそれがある。
以上
(C)2002 Akihiro Takahashi & Sakata Warehouse, Inc.