ロジスティクス・レビュー

第435号 SDGsロジスティクス(中編)(2020年5月14日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

*前号(2020年4月21日発行 第434号)より

3.日本におけるSDGsの取り組み

(1)政府の取り組み

  政府では2016年5月20日、安倍首相を本部長、すべての国務大臣がメンバーである、「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合」が開催されている(SDGsは国連目標なので、事務方は国連担当の外務省)。
  経済産業省・環境省などがガイドブック等を作成し、各省庁も熱心に取り組んでいるが、国土交通省はやや出遅れているようである。
  SDGsの達成に向けて、優れた取組を行う企業や団体などを表彰する制度として、「ジャパンSDGsアワード」が定められ、2017年に第1回表彰が行われた(外務省ホームページ参照)。
  政府ではSDGs達成を「地方創生」の手段とも位置付けている。SDGs実現に向けて積極的に活動する自治体を「SDGs未来都市」として選定して、予算をつけてサポートしているので、SDGsに取り組む自治体も多い(後述するように、筆者が住む横浜市も「SDGs未来都市」である)。
  例えば、大阪市ではSDGsを踏まえて新たな環境基本計画を策定し、2030年までに温暖化ガス排出量を30%削減するとしている。これらの計画は物流企業の経営にも影響するので、地元自治体のSDGs対応を注視しておく必要もある。

(2)企業の取り組み

①ESG投資とSDGs
  2006年に国連が金融業界に対して提唱したPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)は、世界の解決すべき課題を環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの分野に整理され、3つの頭文字からESGと略され、ESGに配慮した責任ある投資をESG投資という。
  日本の金融業界でも、企業のESG投資に対しては長期・低金利等で優遇しており、物流業界でも次世代車両の購入等に対して、ESG投資制度を活用している例も多い。
  また、投資家にも短期的な収益だけではなく、SDGsに貢献している企業がESG投資の対象になるという考え方が浸透しつつあり、米国では地球温暖化ガスの排出量が多い石炭企業等に対して投資家側から圧力がかかっている。
  2019年にマドリードで開催されたCOP25では、EUが「2050年(SDGsの目標年次は2030年)までに地球温暖化ガスの排出をゼロ」とする目標を打ち出し、EU諸港に寄港する日本の海運業界が困惑していると報じられている。
  そのうちに、化石燃料や資源を大量消費する物流業界にも、投資家・金融機関から「ESGやSDGsに貢献していない」と資金面で圧力がかかるかも知れないし、荷主から「環境や社会に貢献しているという我が社のイメージを阻害する」と批判されかねない。

②産業界の取り組み状況
  日本の産業界では、2017年に日本経団連が会員企業向けの行動指針「企業行動憲章」にSDGsの理念を取り入れるよう7年ぶりに改定した。これに伴い、すでに多くの上場企業がSDGsを経営理念や経営目標に採り入れて取り組みを始めている。
  大企業の経営者がそろって、SDGsバッジを付け始めたのはよく見るところである(SDGsに先進的な企業経営者からは、「バッジを付けただけで行動が伴っていない」と苦言が呈されている)

  埼玉りそな産業経済振興財団(さいたま市)が、SDGsに対する埼玉県内企業の認識や対応状況を調査したところ、
「SDGsの内容を把握している企業は全体の約4割で、何らかの対応をしている企業(予定含む)はわずか1割にとどまった」
と報じられている。
  さらに、
「『SDGsを聞いたことがある』企業は約7割に上ったが、そのうち半分近くが『内容は把握していない』と答えた。『聞いたことがあるが未対応』とした企業に理由を複数回答で聞いたところ『対応できる人材がいない(53%)』、『社内での認知度が低い(45%)』などが多かった」とされており、「埼玉県内の企業でも十分に浸透していない実態が浮き彫りになった」
  と結論づけている(調査は2019年10月中旬に県内企業942社を対象に実施。217社から回答。うち、運輸・倉庫業は81社中14社から回答があり、回答した全社が中小企業)。

  物流業界でのSDGs取り組み実態調査は、国土交通省や全日本トラック協会等でも行われていないが、実施すれば浸透度はもっと低いものと思われる。
  なかには、既にSDGsに取り組んでいる先進的な荷主企業からの呼びかけ・要請により取り組んでいる物流企業もあろうかと思う。

③環境対策からCSRそしてSDGsへ
  日本企業におけるSDGsの取り組みは、前述の日本経団連の企業行動憲章の変遷にもみられるように、環境対策からCSR(Corporative Social Responsibility:企業の社会的責任)、そしてSDGsへと変化してきたように思う。
  物流業界でも、騒音・NOx対策など環境問題には取り組んできたところであり、「CSR報告書」等を公表している企業もある。
  CSRについては、より対象を広げたSR(Social Responsibility:企業だけでなく行政・病院・学校なども負うべき社会的責任)についての規格として、ISO26000がある。
  SDGsもISOで規格化されるのではないかという懸念があるが、元々の正確が異なるので規格化はされないと思われる。しかし、国連ではSDGsの達成度合いを国ごとに毎年評価するので、達成度合いが低いと何らかの規制的手段が講じられる可能性はある。

  大学の講義等では、次世代を担う若い人たちにSDGsを理解・実践してもらうために、筆者もCOP3(京都議定書)など環境対策から説明している。2019年のCOP25を見ていると、地球温暖化対策や海洋プラスチック対策など環境対策が喫緊の課題になっており、物流分野でも荷主・物流企業一体となった取り組みの必要性を痛感する。

  毎年表彰される「ジャパンSDGsアワード」の受賞企業にみられるように、日本でもSDGsに対して積極的に取り組む企業が増えているが、多くの企業はCSRの一環としてSSDGsを捉えている、というのが現状である。
  物流業界でも、先述したように一部の大手企業が「CSR報告書」等のなかで、SDGsの取り組みを紹介している程度である。

  一方、荷主企業ではSDGsをビジネスチャンスとして捉えて事業を展開し、環境や社会に配慮した優良企業というイメージアップにもつながる好循環も生まれている。
  荷主企業がSDGsに取り組む理由には、①新規事業の開発や既存事業の拡大につながる、②新たな人材獲得・確保に役立つ、③社内外とのコミュニケーションに役立つ、④企業のイメージアップにつながる、等が考えられる。

4.企業のSDGs導入事例

(1)大企業の事例

  上述のように、荷主企業などでは既にSDGsに取り組んでおり、世界的に大手コンサルティング企業であるデロイトトーマツコンサルティングは、日本における「SDGsビジネスの可能性とルール形成(最終報告書)」(2017年12月)で、SDSGsの各目標に対してビジネスに関わる代表的な日本企業を例示している。
  同社の調査対象は大企業中心となっている。そのうち、物流企業について「①目標、②SDGsビジネス、③その概要、④企業名と取り組み内容」を同報告書から抜粋・列挙する(社名等は、同報告書記載の通り)。

事例1
①目標2(飢餓を終わらせ、食糧安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する)
②冷凍・冷蔵設備
③食品用の冷蔵庫・冷凍庫等を製造・販売し、食品の衛生環境を維持・消費期限を長期化
④横浜冷凍 環境に配慮した冷蔵倉庫で様々な種類、豊富な量の商品を保管

事例2
①目標2(略)
②コールドチェーン
③生鮮・冷凍食品を産地から消費地まで冷蔵・冷凍状態を維持して配送し、食品の品質を維持
④ニチレイロジ 冷蔵・冷凍食品の保管・輸送事業を展開

事例3
①目標7(すべての人に手頃で信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)
②エネルギー海上輸送
③貨物船・タンカー・LNG船でのエネルギー輸送、天然ガス輸送パイプラインの建設・運営により、遠隔地からの燃料・エネルギー確保を実現
④商船三井 石炭船・原油・石油精製品・LNG・LPG運搬船を保有・運航

事例4
①目標7(略)
②海上効率化輸送システム
③輸送時間、輸送コストを最小化する為のIoTを活用したシステムの開発・販売により、輸送の省エネルギー化を実現
④日本郵船 気象情報に基づく最適航路提供するITシステムを導入し、効率配船・省エネ運航を実施

事例5
①目標10(国内および国家間の格差を是正する)
②国際輸送
③国を跨いだ貨物の輸送サービスにより、国家間で手に入る物資の格差を解消・軽減
④日本通運 グローバルネットワークを活かして航空輸送・海上輸送等の様々な国際輸送サービスを展開

事例6
①目標10(略)
②小口宅配
③個人・法人向けに手軽にあらゆる場所へ物資を配達するサービスにより、国内で手に入る物資の格差を解消・軽減
④ヤマト運輸 宅急便を中心とした一般消費者・企業向け小口貨物輸送サービスを提供

事例7
①目標14(海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
②海上効率化輸送システム
③輸送時間、輸送コストを最小化する為のIoTを活用したシステムの開発・販売により、輸送の省エネルギー化を実現
④日本郵船 気象情報に基づく最適航路提供するITシステムを導入し、効率配船・省エネ運航を実施
(事例4に既出)

  同報告書では、その他にも日本を代表する製造業・保険会社等の事例が紹介されている。
  なお、日本通運については、経済産業省の「SDGs経営ガイド」(2019年5月)にも、「規制導入によるコスト増等を共同物流プラットフォームで解決」として事例紹介されている。
  また、日本経団連も機関誌で事例紹介しているほか、政府でも上述の「ジャパンSDGsアワード」受賞企業・自治体等の事例を紹介している。

  以上の事例を見ると、全てが既存の本来業務であり、SDGsだからと言って、新たなサービス開発や事業展開をしたのではないように思う。
  とくに、目標10「人や国の不平等をなくそう」(各国内及び各国間の不平等を是正する)で、日本通運とヤマト運輸の事例が紹介されている。
  元々、生産と消費の「空間」的隔たりをつなぐのが「輸送」であり、「時間」的隔たりをつなぐのが「保管」である。ということは、輸送や保管など物流は、国内外における生産と消費の不平等を是正するのであるから、大小を問わず全ての物流事業者は、意識しているかいないかは別として、本業を通じて目標10の達成に取り組んでいることになる。
  SDGsの各目標が、グッと身近なものに感じられたのではなかろうか。

(2)中小企業の事例

  それでは、中小企業の事例はどうだろうか。残念ながら、筆者が不勉強であり、中小物流業者の事例については情報収集していない。
  そこで、2019年8月2日に開催されたシンポジウム「SDGs未来都市・横浜の挑戦」に参加したときに紹介された、神奈川県の中小企業の事例を述べたい(以下、①~④の各社事例は、当日のパネルディスカッションを筆者がメモ。詳細は各社のホームページを参照)。
  上述したように、横浜市は政府が指定するSDGss未来都市の一つであり、SDGsへの取り組みでは先進的な自治体とされている。
  紹介する中小企業のなかでは、水産物卸売業の横浜丸魚だけが物流業に近い(卸売業の配荷活動が物流そのものでもある)が、各企業の事例をSDGs取り組みの参考にされたい。

①横浜市資源リサイクル事業協同組合
  小中学生による「環境絵日記」を20年継続・表彰しており、累計で19万人の小中学生が参加している。
  当初はリサイクル効率化のための「分別協力」を目的に、「環境・社会について家族で話し合って絵日記に書いて」と学校で宿題を出してもらったところ、子供を通じて大人・企業への波及効果が大きいことが分かった。
  SDGs教育を受けた小中学生は、次世代にはSDGsの評価者として登場することになる(筆者注:既に小中学校ではSDGs教育が始まっており、SDGsに消極的な企業は支持されなくなる恐れがある)。横浜以外の日本国内やアフリカにも拡大している。

②大川印刷 (2018年、上述の「ジャパンSDGsアワード」を受賞)
  以前から環境問題に関心があり、印刷用紙には適切に管理(植林などの再生産)された森林から得た木材という「FSC認証」(Forest Stewardship Council:地球に優しい森林認証制度)を受けたものを使用し、印刷も年間のCO2排出量を予めオフセット(排出権取引)したゼロカーボンプリントを行っている。
  崎陽軒のシウマイ弁当の黄色掛け紙にも採用されたことで、他の大手企業からも受注しており、ビジネス上の成果も大きい。
  また、アフガニスタン難民を採用したり、RE100(Renewable Energy 100:100%再生エネルギーで賄うプロジェクト)に賛同して、カーボンオフセット・バイオ発電の購入等を実施している。
  従業員全員によるSDGs計画を毎年策定することで、「やらされ感」を排除している。SDGsをやることは目的・目標ではない。目的・目標にすると、「見せやすい=装いやすい」「上っ面で取り組むと、却って信用失墜になる」と思う。
  毎年CSR報告会を開催するとともに、パート従業員の子弟・家族を呼んで会社見学を行い、FSC認証容器のアイスクリームを配布して、子供たちもSDGsに協力したことを知らせる。
  その結果、子どもの購買行動が変わり、スーパー・コンビニ等でSDGs商品を選ぶようになる。また、「お母さんの仕事は世界の課題解決=SDGsに繋がっている」と評価するようになる。

③石井造園 (2017年度「第7回カーボンオフセット大賞」受賞)
  主力事業である公園工事が終わると、工事期間中の騒音等で迷惑を掛けた近隣各戸に200本のブルーベリー苗木を配布している(2030年までに3万本の計画)。
  受注した仕事については、請求額の下3桁の金額+同額(石井造園寄附)を緑化寄附(年間40万)している。
  SDGsはブーム現象化しているが、当社では「ついでに、無理なく、達成感ある」活動を継続していきたい。

④横浜丸魚
  横浜中央卸売市場水産部として取り組んでいる。目標14(海の豊かさを守ろう)は全17目標で最少の取り組み件数であるが、「未利用魚の活用(漁獲量が少ない、食べ方を知らない)」「キャベツウニプロジェクト(三浦のキャベツでウニを育てる)」「東北の廃棄ホヤを救え(東日本大震災の影響で輸出できなくなったホヤを神奈川で売る)」等を実施している。
  さらに、市民に知ってもらうため、毎月第一・第三土曜日に市場を開放している。
  「横浜食文化の一丁目一番地へ」という横浜中央卸売市場水産部経営ビジョンも策定した。

  ①~④の各社も、大企業同様に本来業務のなかでSDGsに取り組んでいるほか、SDGsが始まる以前から、各社の業態・規模に応じて継続して取り組んでおり、それが長続きする要因であることが分かる。

※後編(次号)へつづく


(C)2020 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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