第267号GS1QRコードの動向(2013年5月9日発行)
執筆者 | 市原 栄樹 一般財団法人 流通システム開発センター 国際部 主任研究員 |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.GS1QRコードの概要
2012年1月、QRコードがGS1標準となった。このGS1QRコードの動向を紹介する。
国際的な標準化組織であるGS1では、2008年よりモバイル業界の関係者、グローバル小売業、メーカーによるワーキンググループで、情報技術、業務の標準化を進めてきた。GS1ではモバイルを2020年に向けた標準化の重点業界として位置づけている。
GS1QRコードのGS1標準化は、このモバイルのワーキンググループで進めてきた。このワーキングのテーマのひとつに、エクステンデッド・パッケージ(商品パッケージが表示する情報に加えて、ラベルには表示しきれない付加価値情報や、メーカーが消費者に提供したい情報を、携帯サイト等から提供するサービス)がある。GS1では、携帯電話、スマートフォンから、このサービスを提供するWebページにアクセスする手段として、携帯電話、スマートフォンで読取る2次元シンボルの種類を検討してきた。このシンボルに、QRコードがGS1データ・マトリクスと共に採用され、QRコードはGS1標準となった。
GS1QRコードと既存のQRコードには相違点がある。この相違点のために、現在、携帯電話、スマートフォンで利用しているQRコードの読取りソフトでは、仮にGS1QRコードを読取ることができても、GS1QRコードの規定するURL情報を表示できない。
まず、GS1QRコードではGS1標準のデータであると宣言する制御コード(FNC1)をシンボルの先頭に置き、既存のQRコードとを識別する。QRコードで表す個々のデータは、AIと呼ばれるGS1が規定するデータ識別子によってデータの種類、属性を識別する。更に、GS1QRコードでは、商品コード(AI(01))、URL情報(AI(8200))の2種類のデータを必ず組み合わせて利用することが決まっている。GS1標準では、既存のQRコードのように、URL情報を単独では表示することは認められていない。
GS1QRコードでは、URL情報の表示方法も規定している。GS1QRコードでは、商品コード、URLの順でデータを表示するために、URL情報を表す時、必ずデータの並び替えが発生する。今後GS1QRコードを導入する場合、GS1QRコードの読取り機能、読み取ったデータの並び替え機能を持つ携帯用アプリケーションの準備が必要となる。
2.GS1QRコードの仕様を利用した例
2013年3月時点では、GS1QRコードを導入した事例は報告されていない。GS1QRコードのURL情報を既存のQRコードで表示させた事例は、男性化粧品メーカーの株式会社マンダムがあげられる。
マンダムは2012年6月16日から7月31日まで、ドラッグストアーチェーン株式会社ツルハホールディングスの1000店舗達成キャンペーンに協賛し、スマートフォン、携帯電話を使ったWebによる懸賞応募を行なった。
これまで、同社では、はがきによる懸賞応募を利用していた。携帯電話の普及により、消費者のはがき離れが進み、はがきによる懸賞応募への応募者数は減少傾向が続き、同社は、はがきによる懸賞応募を取りやめた。同社では、はがきに代わる新たな手段を模索していた。
同社は、GS1QRコードがURL情報に商品コードを利用している点に注目し、商品コード別に懸賞応募の把握ができるのではないかという仮説を立て、GS1が規定するURL情報によるWebによる懸賞応募を行なった。
1チェーンの懸賞応募であったが、はがきによる懸賞応募に比べて応募者が増加した。また、事務局の懸賞応募に伴う事務処理コストも削減ができたという。同社では商品コード別に応募状況が把握でき、商品コード別の比較販売実績との分析も行なうことができた。 今後、同社ではQRコードを利用したWeb懸賞応募を継続してゆく予定である。
GS1QRコードでは、URL、商品コードに加えて、商品のロット番号といった情報との組み合わせもできる。GS1標準では、他のAIとの組み合わせを妨げていない。例えば、ロット番号を含めた商品情報は、商品のリコールや、商品コードより詳細な商品の管理に利用できよう。ネット販売における発注業務、店頭POPへの活用なども考えられる。
3.GS1モバイルおける標準化の検討
図1 TSD(GS1 ソースネットワーク)の概念図
GS1モバイルでは、バーコードのほかに、モバイル向けの商品情報ネットワーク、電子クーポンの標準化も進めている。 2013年1月、GS1が推進するモバイル向け商品マスターネットワークGS1 Trusted Source of Data(以下TSDと略す)のバージョン1の技術仕様が公開された。図1は、その概念図である。最近、GS1ソース・ネットワークと呼ばれることもある。GS1が推進するB2B用のマスターデータ交換サービスGDSNを基礎に、消費者が必要とするアレルギー情報などのデータを収集し、携帯電話、スマートフォンに提供するサービスである。
バージョン1では、商品情報として、基本情報、栄養価情報の2種類を規定した。
TSDでは、GDSNのデータを利用している。GDSNでは2013年1月現在、加工食品、日用品を始め、家電、アパレル、最近では外食産業、ヘルスケア業界のデータの登録も進めており、データの総登録件数はGTIN単位で1100万件を超えている。この中には日本企業のデータは、殆ど登録されていない。
現在、TSDではEUの食品規制に関する項目の追加を検討している。更に、その次の段階ではアグリゲータと呼ばれるデータ収集業者の機能を規定する予定である。詳しくはGS1のB2Cのサイトを参照頂きたい。http://www.gs1.org/b2c
2012年6月、GS1では電子クーポンの処理プロセスと、電子クーポンのコード体系を規定した仕様書を公開した。この検討過程は、アメリカの商品メーカーやクーポン処理会社、EUのGS1組織が参加して進めたものである。海外ではメーカークーポンの利用が多いため、ワーキンググループではメーカー発行クーポンを中心に検討した。
eコマースの拡大によって、オムニチャネル戦略といったが語られてきている現在、日本でもメーカー発行クーポンを利用して、消費者の直接アプローチする可能性もある。メーカーが、ネットを通じて直接に消費者にアピールする手段の一つとして、選択肢の一つとなるかもしれない。この仕様も、GS1のB2Cのサイトに公開されているので参照されたい。
4.オーストラリアの取り組み
図2 GS1 GoScanのfacebookページ
GS1オーストラリアでは、2010年より”GS1 GoScan”(以下 GS1ゴー・スキャン。2013年3月、GS1オーストラリアにサービス名称を変更した)と呼ばれるスマートフォンを利用したメーカーから消費者への情報提供サービスを実施している。
GS1ゴー・スキャンでは、iPhoneアプリを利用して、消費者に信頼できる商品情報の提供、商品情報の比較、消費者の買い物予定表の作成、クーポンの取得と消込といった機能を提供する。
GS1ゴー・スキャンでは、含有物情報、アレルゲン情報の表示、その他の消費者向けの情報、含有する栄養価と、毎日摂取する場合の推奨値、加工方法、利用方法、製品の保管方法、宗教上の忌避する食品の情報、生産国情報、遺伝子組み換えや放射線照射の有無、基本的な商品のスペック、商品分類、商品画像の情報を提供する。
GS1ゴー・スキャンの導入によって、以下のような導入効果が得られる。
メーカーは、消費者に商品ラベルでは表しきれない商品情報を提供できるようになった。視覚障害者に、iOSのテキストの読み上げ機能を利用した商品情報提供が可能となった。消費者からメーカーへの電話による商品の問い合わせが減少した。
Facebook(図2参照)の他、Twitterといったソーシャルメディアと、GS1ゴー・スキャンというインフラ情報との間で、情報交換を行う基盤が整備できた。
メーカーは、速やかに小売業といった取引先に商品情報を公開できるようになった。
正確な情報を提供できる基盤が整うので、メーカーはWEBのバナーといった広告宣伝費を削減できるという。GS1ゴー・スキャンのWebの情報は、以下のサイトである。
https://www.goscan.com.au/
5.QRコードの利用地域や用途拡大
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GS1のGS1フォーラムが、2013年2月17日より21日まで、ベルギーのブリュッセルで開催された。本フォーラムは年1回開催され、様々な業界の標準化の最新状況や事例の発表、ワークショップのほか、マーケットプレイスと呼ばれるGS1の標準化のテーマ、GS1加盟国による展示会が行われている。世界92のGS1加盟組織から、GS1加盟組織のスタッフ、ユーザー企業、IT企業の関係者を含めて625名が参加した会合である。
流通システム開発センターでは、デンソー・ウェーブ㈱にiPone、iPadで稼働する読取・データ処理アプリのデモ・バージョンの開発を依頼した。会議2日目のマーケットプレイスと呼ばれる展示会を中心に、会議中の休憩時間など利用してアプリを実演した。GS1QRコードの読取りには、サンスター(株)と(株)マンダムの2社より商品の提供を頂き、商品にGS1QRコードを印刷したラベルを貼り付けGS1QRコードの読取りを実演した。写真1は、マーケットプレイスに展示した商品見本である。
今回のフォーラムでは、日本以外からもGS1QRコードの利用方法が紹介されている。QRコードは、アジア地域に利用が限定されているというイメージが、ヨーロッパ、北米地域では見られがちだった。写真2は、この展示会フォーラム参加者に配布したバッジと、GS1ハンガリーが展示していたGS1QRコードを印刷したパッケージ、GS1QRコードの読取りアプリを表示するiPadである。バッジは従来のQRコードであり、本フォーラムの携帯サイトにアクセスできた。GS1ハンガリーでは、GS1QRコードを商品パッケージに貼り付け、携帯電話、スマートフォンで読み取ると、GS1ハンガリーが運営する商品データベースの内容を表示するという仕組みを展示していたが、GS1QRコードの読取りソフトを開発していないため、日本とハンガリーは継続的に情報交換を進める予定である。GS1ハンガリーと同様なサービスは、GS1ポルトガルでも検討している。また、GS1ドイツでは、トレーサビリティーシステムにおいて、GS1データ・マトリクスと共にGS1QRコードの利用を検討中である。GS1QRコードはEU、東欧でも利用が始まろうとしている。
従来のQRコードの利用例も確認することができた。チェコでは、ワインの商品情報提供にQRコードを利用している。写真3にあるワインボトルのQRコードをスキャンすると、ワイン情報を取得するための携帯アプリを取得できる。ロシアのITプロバイダー、dinect社は、従来のQRコードによる携帯クーポンシステムを展示していた。(写真4)QRコードは、アジア以外の地区でも利用が拡大している。
6.今後の課題
GS1QRコードが普及するには、携帯電話用のGS1QRコードの読取りソフトウェアーの開発が不可欠である。今後も、流通システム開発センターは、GS1QRコードの読取りソフトウェーの開発を、関係企業に働きかけてゆきたい。
スマートフォンが普及する以前、日本の関係者が海外のアプリや、システムを直接体験するということは容易ではなかった。しかし、スマートフォンの普及で、国内、国外の垣根は取り払われた。iTunesで検索すれば、GS1ゴー・スキャンのようなスマートフォンアプリを探し出し、自分のスマートフォンで動作確認ができるようになった。自分のスマートフォンで、今回紹介したようなアプリケーションを体験してみてほしい。
以上
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