第110号電子タグのグローバルな標準化を進めるEPCglobalの現状(2006年10月26日発行)
執筆者 | 松本 孝志 財団法人流通システム開発センター 電子タグ事業部 次長 |
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目次
1.EPCglobalとは?
まず、電子タグのグローバルな標準化を進めている国際標準化団体 EPCglobalの設立経緯について紹介する。
1999年10月に米国マサチューセッツ工科大学にAuto-IDセンター(現在はAuto-ID ラボと改称)が設置され、バーコードに続く次世代のデータキャリアシステムの研究が開始された。その研究成果をもとに、バーコード(EANコード)などの流通標準化団体でベルギーに本部を持つ国際EAN協会(現在はGS1と改称)と同じくバーコード(UPCコード)の米国流通標準化団体であるUCC(Uniform Code Council 現在はGS1 USと改称)がRFID技術とネットワーク技術を組み合わせたEPCglobalネットワークシステムの実用化を決定、そして2003年11月に非営利法人EPCglobal Inc.が発足した。(http://www.epcglobalinc.org/)
EPCglobalネットワークシステムは、RFID技術とネットワーク技術を組みあわせたもので、電子タグをつけた商品やパレットなどをサプライチェーン上で無線スキャナにより識別するとともに、電子タグに書き込まれた当該商品のEPC(Electronic Product Code)をキーとしてインターネット経由で関連データベースにアクセスし、当該EPCに関連する情報を取得する。
物品に取り付けたEPCタグのユニークな識別をキーにして、個品レベルのデータを識別管理する場合、扱われるデータとしては静的なデータ(ロット、製造日、賞味期限等の製造情報)と動的データ(サプライチェーン上での移動履歴)とがある。動的なデータの管理の流れについて、図1を見てみよう。
サプライチェーン上に2つの組織(企業)AとBがあり、企業間を移動するパレットにEPCタグがついている。組織Aを通る場合は組織Aに設置されたリーダーを通して移動履歴情報が収集される。リーダーで読まれた情報はミドルウェアを通じてEPCインフォメーションサービス(EPCIS)に送られ、その組織内部システム、例えばERP(経営資源管理システム)あるいはWMS(倉庫管理システム)とつながる。同じことがもう一方の組織でも行われる。2つの組織が安全な、そして相互認証の得られる形で接続されることによりサプライチェーンの可視化が実現される。サプライチェーンが効率的に機能すると顧客への商品提供の迅速化、サプライチェーン全体での在庫管理が可能となる。グローバルな標準の必要性は複雑性を避けることにある。実装コスト、ハード・ソフトの統合コストが削減でき、業者間の協業を簡素化することも可能である。
【図1】システム図
注1. EPCはElectronic Product CodeTMの略。
注2. ミドルウェアとは複数のリーダーから読み込まれたEPCをアプリケーション設定に従い、イベントデータの圧縮と変換を行う。
注3. EPCインフォメーションサービスとはトレーディングパートナー間で、物の位置や出来事についての情報を登録・交換するためのアプリケーションで、サプライチェーン上で移動する物品のイベントデータを対象とする。
2.EPCglobalの組織
EPCglobalプレジデントの下に、4つの運営委員会(Steering Committee)がある。各委員会の役割は以下のとおり。
【図2】EPCglobal組織図
ビジネス運営委員会(Business Steering Committee)
エンドユーザーの要件への対応と導入促進活動を行うすべてのビジネス・アクショングループ及びワーキンググループのための運営委員会。主要なユーザーグループのコミュニティと各業界の代表。
ビジネス運営委員会の下には、ビジネス・アクショングループ(Business Action Group = BAG)がある。BAGはビジネス上での産業界のニーズを特定し、業務要件の調査及びベストプラクティス(最も効果的、効率的な実践の方法)に対する認知を高める。つまり、BAGは業界毎にエンドユーザーが中心となり、要求仕様をまとめることが目的である。EPCglobalネットワークの特定の業務への適用または運用上の要件を具体的に示す使用例または業務要件を作成することにある。必要に応じて、エンドユーザーの要件の定義と適切な仕様の開発、EPCglobalネットワーク標準の業界での採用の推進など、特定の使命に合わせたワーキンググループをBAGの傘下に編成することができる。BAGは議長または共同議長により運営され、その傘下の各ワーキンググループもWG議長または共同議長によって運営されている。
現在、以下のBAGが活動を行っている。
FMCG (Fast Moving Consumer Goods/一般消費財)
HLS (Healthcare and Life Science/ヘルスケア)
TLS (Transportation & Logistics Services/国際物流)
今後、アパレル・ファッション業界、家電業界、航空機業界等のBAGの立上げが計画されている。
技術運営委員会(Technology Steering Committee)
ハードウェア、ソフトウェアまたは技術活動に対応するすべてのアクショングループ及びワーキンググループの運営委員会。技術運営委員会の下にはテクニカル・アクショングループ(Technical Action Group = TAG)があり、業務要件に基づいた技術標準の開発を支援する。テクニカル・アクショングループは2つに分かれており、ハードウェア・アクショングループとソフトウェア・アクショングループで構成されている。
Auto-IDラボ(Auto-ID Labs)
Auto-IDラボは旧Auto-IDセンターから改称された、世界7大学に拠点を持つ研究機関。マサチューセッツ工科大学を本拠とし、日本では慶應義塾大学がその役割を担っている。EPCglobalネットワーク技術及びその適用に関する調査と開発をその設立の目的とする。
技術運営委員会(Technology Steering Committee)
すべてのアクショングループ及びワーキンググループの公共政策一般に関する問題(プライバシーなど)に対応する委員会。
3.EPCglobalメンバー
EPCglobalのメンバーはエンドユーザーとソリューションプロバイダーから構成されている。エンドユーザーとはサプライチェーン上で財の取引及び移動に携わる者をいい、例えば、製造業者、小売業者、卸業者及び運送業者等が含まれる。
ソリューションプロバイダーはユーザー企業に対して、EPCglobalネットワークシステムの導入及びその技術的側面に関する支援を行う者をいい、ハードウェア会社、ソフトウェア会社、コンサルタント、システムインテグレーター等を指している。
2006年6月30日現在、EPCglobalに加入している世界のメンバー企業・団体は以下のとおり。
4.EPCをベースとした電子タグの導入状況
米国ウォルマートは2005年1月、104のウォルマート・ストア、36のSAM’s Club、それに配送センターに納入されるパレット・ケースへのEPCタグ導入を開始し、100の納入業者が対応している。さらに2006年末までには更に拡大する計画である。同じく米国家電量販店であるベストバイが2006年初めから導入、さらに英国テスコ及びドイツのメトロも今年からの導入を計画している。また、米国国防総省は2005年1月からEPCタグの導入を開始している。日本の家電量販店のヨドバシカメラは2006年からEPCタグ導入を表明しており、日本でのEPCタグ採用に拍車がかかるものとおもわれる。EPCタグとリーダー間の無線プロトコル(クラス1・ジェネレーション2)が2006年6月ISOで承認され、EPCglobalネットワークシステムの採用が全世界で加速されるであろう。
5.EPCglobal Japanの活動について
EPCglobal Japanは2004年1月に、(財) 流通システム開発センター内に設立された。役割として、1. 市場開拓(EPCglobalメンバーシップの加入促進及びEPCglobalネットワークの利用権の付与、2. 本部のEPCデータベースへのEPCコードの登録及びその確認、3. 導入支援(情報提供、セミナー等による教育等)である。EPCglobalへの加入メリットとして、ロイヤリティフリーでの標準システムの利用、標準化作業への参加、EPCglobalが定めた標準仕様、ソフトウェア、その他の資料へのアクセス及び他のメンバーとの間の実証実験等における連携である。 (http://www.dsri.jp/company/epc/intro.htm)
■ EPC RFID FORUM
2004年7月26日、Auto-IDラボ・ジャパン(慶應義塾大学)、次世代電子商取引推進協議会(ECOM)、EPCglobal Japan((財)流通システム開発センター)の3者は、RFIDの利用システムが我が国及び世界の経済・社会の中で適切かつ有効に導入されることを目指して、技術、ビジネスケースなどのさまざまな面からの検討を行い、啓発・普及及び導入促進を図ることを目的とする「EPC RFID FORUM」を発足した。このフォーラムはEPCglobalネットワークシステムに限定せず、RFIDに関わる諸問題について情報共有及び討議する場で、EPCを含めRFIDに関心を持つ企業・団体に広く参加を呼びかけるものであり、会費は無料である。発足以来、これまで5回開催されており、2006年7月に開催された第5回FORUMでは「2005年度経済産業省実証実験報告会」が行われた。2006年7月末現在、登録会員企業は220社となっている。会員登録は、ウェブサイト(www.epc-rfid-forum.jp/)から行うことができ、会員専用ページではこれまで開催されたFORUM資料を閲覧、ダウンロードすることができる。
■ EPCglobal Japanでは、EPCglobal会員企業を対象に、会員企業による情報交換会を行っている。本会ではEPCglobalにおける標準開発状況の進捗について報告会を行い情報共有を図る他、会員企業による情報交換、RFIDへの取り組み紹介等を通じて、標準開発議論の場への日本の声を反映することを目指している。
以上
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