第396号 商品情報構造化データ「GS1 SmartSearch」の活用(前編) (2018年9月18日発行)
執筆者 | 梶田 瞳 (一般財団法人 流通システム開発センター データベース事業部 クラウドサービスグループ/ソリューション第2部 新規事業グループ 上級研究員) |
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目次
- はじめに
- 検索エンジン最適化(SEO)
- ロボット型検索エンジンの仕組みと問題点
- 検索エンジンの進化とセマンティックweb
- セマンティックwebの書き方と種類
- Schema.orgとGS1 Web Vocabulary
- GS1 Web Vocabularyの項目
はじめに
時代の流れとともに科学技術が発展し、流通業界を取り巻く状況も大きく変化してきた。
特に、1990年代以降インターネットが消費者において急速に普及し、Amazonや楽天といったECモールが登場した。2010年以降にはスマートフォンが爆発的にシェアを伸ばし、消費者の購買行動は大きく変わることになる。リアルの店舗を持つ小売業もネットスーパーを立ち上げたり、オムニチャネルに取り組んだりとネット対応を進めている。
国内のBtoCにおけるECの市場規模は、物販系分野において堅調に拡大しており2015年に7兆2,398億円になったと推計1されている。消費者の意識調査でも、商品・サービスの購入・取引(金融商品やデジタルコンテンツ購入を除く)をインターネットの利用目的や用途とする人が20歳から49歳では50%を超える2。
スマートフォンの世帯保有率が70%を超える2現代においては、消費者がいつでもどこでもほしい商品をストレスなく探し出せるよう、インターネット上に商品の情報を提供することが求められている。また、リアル店舗と異なり、商品が手元にないため、よりリッチな情報が必要となる。
そこで昨今、消費財流通業界の国際標準化機関であるGS1(当センターはGS1に加盟し、国際的にはGS1 Japanとして活動)において、webページ上における商品情報の記載方法に関する標準化が行われ、”GS1(ジーエスワン) SmartSearch(スマートサーチ)プロジェクト”が始動した。
「GS1 SmartSearch」とは、商品に関する情報をインターネット上に機械(プログラム)が読み取りやすいように掲載する書き方を拡げるプロジェクトのことをいう。書き方は、”GS1 Web Vocabulary3“として、定義されている。
GS1 SmartSearchに取り組むことにより、webページ上に記載した商品に関する情報をコンピュータがわかるように意味を持たせることができる。これにより例えば、ECサイトを運営する企業や商品メーカー企業は、Googleなどの検索エンジンに、より正確に商品に関する情報を伝えることができる。一方検索エンジン側は、より正確に情報を取得できるようになり、検索エンジンの利用者に対して、より適切な検索結果を表示することができる。また、GS1 SmartSearchへの取り組みは検索について良い効果をもたらすだけではなく、商品メーカー企業の商品を取り扱うECモールなどに、商品メーカー企業のwebページを通じて、よりリアルタイムに近いタイミングで商品情報を伝えることができる。
既に、海外では多くの企業がGS1 SmartSearchの効果検証を行い、自社のシステムを改修し、GS1 SmartSearchに対応した食品スーパーも存在する。
本稿では、GS1 SmartSearchの活動内容や結果をより理解いただけるように、検索エンジンについての基本的な仕組みを整理しつつ、当センターが流通企業にご協力いただき実施したGS1 SmartSearchの効果検証の結果を紹介したい。
1 経済産業省の電子商取引に関する市場調査より
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.html
2 総務省の通信利用動向調査より
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc252110.html
3 GS1 Web Vocabulary
https://www.gs1.org/voc/
検索エンジン最適化(SEO)
消費者の行動に対する調査によると、実店舗・ネットショッピングを問わず70%の消費者は、商品を購入するにあたりwebサイトで得た情報の影響を受けることが判っている。また、80%のオンラインショッピングはGoogleからスタートしており、検索エンジンが消費行動に与える影響の大きさを示している4。
詳しく消費者の行動を調査した結果では、30%前後の消費者は、検索結果の最上位のリンクをクリックし、検索結果の順位が下がるほど、クリックされる割合は大きく減少していき、10位より下のページがクリックされる割合は5%にも満たない5。
さらに、検索結果にはリッチスニペットやナレッジグラフと呼ばれる追加情報が表示されることがある。これはレビューの点数や件数、価格、写真などが表示されたり、簡単な説明や所在地の地図が提供されたりするものである。リッチスニペットが表示されている場合、検索結果の画面でリンク先のページ内容が詳しく判るため、検索したユーザがクリックする確率が高まり、検索順位が4つ高まるのと同じ程度の効果があるとされている6。
このような消費者行動の変化を受けて、企業はSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)に取り組むことが必要となった。SEOとは、ブランドサイトやECサイトなどのwebサイトが、検索結果の上位に表示されるための取り組みのことである。調査によると、日本国内における2017年のSEO市場規模は500億円に迫ると予測されている7。
4 Searchmetrics Etude の調査結果(2014)より
http://www.searchmetrics.com/
5 Advanced Web Ranking 2014より
https://www.advancedwebranking.com/
6 Searchmetrics Etude の調査結果(2014)より
http://www.searchmetrics.com/
7 Crossfinity「2015年度版国内SEO市場予測(2013-2017)」より
https://www.crossfinity.co.jp/
ロボット型検索エンジンの仕組みと問題点
SEOに取り組むにあたり、まずは検索エンジンの仕組みを理解する必要がある。現在広く利用されている検索エンジンのほとんどがロボット型と呼ばれる仕組みを採用している。
ロボット型検索エンジンの仕組みは、企業や個人が作成したwebサイトを検索ロボットと呼ばれるプログラムが自動で巡回し、情報を収集しデータベースに蓄積する。検索順位は、webサイト内に記載されている単語やアクセス数、被リンク数、更新頻度といった項目を基にアルゴリズムがランク付けを行う。そして、ユーザが検索を行った際に、検索ワードに適したwebサイトをランクが上位のものから検索結果として表示する。つまり、SEO対策を考えるうえで、検索ロボットとアルゴリズムから高い評価を受けることが肝要なのである。
しかし、検索ロボットはあくまでもプログラムであり、人が読むようにはwebサイトを認識できない。そのため、かつては検索ロボットの癖を悪用し、検索されそうな文字列を無意味に挿入したり、お金を出して外部からリンクを貼ってもらったりするなどの「ウェブスパム」や「ブラックハットSEO」と呼ばれる行為が横行した。人が読んでも有益なサイトではなくとも、検索ロボットから高評価を得られさえすれば、検索結果の上位に表示されたからである。
検索エンジンの進化とセマンティックweb
このような状況は検索エンジンにとって望ましいものではない。検索結果が有益なものでなければ、ユーザが離れていってしまうからである。そこで、Googleをはじめとした検索エンジンでは対策を施し、上記のような悪質なサイトにはペナルティを課すようになったのに加え、単に検索ロボットによる情報収集のみではなく、webサイト制作者からの直接的な情報収集にも取り組みを始めた。具体的には、sitemapの送信やGoogleマイビジネスといったサービスが挙げられる。
さらにその進化形として、セマンティックwebと呼ばれる技術の活用を行っている。これは、webサイトのソースコードに、コンピュータが読むための「構造化データ」を記載することで、検索ロボットに対し、より正確な情報を伝達できる技術だ。
セマンティックwebで記載した情報は、Internet ExplorerやFirefox、Chromeといった消費者が見るwebブラウザ画面上では表示されないため、消費者に見せる情報や表現には一切影響を与えずSEO対策が可能となる。
セマンティックwebの書き方と種類
セマンティックwebで利用される構造化データの書き方にはいくつか種類があるが、その中で広く採用されているのが「Schema.org」である。これはGoogleやYahoo!、Microsoftなどが共同で進めているプロジェクトで、セマンティックwebにおける構造化データの書き方を定義し公開している。このことは、検索エンジンが構造化データを重視していることを示している。例えばGoogleは、検索者にとってより適切な検索結果を表示するために、Schema.orgで定義された構造化データを使用することを表明している8。
主要な検索エンジンを提供する企業が進めるプロジェクトであるため、Schema.orgの定義に従った構造化データをwebサイトに埋め込むことで、検索結果に良い影響を与える可能性は極めて高い。
8 構造化データの一般的なガイドライン
https://developers.google.com/search/docs/guides/sd-policies
Schema.orgとGS1 Web Vocabulary
既に多くのwebサイトに構造化データが埋め込まれている。検索結果にリストされたグルメサイトなどで、レビューや写真などのリッチスニペットが表示されるのは構造化データに対応している証拠だ。しかし、これまでの構造化データはイベントやレビュー、レシピなどの定義はあったが、詳細な商品情報の記載方法は定義されていなかった。そのため、グルメサイトなどに比べ、消費財の販売を行うECサイトでは構造化データの普及率が極めて低く、ほとんど導入されていないのが現状だ。
そのような状況を受けて、GS1ではGoogleやSchema.orgなどと協力し、構造化データで商品情報を書くための標準仕様、”GS1 Web Vocabulary”を定義した。2016年の2月にSchema.orgから”The first external extension”として公認されている9。
標準は作るだけでは拡がらない。GS1では、GS1 Web Vocabularyを多くの流通企業に知ってもらい、活用してもらうためのプロジェクト”GS1 SmartSearch”を開始した。
9 Schema Blog(22th Feb, 2016)
http://blog.schema.org/
GS1 Web Vocabularyの項目
GS1 Web Vocabularyでは消費財に関わる商品情報を記載するための項目が定義されている。基本的な商品情報として、「商品名」や「商品カテゴリ」、「ブランド名」、「生産地」などはもちろん、商品識別子として「GTIN」や、「内容量」、「サイズ」、「包装の形状」や「包装資材」などが記載できる。
また、販売情報として「価格」や「販売場所」、「販売単位」、「販売期間」、「販売条件」などの項目が定義されている。
さらに、「食料品・飲料品・酒類」と「アパレル品」に関しては、より詳しい商品情報の項目が定義されている。食料品の場合、「原材料名称」や「成分」、「栄養素」についての項目がある他、「アレルゲン」などが記載できる。また、原材料に関して「漁場」や、「家畜の飼育方法」などの詳細が定義されている。さらに、「調理方法」や「消費期限」なども記載が可能だ。アパレル品の項目例としては、「色」や「サイズ」「素材」がかなり細かく記載できる他、対象となる「季節」や「対象年代」などの項目があり、ECを利用する消費者目線で、項目が豊富に定義されている。
こうした詳細な項目については、今後対象となる商材を拡大する方向で検討されている。
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