第258号理美容業界における流通効率化の取り組み(後編)(2012年12月18日発行)
執筆者 | 青木 利夫 全国理美容製造者協会(NBBA) 事務局長 |
---|
執筆者略歴 ▼
*中編:下(2012年12月06日発行 第257号)より
*サカタグループ2011年11月16日開催第18回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回理美容業界における受注システムの標準インフラである「NBBA楽々注文ねっと」立ち上げ時の苦労話、今後の楽々倉庫の構想他ついて、実際の体験談を交えて講演いただきました「全国理美容製造者協会(NBBA)事務局長 青木 利夫」様の講演内容を計4回に分けて掲載いたします。
目次
- 1.楽々倉庫構想
- 2.研究体制
- 3.調査研究項目
- 4.仮説全体イメージ
- 5.親父たちのプロジェクトX(7)
- 6.理美容市場と他業種との接点の拡大
- 7.親父たちのプロジェクトX(8)
- 8.このロゴの由来知っていますか?
1.楽々倉庫構想
現状の商品の流れは、メーカーの工場からメーカーの倉庫にいき、ディーラー(代理店)さんのそれぞれの倉庫に届けて、そのディーラー(代理店)さんの倉庫から更にサロンさんとかバーバーさんに届けられるのです。それで、一つのサロンさんでは、大体平均して、3社くらいのディーラーさんとお取引があります。ですから、Aというディーラー(代理店)さんで届ける品物をBというディーラー(代理店)さんでも届けている、このような図式です。
こういった網の目のような仕組みになっているので、これを同一倉庫内でメーカーもその市場型共同倉庫の中に倉庫を持ち、ディーラーさんもこの共同倉庫の中に倉庫を持ち、そこから庫内移動で、出庫するものだけ移動すれば良いという仕組みです。それで、今この網の目のようになっている、商品を届ける流れが一緒になってくれば、多分この網の目の部分も解消されてくるのではないかというのが、基本的な「楽々倉庫」の構想であり、これについての研究を行いました。
2.研究体制
時間がないので少し省略しますが、基本的には流通委員会の中で企業データを扱いますので、参加各社で秘密保持の契約をそれぞれ締結しまして、NBBAの方で、この実際の試算とかデータ処理・分析とかを行う会社を、サカタウエアハウスさん、それから日立物流さん、日立製作所さんの3社に委託し、参加各社はお互いの明細データについては閲覧できないようにしました。この日立製作所さんは先ほど紹介した「NBBA楽々注文ねっと」を一緒に共同開発しました。そういった意味でこの3社の特徴としまして、サカタウエアハウスさんがメーカーに関するこの理美容業界に関する物流に実績があり、日立物流さんは逆に、大手のディーラーさんの3PLを扱っていましたし、日立製作所さんは「NBBA楽々注文ねっと」に代表されるデータの管理を行っていました。
当初、日立物流さんとサカタウエアハウスさんとは競合会社であり、この研究に両者とも参加いただくことが難しいかと思いましたが、そこを頼みこんで、サカタさんはメーカーに強い、日立さんはディーラーさんに強い、それで、この両方のノウハウを合わせないとこの研究はうまくいかないですからということで、お願いしてまわった結果、日立物流さん、サカタウエアハウスさんには、業界の為にということでご協力をいただいて、この研究に取り組んでいただきました。
NBBAの加盟企業は、その頃12社でした。その12社に3ヶ月間の出荷明細データ、対象エリアとしては、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の出荷明細データを各社から提示していただいて、そのデータをベースに共通倉庫で取り扱う場合、どれくらいのボリュームとどれくらいの出荷頻度になるのかということについてすべて調査・分析を行って、最終報告書という形で完成しました。「楽々倉庫」を実現するには、かなり大きな物流センターが必要になってくるのですが、CO2の削減にも物流の全体の効率化という部分でも大きな効果があるだろうといったものでした。
4.仮説全体イメージ
基本的な考え方として、ここに共通倉庫があります。ディーラーさん側はサロンさんから受けた受注を共通の出荷指示フォーマットで「NBBA楽々注文ねっと」に投げると、共通倉庫の中のディラーさんの倉庫へ出荷指示がでます。メーカーに関してはディーラーさんからきた注文を、メーカーは出荷指示として「NBBA楽々注文ねっと」を通して共通倉庫に送ると、この共通倉庫の中でメーカー倉庫からディラーさんの倉庫へ商品の移動が行われるという形です。
こういった形の共通倉庫の仕組みで、物流センター全体でどれくらいの面積が必要なのかとか、マテハンの機器はどんなものが適しているとか、運営コストがどれくらい掛かるのかという試算を行いました。有益な仕組みであることは分かりましたが、研究から実際への実証実験までは進めることはできませんでした。理由は、物流に関しては今でも物流の合理化したところが各企業のノウハウというか、物流の優位性が各企業の競争の優位性の一つになっており、いきなりそれを標準化してしまうのは時期が早すぎるとの判断に基づいたからです。
あるメーカーさんでは、今日の午前中に頼んだら今日届くよ、あるメーカーさんは、今日頼んでも明後日しか届かないよというのが現状です。それは、ディーラーさんに関しても同じことなのです。したがってまだまだこれを意志統一した後じゃないとこの共通倉庫の実現は難しいということなのです。今まで自分たちの持っている物流の競争優位性が崩れてしまうということなのです。でもまたいつかこの仕組みというのは、必ず日の目を見るのではないかということで、「卸売市場型共通倉庫」という発想で研究したということを記憶にとどめていただければと思います。
5.親父たちのプロジェクトX(7)
最近これは事務局で取り組んでいることなのですが、情報提供手段は今後iphone/ipadのような、スマートフォンやタブレット端末の時代になるということで、理美容業界の情報ポータルサイトというものをiphone/ipad用のアプリで展開することを監修しています。
皆さんの中でiphoneもしくはipadをもたれていたら、アップルストアーで「NBBA」で検索いただけると引っかかってきます。無料のアプリです。この中にはパリコレクションの様子とか、世界的に有名なサロンさんのお店の様子ですとか見ることが出来ますし、「POINT DE VUE」というフランスでは結構有名な雑誌が無料で読めるコーナーもあります。業界紙の一社に協力いただいて、この「美容界」という情報も載せていただいています。昔の「VOGUE」の女性モードの歴史も見ることが出来ますし、後は写真集とかもあります。
ちょっと宣伝をしますと、タカラベルモントさんでは、業界の有名スタイリストさん100人以上の「私の履歴書」的な情報配信を行っております。美容に寄せる思いとか、自分がどうして美容の世界に入ったのかとかそういった内容を配信しており、それらを見ることができます。このアプリの中に入れた目的は、一般の方にも理美容業界に対して目を向けていただけるためです。
サロンさんの従業員の方が、お店に来られるお客さんにこのアプリノ存在を伝えることができます。美容ってこういう思いでお店のスタイリストさんが働いているんだとか、世界でこういうお店があって、自分で行っているお店とどう違うんだとか、またモードの歴史ってどんなものか、パリコレのバックステージはどんなものかというのが見ることが出来ますので、そういった情報の発信とともに、もう一つはここに商品の情報とかも載せることが出来れば、使われている商品の説明とかも一緒に掲載できるのではないのかなと思っています。ですから、業界のポータルサイトでありながら、消費者の方々がダウンロードしても楽しいようなポータルサイトを目指しているのです。
6.理美容市場と他業種との接点の拡大
美容室というのは全ての人々が訪れる場所です。消費者の滞在時間が非常に長く、モバイル端末もどんどん普及しています。この業界のディーラーさんは理美容室を合わせると、総務省の統計局のデータからでも約30万営業所の所に物を届ける機能を持っています。ですから、外側の業種とディーラーさんがコラボレイトしてもっといろんな商材を扱うこともできるのであり、業界のディーラーさんが美容室さんを経由して発展する、美容室さんももっとマーケットが広がり、働く場所の環境向上につながればということを夢見ています。
例えば、滞在時間を利用した市場調査の仕組みづくりとその場での顧客に対するメリットの提供、商品評価、サンプル商品の配布、その他の情報提供にしても、この理美容の現場というのはかなり融合性のあるものではないかと思いますので、理美容業界とは、今は直接関係のないそれぞれの会社さんの皆様にも、こういった理美容業界は面白い業種であるというふうに思っていただけたらと思います。
10代から60代の方々が、年6回近く、2、3時間もその店で時間をすごされるのです。コンビニの店舗数は約44,000店ですが、理美容室はその7倍あります。だからこういった意味では、この理美容業界に連携した市場をディーラーさんやサロンさんと考えてみるのも面白いのではないかと思っています。是非理美容業界にも目を向けていただいて、ディーラーさんの配送することの能力とかそういったものと連携いただければと思います。
7.親父たちのプロジェクトX(8)
私は、プロジェクトを実施してきてつくづく思ったことは、「すべてのことには時がある」ということです。折にかなった、人材や助けが存在したということです。
これは今までやってきた中で(株)プラネットの玉生社長にも助けていただきましたし、美容用品綜合商社株式会社ヤマノの亡くなられた山野凱章社長にも助けていただきました。最初のころに関わったメンバーも少なくなりました。早期退職制度に手を挙げた方、定年を迎えた人、会社が買収されてこの業界から去っていった人、志半ばで病に倒れ召された二人の仲間、アリミノの荻原茂夫さんとプラネットの高畑 薫さん。二人は相前後して病の中にありましたが、お互いの健康を気遣いあっておりました。
誰か一人の力ではなく不思議な縁で、その時期にそれぞれ必要なメンバーが集まって、今の仕組みを作ることができたと今も思っています。
「幻なき民は滅びる」という言葉がありますが大きなビジョンを持つことはとても大切であることも認識いたしました。ビジョンのあるところに人は引き寄せられるのかもしれません。
「メーカーの人間なのになんで業界全体のことを考えるのか、余計なこと考えるな」と言われるかもしれませんが、何らかの形で自分たちが業界に貢献できる仕組みを作りたいという、そういった共通する大きな目標を持つことができたことが非常に重要だったのではないかと思っています。営業マンだけが取引先に貢献できるのではなく、バックオフィスの人間も貢献できる道があることを思っています。業界全体の仕組みを考え形にすることは、間接的ではありますが業界の向上につながると考えます。
これは、突き詰めると「個から共へ」という考えで、今ますます日本の中広がりつつある内向きな「個」中心の考え方とは相いれないものではと思っていますが、大切な視点だと思います。私のように定年を迎えた人間ではなくて、これから皆さんはまだまだ社会人として活躍していかれるのですが、今後TPPのような仕組みが入ってくると、かなり厳しい時代が待っていることが予想されますが頑張ってください。
私は勤務していた会社が米国企業の買収にあい、会社に自分たちが培ってきたものがどんどん替えられ、多くの仲間が離散していく経験を通して言えることは、自分なりの考え方を持ち、会社の外に支えあう仲間とか、そういったものを持たれて、自分なりの活躍の場を持ちつつ歩まれることが大切ですということです。
このNBBA流通委員会という場を持つことにより、色々な競争会社の方と知り合うことだけではなくて、物流関係の方々や異業種の方々と接するチャンスを頂いて、様々な物事の捉え方を学べて本当によかったと思っています。
今でも、既に会社を離れてしまった昔の親父仲間とたまに飲みに行くのですが、自分たちが考えて作った仕組が業界の中で根付き、私たちのことを全く知らない新しい世代の人たちが動かしているということを語り合い、杯を酌み交わす時に言い表せない満足感を感じています
8.このロゴの由来知っていますか?
皆さんこのロゴはご存知でしょうか。両手を広げた、いわずと知れた東急ハンズのロゴです。この会社の母体は東急の流通グループではなく、開発グループの東急不動産です。
私はこの渋谷店のオープンの時に関わったのですが、この東急ハンズのロゴには、東急ハンズの思いが込められているのです。今は矢印みたいに片側だけ使われてしまったりすることもあり残念に思うこともあるのです。矢印とはぜんぜん意味が違っているのです。
このロゴに思いをかけた人がいるのです。沼田さんという東急不動産から来られて総支配人として責任者をされた方です。浜野安宏さんの浜野デザイン研究所に店舗のスキップフロアーや色分けなどの基本デザインを依頼し、ロゴも作成してもらっていました。
沼田総支配人は、これは「手の復権」なんだと良く語られていました。昔はわらじでもなんでも自分たちの手で作っていたのが、社会が進むにつれ分業化が進み、自らの手でものを作ることはなくなり便利になったが、同時にものづくりの喜びも失ってしまった。それで、物を作る喜びをもう一度取り戻したいから、「手の復権」を願って東急ハンズは存在するということを語られていました。
この両手のロゴは「手の復権」を意味し、それが東急ハンズなんだということを非常に主張してやまない方でした。当時私は経理を担当し、企画収支の作成に関わりあっていたので、東急不動産で開催される企画収支の会議に一緒に出席していたのですが、そうすると収支予測等で厳しく質問を浴びせられ回答を求められます。あるときに「浜野デザイン研究所に何で大金を払っているのか、スキップフロアー構成やロゴの作成で」と質問が浴びせられました。沼田さんが、「基本的な考え方をしっかり作ることが大切なのです。そのために浜野さんにお願いしています。
ロゴにあらわされていることが、この会社の生き残る唯一の道なのです。ねじや釘、木綿とかいう材料はどこにでもある。これはDo it your Selfのお店と違って「手の復権」をその基本的な考え方に持つお店なのです。物を作る喜びを与えるお店、だから物の作りの専門家をお店に集めて、物の作り方を教えていく。だから小売業について何にも知らない素人ような人たちを社員として採用することもそういった意味があるのです。その重要な基本デザインをお願いしています」と一歩も譲らなかったのです。
私は、経理畑の人間として企画収支をやっていって、徹夜明けの明け方、カラスのゴミを漁る鳴き声を耳にしながら開業を数日後に控えた渋谷店を観て、この巨艦のような渋谷店は成功しないのではと漠然と思っていたのです。掛けたお金も半端じゃなかったし、Do it your Selfとそんなに違わない品ぞろえで大型のお店が運営できるのかと思ったのですが、開けてみたらものすごい数のお客さんが来て、大成功を収めました。
物を作る喜び、手の復権という考え方の基に配置された売り場、人員、そのメッセージが消費者の心をつかむと、魔法にかかったかのように展示された商品たちが輝きを持つことの不思議さを経験しました。
今東急ハンズというのは、皆さん誰も知らない人はいないと思いますが、藤沢と二子玉川に小型店はあったものの「東急ハンズ」なるものがあまり知られていない中で、たしか教会の跡地だったと思うのですが、渋谷の宇田川町に大型店として命運をかけて出店しました。開発グループの会社が流通グループの仕事に手を出しても、そう簡単にはいかないという声の中で沼田さんという方が、先ほど「幻なき民は滅びる」といいましたが、ハンズというのは「手の復権」、ものを作ることの喜びを人々に提供するということを訴え続けて成功への懸け橋となられました。今では、インターネットで検索しても沼田さんのお名前は出てこないのですが・・。
沼田さんは渋谷店が開業してから少しして、東急ハンズからは去っていかれたのですが、思いをかけて一つの幻みたいなものを持って、それを従業員に感化させていくことによって、あのお店(東急ハンズ)が成功したということは、私は非常にすばらしいことだと今でも思っていますし、コンセプトマーケティングなるものが出る以前に、実際にそのような成功事例を目にすることができたのは良い経験でした。
NBBA流通委員会のVAN構築のとき、その時当時の手法を私なりに取り入れさせていただきました。「幻なき民は滅びる」ではないですが、リーダーもしくは、指揮を取る人のそういった思い入れは非常に大切なのだということを最後に語らさせていただいて、私の講演を終わらせていただきます。
本日はどうもありがとうございました。
以上
(C)2012 Toshio Aoki & Sakata Warehouse, Inc.