第367号 最近のロジスティクスの動向 ~人手不足・物流共同化・技術動向など~ (後編)(2017年7月6日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (流通経済大学 客員講師 株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問) |
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目次
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*サカタグループ2017年2月22日開催 第21回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「最近のロジスティクスの動向~人手不足・物流共同化・技術動向など~」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社日通総合研究所 顧問 長谷川 雅行」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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4.モーダルシフト
先ほど少し触れましたが、モーダルシフトについては、今までは、ここにあるようにトラックよりも鉄道の方の輸送コストが10分の1で省エネルギーだといわれてきました。これは、皆さん発電所で発電してから送電されてきて、JR貨物やJR東日本などの鉄道事業者が利用しているのですね。一方、船の輸送コストはトラック6分の1だといわれています。だからエネルギーに効率のよい船や鉄道が使うのです。トラックだとCO2やノックス(NO(一酸化窒素), NO2(二酸化窒素)のこと)を出しますよね。一般的にエネルギー効率に応じて、エンジンが高温になるとノックスが出やすいのです。
環境問題や道路混雑対策よりも、冒頭申し上げた労働力不足対策としてのモーダルシフトが注目されています。冒頭の講演で、田中社長がご紹介したイオンさんと花王さんの事例もそうですね。あのキリンさん・アサヒさんの、熾烈なシェア争いをしているスーパードライと一番絞りが、鉄道モーダルシフトで一緒に届くという考えられないことが起きてしまうのです。
この写真は、トヨタ・ロングバス・エクスプレス号です。31フィートコンテナを貨車20両に40本積んで、名古屋と盛岡の間で鉄道輸送しています。
岩手県にあるトヨタ自動車東日本株式会社では、アクアを生産しています。トヨタさんの場合、基本的には工場から1時間か遠くても2時間位のところに、サプライヤーさんの工場を配置する体制になっています。BCP対策もあるのでしょうが、東海地方に各部品メーカーの工場が集中しています。
以前は、東海地方で集めたパーツをRORO船で仙台港に運んで、盛岡まで100km以上の距離を陸上輸送していたのですが、これをJR貨物さんの鉄道コンテナによる輸送へ切り替えたのです。
一時期、2往復に増発して、それから1往復に減便して、また最近2往復に戻っており生産が好調だと思います。
図表はグリーン物流パートナーシップ事業において表彰された、農産物のモーダルシフト事例です。パートナーシップ事業は、国土交通省・経済産業省・日本ロジスティクスシステム協会・日本物流団体連合会が推進し、毎年、優秀事例を公表・表彰しています。
農産物を苫小牧からフェリーで埼玉・東京・大阪に輸送していました。本州側の港は八戸・敦賀で、そこからは陸上輸送です。それを鉄道輸送に切り替えて効率化した例です。
ドライバーの長時間労働を減らすお手伝いのお話をします。栃木にある大手建設機械メーカーでは、エンジンを北陸・大阪に送っていました。2泊3日の運行ですから、休息期間が足りないことがあります。そこで、モーダルシフトをして宇都宮からの鉄道輸送に切り替えたのです。
その代わり長距離輸送の仕事がなくなったトラック業者さんも、関東地域の配送の仕事を回し貰い、ドライバーさんは「毎日、自宅に帰れる」と喜んでいると聞きました。
最近は、ドライバーの長距離運行対策としてのモーダルシフトが増えて来て、良い時間帯のコンテナ列車は、輸送枠が不足しています。
この図表は日通の内航RORO船ですが、長距離輸送では、北海道・九州航路の内航RORO船やフェリーもあります。
トラックで鹿児島から東京までは、フェリーと高速道路利用で4泊5日の運行となります。鹿児島・志布志(しぶし)から大阪までフェリーを利用すれば、乗船中は休息期間となるので、実質的は、大阪から東京までの2泊3日運行となります。
図表は、先ほどと同じグリーン物流パートナーシップ事業で表彰された事例で、技術革新の例ということで紹介します。パナソニックさんが今までは四国の物流業者から納めてもらっていたものを、逆に自分の方から船を使って取りに行くという「取りに行く物流」による効率化の例です。
取りに行く場合、図表の左側のルートで支払っている物流費込みの納品価格を、「こちらから取りに行くので、物流費分だけ納品価格を安くしてもらう」というのが、「取りに行く物流」なのです。
最近は、先ほど紹介したVMIと、「取りに行く物流」が増えています。冒頭の講演で、田中社長がローコストを実現するためのVMIの事例をご紹介されていました。在庫を所有すると、在庫している品物の価格に加えて、在庫管理コストが掛かります。VMIにすれば、品物は同じ価格ですが、在庫管理コストが不要です。在庫管理は、サプライヤーの責任になり、コスト負担も減るのです。
これから物流を大きく変えていくときに、目のつけ処となりそうな、物流総合効率化法(物効法)が改正されました。
従来は、物流拠点を設備しないと適用されませんでした。物流拠点というのは、土地が安いところに作りたいわけです。物効法では「認定を受けると、市街化調整区域での開発許可を配慮する」と書いてあります。いくら国土交通大臣が効率化計画を認定しても、都市計画法の開発権限を持っている地方自治体の首長が認めなければ、物流施設を建設することができません。そこで、国土交通大臣には「配慮」しかできません。
これまで3年間で100件ちょっとしか認定がなかったものが、今回、要件が大きく改正され、「物流拠点なしでもOKです。人手不足対策のモーダルシフトでも良いですよ、ただし2社以上で連携して下さい」と要件が緩和され、イオンさん・花王さんのトラック中継輸送や、地域内配送共同化事業など、新しいタイプの計画が次々認定されています。せっかくの政策ですから、ご検討されてはいかがでしょうか。
大型国際コンテナ(海上コンテナ)の事例もあります。海上コンテナは船会社の所有物ですから、輸入貨物を配達したら、空コンになってCYに帰ってきます。輸出する場合は、CYから空コンを届けて、貨物を積載して帰ってきます。行き帰りのどちらかが空で、非常にもったいないのです。輸入貨物を積んで行き、帰りは輸出貨物を積んでくれば往復で使えてハッピーというのが、コンテナ・ラウンドユース(CRU)です。
群馬県・太田市に大規模なコンテナ・デポ(太田国際貨物ターミナル、OICT)があります。AGFさんの輸入コーヒー豆は20フィートコンテナです。輸出貨物はスバルさんのパーツなので、40フィートコンテナです。行きが20フィートで帰りが40フィートでは、マッチングしないのですが、輸出入者とコンテナがたくさんあれば、幾つかはマッチングするというのが、OICTの考え方です。
昨日の日経新聞に出ていたのですが、埼玉県はCRUに非常に熱心で、年間約1千本のラウンドユースを計画しています。行き帰りですから、合計で延べ2千台のトレーラが走らなくて済むのです。CRUのように、人手不足対策・環境対策としての国際物流の効率化の動きもでてきています。
5.最近の物流技術
最後に、少し夢のある話をしなければと思い、最近の物流技術の話をしたいと思います。
図表の左側がアマゾンの物流センターで、これまでなかなか外部に公開しなかったのですが、最近はテレビにも出ています。私がピッカーだとすると、普通はピッカーが棚まで行って、ピッキングするわけです。このシステムでは、棚がピッカーのところに来るわけです。掃除ロボットのルンバみたいなものが棚を運んで来て、「おじさん、おじさん、何個とってよ」と表示されるのです。
このシステムでは、ピッカーの周りだけ明るければ、その他は真っ暗でよいのです。空調も要らないし、光熱費が削減されます。通常のピッキングゾーンでは、ピッカーの動線スペースが要りますが、このシステムでは棚は隙間なく置けるので、物流センターのスペースも少なくて済みます。
アスクルさんでは2カ所の物流センターに200億円以上かけて、図のピッキングロボットを導入しました。物流センターはどんどん人手不足になっています。以前は、荷主・物流業者は、「自動倉庫を導入するというと固定の設備費用がかかるし、メンテナンス費用も発生するし、物量の変化に対応できない」「ピッキングカートなら台数さえ増やせば、物量の変化にも何とか対応できる。パートさんに頼った方が良い」と言っていましたが、今は、逆にそのパートさんが集まらないから、またマテハン機器・自動化機器に戻りつつあります。
次の図表が、岡村製作所さんの自動倉庫型ピッキングシステム「AutoStore(オートストア)」です。これは、倉庫そのものがIoT(モノのインターネット)として、コンピューター制御がさらに進んだ機械になっています。
それから、こちらがドローンです。私がいた日通総研でも実証実験などをお手伝いしていますが、効果的なのは右下にある図です。これは、ドローンを倉庫内に飛ばして、品物のICタグうぃ読んでいるのです。重量が200g未満のドローンは、航空法の規制対象にならず、誰でも使えます。書店や家電量販店へ行くと、室内用の無人ヘリのオモチャみたいなドローンを7~8千円で売っています。あれに、RFIDリーダーを取り付けて重量を200g未満に抑え、倉庫の中を一周飛ばせば、棚卸しは全て終わるのです。同じ物流に使うなら、「ひょっとしたら、宅配向けより効果的かな」と私は思っています。
この図表は、徳島県で日通総研がお手伝いした「小型無人機による貨物輸送実験」の例で、国土交通省から発表されています。
「トラックの自動隊列走行実験」も期待できそうですね。最初のスタートでは環境対策でした。先頭車が走ると空気を押されて、直後の空気が薄くなります。後続のトラックは、薄い空気に引っ張られる形で、燃費が上がります。「ストップストリーム」と言いますが、自転車のロードレースでは基本テクニックだそうです。
3台のトラックを一人で運転できれば、貨物輸送の生産性が3倍上がるというわけです。当初は日通総研でお手伝いし、筑波での実証実験の時もお手伝いしました。
一人で10トン車5台走らせれば、合計50トン運べるのです。安全上の問題とか法的な責任など問題はありますが、当初は、2030年頃に実用化しようという計画でした、
それが今、ドライバー不足が非常に深刻になり、2020年の東京オリンピックに間に合わせようということになり、2017年の今年か来年の早々にはテストを始めることになりました。
「自動運転」と「無人運転」とは、技術・法規・制度など解決すべき課題が大きく異なりますが、今後どうなるかということを、ウォッチしておかないといけないと思います。長距離輸送など大きく変わる可能性があるのではないでしょうか。
先ほど、田中社長のご講演と同じですが、第一は「人や環境にやさしいロジスティクス」です。
第二は、ドライバー・作業者の「人手が少なくてすむロジスティクス」です。「ドライバーが2
~3時間待ち」「配達に行ったけれどもまた不在」あるいは、パートさんが夕飯の支度があるのに、急に物量が増えたから、19時まで残業と言われた」ということがないようなにしたいと思います。
最後は、「安全・安心なロジスティクス」で、特に交通安全と先程お話した長時間労働による健康上の問題です。
これは今、政府の働き方改革で議論されており、月間残業時間は最高100時間、平均60時間に制限される方向です。
「ちょっと待て。60時間に制限しても、建設業や運送業は野放しでいいのか」という議論も出てきています。「月間60時間迄しか時間外労働はだめです」となったら、貨物は運べなくなります。
荷主・物流業者みんなで、この問題は解決していかなくてはならないと思います。
ちょうど予定の時間になりましたので、これで私の講演、問題提起は終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
以上
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