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第375号 ライフサイクル・サポート・ロジスティクスとプラットフォーム・ビジネス(前編) (2017年11月9日発行)

執筆者  橋本 雅隆
(明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
      ・早稲田大学 理工学部 工業経営学科卒業。
      ・明治大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。博士(商学)
      ・三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)調査部、一橋大学客員教授等を経て、2015年より現職。
      ◇専 門  :流通論、物流論、サプライチェーン・マネジメント論
      ◇主な活動:経営関連学会協議会理事、日本物流学会理事、日本ダイレクトマーケティング学会、日本卸売学会常任理事

 

目次

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*サカタグループ2017年2月22日開催第21回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「ライフサイクル・サポート・ロジスティクスとプラットフォーム・ビジネス」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 橋本 雅隆」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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  今回のテーマは、「ライフサイクル・サポート」、「プラットフォーム」です。プラットフォームという言葉は最近よくお聞きになっていると思いますが、これからのロジスティクスやビジネスの方向性を考えるヒントになるキーワードであろうと思いテーマにさせていただきました。
  今日のお話は大きく4つです。「我が国産業の変化と物流の課題」、「ライフサイクル・サポート・ロジスティクス」、「プラットフォーム・ビジネスの形成」そして「新たなマッチング・システムの構築」ということでお話をさせていただきます。

1.我が国産業の変化と物流の課題

  まずは、我が国産業の変化と物流の課題ということで、国土交通省から「今後の物流政策の基本的な方向性等について」という方針が出ております。

図表:国土交通省
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  一つは国際競争が非常に激化していることです。ビジネスのグローバル化の問題は国内の物流にも影響しています。
  それから貨物の小口化・多頻度化と顧客ニーズの多様化があり、特に最近はネット通販急成長してきて、物の動きも大きく変化してきているということです。
  一方でそれを支える産業で労働力不足があり、さまざまなビジネス上の障害ができています。特に物流の分野では大きな問題になっています。
  そして地球環境問題・エネルギー制約、それから災害リスクの高まりです。こうした環境制約が非常に厳しくなってきています。一方で、産業構造の変化で生活者のニーズも変わる。それを支える物流も変わって必要があるのですが、その実現にさまざまな制約があるためこれをどのようにクリアをしていくかです。
  一番大事なのは物流生産性の向上で、そのためにIoTなどの情報技術を使いながらロジスティクス・ネットワークをより高度化していくことです。
  この底流に2つの変化があるということがいえると思います。
  一つは生産拠点のグローバル化ということで、今は多くの生産拠点は海外へ出ており、アベノミクスで一時的に円安になったとはいえ、海外への生産拠点の移転の流れを大きく変えるには至っておりません。そうしますと地方や首都圏にあった工場等はどんどん海外に出て行ってしまい、それで空いたところに新たなより高度な生産拠点を設けるか、あるいは物流拠点が出来てくるというような変化があるのです。
  これで物流のネットワークが変わっていくことになるのですが、それを引っ張っているもう一つの流れが、生活者に「近づく」流通ということで、後でもお話ししますが、郊外大型のショッピングセンターから都市型超小規模スーパーマーケットとかコンビニだとかドラッグストアとか、それからイーコマースの展開等、どんどん生活者の生活拠点に流通が近づいていっているという流れがあるのです。
  これに即したロジスティック拠点の機能の再編が起きてきているのだといえるのです。先ほど述べましたように一方でロジスティクスが変わらなければいけないのですが、リソースの制約があり、その制約はおよそ3つあります。

図表:ロジスティクス・リソースの制約
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  一つはロジスティクス労働力の制約です。とにかくドライバーや、物流拠点のパート・アルバイトの方が不足しており、その確保に大変苦労しているのです。また、生活者に近づいてくる流通に対して、それを支える新たな物流拠点を作っていかないといけないのですが、有利なロジスティクス拠点の立地は限られてきて、その面でも次第に制約がかかってくるのです。
  それから環境・エネルギーの制約です。また、災害対応とかリスク対応・BCP対応も備えていく必要があります。これには当然コストがかかりますから荷主の負担が増えるわけです。そうすると2つのことが必要になってきます。
  一つは、限られた資源を永く・無駄なく・有効に使い続けるということです。これをライフサイクル・サポートといいます。長期的なメリットや価値あるいはコストを計算し、リスクも含んだ形で、最も有効に永く使い続けるマネジメントをしていかなければならないということです。
  2番目には、それを支えるのはプラットフォーム・ビジネスですから、限られた制約のある資源の活用効率を高める、物流拠点や物流ネットワークの生産性、安定性、信頼性を長期間にわたって高めていくマネジメントが求められているわけでこれがライフサイクル・サポートとプラットフォーム・ビジネスということです。

■事業のグローバル化とロジスティクス・ネットワークの構造変化

  まずグローバル化の話ですが、いまだにグローバル化の流れが止まっていないわけです。我が国の製造業の海外売上高の比率は約4割で、引き続き増加傾向にあります。
  海外事業の収入が国内事業を上回っている事例も散見されます。インドとかインドネシアとか、さらにはアフリカといったところがどんどん注目されています。そして部品・原材料の調達において広域分業・補完体制が進展しているということです。

図表:我が国企業のグローバル化の背景と影響
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  つまり国内市場が縮小傾向にあるなかで新興国市場が伸びていきます。ロジスティクス・サプライチェーンのネットワークがグローバルに拡大します。その間を繋いでいるロジスティクスの負担というのは、非常に大きな問題でなのです。
  日本のサプライチェーンにおいてグローバル化がどのように進展していったかというと、昔はフルセット型といいまして、日本国内でなんでも物作りは完結して作れました。しかし海外から圧力がかかって、完成品工場を海外につくる、するとそのうち下請けの部品メーカーも海外へ進出するようになる、ということでだんだんディープなグローバル化が進んでいくということです。その先はどうなるかというと、逆輸入がどんどん増えていくわけです。
  グローバルロジスティクス全体で、どこで作って、どこで売って、どこで在庫するか、どうやって繋ぐか、という仕組みを、ローカルの適正化とグローバル最適化を同時に解決しないといけないのです。グローバル創発型ネットワーク形成と私は呼んでいますが、そういったことが課題となります。
  国内製造業の物流ニーズの高度化ということで、製造拠点のグローバル再配置によって国内生産拠点は、より高度な製品の生産体制へ転換します。それを支える物流は、一部の生産・加工機能も備えた高度な物流サービス拠点に転換をしていきます。ただ言われたものをピッキングして運ぶというようなセンターでは、もうなくなってきているわけです。流通加工はかなり製造に近いことも物流拠点でやりますというところも出てきているのです。
  したがって3PLを活用する、物流拠点は単なる保管から、加工・製造機能も備える複合機能拠点に転換をする、そしてそういう拠点は大規模災害等に対するBCP保証が可能な拠点でないとこれからは認められないことになるでしょう。
  これは一つの例なのですが、私が中国で見てきた日系の3PL企業の方が、外資系の自動車メーカーの製造ラインサポートをやっているのですが、物流拠点で流通加工を実施しています。この3PL企業は外資系の荷主をどんどん取り込んで、非常な勢いで伸びています。通常日系の3PL企業はなかなか外資系の荷主をとれないのですが、それでも積極的に受託している会社なのです。つまりこれは物流と生産の一体型というスタイルなのです。

■生活者に接近する流通と物流

  それからもう一つの変化、冒頭で2つ言いました。グローバル化と生活者に接近する流通と物流という話をしました。少子高齢化はよく言われますが、生産年齢人口がこれからどんどん減っていく、一方で高齢化していくという流れになっているわけで、労働力が少なくなり、あるいは高齢者対応の流通が必要となります。
  そうすると、流通はますます生活者に接近をしていかなければいけないということになります。先ほどお話ししました、郊外型大型商業施設もしくはネイバーフードショッピングセンター、近隣型中規模の商業施設、あるいはGMSが衰退をして地域型食品スーパーが生活圏に入り込んで分散展開をする、あるいはコンビニのさらなるドミナント展開とか、一方でネット通販・ネットスーパー等の宅配がどんどん伸びるということです。
  郊外大型商業施設に消費者を吸引するモデルから、限りなく生活者の生活圏にどんどん接近する、あるいは接近する一つの方法として宅配サービスが展開されるのです。つまり首都圏周辺エリアに届ける拠点としての物流施設の展開をしたり、都内に設置したダークストア(ネット販売専用の物流センター)と言われる中規模の物流拠点では、内部に店舗のように棚があるのですが、しかしそこにはお客様がいなくて商品が並び、消費者に商品を届けるというダークストア化が進んでいるのです。
  土地利用の話ですが、都市圏及び東京都の人口が総人口に締める割合がどんどん上がり、それ以外のところでは下がっており、これからもこの傾向は続くかと思います。東京圏等に人口がどんどん集中していくのです。そこで、その東京圏の生活者に物を届ける拠点が必要になってきます。
  先程生産拠点の空洞化の話や、物流拠点の再配置の話をしましたが、そういった拠点が、地方では過疎化が進んでいて、土地が空いてしまうという問題が出てきます。
  一つは、国土基盤ストックの維持管理ですが、これは何かと言いますと、新設改良費と更新費、維持管理費、災害復旧費といったものを区分して基盤ストックに対してどのようにお金がかかっているかを国土交通省が推計したデータです。
  2010年をはさんで、新規の改良費のコストからだんだん更新費や維持管理費、災害復旧費が急速に上がってきて、2035年には今の約2倍になるということです。ここの区分のコストをどう考えているのかということは大きな問題です。今物流拠点が必要だからとりあえず作り、直近数年の間は良いという話ではありません。これを維持管理するためにはものすごい金額が日本全体としてかかってきます。
  では、これに関するロジスティクスの本質は何かと言うと、物流、流通或いは生産複合拠点のライフサイクル・サポートロジスティクスというものです。つまり、長きにわたってそのロジスティクスのシステム、拠点、配送ネットワークをきちんと維持管理、メンテナンス、更新、或いは高度化していくことです。そして、その継続して発生するコストをどうやって下げて価値を上げていくかという考え方が必要となります。それを支えるものが、プラットフォーム・ビジネスです。

2.ライフサイクル・サポート・ロジスティクス

■ライフサイクル・サポートの重要性

  ライフサイクル・サポートの重要性は、物流とロジスティクスのどちらかということですが、物流(physical distribution)は流通の物理的取扱いに関する活動の体系ということであり、ロジスティクスというものの最も一般的な定義は、想定した事象に対する「準備の体系(仕組み)」という考え方です。事業システムやビジネスの仕組みの一番背骨にあたるものがロジスティクスであるという考え方です。このロジスティクスの本質というのは、ロジスティクスとサプライチェーンということですが、ロジスティクスには2つの考え方があります。

図表:2つのロジスティクス
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  一つはサプライチェーン・ロジスティクスであり、ある事業システムを前提にして価値の形成のプロセスを川上から川下に至る連鎖としてマネジメントするサプライチェーンの考え方です。
  もう一つは、ライフサイクル・サポートロジスティクスという考え方です。これは、もともと軍事用語です。戦略、戦術、兵站の兵站がロジスティクスの語源だということです。
  この兵站のロジスティクスとは何かと言いますと、膨大な軍事システムを適切に構築しシステムダウンしないようにメンテナンスし,技術の進歩に応じてグレードアップする。こういった体系管理の考え方をライフサイクル・サポートと言います。これはビジネスに置き換えると事業システムの企画、経営資源調達、構築、設置、運用・保守、リニューアル、再利用・廃棄のライフサイクルのマネジメントです。この考え方をぜひ覚えておいて下さい。
  ロジスティクスには2つあり、これからはライフサイクル・サポートが非常に重要となります。ライフサイクル・サポートとサプライチェーンはどのようにつながっているのかと言いますと、調達、生産、販売、使用というのは、サプライチェーンで横の横断的なもので、縦の流れは、企画、開発、試作、量産準備をして使用、保存、廃棄の流れをライフサイクル・サポートと言い、この2つを統合製品データベースで繋げようという考え方がビジネス・ロジスティクスの基本的な考え方です。今日のIoTの活用も重要です。

図表:ライフサイクル・コストの例
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ライフサイクルは難しいと思われますが、簡単な例をご紹介します。新車の取得コスト250万円とし、同じ車の中古車取得コストを150万円とすると、中古車の方が安いと思うかもしれないですが、新車を5年間使った時のライフサイクル・コストはいくらかと言うと、新車の場合は維持コストが100万円かかり、5年間でトータル350万円かかります。ところが、中古車の場合は、取得コストは150万円ですが、維持コストに250万円かかるとすると、トータルで400万円になります。そうすると、5年間で考えると新車を買うべきだという判断ができます。
  これらを理屈でわかっていても実際のビジネスになるとそういった判断ができなくなります。例えば、免震構造を持った物流センターですが、これはライフサイクル・サポートの考え方から言うとこれから非常に重要となります。
  この先20~30年で東南海大地震が発生する確率が相当高いと言われています。そうなった時、免震が有ると無いでは全く違います。これは、トータル・ライフサイクル・コスト(LCC)と言い、この研究をBenjamin S.Blanchard教授が行っています。この方が本で書いていることで、取得コストは氷山の一角であるといっています。取得コストいがいにも運用コスト、ソフトウェア、保全コスト、流通コスト、廃棄償却コスト、テスト、支援、技術データコスト等があり、これらは海面の下に隠れていて見えないのですが、これを侮るとプロジェクトが頓挫する事態になります。
  まず、このトータルLCCをきちんと計算しています。もう少し広い目で見ると、全体のシステムの価値は経済的な要因と技術的な要因があり、技術的な要因として性能とか有効性があげられます。一方では経済的な要因として設計、開発、建設、運用保全、配備等のライフサイクス・コストがあるのです。
  こういった長期的な視点は一般的に理解されていないのですが、取引先や荷主さんに説明する努力をしなければなりません。きちんと数字で可視化することをしなければなりません。

図表:ビジネス・リスクの低減の方策
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ビジネス・リスクの低減方法としてこの4つの方法があげられます。
  一つは、可視化です。現状のトレースとモニタリング・間もなく発生する事象の早期把握ができるかどうかです。今日は最後にマッチング・システムの話をしますが、可視化してモニタリングしてその情報をみんなで共有し、計画的な行動に切り替えていくことが必要です。
  次に、共通化・標準化です。違ったシステムを繋げる、或いは複数のプレイヤーが共同で何かをするといった時に標準化の問題が出てきます。東日本大震災の時にも、ペットボトルが足りなくなり、困ったことがありました。それはキャップの大きさが違ったため、あるペットボトル工場が壊れてしまった時、他で転用できないという問題がありました。これは部品の共通化ができていないということです。
  そして、見逃されやすいのは業務の標準化です。仕事がすぐに他の人に置き換えてできるようになっているのかということです。
  三つ目が共有化です。情報共有化、拠点共有化、プロセスの共有化、インフラの共有化があります。
  最後に、分散化・複線化です。もしこういったことが起こったらどうしよう(what-if分析)と、常に考えることが必要です。
  ある物流不動産ビジネス企業のビジネスを整理すると、サプライチェーンとライフサイクル・サポートの軸がありました。
  今、日本中に企業の遊休不動産(CRE: Corporate Real Estate)や公的不動産(PRE: Public Real Estate)の空き地がたくさんあります。そういったところで、仕事(雇用)がなく、税収が減っているところに、物流センターを作ろうとすると、そこで働いてくれるパートさんも当社が面倒を見る、立ち上げまで面倒を見る、耐震設計・免震工事を行い、太陽光エネルギーと非常用バッテリーまで全部そろえ、防火対策もやるのです。
  まさに、ライフサイクル・サポートである事業システムの企画・提案や経営資源の取得と利活用、物流拠点施設の設計・施工、拠点の運用支援、保守管理、それから再利用というところまで全部一元的に面倒を見て、長くお付き合いをしますというビジネスをやっているのです。
  これは、まさにライフサイクル・サポート事業(LCS事業)であり、物流の拠点ビジネスとは異なります。そうするとお客様の事業と物流ニーズの需要情報の取得や全国の不動産・資金・労働力情報と調達のノウハウや土壌の浄化、物流・製造施設・その他管理ノウハウといったものをどんどん蓄積していくことができます。
  つまり、これは物流の上物を建てて売ったら終わりというわけではないということです。長期間保証するということです。昔は、流通は生産と消費の間を繋ぐものを売るということで、顧客関係のプロセスを大事にしようということを言われてきましたが、今は売ってしまったら終わりではなく、売った後のその先まで面倒を見ようということです。
  これはもはや流通というよりも、ビジネスの基盤を提供するということなのです。先程の物流不動産もプラットフォーム・ビジネスとなります。
  物流プラットフォームを提供する、基盤を提供する、そこにいろんなプレイヤーがいて活用するといったビジネスに変わってきています。そしてお客様との接点をいろいろ作っていき、製品サービスを統合して価値を提供することに変わっています。

※後編(次号)へつづく



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