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第166号新しいビジネス・システムと戦略的SCMを考える(後編)(2009年2月17日発行)

執筆者 田中 孝明
サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 大阪市生まれ。
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て,現在,サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長。
    • 福山平成大学 経営学部 非常勤講師,明治大学 商学部 特別招聘教授,
      文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業 研究分担者,
      神戸大学ビジネススクール MBAフェロー などを歴任/兼任。

*サカタグループ2008年5月20日「第13回ワークショップ」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
前編(2009年2月3日発行 第165号)より

  では、次のスライド『「静かな革命」の始まり』に移って参ります。

「静かな革命」の始まり

  この後、「事業システム」について少しお話をさせていただきます。事業システムという言葉の意味と申しますか、定義については、本日はあまり詳しくはお話できないと思いますが、まずこの場では、「ビジネス・システム」、あるいは「ビジネス・モデル」と、ほぼ同じような概念であると捉えておいていただければと思います。
  この事業システム/事業システム戦略の分野は、私もフェローを拝命しております神戸大学の加護野先生が中心となって、神戸大学では非常に活発な研究が行われています。本日のこの後の資料は、加護野先生や井上先生のご本から引用させていただいております。
  事業システムの中身ですが、まず図の下の方ですが、どうも最近のビジネス分野の状況を見ていますと、ここに書いておりますように、①従来の事業システムが成熟化してきている、②情報通信技術が進歩してきている、③新しい事業システムの成立が他の事業システムの変化を促している、④新しい事業システム/事業の仕組みを作らないことにはお客様に価値を提供できないような事業分野が増えてきている、こういう事象が見られる。
  こうした背景/要因を受けて、どうも従来とは違う”事業の仕組み”を作りだしているのではないかと思われるような企業が登場してきている。これまでの競争とは異なる、何か”仕組みを通じて競争から這い出るための競争”といったものが始まっているのではないかと思われます。皆さん、いかがでしょうか。
  たとえば、トヨタさんのJITやTPS、あるいはセブン・イレブンさんの物流/ロジスティクスの仕組み、あるいはマイクロソフトさん、ヤマト運輸さん、任天堂さん、CCCさん、キーエンスさん、アスクルさん・・・。こうした企業ではどうも従来とは違う”事業の仕組み”を生み出して、そこで従来とは違う、競争から這い出るような競争が既にスタートしている、そのように感じられませんでしょうか。

  さて、「事業システム」の定義ですが、繰り返しますが本日は時間の関係であまり詳しいお話はできないと思いますが、次のスライド『事業システムとは』の図の上のほうに書いております。

事業システムとは

  事業システムとは「顧客に商品やサービスをうまく提供するための仕組み、顧客に価値を届けるための”事業の仕組み”」、「商品やサービスの開発のための要素技術をうまく使う仕組み、部品や原材料の調達の仕組み、生産の仕組み、販売と流通・物流の仕組み、アフターサービスの仕組みなどをベースにした”事業の仕組み”」であるとか、いくつか書いてあります。
  加護野先生や井上先生は著書の中では、図の下に書いてあるような定義づけをされておられます。即ち、「事業システム」とは、1.経営資源を一定の仕組みでシステム化したものであり、2.(1)どの活動を自社で担当するか、(2)社外のさまざまな取引相手との間にどのような関係を築くかを選択し、3.①分業の構造 ②インセンティブのシステム ③情報・モノ・お金の流れの設計の結果として生み出されるシステム、ということになります。

  定義だけ読めば、少し難しく感じるかも分かりませんが、例えば次のスライド『アスクルのビジネス概要』ですが、皆さんもよくご存知のアスクルさんですが、アスクルさんのホームページに「アスクル・モデル」とのタイトルだったと思いますが、掲載されている図があります。

アスクルのビジネス概要

  この図を見ますと、アスクルさんの役割は右の上の四角の中にありますように、カタログの製作であるとか配送であるとか、いくつか書いてあります。そしてその右のほうにエージェントさん-従来の文具店さんなどは、エージェントという位置づけあるいは名称に変化をしてきているわけですけども-、エージェントさんの役割というのは、お客様の開拓であるとか、代金の回収というように記されています。

  このアスクルさんのビジネスの概要を、これを申し上げてきました事業システムという概念に照らし合せて整理をすると、次のスライド『アスクルの事業コンセプト』のようになります。

アスクルの事業コンセプト

  これも見ていただいての通りですが、ポイントは上から4つ目に”コンセプトと設計思想”にありますように、「SOHOの事業主を対象に、翌日配送というサービスを、宅配便の物流ネットワークを前提に、既存の販売チャネルの長所をうまく生かしながら提供すること」です。整理をするとこんな形になります。つまりアスクルさんのビジネスは、全体としてこういう「事業システム」として整理されるということになります。

  さて、次のスライドには、「新しい事業システムに見られる経済性の原理」と書いてありますが、例えば今申しましたようなアスクルさんのような新しい事業の仕組みでは、従来よく見られたような”規模の経済性”などとは違って、1.速度の経済、2.範囲の経済、3.集中化の経済といった、3つの経済性が使われているということになります。

新しい事業システムに見られる経済性の原理

  逆に言いますと、従来とは異なる新しい事業の仕組みを作ろうとすると、この3つの経済性のうちのどれか、あるいは複数を盛り込んでいかないといけないというように考えてもよいと思います。

  次のスライドには、「事業システムによる競争優位」とありますけども、まず、競争優位を確立するにはどうしたらよいのかということですが、ここで一番注意をして見ておかねばならないことは、”情報化のパラドクス”です。つまり、情報化が進展すればするほど、情報以外の違い、これが決定的な意味を持つ。企業の価値創造のプロセスは、実は組織編成であるとか企業風土/組織文化、あるいはロジスティクス、他社との連携関係、こういったものになってきていると言うわけです。こうした”情報化のパラドクス”に注意をして、新しい事業システムを確立していかねばならないということです。

事業システムによる競争優位

  また、競争優位を維持していくにはどうしたらよいかと書いていますが、これはスライドの真ん中あたりを見ておいていただけたら結構かと思います。
  図の下に移ります。実際に新しい事業システム生み出すのは、容易なものではありませんが、加護野先生や井上先生が提唱されていらっしゃるのは、”本業のまっただなかでの新事業作り”の考え方です。たとえばアスクルさんは、文具メーカーのプラスさんが新しく始められたビジネスですが、実際のお客様/市場の状況を見るとSOHOなどの小さな企業ではなかなか文具等の調達/購入は大変になっている、厄介になってきているといった環境変化をよく見られていたはずです。また同業他社、おそらくプラスさんの場合は、コクヨさんなどの動向や、さらにはオフィス・デポさんなど、アメリカにある新しい文具の小売業態のことなどもよく調査研究されて、アスクルという新しいサービスをスタートされたのではないかと思います。そしてポイントは、プラスさんのように、文具なら文具業界という、自社の”本業のまっただなかで新しい事業を作っていく”、こういう考え方が新しい事業システムを考えていく時には重要ではないか、賢明ではないかということです。

  最後に、次のシートは、「新しい事業システムの分析・設計の手順」と書いております。

事業システムの分析・設計手順

  非常によくできた図でございますので、今日ご参考に引用しました。ご興味のある方は、レジュメの最後記しています加護野先生・井上先生の本が書店に出ておりますので、ぜひ詳しく読んでいただければと思います。この図の中で、1点だけ。これは私の考えですが、⑦に「境界の設計=VC(バリューチェーン)の設計」と書いてありますが、これは”SC=サプライチェーンの設計”と読み替えたほうがよいのではないかと、個人的には理解をしております。

  以上、教科書的なお話が続きましたが、最後に、”これからのロジスティクス戦略をどう考えたらよいのか”ということを考えてみたいと思います。

  このスライド『これからのロジスティクス戦略をどう考えるか?』の図の上に、”従来の物流戦略”と書いてありますが、これはたいへん有名な物流戦略の考え方の一例です。

これからのロジスティクス戦略をどう考えるか?

  これも今日は時間の関係で詳しいお話はできませんが、こうした従来の物流戦略の考え方には、今も当然有効な事項が多々あると思います。しかし一方で、最近の経営環境の中では合わないところも出てきているかと思われます。
  図の下の方に書いてありますが、今は自社だけではなく、サプライチェーン全体を踏まえての新しい戦略、ロジスティクスの戦略、戦略的SCMといったことを考えていかねばならないと思われます。

  ところで、次のスライドには、「スズキのバリューチェーン」と書いてありますが、四輪車/二輪車のメーカーであるスズキさんのバリューチェーンを分析すると、この図のように、青文字のところが強み、赤文字のところは弱みといいますか、潜在する問題だといわれるような活動、このように理解されます。

スズキのバリューチェーン

  従来の考え方でいきますと、強みは、より強くしていく一方で、弱いところをなんとか潰していく、手をうっていくことが必要なわけですけれども、いかがでしょうか。例えばこれからは、強みも弱みもサプライチェーン全体の中で捉えていく。強みはサプライチェーンの中で一層伸ばしていく。一方弱みは、サプライチェーンの中で何か補完方法を考える、強みに変えていく、他社との連携関係の中で、その弱みを変化させていく、こういう視点が重要ではないかと思うのです。

  先ほども申しましたように、実際のサプライチェーンの姿は単純なものではありません。まさにネットワークになってきています。次の図『サプライチェーンとサプライネットワーク』ですが、サプライチェーンの中には実際は、色々な事業主体がいらっしゃる。

サプライチェーンとサプライネットワーク

  メーカーさん、卸さん、この図には記していませんが、右手に小売業さん、左手にサプライヤーさん、さらには物流事業者さんなどもいらっしゃる。この図は一例ですが、メーカーのアウトフロー・ロジスティクス(出荷物流/販売物流)と卸さんのインフロー・ロジスティクス(調達物流/購買物流)は、密接な関係にある。それと実際そこに物流会社が関与しているとしますと、この物流会社のオペレーションと、メーカーのアウトフロー・ロジスティクスおよび卸のインフロー・ロジスティクスが、それぞれ非常に密接な関係を持っているということになります。またこれ以外にも、当然小売業さんもいらっしゃる。小売業さんの調達物流と卸売業さんの販売物流も大きく関係しています。さらにはメーカーの調達物流とサプライヤーの販売物流も関係してくる。こういう状況だと思います。
  こうした実務の世界を俯瞰しますと、これからは、例えば同じ業界の複数のメーカーさん、複数の卸さん、さらには複数の小売業者さん、これらの物流機能を共同で行う、物理的に同じ倉庫/物流センターで、商品・製品・貨物を取り扱う。サプライチェーンの中で、関係する各事業主体が、強みを一層伸ばし、弱みを補完し合い、全体としてお客さんに対して価値を提供していく。こうしたことが実現できれば、サスティナブルなロジスティクス・ネットワークが作れるのではないかと思うのです。つまり、”新しい物流の共同化の仕組み”というようなものが、「事業システム」の観点で、これからは考えられる、考えるべきではないかと、そのように考えております。

  もう時間になりましたので、最後のページ『サプライネットワークと事業システム構築(一例)』になります。

サプライネットワークと事業システム構築(一例)

  本日お伝えしたいこと、ご提案したいことを3点取りまとめております。第1は、「実際のSCMの姿は、個々の企業の”事業の仕組み”に他ならないのではないか」ということです。2つ目は、「SCMの理想的な到達点は、市場の変化に柔軟かつ俊敏に対応する、さらには市場そのものを創出し持続的な競争優位を実現できるような、新たな”事業システム”を構築することではないか」ということです。最後の3つ目。そのためには、ということになるかもしれませんが、「まず自社のVCの強みを一層伸ばして、弱みを補完する、弱みを強みに変えていくような他社との連携関係、SC、サプライ・ネットワーク、これらを考えていくのが重要ではないか」。以上のように考える次第でございます。

  この後、より具体的なお話、内容の深い話は、諸先生方からお伺いできると思いますので、本日この後1日、皆様方と一緒に、これからのロジスティクス戦略、SCM戦略の姿を考えてまいりたいと思います。この後引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。ご静聴いただき、誠に有り難うございました。

以上



(C)2009 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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