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第256号理美容業界における流通効率化の取り組み(中編:上)(2012年11月20日発行)

執筆者 青木 利夫
全国理美容製造者協会(NBBA) 事務局長

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1951年生まれ
    • 1973年 早稲田大学卒業、婦人服専門店「三愛」入社 本社経理部勤務 営業経費・償却資産・支店会計担当。
    • 1977年 東急ハンズ入社 本社経理課勤務 決算・税務・企画収支担当渋谷店立ち上げに携わる。
    • 1979年 ウエラ化粧品入社 債権・予算・受注管理・営業データ管理におけるエンドユーザーコンピューティング担当。
    • 2008年 タカラベルモント入社 東京本社管理部特命担当。
    • 2011年 同社 東京本社管理部顧問。
    • 全国理美容製造者協会事務局長を兼務。
    • 理美容業界VAN・業界標準WEB-EDI「NBBA楽々注文ねっと」構築・共通倉庫研究に携わる。

 

前編(2012年11月8日発行 第255号)より

*サカタグループ2011年11月16日開催第18回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回理美容業界における受注システムの標準インフラである「NBBA楽々注文ねっと」立ち上げ時の苦労話、今後の楽々倉庫の構想他ついて、実際の体験談を交えて講演いただきました「全国理美容製造者協会(NBBA)事務局長 青木 利夫」様の講演内容を計4回に分けて掲載いたします。

目次

1.理美容業界の流通構造

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  理美容業界の商流ですが、メーカーさんから直接サロンさんに販売する形体は直販と呼ばれているんですが、これは今ほとんどないです。あっても10%あるかないかです。もう一つが、問屋さん経由、メーカーさんから問屋さん経由で代理店さんにいって理美容室に商品が売買される、こちらもそんなにシェアとしては高くなくて、10%前後ではないかと思います。
  代理店制度という、この制度を通してメーカーと代理店契約を結んだ代理店さんが、その商品を受けて理美容室に配達していく、これが現在理美容業界の商流の主流になっています。今この代理店制度という商流の中で、商品だけはメーカーからサロンさんに届ける直送方式が一部の商品群で出ています。
  この様な流通制度の中で、代理店制度を行うメーカー団体として全国理美容製造者協会というのが業界の中に存在しています。全国理美容製造者協会10社によって占めるメーカーのシェアは、大体60%前後とみています。

2.親父たちのプロジェクトX(1)

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  全国理美容製造者協会(NBBA)には5つの委員会があるとお伝えしましたが、この5つの委員会の中で、流通委員会というのが流通関係の取り組みを行っています。スタート時は非常に困難な道を歩みました。最初のころ、よく私たちは委員会が終わった後に飲み会を行いましたが、その席上、その頃よくテレビで流行っていたNHKの番組「プロジェクトX」に自分たちの姿を重ねて、「ある意味小さなプロジェクトXだね」と自分たちの事を語っていたことがありました。
  2001年に「理美容業界にVANを構築しなさい」との命題が上から私たちに与えられました。その時、突然メンバーとして集められたのですが、集められたメンバーはお互いライバル会社の人間、なおかつそこで扱う出荷データとか、自分たちの会社の受発注の仕組みとはどんなものかとか、ある意味外には出しにくい事項だったのですが、そういったものを扱わなければならないということに対して、困惑を隠せない状況だったのです。
  またメンバーの中には、多少の営業経験の有る者はいたのですが、ほとんどが後方部隊のメンバーで、代理店さんに行ったこともないような人たちがほとんどのメンバーで構成されていました。それで私たちが業界のVANを作ろうということで、実際に代理店さんへお邪魔すると、代理店さんからは100あれば100通りのシステムの管理方法というか、各社各社が今まで培われてきた商売のあり方で業務の運用をされている現状があり、どうやってこれを統一していったらいいのか、どう説明していったらいいのかと、かなり頭を悩まされました。
  理美容業界の中では、業界VANを立ち上げるという動きは代理店さん側で、何度かあったのですが、全国の代理店さんを1つの仕組みにまとめることができないだとか、一から仕組みを作り上げるための要件策定が困難ということで、失敗しておりました。
  それで、今回は「メーカーがやるのだから、それも1年以内に作って成功させるように」というのが与えられた命題だったのですが、1年以内に業界VANを作れというのは、これは土台無理な話だと自分たち考え、短期間に構築する術を考えました。
  NBBA会員会社の中には、日用雑貨品のメーカーで、一般の市場に出ているメーカーが数社あり、そこではプラネットさん(http://www.planet-van.co.jp)というVAN運営会社があり受発注の合理化が進んでいることは認識しておりました。
  プラネットさんをご存知の方ちょっと手をあげていただけますか。約四分の一の会社さんがご存知ですね。プラネットさんというのは、花王さんが独自の受発注の仕組みを作るのに対抗して、ライオンさんやユニチャームさんサンスターさんなどのメーカー8社と情報サービス会社インテックが集まり共同出資をして作ったVAN運営会社であり、日用雑貨品業界の標準の受発注の仕組みを構築されました。その頃は、電気通信事業法が制定され通信が自由化され、こういったVAN業者さんが事業として成り立ってきた背景があったので、プラネットさんはまずライオンさん他のメーカーさんによる受発注の仕組みを構築されていき業界の標準インフラとしての地位を確立され、その後花王さんもプラネットさんを利用されるようになりました。
  今皆さんはダイエーさんとかイオンさんとかでシャンプーやリンス、化粧品とかを購入されていますが、そのほとんどの商品は全部プラネットさんのVANを通してメーカー・卸業者間で受発注のデータのやり取りがされています。したがって日雑の商品の出荷とか、発注とかの作業のほとんどがプラネットさんの仕組みでないと現在は動きません。
  この日雑業界で成功している仕組みがあったので、この仕組みを理美容業界にも開放していただけないかということでプラネットさんに話を持っていきました。その結果プラネットの玉生社長様も快く承諾してくださり、そればかりかプラネットさんの社員の方も本当に協力的に動いていただいて、多少日雑系とは違うフォーマットのあり方とかがありましたが、そこら辺の設定も基準を決めて、半年で仕組みを完成し業界の中に理美容業界VANとしてこれを発足させることができました。
  玉生社長からは標準化にあたってはフォーマットの統一だけでなく、データ交換のプラットフォームを通して行うことが大切であり、個別対応は避けるべきことをご指導いただき、当時の高橋営業部長、カネボウから出向されていた松吉さんを担当に付けてくださり、その普及にご協力くださいました。お二方は日雑業界の変遷や在庫管理手法がどのように進化してきたかを、私たちや、開催するセミナーでも語り、熱い思いを持って同行サポートをしてくださいました。

3.業界標準化の必要性を訴求

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  理美容業界の中では、業界標準化の必要性ということを繰り返し訴えてきました。こちらの青い方がメーカーで、赤い方がディーラーさんだとすると、N対Nの対応だと複雑になってしまうので、これにVANを通すことによって、同じフォーマットでデータのやり取りが出来れば、ディーラーさんも同じフォーマットでデータを出せるので、複数のメーカーに、一度に商品の発注を掛けられるのです。
  またメーカーさんも複数の代理店さんの発注データを1つのフォーマットで受けることができるので、個別対応でない標準化された仕組みの必要性ということを理美容業界の中で私たちは訴えてきました。また、こういった形でデータの共有化が業界全体に広がれば、業界全体の効率が上がってくことを、説明をさせていただきました。
  それで、すでに成功しているプラネットさんのVANを利用するから安心で安全だということで話をさせていただいたのですが、まず、メーカーの皆さんに参加を呼びかけるという段階で、いろんな意見が出てきました。「世の中でVANは、もう古いよ」とか、経営層の方々より「もうVANって古いんじゃないのそんなの、VANってほとんど失敗しているよね」とか言われて、「いや、そんなことはないです。日雑の業界ではVANはちゃんと動いていますから」というような説明をしていました。
  皆さん、ものの本を開いていくと、VANは電気通信事業法の改正が行われた後に、雨後のタケノコようにたくさんのVAN会社が乱立していって、その後ほとんどが消えてなくなっていったということを読んで、VANは古くて、おまけに失敗しているとの認識をお持ちになります。ところが、プラネットさんのVANは、日雑の業界の中ではきちんと成功して大きな柱として残っているのですね。
  ですから、物事を今インターネットの世界で簡単に検索が出来るのですが、その仕組みとかを本当に深いところまで探っていかないと、上面の情報だけで進んでしまうと、誤った判断の元になることを、このとき経験しました。そんなこともあり、NBBAに加盟しているメーカーさんの説得自体も大変でした。

4.親父たちのプロジェクトX(2)

  仕組みが出来上がったので、次に業界の代理店(ディーラー)さんにこの話を持っていきました。完成した後、全国行脚し、個々のディーラーさんを回ってVANを使ってこれで発注をかけていただけませんか、と説明に回ったのですが、「メーカーが中抜きやるんじゃないの」、「この仕組み利用したらメーカーが直販やるんじゃないの」とか、また代理店さんによっては、発注の仕組みが千差万別で、システムの担当者がいないためVANとどうやって接続したらいいのか、どれだけお金が掛かるのかわからない、という状況で、VANの説明のために全国を回ったのですが「労して功なし」というか、ほとんど門前払いに近い形の反応が当初続きました。
  こんな状態でしたので、プラネット玉生社長のところに出向き、色々とサポートいただきながら、接続するところがなかなか出てこない旨お詫びを兼ねて報告に伺うと、自分たちもそうだったから、あせらず長い目で見て取り組むと良いとご理解とアドバイスをいただき勇気づけられました。
  説明に出向いた際に代理店さんの倉庫とかも拝見させていただいていて、やはりこれからはディーラーさんの中では、倉庫の運営管理とか、JANコードを使った形でのオペレーションが必要なんじゃないかと思ったのです。
  そのためにはJANコードのソースマーキング自体の比率が低かったので、メーカーさんへもJANコードのソースマーキングの必要性を業界全体に訴えかけるといった動きを行いました。また、システム化を考えているディーラーさんには、推奨パッケージを説明し、私たちの目から見てこの代理店さんには、この販売管理システムのパッケージだったら安心できるのではないかというものを選定して、ディーラーさんにそれを説明し、システム化の必要性を訴えてきました。
  ですからメーカーの人間なのですが、なんか普通とは違う動きをしているなというふうにディーラーの皆さんに思われましたし、社内でも競争会社の人間と一緒に出張にいってお前ら何やっているんだという声も確かにありました。そのような内と外で、サンドイッチ状態になりながらこのVANの普及に動いたのですが、叩かれれば叩かれるほど程、この親父たちは、結束力が強くなって、出張に行って説明し叩かれ、夜、ああだこうだという事を飲み屋で話をするうちに、妙な連帯感が生まれてききました。

5.見えてきた業界の変化と動き

  その中で見えてきたのが業界の流れですね、マクロ的な変化が確かにあり、それを肌で感じることができました。業界の勢力地図が画期的に変わりつつあったのです。例えばディーラーさんから飛び出て行ったトップセールスマンが、またその下にディーラーさんを作っていくというような動きがありました。また大手のディーラーさんでは別の動きがありました。
  今まで地域ごとにディーラーさんというのはこの地域だったらA代理店さん、この地域だったらB代理店さんというのが有力な代理店と勢力図がはっきりしていたのですが、その地域割りがだんだん崩されていって、東京のディーラーさんが地方に進出したり、地方のディーラーさんが東京に進出してきたりして、カバー地域がだんだん広域化していきました。
  次に、カラー剤の多様化についてお話しします。カラー剤のブランドがあるのですが、例えばAというブランドのカラー剤があったとすると、普通皆さんどれくらいの色数があると思われますか。
  恐らく多くて20~30色位ではないかとお考えではないでしょうか。実は300とか400色位あるのです、一つのブランドです。そうするとカラーの明度と彩度の違いにより、例えばA/3とA/03ではまったく違うカラー剤になったりします。従来の色番順で実施しているピッキングだと間違えやすい状況になってきて、発注をかける時もA/3とA/03とで間違って発注かけてしまったりすると違う商品が届いてしまうわけです。
  そういった意味でカラー剤の多様化というのが、代理店さんの倉庫管理の中で負担になってきており、発注をかけるのも大変だという状況が出現しておりました。
  配送頻度も増加傾向で、従来は週に1回の注文だったものが、大きいサロンさんになってくると注文を細かく分けて、在庫を圧縮する傾向があるのかもしれませんが、小分け配送をディーラーさんに求めるようになってきて、そういった費用の増加に頭を悩まされているディーラーさんもいらっしゃいました。
  またディーラーさんの取り扱いメーカーの数が増加していました。これも業界の流れなのですが、ディーラーさんが商社化していき、例えばロレアルさんのディーラーと仮定すると、今まではロレアルさんならロレアルさんの商品だけをメインに扱っているディーラーさんが、他のメーカーのウエラさんも扱うよ、ミルボンさんも扱うよとかで商社化し、取り扱いメーカー数がどんどん増えていく、こういう変化がありました。
  これによりディーラーさん側でも、今まで売掛金管理中心だったコンピューター利用も、在庫管理が大変になってきて、倉庫管理自体もなんとかしなくてはいけないということで、コンピューターの使い方が、売掛金の管理から商品管理の方に動いてきました。先ほど増井さんが3PLについて話をされましたが、3PLとして外部の業者さんに物流を委託していくと、その委託先への出荷指示も含めてそういった商品の単品管理がコンピューター上に必要になってきます。こういったことについても拍車がかかってきたと言えます。

6.海の向こうでは・・・・・・

  海の向こうでは、ウエストコースト・ビューティサプライというアメリカの西海岸にある代理店さんがあり、以前訪問視察した際、ここは西海岸全体をカバーしていて、アメリカの市場は日本の10年先を進んでおりました。ディーラーさん自身も、ウエストコースト・ビューティサプライに代表されるように、昔は何百社とあったディーラーさんが、最近ディーラーさんの会合を開くと、もう50社をどんどん切っていって限りなく片手になるようなくらいまでディーラーさんの集約化がアメリカでは進みました。
  それはなぜかというと、彼らが言っていたのは、複数の会社を買収していくメリットです。買収した複数の物流拠点と自社の拠点を一つに統合することによって、その運営管理が非常に効率化されていくのです。また売上自体も伸びてくると、より優秀な人材を集めることができ、だから200㎞離れたところにある物流センターを自分たちはコンピューターで動かすことが出来るということを話しておられました。
  このウエストコースト・ビューティサプライというところには、日本のディーラーさんも訪問し近未来の自分たちの姿を重ね、日本のディーラーさんの将来に自分たちの方向性を与えたディーラーさんです。

7.世界最大の美容室チェーン リージス社

  こういったディーラーさんが広域で大きくなっていく背景があると同時に、こちらはアメリカで成功して、ヨーロッパ、世界に進出しようとしている会社である、大手美容室チェーンのリージス (Regis Corporation)という会社の紹介です。


  これが美容チェーンの物流のセンターです。全米に2万店舗を持ち、内装家具の工場まで持っている美容室チェーンで、こういった大きな美容室チェーンが世界をまたにかけて動き始めているといったことも背景にありました。

8.親父たちのプロジェクトX(3)

  日本のディーラーさんの現状を見ていって、自分たちは物流に関する情報をディーラーさんとか業界全体に与えていかなければいけないということで、流通オープンセミナーを定期的に開催してきましたし、また日雑業界の倉庫/物流センターの現場見学会も開きました。こちらは日雑の大手のディーラーさんの倉庫を見学に行ったところです。当時は「ダイカ」さんという社名でしたが、日用雑貨卸大手の「あらた」さんの物流センターです。
  こういった物流センターを見学し、自分たちとはまったくかけ離れた世界のディーラーさんの姿を見てあっけにとられ、自分たちとはかけ離れた業界のことだと思ったのですが、担当の方々からお話をお伺いしてみると、いろんな工夫をされていってあれだけ大きなセンターへ集約されていったと知り非常に刺激をうけましたし、そういった刺激をディーラーさんにも受けていただきたいというのが、私たちの考え方でした。
  ですから他業種での変化とその対応の事例紹介を行い、今のままが良いのではないということをお伝えするとともに、同じ同業の代理店さんでシステム化に成功しているディーラーさんに依頼してこのオープンセミナーに来ていただいて、自分たちはここまで改善しているんだということを講演していただきました。そういった活動を通して、改革の必要性を代理店さんだけでなくて、メーカーもそれから業界の方々にもお伝えしていくということを積極的に進めていきました。
  プラネットさんが物流関係のエキスパートとして、サカタウエアハウスさんを紹介いただき、それが御縁で多くのサポートを、現在に至るまでいただいております。
  流通オープンセミナーの開催にあたっては、会場についても思い入れを持って選定いたしました。物流改革やシステム改革は私たちの業界ではどちらかというと裏方的な業務にあたるため華やかさに欠ける部分がありました。バックオフィスの人間でも業界には貢献できるということと、しっかりとした一流のものを提示する以上、提示する場所も一流でということで、国際会議もできるフォーシーズンズホテル 椿山荘ボールルームで開催したりいたしました。そんな派手なところでという声もありましたが、景気良く自分たちの進めるものを、自信を持って示すことが大切であるとの考えのもとにすすめてきました。

※中編:下(次号)へつづく


(C)2012 Toshio Aoki & Sakata Warehouse, Inc.

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