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第79号流通業界における最新ITトレンド~EDI標準・ICタグはどうなるか~(2005年7月7日発行)

執筆者 玉生 弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • 現職
    • 株式会社プラネット 代表取締役社長
    • プラネット物流株式会社 取締役
    • 株式会社アイスタイル 顧問
    • 株式会社INTEC LG CNS 顧問
    • 社団法人流通問題研究協会 副会長
    • 株式会社BS朝日 放送番組審議委員
    • 経済産業省「情報技術と経営戦略会議」委員
    • 中小企業庁「中小商業における情報システム化戦略検討委員会」委員
    • 経済産業省「産業構造審議会・流通物流システム小委員会」委員
    • 社団法人日本ボランダリー・チェーン協会「ICタグ委員会」委員
    来歴
    • 昭和19年  川越市生れ
    • 昭和43年  早稲田大学政治経済学部卒業
    • 同   年  ライオン㈱入社
      マーケティング部、総合管理部、システム開発部を歴任
    • 昭和60年  ㈱プラネット 常務取締役
    • 昭和63年  ㈱プラネット 専務取締役
    • 平成 5年  ㈱プラネット 代表取締役社長
    • 通商産業省『情報化の進展に伴う産業組織に関する研究会』
    • 郵政省  『ネットワーク化推進会議・流通部会』
    • 社団法人 日本データ・プロセシング協会『ソフト・ウエア委員会』委員
    • 財団法人 日本情報処理開発協会 『電子取引調査委員会』
    • 経済産業省「商品トレーサビリティの向上に関する研究会」委員
      等多数歴任
    著書
    • 『メーカーが書けなかったOAの本』 産業能率大学出版部(1983年)
    • 『流通VANの戦略』 産業能率大学出版部(1988年)
    • 『流通ネットワーク21世紀のミッション』 ビジネス社(1998年)
    • 『なぜ日本企業の情報システムは遅れているのか』
      日本能率協会マネジメントセンター(2003年)

  今回のロジスティクス・レビューは、前号に引き続き、サカタグループ主催第10回ワークショップ「マーケティングとロジスティクスの新たな視点を考える」の講演内容 から、玉生弘昌氏の「流通業界における最新ITトレンド ~EDI標準・ICタグはどうなるか~」をご案内します。

目次

はじめに

  IT関係は色々な用語が入り乱れています。25年前にEOSが始まって、今はEDIからECR、最近ではCPFRと、覚えるだけでも大変であり、さらに用語を理解して、どういうトレンドの中で流れてきたかを見極めなければ、自社の政策が決められない大変な時代になっています。

Ⅰ.企業間通信の発展

  EOS(電子的発注システム)は小売店の発注システムです。EOSは25年前に始まった時、1980年に日本チェーンストア協会(JCA)がJ手順という統一プロトコルを決めて、発注データ通信が始まりました。ところがB to Bの通信というのは発注データだけではなく、発注を受けたら出荷指図をし、売上伝票をつけて納品をし、場合によっては物品受領書を戻したり、請求書や支払い明細書を送ったり、返品や品切れも含めたデータが行ったり来たりするものです。それをコンピューターでするのがEDI(電子的データ交換)だというふうに単純に考えて宜しいかと思います。
  1985年に電気通信事業法ができVANが自由化された当時は、一対複数のプライベートなネットワークがたくさん出来て、端末機だらけ現象などと言われる状況でした。ところがVANというのは、複数対複数をつなぐものであるべきで、そこでプラネットは、日用品雑貨化粧品業界の中で交通整理役として、インフォメーション・オーガナイザーとして、今日まで20年間進めてきました。現在、契約ベースでメーカ、卸店、資材・包材までを含めると1000社を超えています。先月のデータボリュームが9,400万レコード、大雑把に言って、9,400万伝票行数です。それだけ大規模なEDIが完成し、流通の世界ではEDIのニーズは根強いものがあります。現在データ種類は18種類、理想論では販売促進関係のデータも含めて35種類というビジョンを掲げています。
  最初はライオンとユニチャームが出資し端末機を共同利用し発注データ、仕入れデータを扱うことから始まって、P&G、松下電器が乾電池・電球の販売でプラネットに加わり、卸店でもアスクルがプラネットを使うようになりました。最近ではペットフード、ペット用品、介護用品までプラネットを使うところが増えてきています。EDIはこのように1つのプログラム、1つの統一した仕様で、複数対複数の多数の取引先同士が、通信をいっぺんにできるという、そういうネットワークです。プラネットでは、レガシーでも、オープン系でも、プロトコルについては如何様にも対応できます。
  25年前JCAがEOSを始めた当時、フォーマットの標準を決めなかったので、発注データの中身はほとんど同じでも、書式が何100種類もあるという世界に陥っています。EDIの時代になって、世界ではヨーロッパで作られたEDIFACTという標準が使用され、日本ではJEDICOSという標準を経済産業省が制定し、実証実験を盛んに行いましたが、圧縮解凍の形であり、圧縮解凍装置(トランスレーター)を流通業がほとんど持っていない状況であったため普及が滞っていました。
  その後、ECR(効率的消費者反応、戦略的提携)が出てきました。中身はCRP、CPFR、SBTです。CRP(連続補充システム)は、世界最大の小売業のウォルマートとP&Gが、EDI標準で発注データを受発信していたものを、在庫データを全部見せるから自動補充してくださいという話から始まりました。そのうち、来月の販売計画も全部開示しますからもっと正確に在庫を補充してください、とCPFR(協業的予想補充計画)が始まりました。SBT(レジ通過時精算取引)は、レジでスキャンしたときに売上が立つしくみです。小売店の在庫がベンダーの在庫となってしまうため、ウォルマートが始めたもののその後の話はほとんど聞こえてきません。
  さらにeーマーケットプレイス(電子市場)に発展して、世界の小売業が手を結びWWRE、GNX、あるいは一般消費財メーカのTransoraという団体を作り、商品マスターの共有化が進められています。実務的には歩みが遅くて、WWREとGNXが統合するというニュースが伝えられてきています。また、データプール同士で中身を連絡しあって協力しよう、というシンクロナイゼーションの動きがあります。WWREにイオンが入っていますので、プラネットのデータベースとWWREとのシンクロナイゼーションをXMLの仕様で実証実験をしましたが、つながることは確認出来ました。

Ⅱ.各種標準化の動向

  回線が安い、つなぎっぱなしで良いインターネットのEDIのプロトコルとしてXMLが唱えられています。日本でもJDICOSをJDICOS-XMLという仕様にして標準としようという動きが経済産業省で進められています。XMLというのは、インターネットの色々なサーバーを系由して世界中とびまわるうちに分からなくならないよう1つのデータ項目に発注日付、商品のJANコード、発信元は誰なのか、発注データとして使われるのか、といった荷札をいっぱいつけています。よって、従来のプラネットのやり方に対して、20倍以上のビッド数という非常に重装備になってしまいました。
  またRFIDについて、日本でも電子タグのメーカがブランド品の偽物防止として売り込んで、現在使われ始めています。電子タグのガイドラインに、持っている本人が知らないうちにつけてはいけない、本人が嫌だったら消すことも出来るようにするべきというガイドラインがでていますが、偽物防止の場合は、ほとんど気がつかないうちについている可能性があるかと思います。電子タグについて、実務的にはなかなか難しいです。例えば、ラーメンやシャンプーにつけるとすると20円30円ではまだまだ高い、レジで自動チェックができる、在庫チェックが出来るといっても、1回きりだとペイしません。ユニフォームのレンタル業での成功事例を聞いたことがありますが、回収して洗濯してまた出すような看護婦やコックの白衣に、洗濯しても壊れないような小さな電子タグを埋め込んでいるそうです。やはり、繰り返し使わないとペイしないというもののようです。最近は、ボタン型の物が開発されたと聞きました。他には、リサイクルや部品調達のときにアセンブリー工場の中で電子タグを有効に使ったという事例もでてきています。
  ウォルマートは今年から全商品に対する電子タグを全100数十社のベンダーに要求をしましたが、まだ1/3以下しかつけられていないということを聞いています。アメリカでは偽物防止以外に、パレットやダンボールに電子タグをつけて、流通段階での盗難防止に使っているという事例があります。倉庫の中でパレットごと商品が消えてしまうということがあるそうです。世界では、犯罪防止というのは深刻な問題なのかもしれません。日本では本の万引きが非常に深刻で、今講談社などが中心になって実証実験を始めています。本1冊に対する電子タグの値段というと全く採算に合わないと思いますが、盗難防止という業界全体の問題ととらえて、基金による補填をすれば成り立つのかもしれません。
  国際的な商品コード、事業所コードについては、GTINとGLNという新しい国際標準がEANやUCCで検討されて世界で使おうと言われ、日本でも導入が決められています。日本のJANコードを登録する流通システム開発センターの中に1部局として、GS1という組織が出来、今後標準の制定及び普及活動をしようとしています。EPC Globalという組織も出来て、RFID標準の検討を行っているようです。それからECRアジアではECRが更に研究されているようです。かつて日本でもECR日本というプロジェクトが一度立ちあがりましたが、結局頓挫してしまいました。なぜなのか、を端的に言うと、日本では実はEDIが動いていないからです。ECRというのはEDIの上に花が咲きますが、そこがなくて一足飛びにといってもなかなかそうはいきません。
  先般、産業構造審議会の流通部会の中の小委員会が終わり、報告書がオープンになりましたが、これに基づいて流通物流効率化法(仮称)という法律ができます。補助金や開発費の補填の他、税制の優遇措置を含めた検討をこれから行うという話を聞いています。その中で、インターネットEDIの普及・標準化や実証実験の試みや、GTIN・GLNという国際コードの導入、商品マスターのシンクロナイゼーションの実証実験や、業界ごとの商品データベースの育成、電子タグの実証実験に加えて、CO2の排出基準について業界ごとの計算基準をつくろうという話が出ています。

Ⅲ.レガシーマイグレーションの必要性

  B to BのEDIについて、日本は遅れていると言わざるを得ません。どうして遅れているのか、標準が浸透していないのが原因ですが、それ以前に急速なITの進歩にユーザーが追いつけないという大きな問題があります。
  ITの進歩の1つ目の方向は、ITが昔からのコンピューターメーカー毎のOS;レガシーからLinuxやWindowsなどのオープン系のOSに移行して、非常に高性能になったハードウェアを制御できるようになったこと、2つめの方向としてコンピューターも定型業務に対応する基幹系から非定型業務に適応するような情報系へ発達してきたこと、3つ目に、B to BだけではなくてB to Cやビジネスの中で実務的に意味のあるB to E(従業員)へ展開されてきたこと、4つ目に文字と数字のテキストデータだけから、マルチメディア、画像の処理、通信までに広がってきたことが背景にあります。これらの中でも、やはりレガシー問題が、大変大きな影を落としています。
  アメリカでは1990年ごろダウンサイジングによって無理矢理ハードウェアを1/6にしたという経緯がありますし、シンガポールとか台湾といったアジアの新興国はレガシー時代が無い、伝票発行から請求書の発行、給与計算まで最初からWindowsです。後発の優位性で当然の如くそうなっている、と。しかし日本においては古いコンピューターを使っていてオープン系に切り替わらないというレガシー問題があります。ハードウェアは高い、重たい、それから30年前のアプリケーションシステムが、消費税が導入されたとか、郵便番号が7桁になったとかで、後から見た人が分からない、まさにガラス細工の状態で温存されています。そうしますと、世界標準に合いません。まず、大型汎用のレガシーではインターネットにつながらず、先進的なお客さんが、インターネットで発注データを送ったり、CSVでEXCELに入るように送ったりしても、本社の大型マシンでそんなのは受け取れない、仕方がないから一度プリントして、インプットしなおす、そういうことをやっている会社も非常に多いわけです。プラネットはオープン系のTCP/IP通信を1999年からやっていますので、1日に数時間つなぐビックユーザーに、TCP/IP通信であれば、10分や15分で済むから早く切り替えましょうとお願いをしますが、なかなか切り替わりません。見に行くとやはりマシンルームの奥に受注出荷、在庫管理、請求書発行をする大きなマシンがあって、TCP/IP通信ができないわけです。そういうレガシー問題が8・9割くらい皆さんの会社でも抱えています。その一方でTCP/IPが整備された、インターネットやマルチメディア通信のできる高性能のパソコンが、マーケティングスタッフ、物流企画のスタッフの間で当たり前に使われています。スタッフにパソコンが浸透しているというのは、安いからということに加えて、対話型マシンだからです。
  EXCELで計算をしていて前年比何%、シェア何%と入れると、合計が計算されグラフにも直ぐできます。そういった非定型的な試行錯誤を伴うような分析・企画・調整、そして問題解決という仕事にオープン系マシンは使えます。そのような情報系が受発注とか請求といった基幹系に比べてデータ量が100倍になっているプラネットユーザーが大半です。それに対して基幹系と情報系がつながらないというのが今の実態です。
  加えて、文字コードがアスキーではないのは、非常に大きな問題です。携帯電話でもインターネットでも、文字コードはアスキーが世界標準です。例えば基幹系と情報系と両方入っている、世界の良いSCMのソフトウェアを投入する時にも、取引先を含めてTCP/IPができなかったら、文字コードが違ったら出来ません。パソコンを中間に入れてTCP/IP通信を行ったり、そのパソコンでデータやフォーマットを直さないと通信ができなかったり、となるとかなり大変です。
  そんなレガシーな大きなマシンがマシンルームの奥にあるということは、社員や経営者に伝わっていないのが現状です。『ITと経営戦略会議』の委員としてレガシー問題を講演した時も、国産のコンピューター会社のトップ層の方が、そんなことはないと言い切るんです。また、発注とか伝票発行というシステムをダウンサイジングする、レガシーマイグレーションするとそのハードウェア自身も要らないので、レガシーマイグレーションを提案しないコンピューターメーカーも多く、またユーザーも変えるのが怖いというのが現状です。
  よって、このレガシーマイグレーション・プロジェクトは社長が理解をし、社長がリスクがあってもやろうということでないと出来ません。是非、会社の問題として認識して、我が社がどうなっているのかを見直していただきたい、そうすると良いSCMも出来ると思います。

以上

*本稿は 、2005年年5月17日に開催された、サカタグループ主催第10回ワークショップ講演内容をロジスティクス・レビュー編集局にて編集したものである。



(C)2005 Hiromasa Tamanyu & Sakata Warehouse, Inc.

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