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第196号経営品質とSCMを考える(前編)(2010年5月18日発行)

執筆者 田中 孝明
サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校)、オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て、現在、サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長。
    • 福山平成大学 経営学部 非常勤講師,明治大学 商学部 特別招聘教授、
      文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業(経営品質科学に関する研究)研究分担者,
      神戸大学ビジネススクールMBAフェロー等を歴任/兼任。

*サカタグループ2009年7月28日「第15回ワークショップ/セミナー」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

1.本日皆様と一緒に考えてみたいこと

本日はお暑いところ、多数ご参加頂きまして誠にありがとうございます。私共の、日頃お世話になっておりますお客様あるいは関連先様等を含めまして、多くの皆様にお越し頂き、高い所からではございますが、厚く御礼申し上げます。
私の話は20分位という事でお時間を頂戴していますが、最初に登壇頂きました國部先生のお話、それと本日の最後にお話いただく玉生社長様のお話、それとすぐこの後の私共の増井の話を、一本の縦糸で紡いでいくような内容のお話をさせていただければと考えています。
資料はお手元にお配りしていないと思いますので、どうぞ気楽に、前のスクリーンを見てお聞きください。また文字の小さいところは、私が読み上げる等させて頂きますので、どうぞよろしくお付き合い下さい。

今日皆様方と一緒に考えてみたいなと思っております事が3点ございます。
1点目は、昨今の世界的な経済危機に対してSCMは本当に機能したのだろうか、どうだったのだろうかということを少し考えてみたいと思います。
2点目は、サプライチェーン・マネジメントの導入に取り組んできた企業はかなり多いと思うのですが-恐らく今日ご参加の皆様方の中にも多数いらっしゃるのではないかと思うのですが-実際今、どのようになっているのかという事を、統計値やアンケート結果等を踏まえて少しお話し、その上で中味を考えてみたいと思っております。
3点目は、これからのSCMあるいはロジスティクスを考えていく時に、どういう視点で捉えたらよいのだろうかという事です。私共の実務において、今はやはり、物流/ロジスティクスと言いますと、コストの問題、コスト低減の対象として捉えられるケースが多いのですけれども、本当にそれだけでよいのでしょうか。またコストの問題以外にも、今日最初にお話頂いたような環境問題への対応、あるいはアウトソーシング・情報化・人材の育成など、様々なテーマがあるのですが、こうした色々の物事をトータルで抑えていくような概念・考え方、そういうものがないだろうかなというようなことを、今日は一緒に考えて参りたいと思っております。

2.自動車業界でSCMは機能したのか?


まず、最初のこの資料なのですが、インターネットで面白い資料がありましたので、少しご参考にと思い、今日引っ張って参りました。
自動車メーカー様6社の棚卸資産回転期間、在庫の回転期間というように一般的には言われるのでしょうか、在庫回転率を逆にしたようなものですかね。棚卸資産の回転期間の6社の比較がありましたので、少しご紹介をしてみたいと思います。
この図を見て頂きますと、棚卸資産ですので完成車だけではなくて部品関係も統計値に入っているのではないかなと思われるのですが、それも含めてですが、2009年3月期で日産・スズキ・マツダは大幅に(数値が)低下している。一方、トヨタ・ホンダ・三菱は逆に増加している。そういう統計値になっています。
で、どうでしょうか?ここから何が読み取れるのかなという事を私も考えてみたのですけれど、ホンダや三菱はここにありますね。ブルーがホンダ。赤が三菱です。棚卸資産の回転期間というのはかなり確かに増えてきている。在庫が多くなっているというふうに読み取れるのかなと。トヨタも増えています。トヨタはずっと一番非常に低い値で来ているが、2008年4月から6月ですか、3月の決算を終えられた後位からこうずっと増えてきている。依然として低い数字ではありますが、この3社は増えている。
実態はどうなのでしょうか。実際問題として在庫が増えているのか、あるいはこれからの販売を控えて増産をされているのか。どういうふうに見えるでしょうか。幾つか見方があると思うのですが、いわゆるSCMというものに非常に先駆的に取り組んでこられていると言われているトヨタをはじめ、自動車関係の会社でも、今回の経済危機に際しては、かなり在庫の動きが不自然と言いますか、恐らく想定外の動きをされている会社が多いということは間違いないと思います。

3.SCの複雑化により電機業界では品不足も!?

次に、これは今年の6月1日号の日経ビジネスに出ていた記事です。タイトルは、「世界規模の最適化。一寸先は闇。サプライチェーンの盲点」というタイトルで、ウォールストリート・ジャーナルの翻訳です。
細かい所は割愛させて頂きますけれども、要はアメリカの家電量販店のベストバイという所からこの図は始まっているのですが、ベストバイがDVDプレーヤーを販売する時に、その販売台数を決め、東芝に発注するというのが図のここです。その次。東芝が中国にある製造の受託工場に生産を開始するように通告する。3番目。中国の製造受託工場がアメリカのゾーランという半導体の設計会社に半導体を発注する。4番目、またアメリカの方へ戻って、ゾーランが台湾のTSMCを始めとする自らの製造委託先に半導体の増産を要求する。5番目。こちらに戻ってまた台湾ですね。台湾のTSMCがアメリカのアプライド・マテリアルズから半導体の製造装置を購入する。また飛びまして6番ですね。アメリカ、カリフォルニア州のアプライド・マテリアルズが特別な機械加工を発注する。7番目。サプライチェーンの最終地点である機械加工会社がアプライド・マテリアルズのためにアルミの原材料を加工する。このような事がずっと紹介されています。
記事の中で紹介されていることは、ベストバイでは去年の秋、DVDプレーヤーの発注を大きく絞り込んだ。経済危機の関係もあって非常に絞り込んだ。絞り込むとすぐと言ってよい位なのですが、サプライチェーンにはいろいろな段階がありますけれども、様々な段階にいる企業が全て一斉に生産を取り止める、あるいは在庫の縮小に入るといった動きをした。そして、サプライチェーンの一番上流にいる、このサプライヤの会社、D&Hマニュファクチャリングでも、ほぼ同時期に所謂顧客が消滅したという記述になっています。
結果、ベストバイでは今年に入って在庫不足、これは東芝のDVDプレーヤーの事だと思うのですが、在庫不足に陥ってしまって販売機会を失ってしまった。このような例が紹介されていました。
これを見ると、確かにサプライチェーン・マネジメントというのは相当進展をしてきたと思うのですが、逆に今回のような経済危機を迎えてしまうと逆にこのサプライチェーン・マネジメントというのは、どう言えばよいのでしょうか、マネジメントが効き過ぎると言うのでしょうか、一遍にすっとサプライチェーン全体から在庫がなくなっていく、生産が縮小されていく。このような事態になってしまって、結果、品不足になって、販売が回復しない。サプライチェーンがどんどん複雑化してグローバル化していくと、またそのマネジメントをやりすぎると、逆に非常に問題が出てきているということを、この記事は知らせていると思われます。

4.SCM導入に関するアンケート調査(1)


さて、後ろにお座りの方には少し見にくくて申し訳ないのですが、文部科学省からの受託調査で、明治大学が5年間かけて実施した「Global e-SCM研究」 プロジェクトというのがございます。私もこのプロジェクトに参画させて頂き、そこでSCMの導入状況について企業にアンケートをとらせて頂きました。
2005年のアンケートの結果なのですけれども、主に大手のメーカーが中心で、260社に対してアンケートを実施して65社から有効回答を頂いたという図です。導入状況はどうですか?という事でお聞きをすると、こちらにありますように、「実現段階」もしくは「完成済み」と2005年の時点でお答え頂いた企業は約半分位。回答頂いた企業の半分位はもうこの辺りにこられていた、という状況になっています。
実はこの3年前の2002年に、同様の調査をプロジェクト内の別のグループが実施したのですが、その時からですと2割程このような回答を頂いた企業が増えている。ですから約3年の間に、相当SCMの導入というのは進んだのかなと見てよいと思っています。

5.SCM導入に関するアンケート調査(2)


次に、これは昨年2008年に実施したアンケートの結果です。同じく文部科学省の受託調査で、現在、「経営品質科学に関する研究」というプロジェクトが、同じく5年のタームで動いておりまして、私もこれに引き続き参加させて頂いているのですが、ここで行いましたアンケートの結果が前のスクリーンにあるような数字になっています。
先程のものと比較すると、数は少し増えているように思うのですが、有効回答数72社という母数からいきますと、55%の企業が「実現段階」以上と回答されている。2005年から2008年へと3年間経って5%増えた。増えたからそんなものだろうという考え方もあるかも分かりませんし、SCMの導入や構築というのもかなり進んできたのだという見方もあるでしょうが、少し気になるのは、同じ企業において、以前は「実現段階」にいると2005年の時点で回答されていたのに、こちらの「計画策定段階」の方に戻ってこられている企業が少なからずあると言うことです。また3年の間に色々なセクションができてSCM推進部とかの部署ができて、担当の方も変わられている。そうすると答えが変わってきているのではないかということです。
研究プロジェクト内で、他の諸先生と話をしていると、単なる流行と言いますか、SCMというのは一種のツールであるといった考えで導入された企業は、そろそろ見直しをしないといけないところに来ているのではないか、そういうことを話し合っています。
例えば先程ご覧頂いた自動車関係のメーカー。この中にはもう「完成済み」。2005年も2008年のアンケートでも「完成済み」という事で回答頂いている企業がいらっしゃいますが、どうでしょうか?先程の棚卸資産の回転期間等を見て頂きますと本当にそうなのかなと思われます。

以上

※後編(次号)へつづく



(C)2010 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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