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第103号定期報告書の先にあるもの―「改正省エネ法」という取り組み―(2006年7月6日発行)

執筆者 川上 みどり
アドバンスド・コア・テクノロジー株式会社
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • UNIX, Windowsネットワークシステムに精通。
    • アドバンスド・コア・テクノロジー株式会社にて、距離計算サービス、ECO2-Calcの開発に従事

目次

1.改正省エネ法スタート

  2006年4月1日、改正省エネ法が施行された。物流業界全体に「CO2」、「省エネ法」という声が聞こえ始めてから1年足らずであろうか。短い中の急速な勢いの中に、今や早くも業界のキーワードとなっているものの、それが何を云わんとし、自分とどう係わるのかすら把握しかねている企業があることも、その期間の短さが示す事実である。
  本稿では、改正省エネ法の概要と対策、課題について、データ収集を中心にひもとく。

2.改正省エネ法とは

  改正省エネ法は、京都議定書の目標値達成に向けたエネルギー施策の一つである。既設の省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)に対し、各部門における対策の強化とともに、運輸部門における対策が導入されたことが主な改正点である。
  運輸部門においては、すべての企業に省エネ対策(表1)を講じることを求めるほか、一定の要件*を満たす輸送事業者(運ぶ側)・荷主企業(運ばせる側)に、定期報告書によるエネルギー消費量の報告やエネルギー使用原単位**の前年比1%削減を目標とする省エネ計画の策定を義務付け、必要な対応を行わない企業については、社名の公表や罰金といった法的措置を設けている。よく耳にするCO2も、その排出量をエネルギー消費量と併せて定期報告書にて報告するものであるが、これは実際には、同時期に施行された改正温対法(地球温暖化対策に関する法律の一部を改正する法律:一定の要件を満たす企業に温室効果ガス排出量の報告を義務付ける)に係る報告となっている。
  なお、同法に係るスケジュールについては末尾に付記する。

【表1 省エネ対策の例】

ここで気を付けなければならないことは、最終的な国に対する報告等が義務付けられるのは一定規模以上の輸送事業者および荷主企業であるが、後述するように、報告等のためのデータは、詰まるところその企業の物流に関わりのあるすべての企業が協力しないと集めることができない、ということである。例えば報告義務のない輸送事業者だとしても、荷主企業からデータ提示を求められる可能性があることを忘れてはならない。
* トラック200台以上の輸送能力を有する輸送事業者および輸送量が年間3000万トンキロを超える荷主企業
** エネルギー使用量÷エネルギーの使用と密接な関係を持つ値(例:売上高、出荷量(トン)、輸送量(トンキロ))

3.定期報告のための取り組み

  計画の策定や定期報告には、計画書および定期報告書の雛形が用意されている。報告すべき値として、輸送に係るエネルギー消費量、CO2排出量等が定められており、その算定方法も提示されている。したがって、報告を行うためには算定方法に基づいたデータ収集が必要となる。
  提示されている算定方法は次の3つである。

・燃料法
燃料使用量を元にして算定する
・燃費法
輸送距離と燃費を元にして算定する
・改良トンキロ法
輸送距離と輸送重量を元にして算定する

  エネルギー消費量は、その燃料がどのくらいの熱量を持っているかを基準に算定されるため、計算に使う値の、燃料使用量への換算精度が高い程、正確な値を求めることができる。このため、燃料使用量から直接計算を行う「燃料法」が最も精度が高く、次いで「燃費法」、「改良トンキロ法」であるとされている。
  但し燃料法・燃費法については、エネルギー消費量を車輌単位で把握するため、混載便や共同輸送など、同一の車輌に複数の荷主の荷物が混載されている場合には、関与した荷主間での按分が必要となる。この場合、輸送区間毎に輸送重量で按分するのが最も好ましい「目標」とする手法とされ、それが難しい場合には、輸送トンキロで按分するとされている。すなわち、関与する全荷主の輸送区間毎の輸送重量または輸送トンキロが必要となる。いずれにしても荷主単独では算定し得ないため、輸送事業者が按分したものを入手しなければならない。「按分」は、荷主企業と輸送事業者とのデータ協調が最も必要とされる部分である。
  トンキロ法とは、輸送距離と輸送重量を元に、輸送機関別に設定されている係数を乗じる形で算定する方法であるが、「改良トンキロ法」は従来のトンキロ法に比べ、算定のための係数に、より細分化された値を用いる点が異なる。多くのデータを必要とするが、積載率向上等の取組効果を反映した算定を行うことができる。
  以下に、標準的な手法による報告書作成において荷主企業が収集する必要のあるデータについて述べる。基本的に、荷主企業は輸送重量以外を把握し得ないため、委託先である輸送事業者からデータ提供を受けることが前提となる。

≪燃料法による場合≫
燃料使用量について、輸送事業者からデータの提供を受ける。輸送事業者の協力が得られない場合、燃料法による算定はできない。
また、混載の場合には按分のためのデータが必要となる。

≪燃費法による場合≫
輸送距離、輸送に使用されたトラックの燃費について輸送事業者からデータの提供を受ける。輸送事業者の協力が得られない場合、燃費の代替データとして標準燃費データの利用も可能だが、この場合には別途、使われた車輌の使用燃料の種類および最大積載量が必要である。輸送距離には、推定値の利用が可能である。
また、混載の場合には按分のためのデータが必要となる。

≪改良トンキロ法による場合≫
輸送量のみ自ら把握し、輸送距離および、その輸送に使用したトラックの積載率・使用燃料・最大積載量について輸送事業者からデータの提供を受ける。輸送量を容積や個数で把握している場合には、重量へ換算しなければならない。輸送事業者の協力が得られない場合、輸送距離には、推定値の利用が可能である。使用燃料・最大積載量については、集荷・配送・地域内輸送等、輸送形態ごとに、代表的な車種の値を把握して利用する。積載率には代替データとして標準データの利用が可能だが、データの取得には使用車輌の最大積載量が必要となる。
なお、内航海運・鉄道・航空は、従来のトンキロ法での計算を行う。輸送距離には路線距離を充てる。荷主企業において、使用された輸送機関が不明の場合は、発注時に想定した輸送機関による算定をするとされている。
実際には、物流の内容も規模も種々多様であるから、より適切に値を算定できる方法を模索・採用すべきであろう。

4.取り組みにおけるボトルネック

  あるものが運ばれる(存在させたい場所に移動させる)ことの価値が、輸送の価格、すなわち運賃である。この価格の元には、物量や輸送距離をはじめ、ビジネス上の多くの基準があるだろう。だからこそ最終的に、物流を金額だけで表すことも可能になる。実際、枝葉のように流れ行く流通過程の、幹にあたる部分だけを把握している企業も少なくない。
  改正省エネ法は、「これからは、現在の価値基準に『環境に対する定量的な配慮』を加えましょう」と言っているに過ぎないが、蓋を開ければ前述のように、複雑かつ必ずしも現実的であるとはいえない要素が盛り込まれている。既に同じ視点を持つ企業にとっては何の関門でもないが、これまで物流を「物の流れ」ではなく「価格」で計ってきた企業にとっては、スタートラインに立つことすら容易ではない。行うべきことは山積みである。
  以下に、ボトルネックとなりうる事項を挙げる。ここではデータ収集に焦点を当て、他の項目については問題を提起するに留める。

①データ収集
まず、自社の物流が現状どのような内容で数値化されているのかを把握し、その上で、算定上利用可能なデータはどれか、新たに必要となる要素が何であるかを洗い出す(図1)。直接把握できないまでも、既存のデータから辿り得る値はないだろうか?自社固有の数値化されていない慣例もあるだろう。それを数値に当てはめれば、有効な値が得られるかもしれない。表2に例を挙げる。

【図1 算定に必要となるデータ】

【表2 データ把握の例】

②社内体制の確立
データ収集、省エネが遂行できる組織の整備・管理
意識教育・人材育成
③荷主企業・輸送事業者間のデータ協調
実輸送業者とのコミュニケーション
④小規模輸送の扱い
小口混載や主力ではない製品等の把握
⑤梱包資材の扱い
パレット、梱包資材等の把握方法
⑥所有権範囲の線引き
所有権移転後の納品物件の輸送、返品等
* 改正省エネ法対応 CO2算定パッケージ『ECO2-Calc(エコエコカルク)』アドバンスド・コア・テクノロジー株式会社
このソフトは、自動距離計算機能を搭載し、既存のデータ取り込みの柔軟性と、精密な算定、定期報告書フォーマットによる出力が可能なことが特徴である。

5.改正省エネ法自体の問題点

  改正省エネ法自体も、いくつかの問題点を抱えている。今後解決されるべき事柄を挙げる。
①提示されている算定方法による誤差
先に述べたように、算定方法として3つの方法が提示されている。同じくエネルギー消費量を算定するものであるが、弊社の試算では2倍以上の誤差を生じることがある。
②業種による算定精度の違い
業種によって、算定精度に違いが生じる。例えば、鉄鋼・自動車の配送と食品・コンビニ配送を比較すると、前者がルート・貨物ともに把握しやすいことに比べ、後者は流通経路が細微に渡り把握が困難であるため、推定値や標準値を適用せざるを得ない。
③既に環境対策を行っている企業の扱い
既に環境対策を行っている企業にとって、エネルギー使用原単位の年1%の削減は困難であり、不利となる矛盾が生じる。

6.本当の課題

  以上、改正省エネ法における報告書作成のためのデータ収集を中心に述べてきた。最後に、立ち戻って確認すべきことがある。なぜ、CO2排出量削減が必要なのだろうか。
  地球は、一定のバランスのもとに太陽エネルギーを唯一のエネルギー源として循環を行う閉鎖された空間である。いま、そのバランスが崩れつつある。すなわち「温暖化」である。温暖化は、大気中の温室効果ガスが増加した結果であるが、温室効果ガスのうち実に9割をCO2(二酸化炭素)が占める。これは18世紀の産業革命以降、急速に化石燃料(石油)が使われ始め、さらに森林の乱伐等によって閉ざされた循環におけるCO2の吸収・固定との均衡が破れたことによる。これを食い止めるために世界規模で定められたのが京都議定書といわれるものであり、改正省エネ法のおおもとである。
  ここに「もの」がある、ということはそれが運ばれてきたことを意味する。運ばれてきたということは、現状においては化石燃料(軽油・ガソリンなど)が消費されたことを指す。すなわち、ここにあるという(例えば企業の経済的)価値には、何億年もの間保たれてきた地球のバランスを崩すというコストが対峙している。これはいわば、今我々が生きていくために必要なことと、我々の次の世代、子々孫々が生きていくために必要なことのバランス(天秤)である。
  産業や社会の成長の歴史の中で、後ろを振り返らない時代は終わり、社会や地球との共生の図れない成長は、もはやありえないことは周知の事実となっている。
  目に見えない省エネを価値にしようとする行政の動きは始まった。省エネを価値と認め始めた消費者の意識を前に、省エネを価値として位置づけられる企業となれるかどうか。
  因みに、CO2排出量の割合は、世界において日本は約5%、うち運輸部門は約20%、うち半分は自家用車である。計算上はその残り、たかだか0.5%内における取り組みであるが、取り組むべきは字面ではあるまい。本当に取り組むべき課題とは、ものに載せて消費者に企業に社会に、本当のコストを伝えることではないだろうか。
  改正省エネ法は、もの・企業・社会を含めた市場価値がシフトするひとつの過程に過ぎない。新しい価値をいかに信じて取り入れてゆけるかが、これからの企業価値につながると考える。

【付記 改正省エネ法スケジュール(荷主企業)】
平成18年4月1日 改正省エネ法施行 トンキロデータの把握
平成19年4月末日 トンキロ(平成18年度)の届出→順次特定荷主の指定
平成19年9月末日 計画書(平成19年度)、定期報告書(平成18年度実績)の提出
平成20年4月末日 トンキロ(平成19年度)の届出(既指定の場合は不要)
平成20年6月末日 計画書(平成20年度)、定期報告書(平成19年度実績)の提出

【参考文献】
『日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2006年5月』温室効果ガスインベントリオフィス編
『平成16年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)』資源エネルギー庁エネルギー情報企画室
『荷主のための省エネ法ガイドブック』資源エネルギー庁省エネルギー対策課編著
『ロジスティクス分野におけるCO2排出量算定方法 共同ガイドラインVer.2.0』経済産業省/国土交通省

以上



(C)2006 Midori Kawakami & Sakata Warehouse, Inc.

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