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ロジスティクス

第94号LOHAS:ロジスティクスの役割~そのステータスを上げる(2006年2月23日発行)

執筆者 野口 英雄
有限会社エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴 1943年 生まれ
    1962年 味の素株式会社中央研究所入社
    1975年 同・本社物流部へ異動
    1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    1999年 株式会社カサイ経営入社
    2000年 有限会社エルエスオフィス設立、カサイ経営パートナーコンサルタント
    2001年 群馬県立農林学校非常勤講師
    現在に至る
    所属団体など ・日本物流学会会員
    ・日本物流同友会会員
    主要著書・論文 ・ 「ロジスティクス・ウエアハウス」(1993年,日本倉庫協会論文賞受賞)
    ・ 『日刊運輸新聞』に「低温輸送ビジネスを掘り起こす」連載(1999年4月~2000年10月)
    ・ 低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く」野口英雄著,プロスパー企画,2001年7月

目次

1.はじめに

ロハスという世相に見るロジスティクスの役割
  3文字略号ではないが、また新しい横文字言葉が流行りだしている。しかもそれは一部の専門家だけが使うものではなく、一般消費者を巻き込んだ概念だ。個人の意識として実行し持続させるのは難しい健康や環境への取り組みを、商業主義にのせて展開していくのはあるいは意味があるかもしれない。
  未だに京都議定書を批准していないアメリカからその概念が生まれてきたというのも皮肉でおもしろい。ブッシュ政権の支持率が低い理由はあながちイラク問題だけではなさそうだ。この用語は既に商標登録が行われており、これをマーケティングの世界で商売にしようとするのもいかにもアメリカ的だ。
  昨年末に開催された「エコプロダクツ2005」という展示会をのぞいてみたら、マーケッターやクリエイターとおぼしき人々も含め大変な賑わいを見せていた。そしてそこで行われた講演会で無料とはいえ少々気になることがあった。先ず最初の生活雑誌編集長による「ロハス・ビジネスのツボ」という講演は満員盛況だったが、次に外国化粧品メーカーのトップが行った「環境配慮と利益追求は持続的に両立できる」という環境経営としての講演では、聞き手がガタッと減り、講演中にも席を立つ人が後を絶たないという状況だった。
  確かにこの催しの目的が商品開発や販売であり、環境経営は別次元の話ということかもしれないが、講演者はロジスティクスという言葉を何回も使い熱弁をふるった。それにも拘らずこれらの関係者には中々伝わらなかった概念だろう。確かに難しい言葉であり考え方かもしれないが、マーケティングと同じ次元でもっと一般消費者にも分かりやすいものにしていく必要があるのではないか。
  ロハスにロジスティクスがどう関係するかといえば、まずはサプライチェーン全体を含めた品質管理であり、省エネ・環境負荷低減、そして循環型社会の形成等である。少子高齢化もふまえた生活者へのロジスティクス支援も、これに加えられるべきだろう。

(図表1)

2.環境マネジメントの高まりと循環型ロジスティクスの重要性

  あるべき論としての環境対応から、それがビジネスにもつながり、結果として経営効率向上にもなったという事例は確かに出てきている。ロジスティクスの中で厳しい与件として避けて通れない課題にもなっている。もはやそれは機能を組み立てる上の制約ではなく、クリアしなければならない使命と考えるべきだろう。
  小社の主な活動領域である低温ロジスティクスにおいても、幾つかの重要な動きがある。一例を挙げると、クリーンエネルギーであるLNG(液化天然ガス)は-162℃の状態で貯蔵されているが、これを燃料として使用するには常温にガス化する必要があり、この162℃という冷熱エネルギーは現状では海に捨てられている。一部が冷凍食品の製造や冷蔵倉庫のエネルギー源として使われているが、大半は未利用である。この有効活用についてはさらに低温破砕として廃棄物処理が考えられる。廃家電や古タイヤを脆性破壊し、成分を分離させる技術である。現状では設備コストと、冷熱で一旦液体窒素を製造するという点が課題になっている。
  ロジスティクス・ネットワーク構築としては、低温も常温も分けずに一体として考えていく一括物流の流れが大きくなってきている。そうしなければ店舗への納品車両台数削減や積載率向上にも限界がある。これを店舗側の荷受け・搬送・陳列等の店内作業省力化にもつなげる。店内でのゴミ発生を抑制するリサイクル容器での納品や、それでも発生するゴミを処理するリバース物流を含め、小売店舗の環境立地を持続させる重要な機能となる。
  このようにロジスティクスがリテイルサポートを果たす余地は多くある。
  循環型社会を形成する上で、ロジスティクスが果たす役割は大きい。いくら健康や環境に優しい商品を開発しても、この働きがなければ完結しないということを、ロジスティクス関係者はもっとアピールすべきだ。消費者も含めこのことに一定の理解が得られなければ、それは相変わらず一部の専門家だけの技術で終わってしまう。

3.ロジスティクスは物流の延長ではない

  各企業にあって物流の課題はもうやり尽くし、全面アウトソーシングで何の問題もないと語る経営トップもいるが、果たしてそれは本当だろうか。
  物流管理にはコストを低減し、スピードや生産性を高める機能の側面と、顧客に対しどのような効果をもたらすかという戦略の側面の、両面が絶対に必要である。これがシステムとして目的を達成する仕組みになっているかどうかは甚だ疑問で、物流事業者に値下げを要求し、ギリギリのところまでやってきたというのが真相ではないだろうか。この戦略面がなければ単なるプロダクトアウトのシステムである。
  ロジスティクスは顧客に対し合目的な商品供給を行うという点では、物流とは明らかに次元が違う。起点はあくまで顧客・市場であり、マーケットインのシステム作りである。これにはモノの流れだけではなく計画・統制といった機能が加わり、商品やサービスそのものを生み出すマーケティングの活動とも連動する。物流コスト管理が軌道に乗ったとしても、それはロジスティクス機能の一部に過ぎない。これをサプライチェーン全般にわたってシステムとして管理する仕組みが、ビジネスモデルの基盤になる。
  このロジスティクス運営そのものを3PLにアウトソーシングしてしまうというのは、凄い時代になったものだと痛感する。よほどのシステム作りや、管理基準の設定とその監視・処置が行き届かなければ不可能なはずだ。ここまでやってマーケティング活動に特化するというビジネスモデルとは何か、この役割を分担できる3PLが存在するのかということも未だ強い問題意識を持たざるを得ない。従って3PLも既存の物流事業の延長ではない。最低限ロジスティクス視点からの出発であるはずだ。

4.マーケティングとロジスティクスの関係

  マーケティングとは消費者に対する需要を創造・喚起する活動であって、その主な要素は商品開発・価格設定・流通チャネル・広告宣伝・販促施策・物的流通のいわゆる6P(各要素の頭文字をとったもの)と言われている。価格設定や広告宣伝・販促施策はマーケティングマターの問題だが、これとてもロジスティクスに無関係というわけではない。残りの3つの要素は直接関係してくる。
  これに対してロジスティクスは上記活動によって意図した需要を充足する活動であって、具体的には原材料を調達し、商品を生産して流通させる機能を担う。回収・廃棄というリバース機能も重要だ。そこでは物流管理に加え、情報を活用した計画や統制としての需給管理がコアになる。これに使われる情報システムとは単なるオーダープロセッシングだけではなく、需要予測に必要な各種情報の把握が必要になる。これは当然社内だけではなく異種企業にも及び、これがSCMの原型になる。その起点が消費情報であることは言うまでもない。
  SCMの基本概念としてのECRの中で、ロジスティクスが商品補充機能として、カテゴリーマネジメントや販促施策と同列に位置付けられているのには甚だ違和感があった。それはもっと大きなシステムの広がりであって、商品補充はその根幹をなすとはいえ全てではない。つまり循環型ロジスティクスを考えたとき、さらに多くの課題消化が必要になるからだ。

(図表2) マーケティングとロジスティクスの関係

5.おわりに

ロジスティクスはマーケティングの下位概念ではない
  マーケティング要素の中に物流が位置付けられているものの、これはロジスティクスではない。そこでは単に保管や輸配送機能が想定されているだけだろう。マーケティングに優れた力を発揮する企業でも、ロジスティクスで失敗するケースもある。新発売の商品が想定以上にヒットし、生産が追いつかなくなったためアイテムをカットしたりするのはその一例であろう。認められていない原材料を使用してしまったり、商品に異物が混入し回収の告知を出したりするのも同様だ。社内のチェックをすり抜けてしまっている。
  逆に世界同時発売を有力な販売戦略とするような企業は、マーケティングとロジスティクスのバランスがいい。地球規模でサプライチェーンをコントロールすることは並大抵のことではできないはずだ。周到な計画と、組織としての実行力があって初めて可能になる。
  マーケティングとロジスティクスの融合は、企業の組織・人材育成・システムそのものが、それを実現するに相応しいかたちになっていなければ不可能である。もちろん一朝一夕にそれが完成するわけでもない。ロジスティクス部門が明確に位置付けられている企業はその意図を感じさせるが、さらにマーケティング部門と一体になっているところはもっとアグレッシブな姿勢が伺える。
  ロハスな時代がやってきて、それがビジネス全般に大きな影響を与えていくことはいいことだ。消費者が健康や環境を考え、それを実行し持続させていくのも大変な努力がいる。そしてそのコンセプトには自分や地球だけではなく、「相手にも優しい」という要素があるらしい。マーケティングに携わる人々が先鋭的な感性でそれを商売につなげるのと同じように、ロジスティクス携わる我々もその世間における認知度を高め、存在感を上げる努力をすべきだと思う。マーケッターもある程度ロジスティクスのことを知っていなければ、仕事は完結しないはずだ。それは決してマーケティングの下位概念ではない。

以上

(参考文献)
「ロジスティクス入門」:神奈川大教授・中田信哉著、日経文庫、04/8刊



(C)2006 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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