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ロジスティクス

第441号 物流スタートアップの動向と課題(後編)(2020年8月6日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

*前号(2020年7月21日発行 第440号)より

5.Shippio(シッピオ)

(1)起業の経緯

  Shippio社の佐藤社長は、大学卒業後に大手総合商社に就職し、主に原油タンカーの手配業務を行った。
  国土交通省の資料によれば、日本の貿易の99%以上(重量ベース)が海上輸送であり、その約80%がバルク貨物(原油・LNG等のリキッドバルク、鉄鉱石・石炭・穀物等のドライバルク)である。これらのバルク貨物は荷主による1船貸切(チャーター)で輸送され、船舶を運行する船社から見れば、貨物輸送の需要に応じて配船する不定期船である(貨物を求めて全世界の海洋を彷徨うのでトランパー=放浪者という)。したがって、貨物と船腹の需給状況や燃料価格等によって、運賃も高騰したり下落する。
  佐藤社長は、このような不定期船である原油タンカーの手配業務を通じて、船舶手配や貿易諸手続き等の煩雑さを実感したので、それをITで効率化しようとデジタルフォワーダーであるシッピオ社を、2016年に設立した。

(2)商品・サービスの概要

1)デジタルフォワーダーとは
  フォワーダーとは、日本では「貨物利用運送事業法」で貨物利用運送事業として定められ、運送事業者(トラック・鉄道・海運・航空)の行う実運送を利用して貨物の運送を行う事業である。
  2.で説明したCBcloud社もトラック(軽貨物だけでなく一般貨物も)の利用運送事業者である。
  利用運送事業者(フォワーダー)は自己の責任において荷主と運送契約を結び、荷主に対しては運送責任を負う。一方、荷主との運送契約を履行するため、運送事業者と運送契約を結び、実際の輸送を委託する(㈱日通総合研究所編「ロジスティクス用語辞典」)。
  実際には、利用運送以外にも通関などの業務を行っているのがフォワーダーである(図10)。
  図10では、発荷主から積出港の船社までが描かれていて、その流れ全体を上手く回すのがフォワーダーの役割・機能である。さらに、仕向港での陸揚げから着荷主の引渡しまでも発地側のフォワーダーが一括して、国際複合一貫輸送として引き受けることも多い。
  国土交通省では「サイバーポート構想」として港湾の電子化を実現する「港湾関連データ連携基盤」づくりを進めており、その概要が図10である。図10の上半分に「現状」として、「個々の電子化が行われているが、紙手続きも存在する」とされているが、実際には関係各社の様式(用語)が統一されておらず、書類・FAX等の紙ベースが多い。
  それをフォワーダー(図10では海貨業者)が、関係者間を繋いで、あるいは書類を持って走り回っているという次第である。大手フォワーダーの中にはIT化している例もあるが、荷主等からEDIで送られるケースは少なく、送られた書類・FAXを社内で入力しているケースが多い。人件費の安い沖縄や中国にデータ入力センターを置いているフォワーダーもある。
  サイバーポート構想では、それを図10の下半分「将来」図のように全てデジタル化して、一度入力されたデータを関係者間で使い回そうとしている。

図10 国際貿易(海上輸送)のIT化
(出所:国土交通省「サイバーポート構想」資料)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  Shippioが展開しているデジタルフォワーダー事業は、フォワーダーが、図10の荷主から船会社までの情報流をデジタル化・一貫処理して、国際物流全体の効率化・迅速化を推進しようというものである。
  図10を見ると、通関についてはNACCS(Nippon Automated Cargo Clearance System:日本貨物通関情報処理システム)によってシングルウインドウ化が実現されている。現在、第7次NACCSの開発が進められており完成すれば、スマホで通関の申請・許可業務ができるようになる。
  2020年4月7日のカーゴニュース紙によればば、通関業務の在宅勤務の申請が4月1日現在、全国で550人を超えた(財務省関税局発表)とされている。2017年10月に通関業法の基本通達が改正され、在宅勤務が可能となったが、これはWebでNACCSに接続できることが大きい。
  今般の新型コロナウイルス禍により、一挙に通関業務の在宅勤務が増加したが、在宅で通関業務ができれば、育児中の女性にも通関業務の門戸が開けることもあり、最近は女性の通関士も増えている。
  新型コロナウイルス感染拡大防止のため、フォワーダーの中には荷主との書類の受渡し窓口である東京都内のフロントを休業したり、紙ベースでの受渡しを一時休止してFAX等に限定した会社もあった。
  閑話休題。このように、フォワーダーを中心とした国際物流・貿易手続き業務においては、既にデジタル化が官民で進められており、Shippio社が進めるデジタルフォワーダーは、大きなアドバンテージがあると思われる。
  ただ、わが国でも大手フォワーダーでは既に図10のような国際物流情報システムを自社で開発して、世界中の物流をリアルタイムで把握可能な情報ネットワークを張り巡らせている例も多い(後述する、世界的なデジタルフォワーダーのFLEXPORT社も同様である)。国際的にはシェンカー社(ドイツ)・キューネ&ナーゲル社(スイス)などのメガ・フォワーダーも同様である。
  大手のグローバル企業の多くは、既に大手フォワーダーや船社(NVOCC含む)・航空会社(インテグレーターなど)が入り込んでいるので、Shippio社のターゲットは、どちらかと言えば中堅以下の輸出者・輸入者であろうと思われる。また、そのようなマーケットから貨物量を束ねて、ボリュウムディスカウントにより船社・航空会社から安い運賃を引き出して混載差益を極大化することが、フォワーダーの真骨頂でもある。

(3)今後の展開

1)デジタルフォワーダー同士、船社との競争
  デジタルフォワーダーについては、米国のFLEXPORT社が先行しており、佐藤社長も同社を手本にShippio社を立ち上げた。
  デジタルフォワーダー最大のFLEXPORT社の取扱実績は、2018年で10万TEU程度と推測され、中国からの輸入商品をアマゾンで販売する新興EC事業者が多く、大手荷主の利用はこれからのようである。
  また、フォワーダー以外にもA.P.モラー社(メガ・キャリアであるマースク社の親会社)では、IBM社とTradelensというブロックチェーン技術を国際貿易プラットフォームによって荷主を囲い込もうとしている。

図11 Tradelens
(出所:日本IBM資料)
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  また、メガ・フォワーダーと言われる大手各社もフォワーディングのデジタル化には、積極的である(図12)。

図12 物流企業のデジタル技術活用事例
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  このような大競争のなかで取り残されるかも知れない、中堅以下の荷主は少なくない。プラットフォームだけでは拾いきれない国際物流需要を、ITを活用したきめ細かいフォワーダーサービス(貿易・通関・国際物流の手配代行など)で取り込んでいくことが、Shippio社などデジタルフォワーダーの強みではなかろうか。
  実際に、シッピオ社を利用する荷主には、中国などアジアとの貿易を扱うメーカー・流通業・商社などが多い。今後、ますます増大するアジアとの貿易拡大の流れに沿った事業拡大に期待したい。
2)異業種との協業
  CBcloud社やsouco社でも紹介したが、異業種との協業・提携についても大いに期待がもてる。
  図12は、ANAグループのANAカーゴ(一般貨物が中心)・OCS(元・海外新聞普及。クーリエと言われる少量貨物が中心)との協業である。ANAはCBcloud社とも提携しているが、大手航空キャリアといえども、物流スタートアップとの提携が必要になったということではないだろうか。

図12 ANAグループとの協業
(出所:シッピオ社資料)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

6.終わりに

  これまで、CBcloud社・ニューレボ社・souco社・Shippio社の物流スタートアップ4社から社長など経営者のヒアリング内容と、筆者の感じたところを述べてきた。
  最後に、課題と展望について何点か述べたい。

(1)物流は宝の山

  4社が共通して述べておられるのは、「物流は宝の山」ということで、物流・ロジスティクス・SCMの世界に飛び込んで来ておられる。そして、「こうすれば、こんなに良くなりますよ(儲かるんですよ)」と、熱意を持って事業展開しておられる。
  ともすれば、筆者などは「低賃金・長時間労働」が染みついてしまって、「どこが宝の山か?」と思ってしまう。
  しかし、このことは物流スタートアップだけでなく、ダイフク社の下代社長やフレームワークス社の秋葉社長も言っておられる。
  要は、「こうすれば」ということで、それはDX(デジタル・トランスフォーメーション)だったり、規制緩和(制度改革)や標準化(規格化)だったりする。我々も、既成概念に囚われず、もう一度見直してみる必要があるのではなかろうか。

(2)物流は課題の山

  これは今さら説明する必要がない。ただ、4社はそれが「課題」だと気付いたことが、スタートアップの入口だったと言える。
  気付かない既存のプレーヤーは、スタートアップにリーダーシップを取られてしまうか、提携・協業するしかないのかも知れない。

(3)DX(デジタル・トランスフォーメーション)

  4社ともペーパーレスで、スマホのアプリか、PCの規格化された画面からの入力でしか受け付けない(レディメード)。そして、1回入力されたデータをトコトン使い回す仕組みを作り上げている。そして、システム開発力が最大の武器と認識している。
  「お客様は神様です」なんて言う、特別扱い(個別対応・オーダーメード)はしてくれない。その代わり、ムダ(紙・電話など)を徹底的に削ぎ落して、安い・早い(旨いかどうかは分からないが)サービスを提供している。
  また、在宅勤務・テレワークを率先して実施している。
  DXそのものとは関係ないが、各社を訪問してみて感じたのは、物流は自社でやるのではないノン・アセットであるから、倉庫や港湾などノードに拠点を置く必要がない。優秀な人材を集めやすいように、物流業界の常識では考えられない青山・六本木など都心部にオフィスを構えている。

(4)既存業者との競合と連携

  物流スタートアップが既存業者と競合することについては、予め予測できたが、4社とも既存業者との連携に力を入れていることは意外であった。
  「身の程を知っている」という訳ではないが、軽トラックや倉庫スペースのマッチングにしても、倉庫の在庫状況や既存キャリアの輸送能力にしても、既存業者のアセットを利用しないとスタートアップ自体が成り立たないことを十分に認識し、提携・協業を進めている。
  物流に限らず、スタートアップは投資家やファンドが命綱である。新型コロナウイルス禍で、投資家・ファンドのスタートアップに対する選別の眼は厳しくなっている。
  幸い、4社は今のところ資金の手当ても順調のようであり、今後の成長が期待される。
  また、経済産業省は官民共同によるスタートアップ育成のために、J-Startupとして数多くのスタートアップを選定・支援している(残念ながら、第1回・第2回の選定には物流スタートアップは含まれていない。国土交通省にも物流スタートアップへの支援を期待したい)。
  ただ、4-(3)-2)で述べたように、どうしても、大企業はスタートアップを下請けのように捉える傾向がある。それも古い企業や役員ほど多いようである。
  その辺りを考え直して、パートナーとして提携・協業を進めないと、知らないうちに業界のデファクトスタンダードとなって、リーダーシップを奪われかねない。
  フレデリック・スミス氏は、大学でハブ・アンド・スポーク方式を卒論に書いたが、「非現実的だ」と教官に最低ランクを付けられた。それに発奮して実証したのがFedEXの創業というのは有名な逸話である。
  FedEXも物流スタートアップとして陸上運送を手掛け、米国最大の貨物航空会社フライング・タイガーまでも買収して、3大インテグレーターの1社になった。
  「物流スタートアップも、ひょっとしたら同じようなことが起こるかも知れない」と、4社のヒアリングを通じて感じた次第である。

以上


  
【参考資料】

  • 本文中に掲げる各社・団体のパンフレット・HP等の資料(雑誌・新聞記事は省略)
  • 経済産業省「J-Startup」関係資料(経済産業省HP等)
  • 鈴木暁編著「国際物流の理論と実務(6訂版)」成山堂書店、2017
  • souco社「WORLD LOGISTICS REPORT 2019」(Vol.1,Vol.2)同社HP
  • 同「WORLD LOGISTICS STARTUP LANCSCAPE(物流スタートアップカオスマップ2019全世界版)」同社HP、中原社長が世界の物流スタートアップ500社をマップに収録したもの
  • 長谷川雅行「MaaSと求車求貨システム」(「物流問題研究No.68」流通経済大学物流科学研究所、2019夏)


(C)2020 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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