ロジスティクス・レビュー

第442号  ロジスティクスのクローズド・システム化 :新型コロナウイルス禍を機に改めて考える(2020年8月18日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)
    執筆者略歴 ▼

  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
           現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
           (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

目次

1.クローズド・システムの意味

  瞬く間に世界中へと拡がった昨今の新型コロナウイルス禍について、ロジスティクスシステム・インフラの在り方に付いて考えさせられる部分が多い。特に食品・日雑・医薬品等の消費財について、如何にクローズド・システムに近付けるかという課題である。製造工程においては極めて厳密に品質管理されていても、一度流通工程にリンクするとそこはもうオープン・システムということでは、抜本的対策もあり得ない。外装を外して、個装単位で流通させる場合もある。一次産品を含む低温食品については、温度維持という観点からクローズド・システムが大前提となっているはずだが、それとても管理欠落が生じている。まして微生物のレベルで、それを防御するシステムにはなっていない。更にウイルスレベルでは言わずもがなであろう。フードディフェンスという概念が言われ始めたのも、そんなに新しいことではない。


(写真1:冷蔵倉庫ドックシェルター、提供横浜南部市場)
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  長い流通工程を考えた場合、まずメーカー段階までは一応管理が行き届いているにせよ、それがアウトソーシングされた状況や、青果市場・卸店等の中間流通へ移管された時、そして最終小売店へ到着した段階では、多くがオープン・システムと言える。これでは商品品質を保護するという側面だけではなく、微生物制御という観点で管理するのは極めて困難であり、ましてウイルスレベルでは不可能に近い。しかし管理する人々の意識や、設備設計・運用の考え方等について、現状のままでいいはずがない。理想に一歩でも近付ける取り組みが必要になる。防御するには密閉し、殺菌しなければならない。


(写真2:庫内遮蔽ゾーン、同上)
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  そのためには具体的な管理手法を習得し、実践が伴っていく必要がある。それで設備の不具合を少しでもカバーし、理想のかたちを求めていく。HACCPやISOの考え方に従うのはまず第一歩であり、それを踏まえた物流センターも既に建設されている。しかしそれだけでは焼け石に水であり、もう一度危機管理やBCPといった観点から今できることは何か、更に次ステップでの課題を明確化しておくことが経営として求められる。それは従業員を巻き込んだ業務品質管理活動と、車の両輪としての活動になる。


(図表1:活動区分と具体的項目)
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2.出発点は一般的衛生管理手順

  倉庫業法においてまず冷蔵倉庫については、生物を扱い流通加工する場合もあるので、食品衛生法に基づき一般的衛生管理手順が義務付けられている。それは建物の密閉性や排水構造等に関するものもあるが、優れて従業員の手洗いや清潔維持に関するものであり、衛生管理の基本中の基本ということになる。そのためには一定の訓練を受けた管理責任者の配置が必要であり、更に50人以上の事業所では法的資格を有した衛生管理者を置くことが義務付けられている。このリーダーを中心に、まさに日常業務において管理状態を作ることが不可欠となる。
  物流システムにおいて難しいのは、管理外になりがちなドライバーのような職種を、如何に管理内に引き込めるかどうかである。一般的に倉庫前室はオープンスペースとなっており、ドライバーが外部から自由に出入りできるようになっているが、これをクローズド・システムにした例もある。ドライバーの出入り口を固定し、そこに靴洗い場を設け、手洗いをしないと内部に入れないような仕組みである。衛生管理が厳しい生鮮食品工場への納品では、靴を履き替え白衣に着替えなければならない場合もある。要は内部と外部は厳しく遮断し、入室する際は手洗い等の処置をする。
  一般的衛生管理手順は各自治体の保健所の専管事項になっているが、倉庫業の運営が保健所との連携で成り立っていることは余り知られていないだろう。ここに意識改革の必要性がある。これは輸出入品の防疫という観点からも重要になる。もちろん税関職員が倉庫内に査察に入る場合もあり、それとも連携する必要がある。日本の通関システム運営については、リードタイムが2日程度掛かっていると見られるが、この短縮化も課題であり、ハード・ソフト両面での改革が必要になる。生鮮食品ではこれを更に短縮化することが求められている。

3.HACCPの基本的な考え方


(図表2:前提としての考え方)
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  これは基本的には製造設備に関する国際認証であるが、物流設備もこれに準じて設計されたケースがあることは前述した。必要な管理項目について基準点を設定し、それをクリアする日常業務管理を行う。微生物の例で言えば、自然界に通常存在するものであり、それを一定水準以下に抑制すれば病害リスクを回避できる。微生物が増殖できない環境条件を維持し、その状況をチェックし管理するという考え方である。バクテリア等の微生物では温度環境が一つの重要要件であり、これを管理できればリスクを抑えることができる。一般的には加熱殺菌等により菌数を低減させ、その状態を維持していく。一方でカビ胞子のようなものは加熱殺菌では死滅しないものもある。生鮮食品では加熱殺菌できない場合もある。
  基本的な考え方はまず設備を密閉状態にすることが前提で、それを汚染ゾーンと清潔ゾーンに分け、モノの移動が交差しないように動線を設計する。外部から搬入したものは汚染物質であり、これを内部で無菌化し清潔品とする。ところが物流センターではこの動線設計が難しく、まず入庫品と出庫品を完全に分離するのは不可能に近い。そして返送されたものや、破損した商品等もある。これを清潔品と完全に分ける前提となるが、もちろんスペース効率の問題もある。これを場外に隔離すると、腐敗等の別な問題も発生する可能性があり、限られたスペースで如何に迅速に処置できるかが問われる。
  物流システム運営における衛生管理については、管理点を定めその状況を定量化し可視化するのは大変難しいが、できるところからやっていくしかない。従業員が使う生活スペース等も同様である。使用するパレットや容器等については、できれば洗浄殺菌の内部化が好ましいが、これもスペースとコスト面からレンタルということになりがちだが、充分に監視していく必要がある。物流業務品質管理活動の基本は、管理状況の定量化であり、これに可能な限りの衛生管理ポイントを加え、可視化する状況を作っていくことが重要である。それが基準点を超えたらどう処置するかは、品質管理と同様である。


(図表3:活動のレベル)
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4.更にISOに進化させていく

  HACCPはどちらかと言えばオペレーションに関する管理であり、これにマネジメントをどう連動させるかということで、従来のISOと合体させたものが食品領域のISO22000という新たな国際認証である。ISOは経営としてのコミットメントに関する条項が付加され、これとHACCPのオペレーションを連動させようとしているのがミソである。ISOは従来からの品質管理活動そのものであり、まさに経営レベルの活動と現場レベルの活動を調和させることが基本である。もちろんISO22000は食品事業領域に特化されているが、食品事業者だけではなくそのサプライチェーンに関わるあらゆる事業者に適用される。
  QC活動は小集団活動と同一と誤解されがちであるが、それは活動の一つの形態に過ぎず、自主活動を促す上でもちろん有効だが、それだけでは改革には中々繋がらない。活動テーマには必ず現状水準を維持する側面と、それを打破し改革へ繋ぐべき2つの側面があり、後者はトップダウン的に行わなければ、時間ばかり掛かって改革には結び付かない。つまり活動には全員参加を前提に取り組むものと、プロジェクト的に行う2つが必要である。概して自主活動を促すということが隠れ蓑となり、管理者が関与すべき改革側面が遅れることにならないよう、充分注視していく必要がある。


(図表4:ISO22000の組み立て)
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  改善活動の軌跡が業務標準化へと繋がり、それが業務マニュアルに反映されていく。ISO活動ではこれが成果として得られ、アウトプットとして進化していかなければ意味がない。業務標準化レベルが進めば、情報システム化もやりやすくなり、アウトソーシングにも繋げられる。その必要な地ならしとも言える。もちろんそれにハードの改善が伴わなければ効果は低減してしまうが、重要なことは常に理想は何かを考え、そのステップを刻み続けることである。

5.SCMにおける重要管理

  この度の新型コロナウイルス問題で、サプライチェーンを分断され変更を余儀なくされた部分もある。世界各地があらゆるサプライチェーンで繋がっていることを示し、そこに管理欠落が生じると全体に大きな影響を及ぼすことが図らずも証明された。前提としてはモノの流れだけではなく、防災やテロ防止、そして今度のような防疫予防の観点からも管理が重要になる。そしてその基本は、全体をクローズド・システムにするということとである。その一例が新たな豊洲市場と言える。


(写真3:新設の豊洲市場、提供東京都中央卸売市場)
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  サプライチェーンは部材や製品の流れだけではなく、その戻りや資源としての再利用、環境負荷低減、そして防疫という観点でも管理が必要なることが明らかとなった。それはまさにソーシャル・ロジスティクスとしての課題であり、誰がそのリーダーシップを発揮していくのかが問われる。もちろん縦割りの行政では解決しない。物理的な側面だけではなく、可視化しにくく時間が掛かる場合もあり、一筋縄ではいかないかも知れない。まずSCMのプロバイダーは、これを厳しく認識する必要がある。また各コンポーネント提供事業者にとっても同様である。これがアウトソーシング契約の中に、役割分担として明確に位置付けられていくべきだ。
  社会的一般常識として、品質管理は製造段階で行うべきものという概念が定着しているが、それは極めて一面的でありリスクは至る所で発生する。従って流通過程において管理の受け渡しが厳密に行われ、その前提としての管理基準が共有化されている必要がある。これがビジネスとしての基本であり、その契約に裏打ちされていなければならない。この管理連鎖が確実に行われて、最終顧客としての消費者に品質が保証される。この社会的合意作りを再認識することで、今回の災いを克服する一つのきっかけにできれば福に転じることは可能であろう。

以上



(C)2020 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.


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