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ロジスティクス

第32号低温物流のコスト・料金構造とローコスト化の為の業務改革(2003年05月16日発行)

執筆者 野口 英雄
有限会社エルエスオフィス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立、カサイ経営パートナーコンサルタント
    • 2001年 群馬県立農林学校非常勤講師
      現在に至る。
    所属団体など
    • 日本物流学会会員
    • 日本物流同友会会員
    主要著書・論文
    • 「ロジスティクス・ウエアハウス」(1993年,日本倉庫協会論文賞受賞)
    • 『日刊運輸新聞』に「低温輸送ビジネスを掘り起こす」連載(1999年4月~2000年10月)
    • 低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く」野口英雄著,プロスパー企画,2001年7月

目次

1.低温物流の最新動向

消費者の食に対する安全・品質志向から、加工食品や一次産品の低温流通へのシフトが続いている。しかし今まで常温流通であった商品を、単純に低温流通化すれば問題が解決するということではなく、これでは物流コストが膨張するだけの話である。
低温流通を前提に事業としてペイさせるには、高付加価値の商品を開発するか、最寄品でも高回転で流通させることが可能であるかのどちらかである。前者であれば例えば医薬及びその食品とのニッチ領域の商品等である。後者の代表格は中食領域の事業展開であり、外食産業全体が頭打ち傾向の中で、相変わらず独り気を吐いている。
一方で環境対応としてのディーゼル車排出ガス規制が、いよいよこの10月から首都圏で実行されることになり、特に低温物流にとって深刻な事態が予想される。トラックの代替仮儒が起こっているが、もはや間に合わず車両不足が発生するだろう。この社会的コストをどう負担していくかという合意形成もないまま突入し、更なる技術革新によりサプライチェーン全体の物流コストをどう削減するかという動きにもつながっていない。
SCMは食品の鮮度・品質管理を具現化させ、環境対応のような社会的コストを改善する上でも極めて重要な取り組みであるが、個別ビジネスモデル競争の域から中々脱皮できず、パブリックな動きに高まっていかないという苛立ちがある。

2.高コスト構造を打破する動き

低温物流は高コスト構造であり、メーカーや物流事業者は当然ローコストオペレーションに躍起になる。ところが最近メーカーであれば常温系より売上高物流費比率が下がる傾向になり、物流事業者には低温系で好業績のところが目立ってきている。
(表-1)に常温系と要冷系のメーカーにおける売上高物流費比率の推移を示す。2000年度からデータが逆転しており、低温系食品メーカーの方が低レベルということになっている。実勢運賃においては低温系が常温系に接近しており、回転力の高い商品を持つメーカーであればこの結果は理解できる。つまり365日連続稼動を前提に売上高を伸ばせば固定費負担も軽減し、相対的に物流費は下げられる。

(表-2)に好業績の物流事業者の動向を示す。当期利益が売上高対比で3~4%というレベルは物流事業者の中ではずば抜けており、倉庫関係では冷蔵倉庫事業者が目立つ。いずれも365日・24時間をフル稼働させ、倉庫から輸送までをトータルシステム化した一気通貫型の企業である。ロジスティクス対応を事業基盤として、多角化した提案型の物流事業であることは言うまでもない。

この高コスト構造を打破するビジネスモデルを確立した企業が勝ち組となっていることは明らかで、これは物流関係に限らず強いメーカーやファブレス企業において最も重要な経営基盤であり、ロジスティクスが競争力を大きく左右しているという証明でもあろう。

3.常温系とのコスト・料金構造の違い

常温系と低温系ではインフラコストに明らかな違いがある。更に高密度型で消費領域に接近する低温物流には常に業務運用リスクがあり、これが高コスト構造を形成する主な要因である。
(表-3)に輸送及び倉庫について、常温系と低温系で大きな違いがある費目とそのギャップを示す。輸送原価については有識者による分析やデータ開示が行われているが、倉庫についてはその例がなく、業界団体と国土交通省が公表している実績データを用いて試算した。

標準輸送原価による比較では、常温系と低温系の格差は10%程度しかなく、実勢相場ではもっと接近してきている。その主な要因は低温系の方が稼働時間は長く、相対的に固定費を低減させていることによる。365日・24時間のフル稼働が前提であれば、交替要員費用をかけてもコスト競争力は向上する。
倉庫については従来の認可料金の考え方・体系にそもそも違いがあり単純比較はできないが、(表-3)は一例として月1回転の飲料のチルド帯における比較である。つまり低温系には従価率要素がなく、月2期制が前提になっていた。この例で認可料金ベースでの比率は2.3ということで、冷蔵倉庫の方がはるかに高い料金構造になっていた。これはもちろん原価そのものが高いわけであるが、筆者の試算では1.5程度である。冷蔵倉庫事業は新規参入が容易ではなく、比較的供給側主導での価格形成が行われてきたとも言える。しかし料金設定が自由化された今、この格差は縮小していくだろう。
いずれも稼働率を上げれば人件費コストが上昇、つまり付加要員率を高くする必要があり、このコストを料金にどう反映できるかが重要なポイントである。稼働日が月間で4~5日多いという標準輸送原価の算定では余裕率は1.1程度であるが、365日・24時間稼動では1.4程度になる。もちろんさまざまな業務リスクが伴うことは前述した通りである。

4.ローコスト化の為の業務改革

コスト構造と業務運用リスクを乗り越えて高収益をもたらす仕組み作りは、一朝一夕に完成するわけではない。その基本は業務標準化とシステム化であり、繰り返し仕事を磨くことにより業務品質管理能力、情報システムサポート機能等が高まり、それを実現していく。つまりアウトソーシングの活用によるコストの変動費化であり、ミス・トラブル防止によるコストロスの抑制である。これが管理できなければ恐らく目的の達成は不可能であろう。いわゆるカイゼン活動の繰り返しであり、ITの利用もこの基盤がなければ効果を生むことはできない。
これは業務改革そのものであり、トップダウンとボトムアップの両面の力がマッチしなければ進展しない。しかもこれを如何に短時間で成し遂げられるかという経営の力が問われる。その大前提は顧客・市場志向であり、これをどうテクノロジーの課題として完成させるかということでもある。次に業務改革の視点を示す。
(1)業務標準化    :品質管理、情報システム支援、アウトソーシング
(2)高密度化     :共同化、タイムシェアリング、生産性向上
(3)簡素化      :人と情報のインターフェース向上(スキャナー等の活用)
(4)高スピード化   :自動化・省力化
(5)トータルシステム化:入力情報の多面的活用
消費領域に近づけば近づくほど変化が激しく、多様なリスクが発生する。
(表-4)に消費の波動に伴う各種リスクについて示す。要はこれをどう適確に予測し、計画化するかというSCMの根本的な課題、つまり消費起点のロジスティクスに組立て直すことが重要である。リスク管理という問題も複雑で、ハウツーを簡単に導入するということではなく、自らが実践で学ぶしかないだろう。

5.ロジスティクスの消費系へのパラダイムシフト

消費起点のロジスティクス、そしてそれを企業間連鎖させるというSCMは、生鮮食品では必須の取り組みである。しかしこれがローコストオペレーションという目的に偏りすぎ、品質管理や社会的コストの増大をヘッジすること等につながっていないという現状は冒頭に述べた通りである。
川上から川下へ流通させるという発想での物流管理論やロジスティクス理論は今、大きな改革に迫られている。小売業がデフレを克服するマーチャンダイジングの変革を模索し、店舗の環境立地を確立しなければならない課題等を含め、まさに販売を含めた全体最適システムをどう再構築していくかが問われている。
そもそも物流には機能面として単に効率を求めコストや生産性を追求する側面以外に、戦略面としての位置付けがあるはずで、今までこの部分が忘れ去られてきた感がある。経営トップが物流について指示する事項はまずコスト削減であり、これがある一定水準に達するともう終わりで、それ以上の改革が余り進むこともない。コスト改善だけでは当然限界もある。
一方の戦略面では、企業の基本活動であるマーケティングに伴う経営資源の配分に、物流やロジスティクスが正確に位置付けされ、常に一体となって運営される状況になることである。このシステムが勝ち組企業にはある。マーケティング機能を通じて顧客である小売業のマーチャンダイジングにも連動し、それを支援するのがロジスティクスである。更には消費者に宅配や、生活支援ということで直接リンクすることも必要になってきている。 もう一つ大きな変革要素はグローバル化という問題であろう。物流構造は明らかに変わり、物流事業者も荷主としてメーカー系を中心に対応してきているところは物量が激減している。逆に通関・フォワーダー・保税機能を持つ物流事業者は活況を呈している。基本的には消費に直接つながる領域をカバーしているところは仕事量が減っていない。
従来のロジスティクスのパラダイムが大きく変化し、それに適確に対応する努力をしない限りこの難局を突破することはできないだろう。重要な視点はあくまで消費者と、消費の変化をどうシステムに反映できるかということになる。

以上



(C)2003 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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