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第82号物流改善成功のカギ-「強い現場・強い本社」-(2005年8月25日発行)

執筆者 田中 孝明
株式会社サカタロジックス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1960年大阪市生まれ。
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て,現在,株式会社サカタロジックス 代表取締役。
    • 明治大学 商学部 特別招聘教授。
    主な資格
    • 修士(経営学)
    • 環境審査員補(ISO14000S)
    • 物流技術管理士(運輸大臣認定)
    • 倉庫管理主任者
    所属学会等
    • 経営情報学会
    • 現代経営学研究所(NPO法人)
    • 日本物流学会

目次

1.はじめに

  平成17年4月20日、社団法人日本ロジスティクスシステム協会および物流技術管理士会主催による「全日本物流改善事例大会2005」が開催され、17社の企業から活発な事例発表が行われた。いずれの事例にも多かれ少なかれ“汗の臭い”があり、優れた事例にはローランド・ベルガーの遠藤COOが、その著『現場力を鍛える』で主張するような現場力も垣間見られる(表1を参照)。しかし一方で、特に秀逸な事例には、こうした現場力に併せて“ビジョンや智恵”のようなものも感じられた。物流改善の前線では、従来とは異なる変化が生じているようである。
  本稿では、最近の物流改善事例の傾向やその意味するもの、さらには今後の方向性やその要点を考察してみたい*1。

2.最近の物流改善事例の傾向と特徴

(1)改善の対象領域が広がっている
  物流には、①保管、②荷役、③流通加工、④包装・梱包、⑤輸配送、⑥物流情報の6つの活動があるが、従来の改善は、倉庫や物流センター内の作業方法・工程、設備レイアウト等の「保管」や「荷役」、あるいは物流施設を起点とする「輸配送」などの個々の物流活動を対象とする事例が大半であった。しかし最近は、こうした個々の活動を有機的に繋いた“システム”を改善対象とする、言い換えれば、ロジスティクス(ビジネス・ロジスティクス)の実践を目指す改善が主流となりつつある。またそこでは、「物流情報」が改善手段や技術として、かつ改善の対象として非常に重要な地位を占めていることを付記しておきたい。

(2)トップダウン・ミドルアップダウンによる事例が増えている
  「改善とはボトムアップによるもの」とのイメージがあるが、最近はトップダウンあるいはミドルアップダウンとでもいうべき進め方、すなわち戦略や経営管理の概念に根ざすような事例が散見される。これは、企業においてロジスティクスの重要性が認識され、マネジメント層のコミットメントを得られるようになったことの現れであり、このこと自体は物流改善にとって好ましいことであるが、同時に、現場に対する適切な説明や現場アイデアの吸い上げを行うことなども、成果を上げるには必要であることは言うまでもない。

(3)科学的な手法や技術が用いられている
  最近の改善事例には、トヨタ生産方式(TPS)に範を取ったものや、VE(Value Engineering)などの技術を用いたケースも多数見られる。こうした科学的な手法や技術は、物流改善にも有用なものであり、昨今では不可欠なものになりつつある。ただ少し気がかりな点は、それらが表面的なものとして理解されている気配があることである。物流改善にTPSを応用すれば、大きな成果が上がる可能性を否定できないが、本来は、トヨタの強さの神髄ともいえる“トヨタ・ウェイ”的なものを体得・実践しなければ、真の物流改善にはなり得ないことだけは、肝に銘じるべきであろう。(トヨタ・ウェイについては後述)

3.今後の物流改善の方向性と要点

(1)顧客満足と従業員満足の視点が不可欠
  物流改善においても近年、顧客満足の視点が当然視されている。一方、冒頭に紹介した本年度の改善事例大会の中で、「お客様に満足して頂けるのは、私たちの満足そのものをお届け出来ている証拠」との、女性パート従業員の方からの発表には刮目させられた。
  ハーバード・ビジネス・スクールのヘスケット教授らは、その著『バリュー・プロフィット・チェーン』にて、「従業員を顧客のように扱う」ことの重要性を指摘し、「従業員の満足度が高い組織では、満足度が低い場合に比べて2倍もの高い成果が得られる」と主張している。物流サービスは人が提供するものであるが、今後の物流改善には顧客満足だけでなく、従業員満足の追求も大変重要な視点になってくるだろう。

(2)やはりサプライチェーン・マネジメント(SCM)の概念が重要
  最近の改善事例では、原材料の供給先や物流業者とのコラボレーションにより、成果を上げているケースが見受けられる。例えば、昨年度の改善事例大会では、調達先との共済輸送などを一つの柱とする“一貫物流”への取り組み事例が「物流合理化賞」に輝いているし、本年度は3PL企業からの提案が改善の機動力となったケースすらある。今後の物流改善には、サプライチェーン上の関係者/当事者が一体となり、全体としてエンドユーザーに対し価値を提供していくという視点が必要となる。換言すれば、今後はSCM推進に向け、その一環として物流改善を実践していくといった考え方が重要になるだろう。

(3)グリーン・ロジスティクスの実現を考慮することが重要
  近年、サプライチェーン・ロジスティクスの実現が、企業物流の目標の一つとなっているが、次代に主流となる物流概念はグリーン・ロジスティクスであると言われる。今後の物流改善には、社会/コミュニティへの価値提供の視点が必要とされ、“サスティナブル・ディベロップメント”の考え方などに根ざした新たな物流の仕組み作りが要請され始めている。本年度の改善事例大会でも、ストレッチフィルムの再生・再利用や通い箱形式の新たな輸送容器の開発などのケースが発表され、環境負荷の低減を目指した改善活動が一部では、既にスタートしていることを窺わせる。

4.おわりに -強い現場と強い本社-

  東京大学の藤本教授は『日本のもの造り哲学』にて、トヨタを例に“もの造りの組織能力”に関する興味深い分析を行っているが(表2を参照)、この本から学ぶべきことは、物流改善においても、ごくシンプルな「PDCAサイクル」を皆で着々と回し続けることと、進化を当然視する「心構え」を、個人と組織に共感・共有させることと言えるだろう。
  神戸大学の金井教授は、その著『ニューウェーブ・マネジメント』にて次のように述べている。「企業変化の原動力はいったい何か。それは深いレベルでは、①変化の意味づけと、②われわれの世界はわれわれの手で変えられるという信念である」。『変革の主体は会長、社長だけでなく「わたしたち」である。そう感じ行動できるミドル・マネジャーやヤングの創造的活動、またそのきっかけとなる、既存のやり方への疑問の提示と活発な議論に多くを期待したい』。
  今後の物流改善は、すべからく物流革新・経営革新と並行して実践されることが必要であり、そのためにはヤングの活動だけでなく、創造的ミドルやトップのリーダーシップの存在も必要である。「強い現場・強い本社」。これが物流改善を成功に導くカギであろう*2。以上

表2 トヨタの組織能力とトヨタ・ウェイ

050825-2

出所:藤本(2004)より抜粋のうえ一部修正加筆

以上

【注】
*1.本稿の記述内容は、あくまでも筆者の、全日本物流改善事例大会2004,2005に実行委員の一人として参画した際の感想、明治大学「Global e-SCM研究センター」における知見、さらにはコンサルティングや物流アウトソーシングなどの実務経験を通じた、個人的な見解に基づくものである。
*2.『流通設計21』2005年6月号に、本稿の内容を(同誌の編集局の手で)簡潔に取りまとめたものが所収されているので、併せてご覧いただければ幸いである。
【参考文献】
・遠藤功『現場力を鍛える』東洋経済新報社,2004年.
・金井壽宏『ニューウェーブ・マネジメント』創元社,1993年.
・藤本隆宏『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社,2004年.
・ヘスケット=サッサー=シュレシンジャー『バリュー・プロフィット・チェーン』日本経済新聞社,2004年.



(C)2005 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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