第81号環境問題と物流企業の戦略-これからは地球と共存できる利益創造の時代へ-(2005年8月4日発行)
執筆者 | 菅田 勝 リコーロジスティクス株式会社 経営管理本部 副本部長 |
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目次
- 1.地球は、人類にとって最大のステークホルダー
- 2.京都議定書CO2削減目標△6%は、困難な道のりの第一歩
- 3.物流業界にも、環境規制は今後も続々と
- 4.物流企業における環境対策への取組み
- 5.環境で事業拡大、『得する』物流に変えよう
1.地球は、人類にとって最大のステークホルダー
紆余曲折を経て、温暖化防止京都議定書が発効した。米国・中国が批准しない条約は無効だ、経済を考えない甘い発想だなど非難受けつつも、第一次国際公約(1990年比CO2△6%削減)がスタートした。ご存知の通り、地球の温暖化ガス吸収能力は人口40億人程度で、1970年代人口とバランスしていたと言われている(EFP計算)。1900年18億人、1950年26億人、現在63億人であり、既に地球が1.5個必要である。2050年90億人と言われているので、地球が3個必要になる計算である。
過去20年間世界各地で発生した異常気象による自然災害の多発は、観測史上最悪で、損害保険支払いが30倍に急増したと伝えられている。20年前まで、はね上がり研究者の妄想と切って捨てられていた環境劣化が現実となってきた、もう既に持続不可能な領域に入り込んだ と解説されている。今後さらに加速度的なCO2排出増が見込まれ、人類が生存可能な環境はあと70~80年程度と唱える内外研究者が増えてきた。東海大学・東京大学、米国立アカデミーなどの長期シミュレーションも似通った予測を示しているとの情報である。米国防総省レポートでも、2065年に自然災害の損害額が世界の経済GDPを上回る?とのショッキング予測があったようである。豊かな大量消費型経済を求めた結果、地球の許容量を越え、元本割れ(生存基盤を崩しつつある愚)は改めねばならない。生命を育んできた“母なる地球環境”の 崖っぷちが見えてきた?!と、(いよいよ真剣に)行動を起こすべき時期が来たようだ。
地球環境が崩壊したら、人類は生存できないので、世界経済・社会の持続性もありえない。環境にも配慮したCSR経営が不可欠な時代と言われる所以である。劣化が本格化し始めてから対処するのでは遅すぎるので、危機意識持って、早めに対処すべき と論評されている。環境対応の成功事例として、1980年代オゾン層減少が問題になった時、限界を察知し、破局の前に引き返そうと全世界が一致協力したことがあったが、危機を共有化できれば人類には行き過ぎを是正する能力があると紹介されている。サッカー協会川淵会長が、『チーム・マイナス6%運動』に積極参加する旨の公式発表時、『自分の孫世代に現在の美しい地球の自然環境を引き継げるか? 危ういのではなかろうかと心配するようになってきた』との発言が有ったが、同感の意を持たれた人も多かったのではなかろうか。
2.京都議定書CO2削減目標△6%は、困難な道のりの第一歩
大気中CO2濃度は、産業革命当時280PPM、現在380PPM(0.038%)で、毎年1.7PPM増加している。生理学によると、5,000PPM(0.5%)が8時間労働における許容限界、30,000PPM(3%)では短時間でも呼吸困難・頭痛吐き気・視覚減退・血圧や脈拍上昇など、実質窒息状態との説明である。京都議定書は、100年後の成行き予測1000PPM以上(気温上昇4℃以上)を、550PPM程度(同上昇2℃以内)に抑えようとするものである。今年7月英国開催G8サミットでも、温暖化防止が主テーマとなった。3℃以上の温暖化になると(現在既に0.6~1℃上昇済み)、食料/水不足・感染症増加・海流循環の停止などで、深刻な被害が発生すると言われている。経済と環境の共存を目指し、『気温上昇2℃以内』が世界共通の目標になってきた。

欧州が特に危機感強く、例えば英国03年度白書で、「著しい気候変動回避世界努力に寄与する為、英国は2050年までに1990年比60%削減の必要あり」と述べている。その為に、例えばオックスフォード大学では、エネルギー効率悪い住宅を毎年8万軒計画的に取り壊し、高効率住宅に立替える提案がなされている。ドイツも2050年までに45~60%削減を表明した。今年3月EU環境相理事会開催され、2013年以降の削減目標について意見交換され、2020年までに少ない国で15%、多い国は30%削減必要と話し合われたようである。
廃棄物や大気汚染問題は局所的だが、CO2濃度は国境越えた地球全体の問題で、他国事と避けて通れない。日本もいずれは、20%、30%、60%を意識した削減活動が不可避になると思われる。子供達に美しい地球を残すためには、京都議定書は序の口で、もっと高い目標を掲げる必要が出てきそうだ。
3.物流業界にも、環境規制は今後も続々と
政府は条約履行の為『温暖化対策推進大綱』を決定、運輸全体で1990年比 CO2 15.1%増に抑える新目標が掲げられ、物流業界には営自転換推進分含めて1400万トン削減と設定された。当目標は貨物自動車(営業+自家)合計の現在排出量の約15%に相当する大きな削減である。簡単に達成できる目標ではないので、国交省と経産省が業界と共同してグリーン物流パートナーシップ会議を立上げ、法規制や税制は勿論、様々な施策(アイドリングストップやエコドライブまで)を含めた総動員施策を提示してきた。
物流業界の三重苦(物量減少・運賃低下・燃料高騰)が増す中でも、排気ガス・スピードリミッター・廃棄物規制など、健康や安全に関する規制が続々と導入されてきた。今後さらに温暖化防止規制もスタート、将来的にはもっと強制力ある規制(キャップ&マイナスシーリング方式:排出量上限を決め、毎年確実に削減させていく)が導入されてくると思われる。異常気象災害が急増すれば、規制ピッチは上がらざるをえない。環境規制はどんどん厳しくなることを前提に、経営の舵を繰っていく必要がある。

参考①: |
家電リサイクルH16年実績は、廃家電引取1122万台(前年比+7%)と、 新品出荷(前年比+4%)を上回った。全国44ヶ所リサイクル工場で、 2300人超雇用機会誕生と報じられている。一部不法投棄問題あるも、 概ね定着しつつあり、ジャパンモデルとして、海外視察が来ている。 |
参考②: |
今年1月開始自動車リサイクル、全メーカー初年度第1四半期結果公表。 再資源化率は法定目標クリアー。回収台数が予測下回っている模様で、 廃棄されるような使用済み自動車が中古市場へ?との新聞記事あり。 廃タイヤ・バッテリーのリサイクルシステム構築と合わせて、 早期定着化が望まれる。 |
参考③: |
規制対象外物品のリサイクルも、企業・業界の自主活動で開始されて いる。資源有効利用促進法ガイドには、多数の品目別・業種別の 設計段階から使用後の回収リサイクルに至る再資源化・エコビジネス 事例が掲載されている。再資源化率は90%台から10%程度までと、 全般的にはまだ低めである。資源の有効活用・ゴミ削減・CO2排出抑制・ 有害物質管理のためにも、より活発な3Rリサイクルが望まれる。 一般論だが、再資源化率80%以上になってくると、消費者での還流管理 含めて、リサイクルの仕組み作りができつつあると判断できる。 |
4.物流企業における環境対策への取組み
最近世界の注目を浴びているCSRでも環境は絶対要件であり、荷主企業においても、物流企業においても、経営の最重要事項になってきた。この潮流をネガティブな逆境とみるか?またはビジネスチャンスと捉えるか?経営者の姿勢が問われている。筆者は、環境対応が企業競争力の源泉となり、迅速かつ的確に対応すれば他社をリードし、事業や収益の拡大は勿論、荷主や社会から高い評価も得ることが出来ると考えている。物流企業の環境対応は様々な施策が実施されているが、概ね図2のように分類できる。

この図から申上げたいこと、1つ目は、『環境対応の基本項目を確実に履行し、コンプライアンス強化による経営リスク低減と、従業員の環境マインド高揚を図り、結果として本業の業務プロセスを環境の視点(≒ムリ ・ムダ・ムラを省くコストダウンの視点ともほぼ同じ)から改善推進できる専門集団を創り上げることである(義務対応①、自主取組②)』。これは経営構造のベースライン改善であり、しっかりした土台(体質)構築を意味する。経営トップが環境経営の意義・重要性を深く理解し、環境にも強い人材育成に執念を燃やした取組みが必要である。注意すべき失敗ケースは、『環境に対する確固たる思想も無く、よそもやるからうちもやるという付和雷同的発想や認証が欲しいからという動機程度で開始し、経営層が活動内容への興味薄く、放任的の場合』であり、これでは環境面で改善推進できる人材が育たず、組織の対応力が高まらない。
二つ目は、『物流サービスにおける環境対策には荷主企業との共同にて実現可能な項目が多いので、物流企業内だけの範疇で環境活動するのではなく、広く荷主領域にまで働きかけ、提案し、協力して革新的・戦略的な施策に取組む場合には、効率化と環境負荷削減の両面において大いなる成果が獲得できるという事である(自主取組③、④)』。例えば、【交通量対策】:共同積み合わせ輸送によるトラック台数削減やモーダルシフト、【輸送需要対策】:SCM拠点の再構築や多段階輸送の是正、【エコ包装対策】:省資源包装化やリターナブル包装化及び使用済製品回収リサイクル包装化、【リサイクル対策】:識別分解分別の容易性のためのリサイクル対応設計提案などである。物流企業側からの積極的な提案によって、物流ロジスティクスの効率化が計られ、結果として環境負荷低減も実現できるケースが数多い。競合他社のやり方や、異業種でのやり方など、豊富な情報力を駆使して、荷主企業に貢献できるように努めるべきである。
環境対応は金がかかるとか、コストダウンとは別モノとか考える経営者も居られるが、それは大きな誤解である。確かに低公害車への切替えや、認証機関への支払いなどはコストアップであるが、それ以外の大部分の環境活動は、コストダウンや生産性向上、さらには品質向上や顧客満足向上にも直結する(同軸)活動が多い。発想の転換が必要である。なおISO認証取得済企業で、複雑なマネジメントシステム、煩雑な文書記録管理ルールを構築し、且つ自主取組②の安直な活動内容(例えば、紙ゴミ電気の節減活動程度)に止まっている場合には、メリット少なく、スパイラルダウンに陥っているケースもある。この場合には、一日も早く自主取組③④の活動に取組んでいくように転換すれば、必ず成果が現れてくる。
5.環境で事業拡大、『得する』物流に変えよう
グリーン物流パートナーシップ会議がモデル事業63件の提案内容を公表した。拠点集約8件、輸送共同化・温度管理物流24件、船舶モーダルシフト11件、鉄道モーダル20件などであり、現在参加企業の公募中で、補助事業にも申請予定である。流通効率化法・省エネ法もまもなく成立予定であり、官民一体となった多様な施策により、物流業界CO2削減目標1400万トンを目指さなければならない。上記モデル事業への申請事例の中には、荷主と物流企業との協力で環境調和型物流システムの再構築で、CO2削減36%プランなども含まれている。CO2削減%がそのままコスト低減%にはならないが、既存のやり方に対し、物流企業側の積極的な提案や参加協力、そして行政の支援があれば、かなりの改善成果が期待できそうである。 前述の通り、環境規制は今後さらに強化されてくると考えられる。どの企業にとっても経験の少ない未知の取組みであり、ノウハウ習得のためにも早期着手が得策である。皆、ヨーイドンの世界(早い者勝ち)であり、先手必勝が望まれる。他社をリードし、荷主・消費者から信頼され、差別化の武器になるように、自社内業務の環境活動は勿論、活動範囲を広げ、荷主や消費者の事業領域までカバーした提案『環境にもやさしい質の高い“循環型ロジスティクス・サービス”』でお役立ちを計るべきである。筆者の知る範囲でも、環境を切り口に、つぎつぎと新荷主獲得や新規事業化を実現し、成長著しい好事例会社が出始めている。プラス志向で、環境を通じて競争力強化・事業領域拡大に役立てられんことを期待して終筆とする。
以上
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