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第376号 ライフサイクル・サポート・ロジスティクスとプラットフォーム・ビジネス(後編) (2017年11月21日発行)

執筆者  橋本 雅隆
(明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
      ・早稲田大学 理工学部 工業経営学科卒業。
      ・明治大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。博士(商学)
      ・三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)調査部、一橋大学客員教授等を経て、2015年より現職。
      ◇専 門  :流通論、物流論、サプライチェーン・マネジメント論
      ◇主な活動:経営関連学会協議会理事、日本物流学会理事、日本ダイレクトマーケティング学会、日本卸売学会常任理事

 

目次

前号(2017年11月9日発行 第375号)より

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*サカタグループ2017年2月22日開催第21回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「ライフサイクル・サポート・ロジスティクスとプラットフォーム・ビジネス」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 橋本 雅隆」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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3.プラットフォーム・ビジネスの形成

  こういう考え方というのはプラットフォーム・ビジネスといわれるものであり、これは何かというと、複数のモジュールとか事業、プレイヤーがそれを利用して、お互いに助け合いながら補完をしつつ相乗効果を発揮するということです。
  複数のプレイヤーが絡んできますから、そこで標準化やルール化ということが非常に重要になってきます。この辺の考え方が、総じて日本は弱いと思います。
  少し業界が違いますが、例えばソニーのウォークマンがなぜiPhoneに負けたのか。ソニーのウォークマンはモノを売ろうとしたのですね。非常に高精度な再生機を売ろうとした。iPhoneはそうではなく、音楽を楽しむライフスタイルを提供したのです。だから製品は中国で作って、ソフトウェアを開発して、それでいくらでもダウンロードできるようにしましょうというプラットフォーム・ビジネスなのです。
  こういう考え方を採用されると非常に恐ろしいことが起こるのです。それはどういうことかというと、後ほどお話しますが、こういったことをビジネス・エコシステムといいます。いろんなプレイヤーがそこで協力するようなプラットフォームを作るということです。

図表:物流不動産プラットフォーム・ビジネス
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  例えば先ほどお話したような物流拠点や物流不動産ビジネスの場合、関係するプレイヤーで言いますと、例えば地権者が入ります。それから投資家がいます。金融機関、自治体、それから運輸業、倉庫業、人材派遣会社、設備業者、建設業者、入居利用者、こういう人達が絡んでいて、複雑な取引関係になります。この土台を作るという発想をすることとなります。こういうプラットフォームの考え方を展開すると、ビジネスとしてどういうことが起きるかということです。
  わかりやすい例として、アマゾンのお話をします。日本のアマゾンジャパンでは1兆円以上の売上があります。たった10年数年の間に物凄い勢いで成長しました。これは指数関数的な成長といいます。これがプラットフォーム・ビジネスの特徴的なのです。
  急速に売上が伸びていく、そのために色んな取扱商品を増やして、フルフィルメント機能を充実させました。アマゾンは何にお金を使ったかというと、物流関連費とIT関連費ですからアマゾンは物流IT企業だと思っています。
  そのために世界のアマゾンのセンターでは指数関数的に拠点を増やしています。そして、アマゾンジャパンの基本はお客様の利便性の追及です。なぜそのように物流拠点を顧客に近づけて分散するかというと、現在、店舗向けのDC(物流センター)と通販向けのフルフィルメントセンターが分離しているけど、これを統合していかなければいけないということです。それを実現するためには物流拠点が少なすぎるというのです。そのために物流のプラットファームを整備しようと考えています。一方で、拠点ごとの荷量が集まらないと労働集約型になってしまう、共同化してボリュームが集まれば、業務を標準化して機械化ができるのです。
  こうやって物流拠点を拡散していく、つまり生活者に近づく、拠点が近づいていくということは延期効果といって、注文したらすぐ届くから注文のキャンセルが減る、返品も少なくなる。そういう意味では物流効率が上がるし、なにより消費者の買い物コストが削減されるので、消費者の買い物のスタイルの幅が広がるというわけです。

■プラットフォーム・ビジネスの戦略 ―通販物流ネットワークの高度化―

図表:宅配便ネットワークの高度化による効果
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  これを実現するための物流、例えば宅配便の場合、ヤマト運輸のネットワークですが、ゲートウェイという「ターミナル」(大型拠点)を3ヶ所作って、溜めない物流ということを実施しました。
  今までターミナル間の輸送は、夜間に1回だったものを、逐一幹線輸送ができるように変えたわけです。

図表:宅配便における経済性
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  この図は直接ネットワーク外部性といって、拠点の数がどんどん増えていくと指数関数的にメリットが増えるわけです。けれどもハブ・アンド・スポークのネットワーク構造でいえば、拠点が増えても費用は直線的にしか増えないから、ある閾値を過ぎると大きな利益がでます。
  これがプラットフォーム型のビジネスの特徴なのです。最初はあまり儲からないけれど、あるところから圧倒的に強くなるわけです。通販プラットフォームというのは、インターネットとフルフィルメントの物流から構成されています。物流の方は、お客さんが買ってくれれば、宅配のコストを払ってくれます。インターネットで出店してくれれば、仮想モールに対する出店経費が稼げます。
  一方でアマゾンはサプライヤーから直接仕入れをします。そうすると購買者からもお金を取るし、出店者からもお金を取る。この2つの市場からお金を取るような仕組みというのは1つのプラットフォーム・ビジネスの特徴なのです。

図表:基盤型PF論と媒体型PF論の統合
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  そこで一時問題になったことは、宅配便の無料化です。こんな人手がない時代に宅配の無料化とは何事だと。しかしながら、プラットフォーム・ビジネスということでいうと、理にかなった戦略なのです。
  なぜかというと、プラットフォーム・ビジネスというのは2つの市場を相手にしているわけです。つまり購買者の市場と出店店舗の市場、この2つからお金を取っている、こういう市場の価格戦略で何をしなくてはいけないかというと、需要の価格弾力性といって、少しでも値段を下げればお客さんが増える市場で値引きをして、その増えた需要分を反対側の市場の価格交渉に利用して儲けるという戦略です。
  どういうことかというと、宅配料金を下げたらアマゾンから買おうとする人が増えます。そうするとアマゾンの仮想モールの魅力が増します。そうするとそこに出店したいサプライヤーが物凄く増えます。だからそこからお金をとればいいじゃないかということなのです。
  こういうことをやったことによって宅配の貨物量がオーバーフローしてしまったわけですが、ビジネス戦略としてはあり得る話なのです。

■宅配便企業による物流ネットワークの高度化と通販宅配の支援

図表:宅配便の高度化が通信販売に与える影響
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  これは実は経済学で証明されていまして、数式で解くと時間がかかるのでやめておきますが、これは2014年にノーベル経済学賞を受賞したティロール(Jean Marcel Tirole)というフランスの経済学者が、論文を書いて証明しました。アマゾンというのは2面市場で勝負をしていますから、まず出店料で儲けています。それから直接仕入れもやっていますから、これは規模の経済により非常に有利な取引をしています。
  一方でそれを支える宅配便のプラットフォームが高度化してくると、どんどん宅配のリードタイムが短くなっていきます。そうしてお客さんも増えてくる、そうすると宅配の利用がまた増えていきます。これをスパイラル状でまわしているから、通販ビジネスは一気に拡大してくるわけです。こういう構造を理解することが非常に大事なのです。
  これは私が実際にアマゾンの財務分析をしたところ、あまり利益率は高くないのですが、キャッシュROI(return on investment)について、計算してみるとアマゾンは非常にキャッシュリッチな企業であることが分かりました。
  それは原因がどこにあるのかというと買掛金です。買掛金がめちゃめちゃ多いのです。だからキャッシュフローがもの凄く高く、キャッシュリッチな会社なのです。このキャッシュを、どんどんITや物流拠点に投資をしているということです。だから営業利益率は高くなくても証券のアナリストから非常に高い評価を受けているのです。

図表:プラットフォーム活用型ビジネスプロセス
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  これを理論的にいうと、間接ネットワークの外部性といいます。こういうメカニズムが働くのはプラットフォーム・ビジネスの強みなのです。プラットフォーム型のビジネスというのはこのように、レイヤーができるのです。レイヤーというのは層ができる。一つは何かというと今までの流通が、情報プラットフォームとロジスティクス・プラットフォーム、金融決算プラットフォーム、これらの層別に分担されるのです。そこでそれぞれのネットワークを仕切るプレイヤーが出てくるのです。
  例えば先ほどお話しましたヤマト運輸の宅配便は、一つのロジスティクス・プラットフォームを形成しているかもしれません。アマゾンの通販も情報プラットフォームを形成しているかもしれません。それでこれらの取引は顧客ニーズから製品設計から工場選定、製品管理、国際物流の場合は、通関があって、ローカル運送混載があって、これらがグルグル回っている、このプラットフォームを使えば良いですよという時代にきているということです。

4.新たなマッチング・システムの構築

  ここまでの話というのは何かというと、2つあります。
  まず一番目がライフサイクル・サポート、長い時間で価値を提供する仕組みを保証する、取得単価が高くても長い目で見れば、ちゃんとお客様に価値を提供できますよというロジスティクスビジネスに変わらなければいけないのです。まずはそういう説明ができなければいけないのです。
  そして二番目はプラットフォームをつくるという競争になってきているということです。このプラットフォームにお客さんが乗っかってきてください。いろんなプレイヤーと協同し、連携しましょうということです。
  先ほどの共同配送もそうですが、小売チェーンストアの一括物流センターは、ある面ではとても非効率であり、何かというとそこで、工場出荷から店舗納品まで、多段階のサプライチェーンになってしまっているわけです。
  そこで問題なのは、Aランク商品は良いですが、B・Cランク商品は配送効率が悪くなりますから、拠点ごとの共同物流センターを作るべきなのです。そういう話し合いも一部では起きています。実際そういうことは始まっています。
  B・Cランク商品の地域共同物流センターは地域物流プラットフォームなのです。そういうプラットフォーム・ビジネスを立ち上げて顧客に参加してくださいというスタイルを提案したらどうですかということです。そういったことが、どんどんできるようにしたいと思います。

図表:物流生産性向上のための課題
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  そして最後にお話することは物流生産性です。物流の効率が悪すぎるのです。色々な原因がありますが、私は大半の原因は商流と物流が完全に分断し、連携ことにある。それが一番の根本原因だと思います。
  これからIoTの時代では、可視化ということがとても大事です。例えば半日後に物流がどういう状態になるを可視化して、情報共有する時代がくる、それにより新しいマッチングの仕組みを構築する必要があります。
  これはこれから取り組まなければいけない課題なので、実施している事例があるのかというと一部あります。一部あるけれども、私はそれをもっと発展させなければいけないと思っていて、このお話を最後にしようと思います。
  物流生産性向上の課題ということですが、我が国のトラック運送業は10万人以上のドライバーがすることになるといわれています。
  2016年は求人倍率が全職業で1.11倍ですが、自動車運転で2.14倍。商工会議所の調べでは、50%の運送業が人手不足と回答しています。さらにドライバーの高齢化が進んでおり、40歳以上は全体の6割、大型では7割です。ドライバー不足の原因は賃金の低さと拘束時間の長さにあるということは皆さんご承知のとおりです。
  このような実態は我が国の物流の生産性の低さの一端を示すものと考えられ、この改善が喫緊の課題となっているということです。一つは荷待ちの問題です。国土交通省が実施した「トラック輸送状況の実態調査結果」では、発荷主で発生する手待ち時間は全体の約46%。手待ち時間の平均は1時間45分、1回あたりの手待ち時間は2時間長ぐらいが全体の約13.6%あります。だからいかにトラックで手待ち時間が多いかということです。
  これに対する対策の一つが、現在、導入の促進が図られつつある予約システムです。
  この荷物流センターにおける待ち時間の発生の要因は何かというと特定時間帯に入出庫が集中しているためです。

図表:より本質的な課題 ‐ 多段階での情報分断構造
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  いろんな因果関係が絡んでいるのですが、一番の原因はディストリビューションセンター作業と輸送計画の調整ができていないこと、つまり物流現場の都合を反映していない発注が行われているためです。
  予約システムの導入効果によってトラックの待機時間を大幅に減少させることが可能です。ところが予約システムの導入は、現在、ごく限られた拠点だけなのです。なぜこれが普及しないのかという問題です。
  色々分析してみまして、まずドライバーが高齢化しているので、あまりスマホを使わないのです。情報を共有する環境がないのです。これが一番大きな問題だということがわかりました。
  それでトラックの受け入れ荷役の作業進捗に関する情報共有ができる環境がない。より本質的な問題は何かというと、先ほどお話しましたとおり、物流現場を無視した受発注が行われているわけです。
  しかも物流も、元請け、下請けと多段階構造となっていますから、現場で何が起こっているかわからないという状況です。
  ここの階層分解と情報分断をなんとかしないと荷待ち問題は解決しないのではないかと考えたわけです。クラウド上に「ロジスティクス予約センター」を作ればよいと考えています。
  例えば卸がメーカーに発注をする時にいきなり現場関係なく発注してしまうのではなくて、一応予約センターに照会をしてみる、今のトラックの出の方と入りの方の作業状況を見て、何時ぐらいだと着手できますということを回答するのです。
  それを受けて、確定オーダーを発注する。これによって、出荷の方と荷受けの方はその確定オーダーに基づいて準備をしておくということです。その実績報告を必ず予約センターに上げる。それでPDCAサイクルをまわしていく。そうすると予約センターに全部の非常に細かいデータが溜まっていきます。予約センターでは何をやっているかというと、貨物量がだいたいどれくらいあるか、またこれを配送車両換算して、荷役作業費がどれくらいかかるか、荷降ろしにどれくらいかかるか、それを積み上げて計算をして、受け入れ可能な時間を出すようなことをするわけです。
  このようなことが積みあがると、信頼性の高い予約システムができるということです。
  例えば1ケースあたり荷捌き時間が何秒かかるかというデータです。こうしデータをとって蓄積し更新していく、これに荷扱いの数量データを掛け合わせていくと、シミュレーションができてくる。つまり荷受けの現場で作業の計画と実態が管理できるわけです。
  この原単位管理をすると1ケースあたりの荷捌き時間をもっと縮めるにはどうすればいいかという知恵が出てくるわけです。そこで進化することができます。実は生産現場ではそういうことを実施しているわけです。0.0何秒のような単位でコストダウンをしているわけです。物流の場合はそこまではいきませんが、こういうことを積み上げていくわけです。
  これからのIoTの時代は、こういうあらゆるところに計測センサー等が繋がって、実際の作業のデータが集まってくる、それがリザベーションセンターです。だからこういうものを自動化してもよいと思っています。実際に実施するとなると荷主の了解が必要かもしれませんが、これで何千万円コストが削減できますよということがわかれば、それで提案できるわけで、海外の3PLでやっていたゲインシェアリング方式でコストダウンメリットの配分率を決めて取り組むのです。データが蓄積されていく環境を作るということが、これからの現場のイノベーションに繋がっていくのではないでしょうか。

以上



(C)2017 Masataka Hashimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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