第64号全温度帯一括物流の新たな潮流(2004年10月8日発行)
執筆者 | 野口 英雄 有限会社エルエスオフィス 代表取締役 |
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目次
1.はじめに
温度管理物流といえばアイスクリーム・冷凍食品・乳製品のように、扱う商品の流通特性から温度帯毎に独立した物流ネットワークで運営するものと相場は決まっていた。唯一の例外として外食店舗への資材供給は、以前から食品も非食品も含めた全温度帯一括物流が行われている。即ち店舗で使用される食材には冷凍・チルド・定温・常温等の様々な温度帯商品があり、非食品としては包材・什器からPOP・ユニフォーム等に至る店内で使用する全ての資材である。もちろん非食品は常温で扱う。
もしこれらが全くバラバラに納品されたら店舗側の受け入れは非効率この上なく、店舗作業により多くの手間がかかり、調理に支障がでる場合も生じる。外食店舗作業のローコストオペレーションは、この一括物流が支えているといっても過言ではない。また納品車両の出入りは店舗環境立地に大きな影響を与え、これも最小限に留める必要がある。
小売業のマーチャンダイジング支援としての一括物流がSCM運営の中で極めて重要な要素となり、外食産業の店舗オペレーションのみならず大型量販店・食品スーパー・CVS等でも大きな位置付けになってきた。それは温度帯や食品・非食品をこえた全ての商材が対象になり、今やサプライチェーン効率化を目指す大きな流れになっている。
2.一括物流の狙いと効果
一括物流とは小売業のカテゴリーマネジメントの進展と共に、商品カテゴリー別仕分け・納品等のかたちで行われてきた。それは店内での検品・搬送・陳列等の作業を省力化し、マーチャンダイジングを支援する機能として極めて有効なものになっている。
例えば店舗における商品陳列作業のウエイトは店内作業全体の30%程度にのぼるとみられ、開店前にこれを完全に実行するために大きなロードがかかっている。これを支援するカテゴリー別納品は作業を大幅に省力化し、また店内搬送を容易にするカートや売り場までの納品があればその効果はさらに大きくなる。
最近では店舗立地を維持するための環境対応としてもその取り組みが一段と加速してきている。即ち一括物流を進めることで納品車両台数を削減し、これに循環型機能を付加させることにより、例えば店内で発生するゴミの量を削減するという狙いも実現している。
イトーヨーカ堂の事例では、低温系の店舗への供給は温度設定が可変の低温トラックで便毎に温度帯を変えるという方法をとっている。そしてカテゴリー別の仕分けをリサイクル容器で行い、外装等の廃棄物は物流センター側で処理して店舗に持ち込まないようにした。搬送はカートで女性でも楽に作業ができる。従来センターを経由せず直納であったアイスクリーム・パン・玉子・米等もセンター前物流として一括化し、これをセンター経由で共配化するというさらに踏み込んだ取り組みを行っている。
ファミリーマートでは従来の冷凍・チルド・常温・雑貨等の温度帯毎に独立していたネットワークを重ね合わせ、2室式車両を基本に複数温度帯同時納品体制を実現させた。これにより物流拠点を大幅に削減すると共に、店舗への納品車両台数を従来に比べ半減させ、1日当り10台程度で運営できるようにした。この努力は物流コスト削減や環境対応の面からも極めて大きな意味がある。
3.物理的に難しい温度帯一括化
しかし全ての温度帯を一括で扱う物流センターや低温トラックには、物理的に難しい問題が多々ある。冷蔵倉庫でいえば温度差が大きい隔壁には必ず結露が生じ、これが結氷になり冷却効率を著しく低下させる。低温トラックについても同様で、断熱構造は極めて重要な問題だ。低温物流のハードの問題はこの温度差との戦いともいえる。複数温度帯同時オペレーションはまずここに難しさがある。
固定設備としての物流センターについては、冷蔵倉庫に常温機能を併設するには断熱構造を強化するか、理想的には別棟にする処置が必要になる。保管エリア毎に低温の温度帯設定を変えることには大きな問題はない。難しいのは移動体としての低温トラックであり、冷却装置や隔壁の重量が積載量減トンの対象になるので冷却能力や断熱構造にも限界があり、依然として困難な課題が多い。2室式の車両については隔壁の伝熱がゼロではなく、完全に問題が解決しているわけではない。
4.複数温度帯同時配送の方法
保管期間に比べると配送については短時間なので、残念ながら温度管理としては厳密さを欠いているのが実情だ。保管では同一センター内で6温度帯(超低温、アイスクリーム、冷凍食品、チルド、定温、常温)の独立した温度管理ができたとしても、配送段階では単温度ないしは2~3室車利用、または保冷ボックス等を使用した方法になる。
複室式のトラックでは1つのエバポレーターで2~3室の独立温度を実現するものが主流だが、この方式では温度管理がやや甘くなる。単温度でも2つのエバポレーターで独立した厳密な温度管理を行う方式のものもある。いずれにしてもトラックではドアの開閉に伴う外気の侵入があり、冷却機能力の限界もあわせて温度環境維持に未だ技術的な課題がある。ドライバーのオペレーションという人的要素も大きい。
保冷ボックスは断熱性能のいいものや、液化炭酸ガスを使って雪状ドライアイスを封入するもの等が開発されている。低温商品はこのようなボックスにより常温トラックを使って対応した方が使い勝手がいい場合もある。複数温度の商品を同一の車両に積み分けていくにはかなりのノウハウや経験が必要になるからだ。
複数温度の食品と常温の雑貨類を同時にオペレーションしていくことは容易なことではない。作業環境としての物理的設備、5Sの運用等もかなり異なり、臭いの付着という問題もある。これらを乗り越えて全温度帯一括物流の作業方法や、管理マインドを詳細に構築していくのはこれからの課題だ。
5.環境対応とリテイルサポート
前述したように全温度帯一括物流が環境対応につながり、小売業の店内作業省力化等を支援している。しかしこれは小売業中心の個別最適化を意図しているわけではない。ロジスティクスがリテイルサポート機能を果たし、全体最適のSCMを実現する方法論の一つを例示しているに過ぎない。ゲインシェアリングが大前提となって機能提供が行われることは言うまでもない。
リテイルサポートとは一般的には、店舗の商圏分析や品揃え・陳列提案等のベンダー側からの支援として位置付けされているが、それはマーケティング活動の範囲に留まらない。既に述べてきたようにロジスティクスが単に商品供給の効率化を図るというだけでなく、販売支援としての戦略的機能も充分に果たしているのである。(図表-1)
(図表-1)

環境対応の取り組みは単に車両台数の削減や積載率の向上という側面だけではなく、ディーゼル車における複合的な排出ガス規制、スピードリミッター設置の目的である交通安全というような問題にも広がりを見せている。SCMの取り組みによりこれら新しい与件に対応するための原資を捻出し、サプライチェーン運営に関わる全ての企業がこの問題を共有化していかなければ真の問題解決にはつながらない。
食品の安全・安心を担保する種々のシステム化についても新たなコスト負担が必要になる。そしてこのような社会的課題を前提にした全体最適に新たにチャレンジしていくことこそが、SCMの基本命題である。
6.物流からロジスティクス・アプローチへ
一括物流の流れが拡大していく中で、未だ幾つかの大きな課題がある。例えば一次産品の扱いであり、それは基本的に生鮮品(狭義では一次産品)として商品特性が極めて厳しいためこのシステムにのらないことが多い。卸売市場機能が低下し市場外流通が拡大しつつあっても、他の加工食品等と同列に扱うことに多くのボトルネックがあり、生鮮品だけは別扱いにせざるを得ない実情がある。
それはEDIやバーコード表示等のインフラ未整備の問題であり、一次産業におけるロジスティクス視点の欠落である。この領域でもグローバル化が確実に進んでおり、生鮮品といえども輸入品に押されている。産業構造の抜本的な改革を行わない限り、国際競争力の確保がますます難しくなるだろう。
食品と医薬のニッチ領域でも商品開発が進み、宅配も含め一括物流のニーズがここでも高まっている。ドラッグストアが食品の品揃えを強化しており、医薬品と食品の一括物流も既に行われている。人の生命に直結するこれらの対応では品質・衛生管理が一段と厳しくなり、生活者の支援という新たなサービスも求められる。
ロジスティクスがマーケティングにおける需要充足の活動であるとすれば、その最上位概念には消費者を据え、マーケットインという概念でのシステム作りと運営が必須になる。物流という機能はロジスティクスにおける重要基盤ではあるが、物理的な効率の追求ということでプロダクトアウトの発想になってはいないだろうか。物流とロジスティクス概念の決定的な差はここにある。3PLの事業展開も従来の物流事業の延長ではない。消費起点流通とは市場・消費者が全ての出発点となるシステム作りであり、それをビジネスとして役割分担していくことが今求められている。(図表-2)
(図表-2)
以上
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