第63号3PL-わが国物流史上画期的な概念(2004年9月21日発行)
執筆者 | 湯浅 和夫 株式会社湯浅コンサルティング 代表取締役社長 |
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目次
1.3PLをどう解釈するか
これをお読みになっている皆さまは、おそらく物流のプロといってよい方々が多いと思われる。そこで、お聞きするのだが、皆さまは、最近よく見聞きする「3PL(サードパーティ・ロジスティクス)」という言葉についてどう理解されているであろうか。「3PLについては諸説いろいろあってわからん」などと言われては困る。新しい言葉は、新しい概念を提起しているものであり、自分なりの理解を持つことが求められる。
たしかに、3PLの解釈については諸説ある。3PLというのであるから、1PLもあれば2PLもある。諸説というのは、このそれぞれに何を当て嵌めるかというところで分かれるとみてよい。たとえば、1PL;荷主企業、2PL:物流業者、3PL:荷主・物流業者以外の第三者という解釈もあれば、1PL:メーカー、2PL:流通業者、3PL:物流業者といった主張もある。ただ、このような、そこにどういう主体を当て嵌めるかという点は、実は重要ではない。どの説を採ろうと、言っていることは同じだからである。
これは、上であげた主体が一体何を担う主体であるのかということを考えてみればわかる。何を担うかは明らかである。もちろん、物流を担うのであるが、輸送や保管といった物流活動を担うわけではない。物流活動だけを担うのであれば、主体としては物流業者しか出てこない。流通業者や第三者などという主体が登場しているのは、個々の活動ではなく、物流システムそのものの構築・運営・管理を担うということを意味しているといえる。
さて、ここでポイントになるのは、どういう主体の当て嵌め方をしようが、共通するのは、3PLの主体から「荷主企業」が外れているということである。ここが3PLを解釈するポイントである。つまり、3PLとは、荷主企業以外の主体が、物流システムの構築・運営・管理などを行う形態をいうと解釈するのが妥当だということである。
2.これまでわが国企業では「1PL」が主流だった
3PLをこのように解釈すると、ちょっとオーバーな言い方をすれば、3PLはわが国物流史上において画期的な概念であるといえる。これまで、わが国においては、物流システムは荷主企業の物流部というところが構築し、管理を行ってきた。物流業者は、輸送や保管など実作業レベルを担うという役割分担が当たり前だったのである。
このように、荷主側が物流システムの構築・管理を行い、物流業者がそのシステムにおける実作業を担うという分担関係を1PLといい、わが国ではこの関係が主流で来たのである。振り返ってみると、1970年以降、物流が企業経営において注目され、多くの企業で物流部のような物流を専門に管理する部署が作られてきた。これら物流を管理する部門は、物流コストを削減するため、物流拠点の集約や拠点内作業の改善、共同化、果ては輸送効率の向上や配車にまで取り組んできた。ここで疑問に思うのは、なぜ物流を管理する部門が作業や輸送という実活動の効率化に取り組んできたのかということである。これらは、本来、実活動を担う物流業者に任せればよいことだからである。
ところが、物流業者は、これまで、荷主企業から指示されたとおりに活動すればよいという認識を当たり前のように持っていた。そのため、荷主企業の物流部が活動の効率化までを自分の仕事として行ってきたのである。その結果、物流システムの構築・運営・管理という中で、物流業者は運営だけを行い、そのシステム作りと管理が荷主企業側の仕事であるということが当たり前の関係となってきてしまったわけである。
このような関係で30年が経った。余談になるが、このような関係でどんなことが起こったかというと、荷主企業間での物流格差の発生という事態が起こったのである。物流部主導の場合、それぞれの社内における物流部門の位置づけ、人材配置、予算額等により物流への取り組みに違いが生じてしまう。これが、物流レベルの格差となって現れる。
もちろん、企業間で物流の格差が生じてもいいではないかという意見もあろうが、いい悪いの問題ではなく、企業間の物流格差の発生は1PL特有の現象であるということが言いたいのである。仮に3PLが主流の場合、それほど大きな企業間格差は生じない。3PLで荷主企業の物流レベルに格差が生じるのは、3PL事業者側のレベルの格差によるものであり、そもそも、低レベルの事業者は必然的に淘汰されてしまうからである。3PLという市場においては、品質の低いサービスは淘汰が避けられない。それゆえ、1PLほどの格差は生じないのである。
ちょっと話が横道にそれたかもしれないが、要するに、3PLの登場は、これまでのわが国における荷主企業と物流業者との役割分担関係を大きく転換させる意味合いを持っているということである。その意味で、3PLは画期的な概念なのである。敢えてふれてこなかったが、3PLはアウトソーシングと同義である。物流システム構築という業務をアウトソーシングするという物流形態を3PLというというのである。
それはともかくとして、1PLと3PLが登場したとなると、2PLとは何かという疑問がわく。答えは、2PLは、1PLと3PLという対極を成す概念の中間に位置するものであるということになる。物流システムの構築において部分的に物流業者が提案したシステムを活用するとか、過渡的に1PLと3PLが混在する形態といえる。概念的には、あまり重要性を持たないと言って過言ではない。
3.3PLはこう定義されている
さて、ここで整理してみると、3PLは、1PLとの比較で画期的な意味を持っており、これまで荷主企業の物流部で担うのが当たり前だと思われていた物流システムの構築・管理という業務を物流業者などに代表される荷主以外の事業者が担うという役割分担になるということである。そして、敢えて言えば、これが本来的な役割分担なのであるということでもある。これまで物流業者が果たすべき役割を果たしえなかったため、やむなく荷主企業がその役割を果たしてきたが、それを担い得る事業者が登場してきたということである。
このように理解して、ここで3PLについての定義を二つ紹介しよう。
*総合物流施策大綱
「荷主企業に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務」
*日本ロジスティクスシステム協会
「荷主企業に対してその立場に立ってロジスティクスサービスを戦略的に提供する事業者を活用すること」
著名な二つの定義であるが、これら二つの定義はまったく違った表現をしている。しかし、表現内容は違っても、実は、これら二つの定義は同じことを言っているのである。それぞれに使われているキーワードから共通する要素を引き出し、改めて、3PLとは何かということを探ってみよう。
まず、物流施策大綱の定義であるが、ここにおいてキーワードと思われるのは「物流改革」と「包括」という二つの言葉である。「物流改革」という言葉が何を意味するかは明らかである。この言葉は「大幅な物流コストダウン」を意味している。つまり、荷主企業に大幅なコストダウンを提案するということである。また、「包括」という言葉は「輸送、保管という単機能ではなくもっと広い範囲」を意味する。
また、日本ロジスティクスシステム協会の定義におけるキーワードは「荷主企業の立場に立つ」と「戦略的」という言葉であろう。「荷主企業の立場に立つ」ということは、物流事業者が自己の利益を優先せず、荷主企業の利益を優先するということを意味する。荷主企業の利益とは言うまでもなく「物流コストダウン」に他ならない。「戦略的」という言葉は、荷主企業に対し「ライバル会社と比べコスト優位に立つこと」という意味であろう。つまり、この定義も、荷主企業の立場に立って、コスト優位に立つようなサービスを提供するということである。
このように見ると、ここで紹介した二つの定義は、いま荷主企業が行っている輸送や保管という業務を低コストで請け負いますというこれまでの物流事業とは次元が異なるサービス提供が3PLであると言っているのである。当然のことながら、大幅なコストダウンは現在行われている物流活動を請け負うということを前提にしては不可能である。荷主企業の立場に立って物流システムそのものにメスを入れることが必要である。
ただ、これら二つの定義を見ても、もう一つわかりづらい印象を持つのは、肝心な記述がないからである。「これまで荷主企業が行っていた物流システムの構築・管理という業務を荷主企業に代わって行うこと」というように、これまでの経緯を踏まえてその新規性を強調することが必要だと思うのだが、いかがであろうか。
4.3PLはこれまでの常識を破壊する
3PLは、画期的だと強調してきたが、言葉を換えれば、3PLはこれまでの常識を破壊する概念だということができる。
すでに述べたように、荷主企業の物流部においては、もはや物流活動の効率化という業務は存在しなくなる。配車や車両効率の向上などは言うに及ばず、拠点の集約も作業の改善も共同化もすべて3PL事業者の業務に入ることになる。それでは、物流部門は何をすることになるのか。これについては考えるまでもない。在庫管理を原点にしてロジスティクスを導入し、SCMへの展開を守備範囲にすることが望まれる。また、物流ABCをベースにして物流サービスのマネジメントを行うことも重要な仕事である。やや抽象的な表現になるが、物流部の仕事を活動レベルからマネジメントレベルに移行していくということである。もともと、これが物流管理の本来業務なのである。
また、3PL事業者は、本来の意味で、「荷主企業の立場に立つ」ことが求められる。よく言われるように、アセットを持っている物流事業者が3PLを行おうとした場合、自社の保有する物流施設が荷主の物流システムにおいて適切な立地にないとしたならば、自社のアセットは使わず、適切な立地にある他社のアセットを躊躇なく選択することが要求される。自社のアセットにこだわるのは自社の利益を優先しているということであり、それでは「荷主の立場」に立ったことにはならない。
「初めに荷主の利害ありき」であり、自社のアセットを売りたいなどという自社の利害が先に来るようでは3PLとは言えない。簡単に言えば、荷主企業の物流担当者ならどう考えるだろうと発想することが重要だということである。
このように、3PLは、これまでのわが国の物流の常識の範囲内には存在しなかったまったく新しい物流形態なのである。わが国の物流の発展のために大事にしなければならない概念といえる。その意味では、3PLをこれまでの延長線上で理解し、活動レベルの業務受託範囲の拡大程度にとらえると、3PLは、その本来の画期的な概念を失ってしまう恐れがある。物流事業者にとっては絶好の新規業務領域であり、その本来の概念を踏まえて自社に取り込むことが不可欠である。
企業物流のあり方を大きく変革する可能性を持つ3PLを自社の変革に活用する姿勢が荷主企業、物流業者双方に求められるといえよう。
以上
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