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ロジスティクス ・レビュー

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ロジスティクス

第238号困難を極める企業経営でロジスティクスがますます重要になる:物流~ロジスティクスへシフトアップするための基本点検(荷主編)(2012年2月21日発行)

執筆者 野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入所
    • 1975年 同・本社物流部へ異動
    • 1985年 同・物流子会社へ出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックスへ出向(コールドライナー事業担当、取締役)
    • 1991年 日本物流大賞受賞:「高密度共配による配送効率の飛躍的向上」
    • 1994年 同・本社物流部へ復職、96年退職(専任部長)
    • 1996年 昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)、98年退職
    • 1999年 株式会社カサイ経営入社 ~パートナーコンサルタント
    • 2000年 有限会社エルエスオフィス設立
    • 2001年 群馬県立農林大学校非常勤講師、日本ロジスティクスシステム協会講師
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    保有資格
    • 物流技術管理士(第26期)
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会正会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    主要著書・論文
    • 『低温物流とSCMがロジ・ビジネスの未来を拓く』―鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ
    • 『低温物流の先進企業事例』―生鮮流通の業態・チャネル別戦略モデル
    • 『低温物流の実務マニュアル』―経営戦略・マネジメントとの連動

 

目次


 

1.「カンバン」だけでは勝てない!という新たな新聞論調

  日本株式会社の機関紙と揶揄されてきた日経新聞の論調が少し変わってきた。新年1月17日付朝刊に「製造業の明日」というシリーズの上記見出しで、主に資金回収スピードについて述べている。「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」という財務指標に類する用語を使っているが、これはロジスティクスで言えばスループットタイムのことではないか。カンバン方式は生産システムであり、ロジスティクスの一部を成す。
同紙は相変わらずモノ作りが我国産業の国際競争力の源泉であると言い続けているが、漸くそれだけではダメだと悟ったようだ。見出しは更に「経営モデル世界に遅れ」とも書いている。具体例としてアップルのCCCがマイナスであり、これは製造以前にお金が入ってくる状態としている。そういえばデルのPCを発注した際まず残額入金の催促があり、入金確認後にオーダーメード部分の装着を行い発送するとのことだった。もちろん工場・出荷元は大連である。ところが送金しても何の連絡もなく、納期が何日なのか案内もなかった。こんな身勝手なビジネスモデルが優れているとは決して思わない。あくまで入金がトリガーであって、少しもお客本意ではない。更に名だたるファブレス企業のシステムとは、果たしてどのようなものだろうか。
日経新聞がモノ作りだけではなく、ロジスティクスも重要であるという認識に変わりつつあるなら大歓迎である。そして産業界や官界にもそれが広がり、大きなウネリとなってもらいたいものだ。東日本大震災の対応でモノが届かないのは物流の話であって、どこで何がどの位必要かを把握し、それに合わせて供給していくのがロジスティクスである。

2.物流管理はコストだけではない:戦略面での物流が重要

  物流とは機能の管理でありこれをシステム化して生産性を高める、つまり効率の追求である。その結果は物流コストで評価され、売上高物流費比率等としてベンチマークも行われている。これが行き着くところまで到達し、もう物流管理は卒業したという安易な風潮がある。物流部門を子会社化し、そこにアウトソーシングしたということもそれを加速する。しかしこのような見方だけでは片手落ちである。
効率を上げる一方で物流は企業としての最終工程であり、顧客との接点を担っている。これは営業施策を支援する極めて重要な戦略としての部分である。具体的には物流サービスレベルの設定として、投入コスト対効果を考えその内容を決定する。物理的なサービスレベル以外に、物流機能としての品質や顧客システムとの適合性が問われる。
(物流の2つの側面)
機能面:効率の追求   → 生産性、スピード、コスト効果
戦略面:合目的性の追求 → 販売支援、物流品質、顧客システムとの適合性
コスト管理で終わりとするのは余りにも短絡的であり、経営としての不作為にもつながる。例えばその中で在庫の持ち方は極めて重要な政策であり、企業としてのトータルシステムが機能しなければ管理出来るはずがない。それは次ステップのロジスティクス課題である。

3.ロジスティクスは物流と同じではない:機能管理から体系管理へ

  ロジスティクスでは物流管理が出発点としての重要な一要素ではあるが、その延長線上にあるものではない。それは情報を駆使した「計画と統制」という次元の違う仕事であり、とりわけ需給・在庫管理がコアとなり、基点はあくまで市場・消費である。つまり経営実務そのものであり、企業戦略の一翼を担う。情報を駆使することこそが重要であり、この精度とスピードが死命を制する。情報とは例えば需要予測であり、在庫のリアルタイム把握である。一口に在庫と言っても広域に散在し、そのステータスも多くなる。
企業のマーケティング活動が需要の創造を意図するものであるとすれば、ロジスティクスは需要の充足を実現するものである。この二つは車の両輪であって、どちらが上位・下位というものではない。最終工程が消費ということでは、販売支援としてのリテイルサポート機能が重要である。マーケティング面からだけではなく、ロジスティクス面でもこの機能は発揮できる。
(ビジネスモデルの要素)
マーケティング:需要の創造 → 6Pと言われる要素(商品・価格・チャネル・広告宣伝・販売促進・販売物流)、
ハード・ソフトの品質
ロジスティクス:需要の充足 → 調達~回収・廃棄・資源としての再利用、サプライチェーン全体の品質管理
・セキュリティー確保
ロジスティクスの定量目標はキャッシュフローの増大であり、これは売上を拡大する部分とコストを圧縮する二つの側面がある。つまり売上拡大につながらなければ意味がなく、マーケティングとの連動はこれを実現する上でまさに不可欠な条件となる。前述したCCCは、在庫が重要な要素となっていることは言うまでもない。

4.日常業務リスク対策と危機管理が重要:BCPにつなげる

  在庫を低レベルで高回転させようとすれば当然リスクが発生し、もう一方で重要なのはこのヘッジ策である。つまり日常業務リスク対策が必須で、予め想定されるリスクに対し事前の手当てを講じておく。それでも異常事態は発生し、それをどう短期に修復するかが危機管理ということになる。危機管理策だけがあって、日常リスク対策と何ら連動していないとすればうまく機能するはずがない。それは言うまでもなくQC活動を始めとする、現場実務の改善活動である。QCは小集団活動等の積上げ型だけではなく、トップダウンの現状打破型が重要である。そうしなければ時間ばかりが掛かってしまう。この両方をマネジメントとして推進するのが業務改革である。
東日本大震災において、BCPがうまく機能した事例が幾つか報じられている。これはその前提としての日常業務リスク対策と危機管理が連動したということであろう。そのためには計画を策定するだけではなく、定期的なシミュレーションや机上訓練が必要で、方針管理における「計画の読み切り」である。サプライチェーンの確保ということはロジスティクスそのものであり、この中でインフラが機能しないというのは物流レベルの話である。ロジスティクスでは情報収集や統制が重要であることは前述した。
(危機管理の組み立て)
日常業務リスク対策:予防措置、業務改革、リスクヘッジ(保険付保等)
異常時の処置   :事態の想定シナリオ、経営としての指揮命令系統、部門間連携
物流はどちらかと言えばパッシブ機能であり、これをアクティブ機能として飛躍させる必要がある。これが物流業務品質管理(QC)であり、自立した業務機能として確立させる。そこでは自律的な工程管理が行われ、ロジスティクスの重要なインフラを構成する。

5.安易なアウトソーシングを慎む:物流子会社化は機能しているか

  外注化という機能外部委託は、物流管理レベルでは日常茶飯事的に行われてきた。だがアウトソーシングというのは経営レベルの方策であり、財務のオフバランス化を狙う。しかもロジスティクスは企業のコア業務としての「計画と統制」であり、本来ならアウトソーシング出来るはずがない。更にフルアウトソーシングとして機能の部分だけではなく、情報システム運用も含めた管理そのものの外部委託である。丸投げというのは余りにも安易であり、管理基準設定やメンテナンス等の自社コア管理がなければうまくいかない。その頂点に立つのがファブレス企業ということなのだろうが。
ロジスティクスの管理状況をKPIとして常に可視化し、管理範囲を外れたら直ちに処置できる体制を整える必要がある。オペレーションを委託した相手側のミスなのか、自社の管理上の問題なのかをはっきりさせられなければ、アウトソーシングは成り立たない。取引の優越的地位を利用して、一方的に押し切ることなど出来るはずがない。
物流という機能を子会社化して、問題を切り離すだけというのも何ら解決には繋がらない。またその物流会社が市場で競争力がなければ、これも意味がない。3PLを選択するコンペにおいてもコストレベルに目が向き勝ちであるが、重要なのはアウトソーサーの情報システム運用力も含めた実務遂行能力であり、これを見抜く力を養う必要がある。

人材育成・組織開発が必須:ロジスティクス部門が蚊帳の外ではいけない

  販売物流は益々複合チャネル化し、消費財であれば食品・日雑・医薬等の一括物流が主流になってきている。自社の製品群だけでなく、競合他社・異業種システムとの適合性が求められていく。そしてロジスティクスの範囲は原材料調達~回収・廃棄・資源化という広範囲のサプライチェーン全般に関係し、当然グローバルな拡がりとなる。
ロジスティクスはもはや単なる自社内だけの経験則の積上げや、片手間な対応で出来るものではない。専門の知識や理論を学び、しかもそれは基本的にフィールドサイエンスである。そしてマーケティングやマーチャンダイジング等についても一定の理解が必要になる。サイエンスだけではなく、心で考える感性も必要になる。このような人材はロジスティシャンとして専門に育てていくしかない。
製・配・販といった多機能の連携を要するロジスティクスでは、管理組織としての位置付けも重要である。少なくとも他部門と対等に接することができなければ、業務を円滑に推進することは不可能だ。まず第一歩としてマーケティング部門が物流を取り込み、やがてロジスティクス部門として独立させたケースもある。この場合、調達~廃棄までの広範囲をカバーし、客観中立の立場として需要予測責任も負った。物流は企業の単なる雑用処理として低位の位置付けのままで、優れた人材も配置しないというのであれば、ロジスティクスの展開を放棄したに等しい。
(ロジスティクス部門の位置付け)
コストセンター   :物流コスト管理、アウトソーシング推進、物流業務品質管理
プロフィットセンター:ロジスティクスコスト管理、販売支援、サプライチェーンの一貫管理、経営効率追求

7.SCMはまだ条件整備事項が多い:「夢のまた夢」で終わらせてはならない

  次のロジスティクスの段階は、サプライチェーン・ロジスティクスとしての企業間連携が必須となる。そして究極はリバース・ロジスティクスである。例えば食品の鮮度維持や衛生管理を考えた場合、当然メーカーだけの努力では限界があり、卸・小売等の流通システムと連続性を保つことが不可欠の条件となる。しかしこれら利害の対立しがちな異業種との連携には大きな困難もある。まずは情報システムの整合性、そして企業間のコミュニケーションが促進される努力が前提になる。これがサプライチェーン・マネジメント(SCM)の重要な目的でもある。
消費者に対する安全安心の担保についても全く同様であり、製造~消費に至る一貫管理が必須となる。製造工程における品質保証を、流通工程においても異企業との連携で管理持続させる必要がある。セキュリティー確保という新たな課題もある。そしてSCMの管理目標はこれもコストだけではなく、品質や環境対応等の幅広い範囲となる。そのためには預かり在庫等の従来からの商習慣や、取引・労働・環境等に関する条件整備が必要となる。これらを放置した改革等はあり得ない。
我国の物流やロジスティクスを推進する公共団体が、相変わらずコスト至上主義であり、明確な概念形成や社会的な公平性を何ら訴求せずに、団体としての利益確保に汲々としている状況は誠に遺憾である。ロジスティクスは確かに一般には難しい概念であるが、だから従来の物流に留まっているとしたら大きな怠慢である。ロジスティクスには社会のライフラインを支える責任がある。その先頭に立つ確かな存在であるべき真摯な行動が求められる。

以上



(C)2012 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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