第557号 物流二法の改正とサプライチェーン改革の方向性(前編) (2025年6月5日発行)
執筆者 | 橋本 雅隆 氏 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 博士(商学) 明治大学BCP・SCM研究所代表 |
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執筆者略歴 ▼
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*サカタグループ2024年10月23日開催 第28回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回、明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 博士(商学) 橋本 雅隆 先生の講演内容を3回に分けて掲載いたします。
*掲載内容は、講演が開催された時点でのデータや情報を基にしているため、現在の状況と異なる場合があります。
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目次
- はじめに
- 2024年問題対応に関する行政の動き
- (1)「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の設置
- (2)「物流革新に向けた政策パッケージ」の決定
- トラックGメンの創設
- (3) 改正物流二法の制定
- 荷主・物流事業者に対する規制的措置
- トラック事業者の取引に対する規制的措置
はじめに
ただいまご紹介いただきました、明治大学の橋本でございます。本日のテーマ、「物流効率化法とサプライチェーン改革の方向性」についてお話していきます。
本日冒頭にお話をする物流効率化法は既に公布されており、2025年度から施行されます。
本日お話する内容は、この3点です。「2024年問題と物流効率化に関する行政の動き」ということと、政府が方向づけをしている、「リスクに強いサプライチェーン」とはどういうものなのか、それからこの法律で定められている、物流統括管理者、俗にCLOと言っていますが、「CLOの役割と求められる人材」についてお話させていただきたいと思います。
2024年問題対応に関する行政の動き
まず、2024年問題と物流効率化法に関する行政の動きについて、少しおさらいをしておきたいと思います。ご承知のように、2024年問題に関して、この4月から労働基準法と改善基準告示が改正されまして、トラックドライバーの所定外労働時間の上限規制が年間960時間に設定され、このまま続けていくと、ひとつの試算ですが、コロナ前の2019年に比べて14.2%ぐらいのものが届かなくなるということです。
更に6年後の2030年には、34.1%、つまり3分の1ぐらいのものが届かなくなるという試算が出ているわけです。これは放置しておけないのでこの法律が施行されるわけです。なぜこういう状態になったかというと、平成2年に物流二法が改正され、トラック運送業の新規参入が実質的に緩和されたことで、それまで約4万社だった運送事業者が、約6万社、1.5倍ぐらいに増加しました。
このため競争が非常に厳しくなり、全産業平均よりも、労働時間が約2割長く、年間賃金は約1割前後低くなっており、若い方がドライバーになりたがらないのです。
政府では、2024年問題の影響について試算をしており、影響が大きい業界は、農産・水産品、建設業・建材であり、こういったところでは、物流コストが上がっていくということと、地域的には、中国、九州地方といった、地方の影響が大きいと言われています。
(1)「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の設置
これは放置できないということで、一昨年の9月に、この三省で、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/index.html)が設置され、この対策が議論されました。ここでは、主に3点ほど指摘がされました。
その中では、荷主、特に経営者層の方が、物流についてもっと関心を持っていただきたいということです。また、消費者も、再配達とか、いわゆる賞味期限の問題だとか、行動変容をしてくださいということが一つあります。
それからもう一つは、非効率な商取引慣行の見直しと、トラックの荷待ち・荷役時間の削減です。これが長いとドライバーがずっとトラックの中で待っていなくてはいけないのです。今後対策をとらないと、ドライバー不足のなかで、更に届けられなくなるのです。
それから、リードタイムの問題です。今日注文した商品を、明日届けなければいけないとか、厳しい条件で輸送しているので、最短でもN+2のリードタイムを取るといった変更です。また、発注量のピーク・ボトムの差が非常に大きいので、稼働率や積載効率が低くなる。こういうところの平準化をするということです。
あるいは、運送業の運送契約の問題です。これは多重下請け構造というのがあって、実運送の実態が元請けの段階で十分把握されていない場合も多いのです。こういったことを改善し、適正な運賃・料金を払うようにするということです。
その前提となるのが、物流標準化、デジタル化、共同化、モーダルシフト等による効率化です。これは、改正省エネ法を下敷きにして法改正をしました。
物流は、発荷主、受荷主、それから運送事業者があって、そこも元請け・下請けの構造になっていて、こうした物流の問題を解決しようとすると、発荷主の方は、「お客様が受荷主であるため、お客様の言うことを聞かなくてはいけない」、受荷主の方は、「物流現場は、物流会社が作業していて、その実態はよく知りません」となり、物流会社へ行くと、「発荷主から指示されてるから、その通りやっています」ということで、どうどう巡りになってなかなか解決しないので、これは法改正により、ある程度規制しないといけないということになったのです。
こういう構造的な悪循環が発生する原因は、相対的に買い手の荷主の交渉力が強く、厳しい納品条件が課せられるとか、あるいは、店着価格制といって、お店へ商品を届けるまでが、売り手の責任になっていて、その中で商品の金額と物流費が明確に区分されていないのです。それに、前に述べた通り、運送契約は発荷主と結んでいるので、受荷主側でドライバーが荷役などの付帯業務をさせられても、料金の請求は受荷主に求めづらいという問題があるのです。しかしながら、先ほどお話しました、多重下請け構造というのがあり、労働時間規制もあり、これから物流危機なので商慣行や構造改革に取り組もうとなった時、やはり着荷主の協力も重要ですし、物流の標準化、効率化が重要となってきます。
そこで、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、実際に、荷待ち・荷役時間の短縮や、リードタイムの長期化、あるいは契約条件の明確化というようなことが方向づけられたのです。
(2)「物流革新に向けた政策パッケージ」の決定
これらを具体化するために、昨年の3月に「物流革新に向けた政策パッケージ」(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001725232.pdf)が決定され、そこで、商慣行の見直し、物流効率化、あるいは荷主の責任について、この政策パッケージの中に盛り込まれています。
ここで、荷主と、物流事業者さんへ努力義務を課して、そこで規制をしていこうという方向になりました。その他にも、食品等の納品期限の3分の1ルールの見直しとか、あるいは多重下請け構造の是正ということを記載しています。
具体的な施策としては、ここに挙げているように、トラックドライバーの稼働率を上げましょうということで、荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めることを目標にしています。
それからもう一つは、積載効率です。今これは、平均が40%を切ると言われており、約60%空気を運んでいるわけですから、そこをせめて50%以上に引き上げという目標がパッケージに記載されました。
トラックGメンの創設
こういった流れの前に、「荷主への働きかけ等の制度」というのは、貨物自動車運送事業法が平成18年に改正されました。そこで、いわゆるトラックの効率化に資するような取り組みの実施を促進するために、この枠組みを使って去年の7月に、トラックGメンが全国162名の体制で、「物流の現場でこんな困り事がある」という情報を入手し、物流事業者や、あるいは荷主のところへ行って、「何とか改善してください」という要請をしているところです。
この「相談窓口」というか、「目安箱」が、ネット上に設けられ、また、いわゆる「プッシュ型(積極的)情報収集」を基に、トラックGメンによる情報収集が進んでいます。これは、「働きかけ」「要請」「勧告・公表」という段階になっていますが、要請しても改善されない場合には社名を公表します、ということです。
例えば、長時間荷待ちで待たされるとか、運賃の契約を10年以上改定してもらっていないなどの情報を得て是正指導をしています。
このトラック事業者への活動実績ですが、これも国の資料ですが、昨年から月当たりの、「働きかけ」「要請」「勧告・公表」の件数が上昇しており、特に11月から12月の間、通常月の倍ぐらいになっており、今年も11月~12月に「集中監視月間」を設けており、集中的にチェックするのです。
活動の中身としては、長時間の荷待ち、契約にない付帯業務、これはドライバーに積み下ろし作業を任せて、きちんとその料金を支払っているのか、そういったところがチェックされます。
(3) 改正物流二法の制定
こういった流れの中で、改正物流二法、「物流効率化法(流通業務の総合化および効率化の促進に関する法律)、および貨物自動車運送事業法、の一部を改正する法律」が今年の4月に通常国会で成立し、5月に公布されています。
この柱は大きく三つあり、①荷主・物流事業者に対する規制的措置、②トラック事業者の取引に対する規制的措置、それから、③軽トラック事業者に対する規制的措置、からなっています。
荷主・物流事業者に対する規制的措置
この「規制的措置」は、法律上は、発荷主を第一種荷主、それから着荷主を第二種荷主と定義し、その効率化のために取り組むべき措置を示しており、これが先ほど言ったように、「荷待ち・荷役時間の短縮」と「トラックの積載率の向上」に対して、これらの努力義務を課して、その取組状況について、「判断基準」に基づいて、国が指導・助言、調査・公表を実施することになっています。
それから皆さん関心があると思われる、この「特定事業者」というのは、年間の荷物の取扱い量の多い事業者を指定して、物流の効率化に関する中長期計画の策定と、事業年度毎のその成果を報告する義務を課しています。
さらに、特定事業者では、それらの管理をする「物流統括管理者」という、海外ではCLO(チーフ・ロジスティックス・オフィサー)と言われてる責任者の選任を義務づけています。CLOは、基本的に経営上の意思決定に関与できる職位の者が望ましいとされております。
トラック事業者の取引に対する規制的措置
それからトラック運送事業者の取引に対しては、書面による運送契約の締結と、付帯業務の料金の明示、燃料サーチャージの取り決め等の義務化です。もう一つは俗に下請け台帳(実運送体制管理簿)の作成が言われています。実運送の管理簿を元請が管理し、それによって実施後3年で、荷待ち・荷役時間を、ドライバー1人当たり年間125時間削減し、積算率向上による輸送能力を16%上げること目標として示しています。これらが、改正物流二法により定められているのです。
冒頭にお話ししたように、これを、省令、政令という形で落とし込むので、それぞれの中身を今決めているところです。これらは、三省合同会議(国交省・経産省・農水省三省の合同会議)でこの中身について今議論しているところです。
※中編(次号)へつづく
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