第558号 物流二法の改正とサプライチェーン改革の方向性(中編) (2025年6月17日発行)
執筆者 | 橋本 雅隆 氏 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 博士(商学) 明治大学BCP・SCM研究所代表 |
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*サカタグループ2024年10月23日開催 第28回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回、明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 博士(商学) 橋本 雅隆 先生の講演内容を3回に分けて掲載いたします。
*前号(2025年6月5日発行 第557号)より
*掲載内容は、講演が開催された時点でのデータや情報を基にしているため、現在の状況と異なる場合があります。
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目次
- 改正物流効率化法43条の荷主の取り組み措置について省令でさだめる判断基準
- 2つのロジスティクス
- 対象事象の特性とロジスティクスの類型
- ロジスティクス・リスクの低減の方策
- リスク低減方策の相互関係構造
- リスク低減施策の対象と相互関連
- フィジカルインターネット・ロードマップ
2025年度から改正物流二法が施行されます。特定事業者によるCLOの選任義務は、2026年4月から施行されるという日程で進めています。今そこで、どんなことを議論しているのか、少しお話をしたいと思います。
改正物流効率化法43条の荷主の取り組み措置について省令でさだめる判断基準
まず、荷主が講ずべき措置ですが、とにかく積載率を上げなさい、荷待ち・荷役時間を短縮しなさい、それからCLOを選任しなさい、というようなことが盛り込まれる予定です。それからもう一つは、それをチェックするために、トラックGメンによる監視、改善要請というものが実施されます。
では、積載率の向上と荷待ち・荷役時間短縮のために具体的に何をしていくのかというと、例えば、「トラック予約システム(バース予約システム)」を導入し利用しなさいとか、あるいは「標準(T11型)パレット」を使いなさいということです。
それから、運送事業者がとるべき行動については、共同物流、混載輸送、求貨求車システムの利用、実車率の向上のための帰り荷の確保、混載共同物流に向けた個建て運賃の導入、輸配送契約の最適化やリードタイムの確保、というようなことについて、荷主さんと協力して取り組むことが求められています。
荷待ち・荷役時間の短縮については、バース予約システムの導入、パレタイズの実施とか、検品の効率化です。発荷主から送られてきた事前出荷明細(ASN)に基づき、効率的に検品することに取り組んでくださいということです。
あるいは、製品のダンボール破損による返品の見直しとか、フォークリフトの活用、物流データの標準化、それからトラックGメンによる監視、荷主と物流事業者の協力というようなことが議論されています。
また、改正法の(第37条、第45条、第55条、第64条)に関連する、貨物量の取り扱いの多い「特定事業者」の指定についてですが、日本全体の貨物量の半分ぐらいがカバーされ、大体3200社位が指定されると言われています。
特定事業者の指定基準は、「特定荷主」と、もう一つ、「特定連鎖化事業者」というのは、例えばコンビニエンスストアのように、発注は店舗で行うが、本部が加盟店を管理し商品を販売する事業者ということで指定しています。これらの対象となるのは、年間貨物の取り扱い重量が、9万t以上となっています。それから、「特定倉庫業者」は、年間の貨物の保管量が70万t以上で上位70社程度、「特定貨物事業者運送事業者等」は、保有車両台数が150台以上で上位790社程度がカバーされる予定です。
それで、その事業者は何をしなければいけないかというと、物流効率化改善の中長期計画を作って、原則毎年政府に提出し、計画が変わらない場合は、5年に一度提出してくださいということです。
それから、その改善結果を毎年報告することと、先ほど言ったCLOを選任し、政府に届け出をしなさいという法律になっています。
この定期報告ですが、「業務負荷の軽減」、あまり負担をかけないような簡易的なチェックリストを用いた報告と、「取組の実効性の担保」という、両方のバランスをどうやって取るかという議論を今しているところです。
今回は特に、荷待ち・荷役時間を必ず測るということですが、荷待ち時間等が一定の時間以下、例えば30分未満のところは免除してもいいのではないか、というようなことが議論されています。
計測方法だとか、報告方法だとか、業界団体からもいろんな声が上がっています。例えば、「荷待ち時間と荷役時間を分けて測るというのは、どうやって測るんだ」とか、結構難しいのです。技術的にはこういうことができる仕組みがあり、これを人でやっていたら大変な負担がかかるので、これを機会にDX化してくださいとか、計測方法については、複数の拠点を回ってくる場合には、どう計算するのかとか、倉庫を寄託している場合には、寄託契約との関係があるので、そこにどういうふうに時間を計らせるんだとか、全部を計測するのは無理だからサンプリングでいいんじゃないかとか、あるいは届け出する時間は平均時間でいいんじゃないか、というようなことを今議論しています。
では、物効法を遵守しようとすると、何をしなければいけないのかということ、これは判断基準なのですが、積載率を上げるために共同配送をしてくださいとか、繁閑差を平準化してください、ということがあり、その時に社内では、調達、生産、物流、販売の関係部門の調整をしなければいけない、そうしないと平準化ができないのです。
だから、CLOの責任というのは、物流の現場だけではなく、荷待ち時間の短縮のためには、バース予約システムを入れるとか、フォークリフトを使って荷役をするとか、その他にも、ここに記載されているようなことが判断基準とされているのです。
このまま現行の事業の作業の仕方(オペレーション)のままで定められた基準を守ろうとすると、どういうことになるかというと、おそらくコストだけが上昇する恐れすらあるかもしれません。
例えば、共同物流や混載輸送をしないままで、輸送頻度を削減して積載率を上げると、在庫負担が増えるかもしれません。発注を平準化せずに、荷待ち時間を削減するために荷受けバースを増やすと投資効率が落ちるかもしれません。
それから、自動フォークリフトの導入は、構内作業のやり方を変えないと、相当な投資負担が重荷になるとか、物流体制の効率化に取り組まないままで付帯料金とかサーチャージとかを支払うと、運送料金の負担が増えるだけになる恐れもあります。
パレットの標準化はどうするのか、今使っているパレットを全部廃棄するのか、新たに購入する機材の投資負担を誰がどうするのか。こうした投資の前提として、社内の組織間連携だとか、取引先や、サプライヤーとの社外連携を行って、まず前提としてオペレーションの見直しをやってください。これがチーフ・ロジスティクス・オフィサー(CLO)の役割です。オペレーション改革をやらないと投資効率が下がり、コスト上がるだけで、投下資本利益率(ROIC)がますます低下するのです。
一つの例として、今バース予約システムの導入が求められていますが、単に導入するだけだと、例えば、トラックが2ヶ所、Aという拠点とBという拠点を回ると、そのバース予約の指定時間が近いと、今まで1台のトラックで巡回して届けていたものが、その指定時間を守るために、トラックを2台出さないといけない等、現場ではいろんな問題が実際に起こる可能性があるのです。だから、道具(システム)だけを入れればいいのではなくて、そのオペレーションの体制を変えなければいけないのです。
実質的な荷役時間を短縮するためには、例えばASNデータ(事前出荷明細データ)を発荷主の方で、荷受けするお客さんのところへ事前に送っておいて、ASNデータと紐づいたRFIDやQRコードを使ってスキャン検品をすれば、検品が終了するような、そういった仕組みに変えていかないといけないのです。要は、ロジスティクスを計画的に運用する体制に改める必要があるということです。
さて、ロジスティクスの改革をどういう前提でどのような方向へ持っていくのかについてお話します。まず、リスクということを、今考えるべきだと思います。
こうした対策はBCPにも繋がってくるのです。能登半島地震は今年の1月1日に発生して、その時に建設した仮設住宅が、9月の豪雨によって大きな浸水被害にあったということがありました。この30年で災害によるリスクがどんどん増加しているのです。「南海トラフ地震」が、30年以内に8割程度の確率で起こるのではないかと言われてるわけですから、拠点の見直しだとか、物流体制の見直しということは、今検討しておかないと大変なことなり、企業は立ち行かなくなるのです。
3.11東日本大震災のとき、発生から約2ヶ月後に仙台のある倉庫会社さんの調査をさせていただいことがあります。この会社では、初めから建設時に倉庫の建物の強度を高めていたり、倉庫が水没しないような準備をしていたため、震災直後も、停止すること無く倉庫は稼働していたのです。ただし、発災時に運行していたトラックでドライバーが本社に状況を連絡しようとしたときに、普段のスマホとかの通信手段が全く使えなくなったため、MCA無線という昔の無線を使ってトラックの状況を把握したりしたそうです。また本社は東京にあるのですが、BCP対応で災害用の備蓄品をすぐに送ってくれたので助かったり、地域住民の方々が倉庫へ避難して、物流センターは、社会的な避難場所としての役割を発揮したそうです。
2つのロジスティクス
対象事象の特性とロジスティクスの類型
こういったことを実施するためには、効率的なサプライチェーン・ロジスティクスだけではなくて、ライフサイクル・サポート・ロジスティクス(Life Cycle Support Logistics)といいますが、こういった施設だとかシステムがきちんと維持可能な体制を整えるためには、様々な対応する仕組みだとか投資が必要になってくるのです。このロジスティクス・リスク低減の方策には、これらの四点があります。
ロジスティクス・リスクの低減の方策
リスク低減方策の相互関係構造
①「共通化・標準化」、次に②「共有化」は、シェアリングをします、トラックで言えば共同物流とか混載をすることです。③「分散化・複線化」は、運ぶルートを複線化し変えるとか、鉄道や船を使いましょう、ドローンを使いましょう、というようなことです。それから、④「可視化・連携化」は、ネットワーク全体を見える状況にしておかないといけないということで、これらをこの順番で進めていかないと、ロジスティクス・リスクの低減ができないのです。
リスク低減施策の対象と相互関連
このためには、製品構成や部品構成を変えないといけないし、仕事のやり方も考えないといけない、拠点インフラや人財化・育成、ここまで標準化、共有化をしないといけないのです。
政府は、今、フィジカルインターネットのロードマップを策定し、実現に向けて取り組んでいます。これは海外で出てきた仕組みであり、簡単に言うと、パケット通信ができるようになってインターネットができるようになったように、モノ(貨物)をパケット化して、輸送能力や拠点能力をシェアリングし、物流ネットワークを運用するという考え方です。そうすると、1台のトラックに、さまざまな貨物を混載して、積算率を上げながら運ぶことができて、こういうやり方をすると、災害が起きたときも、別のルートへの組み替えとか、柔軟な運用ができるようになるのです。
物流がうまくいかなくなる現象というのは、どの国でも積載効率が低いとか、ドライバーの長時間労働とかが言われており、日本だけの問題ではないのです。ヨーロッパでも、フィジカルインターネットに着目し、ロジスティクスおよびサプライチェーン・イノベーションの包括的な促進のため、「ALICE」(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)という、コンソーシアムが立ち上がって、名だたる企業が入っており、例えば、標準モジュール型のボックスを使って、トラックにモジュール単位で、いろんな商品を混載して、これにQRコードとRFIDタグを付けて、商品情報の共有・オペレーションの相互接続をするということで、今、実証実験をしているところです。日本でも進めましょうということで、経産省、国交省が中心となって、このロードマップを作成しました。
フィジカルインターネット・ロードマップ
この「フィジカルインターネット実現会議」の委員会で2040年までのロードマップを作成しました。一言で言うと、物流ネットワークを水平連携と垂直統合でシェアリングして、効率的に運用することなのです。
では、実際どう進めていくのかについては、このロードマップの下に業界別にアクションプランを作りました。最初に、加工食品業界と日雑業界で2030年までのアクションプランを作りました。
この委員会(「フィジカルインターネット実現会議」 スーパーマーケット等WG)で作成する、アクションプランというのは、以前から実行すべき課題は既にわかっていたのですが、実現していくためには、できない理由(実現条件間の対立項目)があるため、CRT(Current Reality Tree: 現状問題構造ツリー)分析を行い、こういうことを解決していかないといけないという、「対立解消アイデア挿入後のアクションプランの関連図」を作成しました。
これはこの委員会の報告書(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/physical_internet/pdf/006_03_01.pdf)で、皆さんもご覧いただけると思いますが、この図では何が重要かというと、委員会で議論しているのは、こういうルールを変えましょう、それから前提となる、例えば、製品のマスターを変えましょうとか、事業所コードを共通化しましょうとか、パレットを標準化しましょう、といったことを行っているのですが、これを運用するための企業側のビジネスの仕組み、この肌色で色付けしている図の部分、これを一つずつ変えていかないと使うことができないのです。これらが、後にお話しするCLOの役割になるのです。
※後編(次号)へつづく
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