第393号 最近のロジスティクスの動向 ~コンプライアンス経営~(後編) (2018年8月9日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (流通経済大学 客員講師 株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問) |
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執筆者略歴 ▼
目次
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*サカタグループ2018年2月20日開催 第22回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「最近のロジスティクスの動向 ~コンプライアンス経営~」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社日通総合研究所 顧問 長谷川 雅行」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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1.コンプライアンス経営とは
これは、私が昨年お手伝いした北海道の農産物輸送の事例です。卸売市場では、キュウリの場合はサイズ別にLからSまで、それぞれ等級別にABCで、合計9通りに分けて、市場専用のパレットに荷下ろしします。さらにセリではない相対取引の場合は、仲買人別の仕分けも必要です。
産地の旭川から卸売市場がある札幌まで、トラックで2時間ちょっとかかりますが、キュウリを積む作業と降ろす作業で合計約5時間かかるという実態です。
卸売市場での仕分け作業は、昔からの商慣行があるので改善できないのですが、少なくとも、「産地で商品を積みこむ時は、パレット化しましょう」とテスト輸送した結果、5時間の荷役時間が2時間(卸売市場側での仕分け下ろし)に短縮されたのです。
このテスト輸送の例がたまたま、昨年10月30日の「ガイアの夜明け」【立ち向かう!物流“危機”】(http://www.tv-tokyo.co.jp/program/detail/201710/17105_201710312200.html)で放送されました。
このケースではドライバーの労働時間が3時間減りましたが、先ほどの図表でレタスを1200ケース下ろす作業も同様で、1個1個手作業で降ろすことや、積みこむこと考えたら、それだけドライバーの疲労度も大きく違い、安全運転にもつながると思います。こういった取り組みが、徐々に進みつつあります。
物流関連法規には、先述した「業法」、あるいは「道路法」「労働法」など、さまざまなものがあります。
これら法令の定めるルールを守った上で、物流事業者は競争しているのです。
実際の物流取引には、法令以外に約款や慣習が主に使われています。効力からすると、図表の順番になりますが、実際に適用する場合は、まず契約があって、次に約款となります。
「慣習」というのは、商慣習です。例えば荷主さんから、電話で「明日、東京から大坂へ10トン車1台お願いします」という依頼があり、それに対して「はい、分かりました」と答えると、そこで取引が成立します、これも1つの「契約」(承諾によって成立するので、諾成契約という)で、慣習による契約です。これがまず優先されます。
契約の次には、「約款」が来ます。例えば、自動車保険・生命保険など保険会社の契約のしおり等にも書いてありますが、不特定多数の顧客と契約するときには、個々に契約を締結すると効率が悪いため「当社(損害保険会社)は、この条件で引き受けます」と、あらかじめ定型的に定められた契約条項を明示して、顧客が契約条項を了承して申し込んだときに、契約を締結するためものが約款です。
旅客や貨物の運送についても、「運送約款」があります。トラック運送では、昨年11月に「標準貨物自動車運送約款」が改正されました。標準というのは、国が定めた標準的な約款のことで、「各トラック運送事業者は、この標準約款でよかったら、自社が適用する約款として届け出なさい」ということです。
今回の改正では、「運賃だけではなくて、積卸料金を明示しなさい」「当社は積卸料○○円頂きます」、あるいは「待ち時間は○○円です」と、運賃以外の作業の対価が明確化することとされています。
業界団体では、改正された約款を採用しているトラック運送会社は、先ほどの6万社のうち約5割と言われています。せっかく積卸料や待機料を頂戴できる仕組みに変わったのに、もったいないことです。
物流センターの関連法規については、営業倉庫については倉庫業法・建築基準法・都市計画法などがあります。
倉庫業法は、倉庫業(営業倉庫)について定めた法律で、貨物の寄託については、それぞれの倉庫に、倉庫管理主任者を配置すること等が定められています。建築基準法は、顧客の大切な貨物を預かるために、壁の強度などの施設基準について定めています。都市計画法は、倉庫を建てて良いかどうかという営業倉庫等の立地について定めています。例えば、住宅地はダメで、準工業地域・工業地域であればOKです。
物流センターの関連法規には、消防法も関係します。これは昨年、埼玉県で発生した大規模倉庫火災の写真です。国交省のHPにも出ていますが、パレットがあったために防火シャッターが降りず、延焼してしまいました。
消防庁と国土交通省が、5万㎡(約15000坪)以上の大型倉庫を調査したところ、なんと、約3割の倉庫がコンプライアンス(法令順守)に「何らかの問題あり」との結果が出ました。
「消火器が点検されていない」「消火器の前に空パレットが積んであった」「避難灯が電球切れで点灯しない」などが指摘されています。
皆さんの会社でも、自社の施設がどうなのか確認していただきたいと思います。
図表は「物流総合効率化法」、物流の「物」と、効率化の「効」をとって、通称「物効法」と言われています。
こちらは改正前の法律で、改善前は物流チャネル(経路)が煩雑だったのを、改善後は拠点を一カ所に集約することによって、12台のトラックと12人のドライバーが必要だったのが、6台のトラックと6人のドライバーで済むことになり、CO2が削減されるというものです。
「物効法」の施行当時は、環境対策が重視されていたので、「CO2排出が計算上3割減ったら、税制に特例をつけましょう」、あるいは「立地規制を緩和・配慮しましょう」というような支援処置を実施していました。ただし、拠点・施設というハード重視型だったので、なかなか普及が進まなかったのです。
そこで2016年に改正されて、ハードだけではなくて、「モーダルシフトによってドライバー不足に対応する」、あるいは、「共同配送システムで、トラックの積載率を向上する」「輸送網を集約する」というソフト面も、認定対象に追加されました。
輸送網の集約とは、こういうことです。
ドライバーの労働時間は、営業所(車庫)に出勤してから仕事が終わって戻るまでの時間(帰社後の事務作業を含む)です。
例えば、1日の拘束時間13時間のうち、車庫から荷主倉庫まで行くのに2時間、荷主倉庫から車庫に戻るのに2時間必要とすると、その4時間は、貨物を積んでなくとも労働時間です。そこで、荷主の物流施設に営業所を設置すれば、車庫~荷主倉庫間の労働時間がゼロになります。13時間マイナス4時間で、拘束時間が9時間に削減され、労働時間が減ります。
もうひとつは、荷待ち時間を減らすための「トラック予約システム導入」です。
従来のハード重視型ではなく、施設投資をせずに、既存の物流施設にトラック運送会社の営業所を併設する、トラックの予約システムを導入するという取組みに対して優遇するのが、改正のポイントです。条件は、1社ではなくて「2社以上が連携して行う」ことです。
下請法は、製造業において中小零細の下請事業者を保護するため、60年以上前に制定された歴史のある法律です。14年前の2004年に、運送・保管サービスも対象になりました。さらに、トラック運送については「トラック運送業における下請・荷主取引推進ガイドライン」が作られました。自動車製造業・情報処理業など、各業界の特性に応じた適正取引の推進ガイドラインができています。
先述した「手待ち時間の削減」や「取引の書面化」も下請・荷主取引ガイドラインで決められています。先ほど説明したように、標準貨物乗車自動車運送約款が昨年改正され、下請・荷主取引ガイドラインも約款に併せて改正されています。
もう一つは、書面化の推進です。先ほどのような「東京から大阪から10トン車1台頼むよ」、「はい、わかりました」という電話だけでは、後から「言った、言わない」のトラブルもあり得ます。そこでメールでもよいので取引書面を取り交わしなさいというのが、「トラック運送業における書面化ガイドライン」です。「書面化ガイドライン」は7割くらい普及していると言われています。
派遣契約の問題については、トラック運送業・倉庫業に限らず、しっかり理解して頂きたいと思います。
X社が、Y社という派遣会社に頼んで、Y社の社員AさんがX社物流センターで田中センター長(X社)から指揮を受けて働いている、これが労働者派遣法(派遣法)に基づく正しい派遣です。
こちらの図は、正しくない派遣、いわゆる偽装請負です。X社は、派遣契約ではなく業務請負契約でY社にセンター業務を丸投げしています。
先ほどと同様に、社員AさんはY社と雇用契約をしています。X社物流センターで働いて、田中センター長(X社)から指揮を受けている、これは偽装請負となります。
もっと具体的に話しましょう。
私が、物流センターの中でピッキングをしています。ピッキングし、棚から商品を取り出したとき、商品を落としてしまった。落とした商品を棚間違いして別の棚に戻してしまった。
それを見ていた田中センター長が、「長谷川さん、棚を間違えたでしょう。ちゃんと正しい棚に戻しておきなさい」、といったら、偽装請負になります。
ではどうすればよいのかというと、この田中班長は、物流センターにいるY社の管理者の鈴木さんに「鈴木さん、あなたの会社の長谷川さんが、棚を間違えたから直させて下さい」と指示します。これが正しい業務請負のやり方です。「出荷が忙しい時間に、Y社管理者を呼んでいられるか、直接指示すればいいじゃないか」と思うでしょうが、コンプライアンス上はダメです。
X社物流センターの中で、Y社が請負業務を行うときには、パレット、フォークリフト、それからラック、全部Y社が用意しなければなりません。これは派遣法令・通達にそう書いてあります。実際には、Y社が調達していないで、X社の資器材を使用していると思います。
では、正しいやり方はどうかと言うと、X社とY社の間で、X社物流センターの資器材に対して賃貸借契約を結んで、Y社がX社にお金を払って借りて業務を行うのです。そうするとお金を払って借りて業務を行っているから、自分のものとして使用権原が生じますので「自社で用意(調達)した」ことになります。たまたま調達先が、業務委託者のX社だったことになります。資器材の借用料は、業務請負の費用に加算し、Y社がX社へ請求するのです。
これが正しい業務請負のやり方なのです。このような手順を省いて、実質的に人員だけ供給して請負をやっていると、フォークリフト・棚・パレット・ラックなどX社と賃貸借契約を結んでいないと、何かそこで事故が起きたときに、例えば、Y社社員が労災事故に遭って労働基準監督官が立ち入り検査に来たら、派遣法・職安法の法令違反になります。
色々お話をしましたが、このようなコンプライアンスは、物流業、トラック運送業や倉庫業だけではなくて、荷主さんにも、今、求められているわけです。
まず一番目のトラック運送における安全については、4トン車の過積載運行があります。いわゆる4トン車であっても、テールゲートリフターをつけたり、あるいは保冷車になっていたりすると、実際には、2.75トン位しか積めないということが多いのです。
ところが、カゴ台車にして、結構重いものを載せると、2.75トンを超えてしまいます。こうして、4トン車クラスの過積載が多発しています。
今、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)は、500kg積載オーバーすると、そのトラック運送会社に対して、最低3カ月間の高速道路料金の割引停止になります。
それから過労です。先ほどの80時間、100時間の過労死ガイドラインがあります。
次に最高速度違反です。
二番目の、長時間労働については、運転よりも荷役時間・手待ち時間を減らすことで、パレット輸送して荷役を機械化する、トラック予約システムを導入して待たせない、ということが必要です。
三番目の、荷役における安全については、厚生労働省からは通称「荷役通達」という通達が出ています。
労災事故でワースト3は製造業、建設業、運送業です。運送業では、年間約1万4千件の労災事故が発生しています。「交通事故があるから、労災事故が多い」のではありません。
労災事故で一番多いのは、転倒・転落・挟まれなど荷役時における事故です。年間1万4千件の7割は、荷役時の労災事故です。ではどこで起こっているのかというと、7割は荷主の事業所(工場・物流センター)で起こっています。7割×7割ですから、1万4千件の約半分は荷主の構内で荷役時に発生しています。
厚生労働省は、労災事故について細かくデータをとっていますから、「荷主の荷役作業を改善しないとダメだ」「荷主はきちんと作業手順書を作りなさい、荷主と物流業者は混合作業ではなくて役割分担をきちんと決めなさい」、あるいは「荷主のフォークリフトにトラック運転手を乗せるときはこうしなさい」など、荷役作業での労働災害を防止するための具体的な実施内容が「荷役通達」(参考サイト http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/130605-3.pdf)に書いてあります。
それでも、年間1万4千件の労災事故が減りません。そこで、厚生労働省は、荷役通達を、労働安全衛生法のなかに法制化しようと考えています。法制化されると、労働基準監督官が来て調査し、今の荷役通達事項における違反が発見された場合には、荷主側の責任者である安全管理者が、労働安全衛生法違反で書類送検あるいは罰金を支払うことになります。
先ほどお話した改善基準についても、7割のトラック運送会社では守られていません。今は、改善基準を守らないと、国土交通省の行政処分で「車両の使用停止」や「事業停止」にはなりますが、事業者の書類送検や罰金刑はありません。これも、厚生労働省は労働基準法で法制化して、罰則を強化しようと考えています。
改善基準の法制化、荷役通達の法制化の動向は注視していく必要があります。
四番目の、環境への貢献については、物流共同化とかモーダルシフト、あるいは包装改善があります。この後で、きくや美粧堂さんが自動包装の話をされると思いますが、包装改善によって、資源や包装材料を減らすということが環境対策にもなり、荷主にも求められています。
「荷主に求められる物流コンプライアンス」については、私が一作年にロジスティクス・レビューで書かせて頂いたので、関心のある方はバックナンバー325号~327号(https://www.sakata.co.jp/logistics-325/, https://www.sakata.co.jp/logistics-326/, https://www.sakata.co.jp/logistics-327/)をご覧下さい。
物流・ロジスティクスの将来像というのは、これからは2020年、あるいは、もう少し先を考えたときには、人や環境にやさしい物流・ロジスティクスが必要になります。そうでないと、人が集まらないでしょう。
人手不足に対応するためには、ビッグデータ・IoT・AIを活用して、無駄な運行、無駄な作業、重複作業を大幅に減らせば、人手が少なくて済むでしょう。
何より求められているのは、冒頭述べたたように、消費者からの目が厳しくなっているということです。安全で安心な物流・ロジスティクスを行える荷主企業と物流企業が生き残ることができる、言い換えれば企業の存続条件になると思います。まず存続がないと、成長も発展もあり得ません。
企業の存続のためには、コンプライアンスは命取りになりかねません。コンプライアンス経営の実現のためには、荷主と物流業者が一緒に取り組んでいかないと難しいのではないかと思います。
長時間のご清聴ありがとうございました。
以上
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