第156号 エクセレント ロジスティクスへの挑戦~資生堂を取巻く環境の変化とロジスティクス改革について~(後編)(2008年9月16日発行)
執筆者 | 飯田 正幸 (資生堂プロフェッショナル株式会社 企画管理部部長 ロジスティクスグループリーダー) |
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*サカタグループ2008年2月26日開催セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*前編(2008年9月4日発行 第155号)より
目次
3.㈱資生堂のロジスティクス改革
資生堂はこれまで何度かの改革を行なってきた。ある程度の成果を収めたものの、抜本的な改革には至らず機能不全に陥っていた。 そこで2001年、「全ての活動を店頭に基点をおく」「持続的な利益を上げ成長できる体質に変わる」をテーマとして、資生堂の企業活動の全工程で改革に着手した。
具体的には、 ①ブランド戦略の革新 ②生産拠点・能力の再編 ③物流の抜本的改革 ④営業改革・取引制度改定 ⑤ビューティーコンサルタント活動の改革である。
ロジスティクス部門では、2001年以降、店頭に基点をおく物流、即ち、お客さまのための物流、持続的に経営に貢献できる物流の実現に向けて様々な取り組みを行なった。①環境負荷軽減に向け「化粧品の空ガラスびんの回収システム」「制度化粧品メーカー5社との共同配送の拡大」「モーダルシフト」「物流拠点でのゼロエミッションの推進」 ②安心・安全への対応に向け「化粧品在庫の製造履歴管理システムの導入」 ③経営への貢献に向けて「物流ABCの導入」である。なかでも大きな取り組みと言えば「サプライチェーン改革」と「物流構造の改革」である。次にこの取り組みについてご案内する。
(1)サプライチェーン改革
資生堂のサプライチェーン改革は、4つの柱から成り立っている。
一つは「組織、体制の改革」である。従来、営業部門にあった需要予測や在庫計画機能と生産部門にあった生産調整機能を独立させてロジスティクス本部を設立した。ロジスティクス本部は司法・立法・行政の三権分立の司法を例えとして、営業部門の販売計画や生産工場の状況を把握しつつ中立の立場から需要予測と在庫計画の立案と生産調整に当たった。さらにロジスティクス本部が「サプライチェーン会議」を定例で開催し、様々な計画の責任を明確にしつつ目標共有化を行った。
次に「インフラの整備」である。サプライチェーン改革は言い方を変えればメーカー主導マーケティングとの訣別である。従って、最初に着手したのが約16000店の化粧品専門店を中心として大型量販店やドラッグストアの販売情報を収集する仕組みの構築である。同時に、収集した販売情報を基にしての需要予測立案システムや供給システムを改善して偏在縮減・品切れ防止の仕組みづくりを行なった。
また、「品切れは罪悪」「偏在は極悪」を合言葉に、営業部門の商談や計画の立案方法の見直しや、各部門から出される計画の精度と評価との連動など「業務の改革」も推進した。その結果、2006年度の需要予測精度は需要予測の80~120%の範囲で収まった延べアイテム比率が67%となっている。
最後に「構造の改革」は適時適量供給機能の強化である。一つは、工場、物流センター、商品センターから小売店・お客さまへ「何時でも、何処からでも、何処へでも、幾つでも届けられる」仕組みの構築である。もう一つは生産機能強化である。生産瞬発力の向上と柔軟な生産体制の構築で、柔軟な生産体制とはキャノンで有名な「セル生産」であり、売上規模の小さい商品は、設備機械に変えて冶具あるいは道具を使って熟練者が手作りで化粧品を作くる。資生堂では「匠工房」と呼んでいるが、これが在庫削減や品切れ防止に一番効果を上げた。
結果として、新製品による偏在が激減し、品切れも2006年度は改革前の約1/3となった。本当のSC力を見るのは棚卸資産状況での評価が一番良いと思われるが、売上対棚卸資産比率も徐々に良くなりつつある。
(2)物流構造の改革
当社の物流機能は1990年代にほぼ完成し、子会社である資生堂物流サービス㈱が担ってきた。高度化・多様化する物流要請に応える一方で、コストダウンを重ね市場性の格差に対応すべく拠点の統廃合も繰返してきた。しかし、経営環境の変化や将来を見据えたあるべき姿への対応には至っていなかった。
経営環境面では、資生堂本体が経営スタイルの転換を余儀なくされ、財務体質の強化やコアコンピタンスへの集中投資が必要となっていた。
また、物流面では新しいチャネルへの更なる対応と地域間格差への対応として都市部センターの能力増強と地方センターの赤字解消が必要であった。更には、物流子会社の課題として、コストダウンの行き詰まり、物量停滞の中で将来人件費などが経営へ圧迫するのではとの見通しなどがあり、これらの対応に迫られていたのである。
私は2003年よりこの問題に本格的に取組み、MBO(Management buy-out)や物流資産の証券化など様々な方策を検討してきたが、最終的には物流業務のアウトソーシングと子会社及び物流資産の売却を選択した。
アウトソーシングの狙いは3つである。1つ目は、今後の流通環境の変化や多様化する得意先からの物流要請に迅速かつ的確に対応し物流品質や顧客満足を向上させること。2つ目は、3PLベンダーのリソースを活用した物流コストのさらなる低減と設備投資を抑制すること。3つ目は、自社保有の物流関連資産と子会社の固定費をアウトソーシングにより変動費化させることである。即ち、変化対応力を備え、将来の経営環境の変化にも柔軟に対応できる体制を築くことであった。
アウトソーシングは、①物流品質の維持(物流業務要件の維持、管理指標の水準維持) ②新規物流業務への対応と物流サービスレベル(全25項目)の向上 ③子会社の買取(物流子会社株式の50%超の引受け) ④子会社社員の全員雇用 ⑤物流関連資産の全買取(土地・建屋・設備)…を条件に、2回のコンペで推進した。
日本国内の物流業界では初めてと言っても過言ではない規模と自覚していたので、1次コンペは、当社のスキームが3PLベンダーに受け入れていただけるかの確認からスタートした。社内では7つの分科会を立ち上げた。業務移管チーム、不動産チーム、機械設備、情報システム、人事対応、経営に直接影響を及ぼす経理財務関係、契約チームである。
アウトソーシングを推進するにあたり、一番悩んだ問題がアウトソーシングのディメリットで言われる「技術やノウハウ、コストのブラックボックス化」の解消である。本来で有れば、複数の3PLベンダーへ委託して競争原理を持ち込めば大方解決するのである。しかし、その時点で全国に9箇所の物流拠点があり、子会社社員230名、転勤で地方に赴いている社員もいた。分割売却や分割委託する訳には行かなかったのである。そこで、競争の原理の代替策として「ゲインシェアリングを前提とした原価開示」である。契約締結や更新時に5年間のコストダウンを約束していただく。これは、単に安い委託料金の提示を求めるのではなく、どの様にして改善を行なうかを明確にして相互協力の基に推進することにある。物流資産のデューデリジェンスなど12ヶ月の極めて短期間で進め、結果として、2007年4月より資生堂の物流は日立物流様にお願いすることとなった。
資生堂の物流構造の改革は、2007年4月に完了したのではなく、多くの社員の夢と希望を背負って「将来の経営環境の変化にも柔軟に対応できる体制」構築のスタートラインに付いたのである。
(3)ロジスティクス人材の育成
私がロジスティクス部門へ赴任してロジスティクス改革や改善提案などの機会を得たのは2000年からである。この時点で経営戦略とロジスティクスを結びつけて改革を進める人材の不足、更に、物流アウトソーシングを進めるにあたり「物流ノウハウの喪失」に危機感を抱いていた。この様な折、社長より「”魅力ある人”で組織を埋め尽くす」というビジョンが発表され、「一人ひとりの社員が主体的に成長する意志を持ち、『共に』育ち合い育て合う」人材育成制度として「エコール資生堂」が設立された。
このエコール資生堂は、「会社視点から求める人材の育成」と「社員視点からの自己実現」を果すための研修制度で、具体的には「プロフェッショナル育成に向けた分野別研修制度」である。
早速、エコール資生堂の事務局へ提案、エコール資生堂の分野の中にロジスティクスは無かったが、コーポレートスタッフ領域を括ったスタッフ分野の中で「ロジスティクス研修プログラム」を設定する事ができたのである。現在2年目となるが、年度始めに開催するメニューと対象者を決めて、資生堂の全グループに広く案内して計画的に推進している。
以上が、資生堂のエクセレントロジスティクス実現に向けた取組みです。多くの皆さまからご案内した取り組みに対してご意見を頂戴して、①経営的視点 ②環境的視点 ③お客さま視点で満足を得られるロジスティクスに近づけ行けたらと思っています。
本日は、ご清聴ありがとうございました。
以上
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