第226号解題:物流品質と経営品質を考える(前編)(2011年8月17日発行)
執筆者 | 田中 孝明 (サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
*サカタグループ2011年2月08日「第17回ワークショップ」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は2回に分けて掲載いたします。
目次
サカタウエアハウスの田中孝明でございます。私からは、『解題:物流品質と経営品質を考える』というテーマでお話いたします。資料はお手元にすべて印刷して配布していただいていますので、お手元と前のスライドご覧いただきながら、適宜、手元資料も参照しつつお聞きいただけたらと思います。
まず、冒頭に、本日皆様方と一緒に考えていきたいと思うことをこのスライドに書いております。
1.本日皆さんと一緒に考えたいこと
ここでは、個人的に最近印象に残りました書籍あるいは考えさせられた文献を3つほどあげています。内容を細かく説明することはできませんが、一番左の書籍は主に経済状況について書かれています。マクロ経済のデフレというよりは、生産年齢人口の減少といったものを脱却する方法は、付加価値額を高めることではないかといったことを提唱されていたと思います。
真ん中の書籍は、『日本品質で世界を制す』というタイトルで、早稲田大学の遠藤先生が書かれた本ですが、面白い本だと思います。内容としては、特に「情緒的品質をこれからより大事にしなければならない」、「品質や品質リスクの管理に組織的に取り組み、品質を創り出す組織-品質創造本部-を設ける必要があるのではないか」といったことを主張されていたと思います。
3つ目の『経営の精神』は、神戸大学の加護野先生が書かれた本ですが、最近、「日本の企業は元気がない」、「色々不祥事が起きて品質がおちてきたといった事件がかなり見受けられるが、それは、経営の精神というものが劣化をしてきたからではないか」。では「日本の会社・企業が元気を出して品質を上げていくためにはどういうことをしたらよいのか」について、7つぐらい提言されていたと思います。
このような本での主張を踏まえて、本日は、低成長時代において私たちが新たな価値を創造するためには、従来とは違う”品質”がキーになるのではないか、特に物流やロジスティクス、SCMという分野では、この”品質”をどういうふうに考え、どのように高めていけばよいのか、といったことを皆様と一緒に考えていけたらと思います。
2.”品質”とは何か?
出所:明治大学 経営品質科学研究所(山下洋史ほか)による定義
では”品質”というのはどういうものなのかという話に続きます。
まず、従来の品質-狭義の品質があります。加えて、マネジメント、サービスの質(品質)もあると思います。このマネジメント、サービスの品質には、①人間活動、無形資産を考慮した視点、②「目に見える品質」だけでなく「目に見えにくい品質」を考慮、③顧客の視点での品質の3点があると書かれています。今後は特に、この3点について考えていかなければならないのではないかということです。従来の狭い意味での品質と、このマネジメントやサービスの品質が相互に補完しあう関係にあり、これ全体が広い意味での品質ではないかと考えられます。そして、これを「経営品質」と呼んでもいいのではないかと思います。これは明治大学の経営品質科学研究所での山下先生ほかによる定義を参考にしてご紹介しています。
この後は、マネジメント、サービスの品質に関わる話を続けます。
今日は物流ロジスティクスに関わる、その分野のプロの方々が多数おいでになっていると思いますが、私たちが担っている”品質”というのは最近多岐にわたってきているのではないかというイメージ図がこれです。
3.物流が担う”品質”は多岐にわたってきている
出所:米虫=野口=平井 『食品流通が食の安全を脅かす』 日刊工業新聞社,2010年.をもとに修正加筆*画像をClickすると拡大画像が見られます。
例えば、いわゆる品質面で一番厳しい分野の一つは食品業界ですが、食品のサプライチェーンにおける品質管理の対象が段々広くなってきているではないかという概念がこれです。スライドの上にあるのがサプライチェーンの図です。その下の三角形の図ですが、従来は、たとえば衛生管理とか鮮度管理といったようなものが品質管理の対象、テーマ、項目といったことで必ずでてくると思います。しかし最近は、この三角形の下段の分野、CSRやサスティナビリティなどが、私たち物流/ロジスティクスに関わる者にとっても、決して無視できないようになってきていると考えられるのではないでしょうか。
次に参ります。物流はサービスでありますが、では、サービスの品質というものはいったいどういうふうに考えたらいいのかということに移っていきます。
4.サービス品質とは?(1)
出所:近藤隆雄 『サービス・マーケティング』 生産性出版,1999年.*画像をClickすると拡大画像が見られます。
サービスマネジメントやサービスマーケティングといったテーマが、近年、経営学/商学の一つの専門分野として確立されてきています。このスライドには、サービスマーケティングミックスと書かれていますが、マーケティングミックスについては、ご存知の方も沢山いらっしゃると思います。企業がターゲットとする市場/顧客に働きかけていく手段やツールまたはその組み合わせのことをマーケティングミックスと言いますが、それが、この4つのPです。マッカーシーという先生がこの概念を提唱されています。有名ですね。
では、この従来のモノを中心にしたマーケティング、あるいはマーケティングミックスの考え方をサービスの分野に展開していくと、この図の、もう3つの青い部分のPも一緒に考えていくべきマーケティングミックス、つまり顧客に働きかけていくツールや手段に入っていくのではないのかといった考え方があります。今日は細かな話はできませんが、サービス業、サービスの分野におけるマーケティングミックス、つまり企業がターゲットとするような市場や顧客に働きかけていくための手段、ツールには、人材とか物的な環境要素、提供課程、こういったものも非常に大事なってくるという考え方がでてきます。
一番上のP(プロダクト)の項目に、「サービス商品」という記載があると思いますが、実は、より広い意味での品質、マネジメントやサービスの質といったものも含めて考える上では、下の3つのP(人材・物的環境要素・提供課程)についても考えていかなければならないというように、主張や概念が展開してきていると思われます。
4.サービス品質とは?(2)
出所:近藤隆雄 『サービス・マーケティング』 生産性出版,1999年.
およびラブロック = ライト 『サービス・マーケティング原理』 白桃書房,2002年.をもとに修正加筆*画像をClickすると拡大画像が見られます。
では、サービスの品質はどういうものかということですが、主に5つの次元、基準があると提唱されています。
サービス品質の次元と申しますか、サービス水準を測る項目としては、①信頼性、②反応性、③確実性、④共感性、そして⑤有形性までの5つがあるのではないかということが主張されています。それぞれの中身はスライドの各項目の右端に書かれていますのでご覧下さい。この5つの次元が、いわゆるサービス品質を測っていく、サービス品質を向上させていくといった時の1つの基準になるのではないかと考えられます。例えばロジスティクスのサービスでも、こうした5つの次元、基準を頭の中に入れて、自社のサービス品質を創り出していくことが、私たち物流/ロジスティクスに関わるものからすると大事になるのではないかと考えられるかと思います。
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