ロジスティクス・レビュー

第439号 物流スタートアップの動向と課題(前編)(2020年7月9日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

1.はじめに

  執筆者紹介にもあるように、筆者は中小企業診断士として、幾つかの企業で経営や物流の改善を手伝ってきた。スキルアップのために中小企業診断士の仲間と「診断士物流研究会(以下、「研究会」)」という勉強会を毎月1回開いており、会員の研究報告、物流施設の見学のほか、外部講師を招いてお話を伺っている。
  最近は、研究会員の関心も物流新技術や物流スタートアップにあるようだ。そこで、ドローンやウエアラブル端末、ロボットなど自動化技術の話を聞いたり、関西まで視察旅行にも行った。
  研究会では、2019年に物流スタートアップの経営者を招いてお話を伺ったので、そのなかから4社について、(1)起業の経緯、(2)商品・サービスの概要、(3)今後の展開(課題)についてご紹介・報告したい(記載は、研究会における登壇日の順による。登壇日以降の情報も適宜追加した)。
  起業をされたい方や、スタートアップと手を組みたいという方のご参考になれば幸いである。
  なお、本メルマガを配信されているサカタウエアハウス殿も、HPを拝見すると1914(大正3)年設立の阪田組田中商店(水陸運送・沿岸荷役・構内作業)がサカタグループの創業であり、その後、倉庫・陸運からロジスティクス・3PL事業を広く展開され、通商産業省(当時)の流通システム大賞を受賞されるなど、物流スタートアップ(当時は、スタートアップという言葉はなかった)の創始者であったと思う。

【参考】スタートアップとは
  スタートアップ(Startup)という英語は、「行動開始、事業開始」等を指しており、日本では「事業の立ち上げ」や「起業」として使われていることが多い。
  ビジネス用語としてのスタートアップは、米国のシリコンバレーで生まれたようで、そこから「ICT・ネット業界での起業」というイメージが強い。しかし、ICT・ネット業界に限らず、2.~5.で説明・紹介するように、物流・ロジスティクス分野でも、スタートアップ企業が続々と誕生している。
  スタートアップのような新興企業・ビジネスは、従来、ベンチャー企業・ベンチャービジネスと呼ばれていたが厳密な区分はない。
  今回のテーマは、元々がフランクな研究でのお話でもあり、本稿では「スタートアップ」に統一することとする。

2.CBcloud(シービークラウド)

(1)起業の経緯

  同社は2013年10月に、東京都千代田区のJR神田駅近くに設立し、2020年3月、秋葉原に移転した。設立以降「PickGo」などの軽貨物のアウトソーシングの展開やシステム開発、業界を超えた他社との連携など、さまざまな事業に取り組んでいる。事業拡大に伴い、従業員数も年々増加しており、新本社に移転した。
  新本社のコンセプトは、「Air Port× CBcloud」であり、さまざまな人たちが出会い、交流が生まれ、新たな地へと飛び立つことができる空港をモチーフに、同社と従業員が空高く飛ぶかのように、社会に良い影響を与え、成長し、業界を変革していく出発点となる場となることを目指している(同社資料)。後述するANAとの業務提携が、新本社のコンセプトに影響していると思われる。

  松本社長は国土交通省の航空管制官(新本社コンセプトにも影響している?)であったが、奥様の実家の貨物軽自動車(冷凍・冷蔵)運送事業を引き継いだ。同事業を基に事業の再構築を進めるべく、軽貨物のアウトソーシング事業(マッチング)を考えた。
  KDDIのスタートアップの支援に応募・採用されるとともに、皆川CSO(戦略担当役員・元KDDI)と二人三脚でスタートした。

図1 CBclod社の自社車両
旧本社前にて筆者撮影
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(2)商品・サービスの概要

1)PickGo(ピックゴー)
  一つは、主力事業である軽自動車による求車求貨システム「PickGo」である(kは図1のように、左右逆文字。なお、「求車求貨システム」にはさまざまな表現があるが、ここでは国土交通省の表現に従う)。
  図1の車両に書かれているように「届けて欲しい人と届けたい人を直接つなぐマッチングサービス」が売り物である。
  求車求貨システムは、国土交通省によれば「貨物取次事業」の事例として「荷主(運送事業者を含む)が輸送してほしい貨物の情報(量、種類、現在地、目的地、希望運賃等)を掲示板やデータベース等に出し、運送事業者がこれに応募して成約した場合に、荷主と運送事業者との契約締結に直接関与し、その対価を得る事業」と説明している(図2参照)。

図2 求車求貨システム
筆者作成資料
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  かつては「水屋」と呼ばれて、1本の電話回線だけで荷主と運送事業者を仲介(マッチング)していた。
  1990~2000年頃、通商産業省(当時)の支援もあり、ITベンダー系などが求車求貨システムを開発・参入した。新規参入者は、荷主(元請運送事業者)と実運送事業者をe-マーケットプレイス(電子商取引市場)で仲介することで収益を挙げようとしたのである。折からのITバブルで、彼らには総合商社やベンチャーキャピタルなど出資したが、多くの事業者は事業化できず撤退を余儀なくされた。
  各社の撤退理由として、
①eマーケットプレイスのアクセス性(当時はスマホが無く、電話・FAXだけ)
②荷物をマッチングすることの複雑性
③与信・運賃決済システム
が挙げられる。
  とくに②は、貨物の形状・重量・包装・取扱い方法から、トラックの車種・構造・資器材、発着荷主の庭先状況など千差万別であり、輸送区間がマッチングしたから運べるという訳には行かない。①~③を、図2のヒューマン系のマッチングとITを組み合わせてカバーすることで成長したのがトランコム社である。同社は「アジャスター」と呼ばれる担当者が、安価・高性能になったITで詳細な荷主・貨物・運送事業者・車両情報などを画面上でリアルに確認して、ヒューマン系のマッチングを実施している。
  求車求貨システムにはトランコム社以外にも、トラボックス社やWebKIT(日本貨物運送協同組合連合会)などがある。
  一方、CBclod社は、上記②をカバーするために軽貨物車に限定している。軽貨物であれば一般雑貨が多いので、特別なヒューマン系マッチングが不要であり、荷主も、付帯的なサービス(倉庫入れ・返品引き取り等)より、「すぐ運んでほしい」という緊急性を重視している。軽貨物(法律的には貨物軽自動車運送事業)というニッチな市場に限定して、成功したと言えよう。
  なお、軽貨物の市場動向については、本ロジスティクス・レビュー誌No.372・373(2017年9月19日・10月5日)で、拙論「軽トラ運送が熱い(前編・後編)」として報告しているので、参考にされたい。
  CBcloud社では、ドライバー(個人事業主)から、成約運賃の1割を手数料として収受しており、貨物利用運送事業(5.参照)も届出ている。
  ドライバー(個人事業主)からの登録はスマホが必須であり、同社とドライバー間の連絡は全て専用アプリで、GPSにより常時位置管理が可能となっている。
  図3の同社パンフレットの配送マッチング率、依頼からエントリー(ドライバーから引受け申し出)までの時間には驚かされる。

図3 CBclod社のサービスKPI
出所:CBcloud社パンフレット
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  配送マッチングプラットフォームは、荷主のパソコン(スマホ)と軽ドライバーのスマホをインターネットでつないでいる。
  荷主は、パソコンで積地・配送先、日時、配送商品を入力すると、その場で料金が分かる。
  登録ドライバーは、荷主から依頼登録があるとスマホにすぐ通知され、自分が運びたいと思った案件を探して申込む。その結果、図3のKPIを実現している。集荷までの平均時間も40分とされている。
  したがって、軽ドライバーはスマホ操作が必須であり、スマホの位置機能により所在地を管理される。
  同社によれば、荷主・ドライバーのメリットは次のとおりである。
【荷主のメリット】
①時間の短縮、②配送状況が見える、③Web で完結、④ドライバーが選べる
【ドライバーのメリット】
①稼げる、②アプリで簡単、③仕事を選べる
  一般に貨物軽自動車運送事業者は、荷主との直接取引というよりは、多重構造下での下請・孫請以下の運送が多いため、収受運賃が安い傾向にあり、CBcloudの「手数料10%」は魅力であろうと思われる。
  CBcloud社ではスマホによって、車両の位置や稼働状況を把握している。
  荷主も運行状況を確認できて、届け先からの問合せに対応するコストの大幅な削減が可能である。
  特徴的なのは、前述のスマホの利活用という条件から、登録ドライバーが他の貨物軽自動車運送事業者より大幅に若いことである(同社によれば、登録ドライバーの約6割が30~40代)。スマホのアプリを自由に使いこなせない中高年ドライバーには、厳しい壁があると言えよう。

2)ichimana(イチマナ)
  CBcloud社の二つ目の柱は、車両動態管理ソリューションのichimanaである。
  ichimanaは、車両の現在位置、ステータス情報を、人工知能(AI)技術とブロックチェーン技術によって実現した、管理者とドライバーの利便性を徹底的に追求した最もシンプルな動態管理システムである(同社資料)。
  同社は、このシステムを無料提供している。
  特徴としては、①スマホだけで利用可能(端末コスト・利用教育コストの大幅削減)、②AIを活用した操作性(必要なステータスをAIが自動判定することで、ドライバーの端末操作を減らす)、③ブロックチェーンによる機密性(企業秘密等に対するセキュリティの強化)がある。
  利用のメリットとしては、①手軽に動態管理できる、②協力会社の車両管理を無料化できる(システム利用が無料)、③教育が簡単にできる(スマホのアプリ操作だけ)、④「見える化」で差別できることが挙げられる。

(3)今後の展開

1)異業種との提携
  軽貨物のアウトソーシング(マッチング)事業であるPickGoは、既に全国展開し登録ドライバーは15,000人を超える。
  この軽貨物の全国ネットワークは他業界からも注目を集め、以下の通り、さまざまな大企業と連携を進めている(抜粋)。BtoBのラストマイル配送や航空貨物の地上運送(空港と発着荷主の間)などを、PickGoが担当している。
2018年8月 佐川急便と提携
2019年9月 ANAカーゴと提携
2019年9月 ソフトバンクと提携
2019年10月 JR東日本スタートアップと提携
  これらの提携による全国対応や軽貨物の当日配送が評価され、2020年2月、佐川急便・ANAカーゴ・CBcloudの3社は,内閣府主催の「第2回 日本オープンイノベーション大賞国土交通大臣賞」を受賞した(図4)

図4 モノのMaaS(Mobility as a Service)
出所:内閣府「第2回 日本オープンイノベーション大賞」資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

2)今後の展開
  さらに、2020年2月、同社はこれまで軽貨物を対象としていたマッチング事業を、より大型車種にサービス領域を拡大した「PickGo一般貨物(仮称)」を開始した。これは、荷主と一般貨物自動車運送事業者をつなぐ新サービスであり、(2)で紹介したトランコムなどと同様のサービスである。
  これにより、軽貨物では対応できなかったサイズ・重量の積荷の輸送が可能となる。
  同社によれば、300社以上の一般貨物自動車運送事業者と提携し、2トン車から10トン車まで6000台以上の一般貨物自動車(平ボディ・バン車、冷凍冷蔵車など)とのマッチングが可能という。当面は、関東エリア(東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城の1都6県)から発送あるいは到着する貨物のみに限るが、軽貨物同様に対応エリアを全国に拡大する予定である。
  この一般貨物を対象とするマッチング事業は、(2)でトランコムの事例を挙げたように、ITによるマッチングに加えて、ヒューマン系のアジャストが重要なノウハウである。
  一般貨物分野のマッチング事業では先述したように、各事業者が先行しており、CBcloud社は後発である。例えば、ラクスル社のハコベルカーゴ(軽貨物)・ハコベルネクスト(一般貨物)は、真っ向から競合関係にある。
  ヒューマン系のアジャストをAI技術でカバーしながら、軽貨物のマッチング事業を通じて獲得したノウハウやシナジー効果、さらにはichimanaによる無料動態管理サービスで、どれだけシェアを確保できるか、大いに注目されるところである。
  なお、今般の新型コロナウイルス禍で、CBcloud社では軽貨物を利用した「買い物代行」サービスを開始した。さらなる付加価値として期待したい。

※中編(次号)へつづく


(C)2020 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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