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第430号 【緊急臨時号】新型コロナウイルス感染症対策のBCP(前編) (2020年2月18日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

1.はじめに

  最初にお断りしておきたいが、今回の中国・湖北省武漢市から始まったとされる「新型肺炎」は、厚生労働省(以下、厚労省)のホームページでは、「新型コロナウイルス感染症」として取り扱われているので、本稿でもそれに従うことにする。
  筆者が住む横浜では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の防疫体制が、連日大きく報道されている。その他にも、中国湖北省からの日本入国禁止、空港での検疫強化など関係機関の水際対策で、国内感染を防ぐ懸命の努力が続けられている。
  本稿執筆の2月10日時点では、幸いにも国内での感染流行には至っていない。表1は、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画(平成29年9月12日改定)」の概要であるが、今回の新型コロナウイルス感染症は最も初期の「海外発生期」で、食い止めているところと言えよう。

表1 新型インフルエンザ等の発生段階ごとの対策の概要
(出所:新型インフルエンザ等及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議「新型インフルエンザ等対策政府行動計画(平成29年9月12日改定)」)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  しかし、グローバル化が進展した今日、感染症が短期間で世界中に広がるリスクは大きい。
  2009年の新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)は、発生源のメキシコから3ヵ月経って日本に感染した。
  今回の新型コロナウイルス感染症が、中国・湖北省でいつ発生したかは不明であるが、わずか1ヵ月で日本の空港で感染者が発見された。とくに、今回の新型コロナウイルスは感染性が強いので、早く広がるリスクがある。
  万一の国内における流行に備えて、物流業をはじめ企業としての対策を、今日からでも講じたい。
  筆者は、感染症や防疫の専門家ではないが、物流・ロジスティクスのリスクマネジメントという観点から、若干のアドバイスを差し上げたい。

2.物流・ロジスティクスにおける感染症の影響

  これまでも、感染症が物流・ロジスティクスに影響を与えた事例が散見される。

(1)新型インフルエンザ(H1N1)(2009年)

  2009年5月、カナダから帰国した高校生ら3人が、成田空港の検疫で感染が確認された。その後、国内での感染が確認され、大阪府・兵庫県の高校生を中心に急速に感染が拡大した。
  厚労省や国立感染症研究所によれば、国内で203人が新型インフルエンザにより死亡、全国の感染者数は推計で164万人、累計の患者数も902万人に上る。
  これが機会となってタミフルやリレンザの抗インフルエンザ薬が開発された。
  感染者・患者が多数だったので、感染防止のマスクをしていないトラックドライバー、とくに宅配便ドライバーは、納品先や個人宅で拒否される等の事例が発生した(筆者はこの時に、都内の車両基地で行われた、国土交通省のパンデミック時における通勤車両の乗車実験等にも参加する機会を得た)。
  なお、新型インフルエンザ対策特別措置法(2013年4月13日施行)では、物流事業者には「社会機能維持者」、即ち文字通りの「ライフライン」としての役割が求められている。

(2)口蹄疫の風評被害(2010年)

  口蹄疫とは、家畜伝染病のひとつで、豚・牛・山羊・羊などに発生する口蹄疫ウイルスによる感染症で、日本では、家畜伝染病予防法において法定伝染病に指定されている。感染が確認された場合、他の家畜への感染拡大を防ぐため、罹患した患畜は発見され次第殺処分される。感染動物との濃厚接触によってヒトに感染することはあるが、ヒトからヒトへの感染は確認されていない。
  2010年に宮崎県で口蹄疫が発生した際に風評被害として、宮崎ナンバーのトラックが取引を断られたり、出入りを禁止されたケースがあった。
  感染防止対策として車両タイヤの洗浄や消毒液槽の通過などが行われ、筆者も北海道のJAを訪問した際に、乗用車で液槽を通過したことがある。
  当時、(公社)全日本トラック協会では、以下の要望を協会ホームページに掲げている。
「宮崎県において発生した家畜伝染病『口蹄疫』は拡大を続け、畜産輸送を中心に宮崎県のトラック運送事業者に甚大な影響を及ぼしています。
  また、宮崎ナンバーのトラックというだけで、畜産とは無関係の分野でも取引を断られたり、出入りを禁止されたりというケースも見られ、根拠のない風評被害に多くの業者が困惑しています。
  宮崎県ではトラック運送業界が一丸となって、会社内での消毒はもちろんのこと、道路上の各消毒ポイントにおける車両の消毒等防疫対策を徹底しています。このため、宮崎ナンバーのトラックは消毒回数が多く、安全で安心できるトラックです。
  口蹄疫の感染拡大の影響で輸送量が激減し、大変厳しい状況に置かれている宮崎県のトラック運送事業者へのご理解とご協力をお願いいたします。」
  なお、同様の風評被害によるトラック運送への影響は、東日本大震災(2011年)の際にも「放射性物質による汚染」として福島ナンバーのトラックに生じた。

(3)集団食中毒(2011年)

  新聞報道等によれば、2011年9月、社員食堂を請け負うA社が運営する食堂など東京・神奈川・山梨・長野の4都県11事業所で合計452人が、下痢や嘔吐などの食中毒症状を起こした。横浜市保健所の発表によれば、原因物質はネギから検出された毒素原性大腸菌O-148で、大手宅配便会社の同市内のターミナル内食堂で11人に食中毒症例が確認され、A 社11事業所に営業禁止処分が下された。
  大手宅配便会社にとっては「貰い事故」のような災難であったが、短期間ターミナルを閉鎖して消毒する等の措置が取られた。

3.今回の新型コロナウイルス感染症

  厚労省のホームページ「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月7日版)」には、以下のように掲出されている。
◆国民の皆様へのメッセージ
○新型コロナウイルス感染症は、我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません。国民の皆様におかれては、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様にお一人お一人の咳エチケットや手洗いなどの実施がとても重要です。感染症対策に努めていただくようお願いいたします。
  また、同じく厚労省のホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)令和2年2月7日時点版」からポイントを抜粋したものが、以下の通りである。
問1 コロナウイルスとはどのようなウイルスですか?
  発熱や上気道症状を引き起こすウイルスで、人に感染するものは6種類あることが分かっています。そのうちの2つは、中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)などの、重症化傾向のある疾患の原因ウイルスが含まれています。残り4種類のウイルスは、一般の風邪の原因の10~15%(流行期は35%)を占めます。
  詳しくは、国立感染症研究所「コロナウイルスとは」をご覧ください。
  https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
問2 新型コロナウイルスはヒトからヒトへうつりますか?
  ヒトからヒトへの感染は認められていますが、日本国内で、現在、流行が認められている状況ではありません。
  風邪やインフルエンザと同様に、まずは、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って口や鼻をおさえる「咳エチケット」や、石けんを使った手洗いなどの感染症対策を行うことが重要です。
問4 二次感染のリスクはありますか?
  ヒトからヒトへ感染した例が報告されています。感染のしやすさは、インフルエンザと同等であるなど、さまざまな研究が世界で報告されていますが、確かなことは現時点では分かっていません。
問5 潜伏期間はどのくらいありますか(その期間も感染しますか)?
  世界保健機関(WHO)のQ&Aによれば、現時点の潜伏期間は1-12.5日(多くは5-6日)とされており、また、他のコロナウイルスの情報などから、感染者は14日間の健康状態の観察が推奨されています。
問6 無症状病原体保持者から感染しますか?
  無症状病原体保持者からの感染を示唆する報告もみられますが、現状では、まだ確実なことはわかっていません。通常、肺炎などを起こすウイルス感染症の場合、症状が最も強く表れる時期に、他者へウイルスをうつす可能性も最も高くなると言われています。
問7 新型コロナウイルス感染症はどのように感染するのでしょうか?
  現時点では、飛沫感染(ひまつかんせん)と接触感染の2つが考えられます。
(1)飛沫感染
  感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出され、他者がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。
  ※主な感染場所:学校や劇場、満員電車などの人が多く集まる場所
(2)接触感染
  感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスが付きます。他者がその物を触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染します。
  ※主な感染場所:電車やバスのつり革、ドアノブ、スイッチなど
問8 感染を予防するために注意すべきことはありますか。心配な場合には、どのように対応すればよいですか?
  まずは、石けんやアルコール消毒液などによる手洗いを行ってください。
  咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケットを行ってください。特に電車や職場、学校など人が集まるところで行うことが重要です。
  また、持病がある方などは、上記に加えて、公共交通機関や人混みの多い場所を避けるなど、より一層注意してください。
問9 「咳エチケット」とは何を行うことですか?
  咳エチケットとは、感染症を他者に感染させないために、咳・くしゃみをする際、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖、肘の内側などを使って、口や鼻をおさえることです。
  詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧ください。
  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
問10 マスクをした方がよいのはどのような時ですか?
  マスクは、咳やくしゃみによる飛沫及びそれらに含まれるウイルス等病原体の飛散を防ぐ効果が高いとされています。咳やくしゃみ等の症状のある人は積極的にマスクをつけましょう。
  予防用にマスクを着用することは、混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所では一つの感染予防策と考えられますが、屋外などでは、相当混み合っていない限り、マスクを着用することによる効果はあまり認められていません。
問11 一般的に濃厚接触とはどのようなことでしょうか?
  必要な感染予防策なしで手で触れること、または対面で会話することが可能な距離(目安として2メートル)で、接触した方などを濃厚接触者としています。今回の新型コロナウイルス感染症に関連する情報は、国立感染症研究所のホームページをご覧ください。
  https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html
問12 感染が疑われる場合、どこの医療機関に行けば検査、診療をしてもらえますか?
  「14日以内に湖北省への渡航歴がある方、あるいはこれらの方と接触された方」ではない場合は、お近くの医療機関を受診してください(以下、略)。
問13 どのように診断しますか?
  診断方法としては、核酸増幅法(PCR法など)がありますが、実際に検査を検討する場合は、地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査することになります。
  まずはお近くの保健所にお問い合わせください。
問14 治療方法はありますか?
  現時点で、このウイルスに特に有効な抗ウイルス薬などはなく、対症療法を行います。
問15 どのような場合には重症化するのですか?
  現時点で、どのような方が重症化しやすいか十分に明らかではありません。通常の肺炎などと同様に、高齢者や基礎疾患のある方のリスクが高くなる可能性は考えられます。新型コロナウイルスに罹った肺炎患者を調査した結果、1/3~1/2の方が糖尿病や高血圧などの基礎疾患を有していたとする報告もあります。
  高齢者や基礎疾患のある方などは、一般的な衛生対策に加えて、公共交通機関や人混みの多い場所を避けるなど、より一層注意してください。

※後編(次号)へつづく



(C)2020 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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