第440号 物流スタートアップの動向と課題(中編)(2020年7月21日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問) |
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執筆者略歴 ▼
目次
3.ニューレボ
(1)起業の経緯
ニューレボ社は、2016年8月に長浜社長が東京都港区北青山に創立した。長浜社長は高校生の頃から倉庫で働き、物流業界の課題と大変さを経験した。とくに物流業界の労働力不足や、倉庫における過剰在庫などを問題として痛感した。その後、大学ではITを学び米国にも留学した。
その経験から物流業界の課題ソリューションのために、大学卒業後、直ちに同社を立ち上げた。
同社では、「未だ活用されていないデータを用いて、物流産業をアップデートする」ことをミッションとしている。
同社の試算によれば、日本全国で約54兆円(GDPの約1割)の過剰在庫があり、在庫データを蓄積・活用することによって、在庫削減が可能であるとしている。そこで、同社の事業領域は、「データ蓄積事業」と「データ活用事業」としている。
具体的には、クラウド型在庫管理ソフトであるロジクラによって、在庫データを蓄積し、次に在庫データを活用して、(3)で述べるB2B在庫売買や需要予測に展開しようというものである。
(2)商品・サービスの概要
創業間もないことから現時点での主力サービスは、前述のロジクラである(図5)。
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ロジクラの最大の特徴は、「無料」(設備費・通信費は別)プランにある。SaaS(Software as a Service)つまりクラウド型であり、簡単に導入できる。WMSや在庫管理システムも安くはなったが、まだまだ高いので、廉価版であるロジクラが注目されている。
最も簡便な「無料」プランは、入荷管理・出荷管理・在庫管理の3機能がある。さらに、エントリープラン→スタンダードプラン→WMSプランがあり、最高位のWMSプラン(月額:税別3万円)では、
①入荷管理+入荷検品、②出荷管理、③在庫管理、④棚卸し、⑤スマホでピッキング、
⑥納品書作成、⑦送り状作成、⑧ロケーション管理、⑨ABC分析機能
が付いている。
2018年11月の無料版リリース後に導入社数が急増したが、ほとんどが無料プランである。有料の導入社数は公表されていないが100社を超えたようであり、大手の食品・飲料メーカーでも幾つかの在庫拠点で導入されている。
(3)今後の展開
1)ビッグデータの蓄積による商流・金流(金融)への展開
それでは、なぜ「無料」プランを展開しているのだろうか。それは、ロジクラがビッグデータを蓄積する手段になっているからである。ニューレボ社には、ロジクラを通じて5000社以上の在庫データが集まってくる。そのなかには過剰在庫も含まれているだろう。同社では、ロジクラで蓄積したデータを活用して、在庫をB2Bで売買したり、適切な需要予測をすることを、次のビジネスステージとして考えている。
収集した在庫データや作業データの活用については、守秘義務の問題があり、導入企業から事前に了承を得ることは言うまでもない。
倉庫や物流センターの在庫は、動産担保融資(ABL)、つまり借金のカタに利用可能である。ABL(Asset Based Lending)とは、動産(在庫や機械設備ほか)・債権(売掛金・流動預金ほか)等の資産を担保とし、担保資産の内容・変動を常時モニタリングして、資産の一定割合を上限に資金を調達する手法であり、米国では普及している。
日本でも、2004年に「動産債権譲渡特例法」が改正され、譲渡担保に関する動産の登記の道が開かれたことにより、ABLが可能になった。
営業倉庫では、寄託貨物に対して倉荷証券を発行することができる。倉荷証券は有価証券として流通性があり、倉荷証券を担保に金融機関から融資を受けることもできるが、今日の金融市場では殆ど発行・流通していない。ABLは、営業倉庫(倉庫業者)の倉荷証券を代替するものと言えよう。
融資に限らず、在庫の転売による資金化(換金)ニーズも強い。そこで、同社では蓄積した在庫のB2B売買プラットフォームの構築を考えている。即ち、蓄積された物流(在庫)データを活用して、商流(B2B在庫売買)や金流(ABL)にも乗り出そうというのがニューレボ社の戦略である。
大手総合物流企業や特別積合せ運送業者のなかには、輸送貨物を対象に、買い手(着荷主)から売り手(発荷主)への支払期日前の立替え入金による代金決済など、荷主企業向けに金融サービスを提供している例もある。
また、ディスカウントストアのなかには創業期に、倒産企業の在庫や、過剰な流通在庫を安く仕入れて販売するというビジネスモデル(バッタ屋と称されることもあった)で伸びた企業もあった。
ニューレボ社が、(1)で試算した約54兆円という国内の過剰在庫を、ロジクラによってビッグデータ化し、新たなビジネスモデルを構築するか期待したい。
2)精度の高い需要予測システムの開発
需要予測については、既に日本気象協会が天候(温度・湿度等)に基づく需要予測システムを外販していて、日配品メーカー・卸等で活用されている。
ニューレボ社では、蓄積データを基にした更に精度の高い需要予測システムの開発を進めている(図6)。
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物流はトラックの運行データ、倉庫内の作業データなどビッグデータの塊であり、「未だ活用されていない物流ビッグデータを活用する」ことは、今後、物流の効率化の大きな切り札となることが期待される。
また、物流を超えた商流・金流という新たな分野への事業展開も、大いに期待されるところである。
4.souco(ソウコ)
(1)起業の経緯
創業者の中原久根人社長は、不動産関連のスタートアップの出身である。伸長著しいネット通販業者から倉庫探しを頼まれたが、住宅探しはネットで可能なのに、空き倉庫のデータベースはなかった。
そこで、空き倉庫の検索システムを作ってマッチングサービスである「オンデマンドウエアハウジング(倉庫のシェアリングサービス)」を提供することを思いついた。倉庫マッチングサービスのプラットフォームを作れば、既存の倉庫業界にも役立つと、2016年に独立してsouco社を設立した。2-(2)で説明した、求車求貨システムの倉庫版とも言えよう。
中原社長によれば、オンデマンドウエアハウジング(倉庫のシェアリングサービス)は、既に世界では、米国のFLEXE社はじめスタートアップ企業の事例がある(図7)。
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(2)商品・サービスの概要
souco社では、貨物を保管する倉庫を探す荷主(寄託者)と、空いた倉庫を貸したい倉庫業者を、自社サイトで求車求貨システムのようにマッチングする(図8)。
荷主は、サイト上の「利用したい地域」「温度管理の有無」「保管貨物量(最大)」「希望する保管期間」等を、質問に回答する一定の様式で入力する。同社本社はシェアオフィスで、社員のほとんどが在宅勤務・テレワークのため電話・FAXでは受け付けない(3.のニューレボ社もシェアオフィス)。
保管貨物に求められる重要な条件は、パレット化などがされていて、機械荷役が可能なことである。倉庫でも人手不足が深刻化しているので、手荷役が必要な貨物は断っている。また、小分け・集品などの流通加工は原則として行わない。
一方、貸す側の倉庫会社は、空き倉庫情報や料金(荷役料・保管料)を予め登録しておく。最小限でT11パレット(1100mm×1100mm)分、期間は1日から利用可能である。
倉庫業者も、年間を通して満床(満庫)であることは少ないので、いくらかの空きスペースがある。また、少量の保管貨物であれば、パレットで段積みしたり、通路などのスペースを遣り繰りすることで対応は可能であることが多い(この辺りは、トラックの求車求貨システムより柔軟性がある)。
どのような需要があるかというと、飲料など季節波動の大きい商品、セール前の衣料品・特売品、一時的な返品などが多いようである(図9)。
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同社のビジネスは、変動する保管需要と倉庫スペースを上手くマッチングすることにあり、首都圏から始めたビジネスも関西圏・中京圏と拡大して、全国展開も視野に入っている。荷主からの保管需要に応えていくためには、つねに空き倉庫(庫腹)を確保しておく必要があり、そちらが大変のようである。大手倉庫業者・物流業者からも支店・営業所レベルでは、空きスペースの提供登録があるという。
(3)今後の展開
1)コンプライアンスの徹底
souco社の実績は、首都圏を中心に全国に延べ面積で東京ドーム3.6個分にあたる17万m2の倉庫スペースを確保した。アパレルや飲料メーカー、物流会社など、借り手も含めたアカウント登録は720社に上っている(日経ビジネス誌、2019年12月13日号)。
なお、同社では、家財などの一時保管(トランクルーム)は受け付けておらず、あくまでB2Bである。
また、中原社長は何度も国土交通省の担当課を訪れ、倉庫業法に従った運営(再寄託)をしており、単なる場所貸し・レンタルスペース業ではない。
コンプライアンスを重視する理由は、一つには営業倉庫として保管責任を負うことによる信用度の向上、第二に保管貨物や倉庫施設に対する火災保険である。同社では、東京海上日動火災保険の協力を得て、オンデマンド倉庫としての新しい保険を付保している。
同社の収益源は、2.で説明したCBcloud社のマッチング手数料と同様に、荷主からサイトで寄託を受けた貨物の保管料と、倉庫会社に再寄託する際の保管料の差額である。
2)スタートアップは下請けではない
大手総合商社が2019年秋に始めた物流倉庫ビジネスが、souco社のオンデマンド倉庫によく似ていると話題になった。
最近では、大企業とスタートアップが協業するケースがよくある。協業まで行かなくとも、大企業がスタートアップの新ビジネスモデルに関心を持ち、スタートアップから情報収集することも多い。その後、大企業から類似した商品やサービスが売り出されることもある。「パクった」のではないが、何となく気になる。
ヒト・モノ・カネが足りないスタートアップは、大企業から見ると下請け会社のように思えるのかも知れないが、決してそうではない。
大企業には、スタートアップが何かを持ってきてくれる幻想を抱いている場合があり、また、スタートアップからの売り込みも多い。例えば、トラック運送業には、怪しげな省燃費装置や排ガス浄化装置の売り込みが多い。筆者も、2-(2)で説明した求車求貨システム乱立期には何社かの売り込みがあり、「既に自社システムを開発済みですから」と丁重にお引き取り願った。
大企業・スタートアップは「元請・下請」の関係ではなく、対等なパートナーシップを構築すべきではないかと、今回の総合商社の件では感じた次第である。
3)内なる広域化と海外への展開
国土交通省の倉庫に関する経営指標の統計(普通倉庫は主要倉庫会社131社のみ)によれば、保管面積の20%が空いている。これは大手倉庫会社に限ったことなので、地方の中小倉庫会社を含めれば空き倉庫面積はもっと多いと思われる。
また、一方で、荷主側からはモールの新規開店用の商品の一時保管(筆者も、担当荷主の大手GMSの新店オープンでは、空き倉庫探しに苦労した)や、輸入コンテナ貨物の一時保管など、地方でも一時的な保管需要が発生する。そこで、souco社としても地方の空き倉庫の確保・登録が課題である。
2-(2)で説明した求車求貨システムのように、倉庫のマッチングサービス分野でもイーソーコ社のような先行者が存在する。souco社が、Webによるオンデマンド倉庫での事業拡大すること期待する。
また、図7のように、FREX(米国)・W6(中国)など世界には先駆者が多く、ZARAなども新商品の発売前には一時保管に活用していると聞く。彼らが日本に進出してくるかは分からないが、トランクルームではキュラーズ社(米国)が日本にも進出しているので、海外のオンデマンド倉庫事業者の日本進出に可能性がないとは言えない。
他方、日本企業が海外展開していくと、海外でも一時的な保管需要が発生する。そのようなときに、日本企業が各国のオンデマンド倉庫業者に任せるのか、souco社が海外でも空き倉庫のネットワークを張って行くのか、大いに注目されるところである。
(C)2020 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.