第437号 eビジネスと物流のあれこれ!(2020年6月11日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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目次
- 1.はじめに・・・。
- 2.日本国内のEC市場規模
- 3.eビジネスと物流
- 4.eMP型とモール型のビジネスモデル
- 5.EC物流をシェアする共同拠点
- 6.ECプラットホームのビジネスモデル
- 7.eMPの取り組み事例のご紹介
- 8.最後に・・・。
1.はじめに・・・。
現在、インターネットなどに代表されるIT(情報技術)の進歩、ネットワーク技術やネットワークインフラの普及には、目覚ましいものがあります。
企業や家庭へのパソコンの飛躍的な普及により、流通・物流業界においてもEC(イーコマース:電子商取引)に取り組む企業が益々増え、やや乱立気味で、その優劣も顕著になってきていますが、まだまだ増加する傾向にあります。
物流業界もECの広がりで流通・物流変革の一端を担ってきています。
そして、ECは、新しい商取引の流れを確実に実現しています。
この商取引を支援する物流事業者(特に運送事業者)が限られており、ECの荷主企業にとって満足のいく物流サービスを提供できていないように感じています。
ECの特性である多品種、小ロット、配送地域の広域化に適切なコストで対応できる物流システム(仕組み)の提供が物流事業者のこれからの責務と考えます。
昨今、新型コロナウィルスの感染拡大で外出制限、ネット通販(EC)の需要が急増し、各企業ともに物流施設などで働く人を増やしているそうです。
従来の物流の基本は、日本全国で均等なサービスとコストを提供するという論理でしたが、限定した地域に物量を集約「納期、コスト」に強い物流、スピードが売りの物流、納期はお任せでコストを売りにする物流など、eビジネスの物流の形態は、益々多様化していくものと思われます。
そこで、ECについてのあれこれを考えてみたく思います。
2.日本国内のEC市場規模
ECとは、インターネット上に開設した商品を販売する店舗のことです。
また、「ネットショップ」などとも呼ばれ、PCやスマートフォンを使用して、インターネット上で商品などを販売しています。
利用するユーザーは、インターネットに接続されたパソコンや、スマートフォン、タブレットでeMP(イ-マ-ケットプレイス:電子市場)にアクセスすることで欲しい商品をカートに入れて注文することで購入できます。
eMPとは、インターネット上に存在する物の売り手と買い手が自由に参加できる取引市場で、個人と企業の双方の参加で取引が成り立っています。
小売店舗が衰退し、EC市場が益々活性化してきています。
日本国内のECの市場規模(経産省調査) は2018年の日本国内のBtoC(消費者向け電子商取引)は18兆円で前年比9.1%増、BtoB(企業間電子商取引)は344兆円で前年比8.2%増と右肩上がりでEC市場が急拡大を続けています。
さらに、2020年も新型コロナウィルスの感染拡大で外出制限が発令され、EC市場の取扱量が爆発的に急拡大すると見込まれています。
3.eビジネスと物流
EC(e-コマース/電子商取引)の市場の拡大が止まりません。
ECにはIT(情報技術)をはじめ、入庫・検品、商品の保管や在庫管理、ピッキングや梱包・発送(輸送・配送)など、様々な物流業務の活動から成り立っています。
近年、物流業務がよりいっそう重要視され、商品供給が消費者に満足のいく高いサービス水準を提供するためにも重要なポジションと認識され、今後のECサイトは、様々な企業が様々なECサイトを作っていますが物流が明暗を分けると考えられています。
eビジネスを起点に物流サービスの変革が求められる時代になりました。
現代社会の情報伝達とコミュニケーションはインターネットを中心に発信されています。
そのインターネットの特徴として通信コストが安い、全世界に普及、双方向でのデータ通信が可能、インターネットを契機としてIT(情報技術)革命がスピード感をもって進んでおり、物流にも、その発展性、柔軟性が求められるようになってきています。
在庫がどこにあっても高い在庫精度があれば、ネット上での商談が信頼をもって可能となり、商品をいつ(納期)、どこに(納品場所)、いくつ(指示された数量)でもお届けできることが前提で成り立っています。
eビジネスでは、情報とデータ処理のスピードと精度がビジネスの基本と考えます。
さらに、eビジネスの時代は、物流が重要と言っても過言ではありません。
全ての物流事業者が恩恵を得られるのではなく、従来からの保管、梱包・仕分け、配送、納品などの物流作業が「品質・精度、納期、コスト」を満足させられる物流事業者が生き残れる条件で競争レベルが一段と向上し、熾烈になっていくものと思われます。
4.eMP型とモール型のビジネスモデル
大きく分けるとeMP型、モール型、直営型の3つのビジネスモデルがあります。
それぞれのECサイトはビジネスモデル上、全く違う形態を取っています。
特に、日本における代表格であるアマゾンが売り上げ規模でトップ(≒20.2%)、2位は、楽天(≒20.1%)で、アマゾンと楽天が拮抗しているのが現状です。
アマゾンのeMP型(電子商取引)は、一般的な小売業のイメージに近いものです。
仕入れた商品の所有権はアマゾンにあり顧客、消費者への発送もアマゾンが行います。
主な収入源は消費者に商品を売り、指定場所にお届けすることで成り立っています。
今後、自社配送も視野に入れる方向で、試行錯誤をしているようです。
日本企業のeコマース業界にとっては、益々脅威になっていくものと思われます。
一方、モール型(大型ショッピングモール)のeコマースを運営する楽天は、知名度を頼りに様々な店舗が集まったeMP(取引市場)の中で商品を売る場所を提供しています。
これは物を売るショッピングモールに出店できるサービスを企業に提供しているのです。
楽天での価格の決定、送料などの線引きは、出店(荷主)企業にお任せです。
出店企業は、出店料と手数料を払うことでECサイトに商品を出店することができます。
楽天の主な収益源は企業からの出店料で楽天市場で買い物する人の購入料金ではなく楽天の売り上げをを左右するのは出店数ということになります。
物流は基本的に消費者のためのサービスですが、アマゾンに比べて楽天での商品発送は店舗毎のためサービスレベルの統一が難しそうです。
楽天は出店企業に物流を任せているため力を入れてこなかったと思われます。
近年、楽天も倉庫を持ったりして、物流を強化してきているとのことです。
楽天のビジネスモデルのメリットは、商品の在庫を持たないことで在庫リスクが少ないこと、出店企業が配送を手配するので、楽天の手間暇が省けることでした。
仕入先に直接発注していないため大量注文が入っても倉庫スペースの心配や価格交渉にも主導権を持たず、商流・物流分野に力量を発揮するチャンスが少なかったと思われます。
同一納品先でも店舗が異なる場合、別梱包、別配送で顧客へのサービス性、効率性(作業費、配送費)がアマゾンと比較して劣る条件になってしまうように思われます。
さて、アマゾンは在庫を抱え大量の商品を入出庫、保管する物流拠点を持つっています。
自前で物流力を発揮できるのはアマゾン、物流に関わる投資コストの負担を抑えることができるのが楽天、それぞれにメリット、デメリットがあるようです。
アマゾンは、物流拠点の商品の出し入れの運用管理が大変、そのためにサービスを拡大していくのには、時間がかかりますがサービスの統一性が図れます。
一方、楽天は、商品情報を提供するサービスなので、ITの充実が絶対条件です。
従って、楽天のショッピングモールは成長スピードが早く、出店企業をどんどん増やしてもコスト負担が小さくて済み、急成長を遂げてこられた大きな要因だと考えます。
物流の強味は、コスト、スピード・納期、品質などの総合力を維持することですが、アマゾンは自前の物流を成長させ、楽天は個々の出店企業の成長と力量でアマゾンに対抗してきましたが、成熟期での対抗が難しくなってきているのが実態と思われます。
そのような条件から初期の成長期は楽天、成熟期の成長はアマゾン、eMP型とモール型のシステムを長い目で見ると勝手な決め打ちですが、eMP型に軍配が上がりそうです。
さらに、楽天で商品を買った場合、それぞれが別の店から出荷、発送されるため発送・配送料が膨らみ、商品も同一タイミング、梱包で同一の顧客に届けることができません。
また商品の保管方法、包装も出店企業に委託しているため物流品質のバラツキもまちまちになっているものと想定します。
最近の楽天の動向として、モール型のEコマースは売る場所を提供するだけなので商品の梱包、発送は各店舗に任せており、出店企業によって送料負担の方式が異なるため顧客からは分かりづらいとの声が出ているそうです。
楽天は、かつて定額制だった出店料を定額と従量制に変えたことで、出店企業や消費者から「値上げだ」と批判を浴びたことがあるそうです。
楽天の三木谷社長は送料無料化(商品代に送料込)の考えを進めようとしています。
出店・店舗の成長につながるのであれば、たとえ政府や公取と対峙してでも必ず遂行すると2020年3月18日からの送料一律無料化策を予定通り導入することを明言しています。
そんな騒ぎの中で、楽天の有力店舗である安さが魅力の日本最大手に成長した現場作業や工場作業向けの作業服・関連用品の専門店チェーンのワークマン(全国約800店舗以上)が2月末で楽天市場から撤退する方針を示しました。
カジュアル衣料としての人気も高まり、快進撃を続ける人気店舗ワークマンは2020年3月に自社で新たなネット販売サイトをオープンするそうです。
店舗在庫をネットで注文し、店舗で受け取るモデルでワークマンは「大半の顧客は新ネット販売サイトに移っていただける」と見込んでいます。
場所貸しとして多くの中小の企業を支えてきた楽天ですが、自社のユーザーを囲いこんでいる企業や店舗の中には、楽天からの「卒業」を決断する企業も出てきそうです。
三木谷社長の強気の発言の裏には、こうした離反に対する焦りもあるのかも知れません。
eビジネスの物流による優位性は、初期の楽天の成長の素晴らしさと現在のアマゾンの成長の著しさを考えるとそれぞれの企業環境に合致したビジネスモデルの選択と真の顧客第一主義で中小を問わないECサイトの運用が求められているように強く感じています。
5.EC物流をシェアする共同拠点
物流業務は、ECサイトの運営として避けては通れない業務です。
様々な企業のEC事業が盛り上がっていますが、商品を売ることに比重を置きすぎて物流に対する関心度が低い事業者が多く見受けられるように感じています。
ECサイトのシステムの開発や立ち上げ、決済などのさまざまなステップが改善されていますが、物流に関しては未だ改善の進み具合が遅く取り残されている感が否めません。
そこで、現在のEC物流の効率化に向けた課題を考えてみたいと思います。
今、ECサイトの立ち上げに必要なネットショップの作成サービスの安価版が次々と誕生し、市場に出回っています。
さらに、ID決済サービスによる手間が省けるなどのシステムが提供され、ECサイトの運営が、ここ数年で格段に導入しやすく簡略化されてきました。
EC運営は、常に進化し続けているにも関わらず物流サービス面は現状維持のままです。
これだけIT化が発達した時代にも関わらず、長い間、物流業務はマンパワーに頼る企
業が多く規模の大きい企業でさえ旧態依然とした物流業務に甘んじてきていましたが、ここにきて、外資系や日本の大手企業が人手不足、競争力強化を前面にこぞって物流拠点の物流業務の改善に自動化・ロボット化、無人化、半自動化に舵を切り始めています。
さらに、様々なノウハウを持ち合わせている企業同士がパートナー(戦略的アライアンス)を組み、最新鋭設備の導入と物流システム、倉庫空間/スペース、マンパワーをシェアする複数のEC事業者の物流共同拠点(倉庫)を開発し、効率的な物流ソリューションを提供している施設が増えてきています。
そして、従量課金制などで新しいEC物流拠点の運営が進んでいる模様です。
6.ECプラットホームのビジネスモデル
EC サイトを運営する上で、商品を購入して頂いた時に無くてはならない商品の配送サービス、トラック運送事業者(配送事業者)なくしてECサービスが成り立ちません。
2000年初め頃、人形町にあったシンクタンク(企業)から全国を拠点にしたトラック運送事業者がECを基盤に物流ネットワーク事業を展開するための調査研究を行うので手伝って欲しい旨の依頼を受けました。
私の親しい大学教授をはじめトラック運送事業者連合会とシンクタンクのメンバーで東京圏、関西圏の当時のEC先進企業(8社)を訪問、実態調査を実施しました。
トラック運送事業者が持つネットワークと様々な物流事業を有効に活用できるECサイトのノウハウ(開設、運営)を主体にヒヤリングを実施しました。
一方、トラック運送事業者間で荷物や車両を融通しあう求貨・求車システムを構築していましたが、加盟する会員の大半が中小の運送事業者であり、ECの荷主企業が求める広域物流サービスに対応するには、単独では、極めて困難、そこで、運送事業者の全国組織を活用した新しいビジネスモデルの構築を行い、組合員企業により多くの取り扱い荷物を提供していくことを目論んでいました。
物流ビジネスモデルがeビジネスの成否を分けると言われていた時代です。
eビジネスの取り組みを事前の評価のために運用とモノの流れを想定して顧客へのサービス性(納期、コスト、品質・精度)などのECプラットフォームを共同化し、ビジネスモデル(下記参照)の事前評価の検証などが必要と判断し、最終取り組みを模索しましたが運送事業者の力量、資金、人材などが整わず、残念ながら実現しませんでした。
7.eMPの取り組み事例のご紹介
事例は、2000年代の前半のものですが、調査内容を列挙します。
参考にしていただければ幸いです。
某EC物流企業(下記参照)はネット通販会社から受けた情報をもとに最適な運送事業者を選択し、集荷と配送を依頼する物流代行サービスを手掛けていました。
事業展開の特徴は、物流代行業務をネットに乗せること、インターネット通販(当時の事業者≒2万社)を目指していました。
ネット通販に関わる投資(ソフトウェアーの開発)が数億円と見込まれていました。
ネット代行業(ビジネスモデル)の成長性を見込み大企業からの出資志願もありました。
ネット通販の物流業務全般を請け負い、ネット販売の利益を圧迫する物流コストの削減を目指し、さらに、売り上げ10億円以上を見込んでいました。
某EC物流企業の親会社(K物流)は、1999年12月にネット通販物流代行業に特化したセクションを発足し、顧客ニーズに対応できる専門性の高い通販商品の専用物流センターを開設し、市場開拓に取り組んできました。
さらに、某大手商事と業務・資本提携をしてECに於ける物流支援事業の強化を図り、EMPサイトのシステム構築会社(C21)、電子決済サービス会社(Sキャッシュ)とも提携して物流を側面から強化と支援をして貰いました。
当初、通販ネット業者3,000社を獲得、翌年には5,600社にまで拡大、5年後には10,000社の顧客獲得を目指していました。
上記事例の某ECサイト専門の物流企業は≒20年で資本金8,000万円、年商86億円(2020年3月期見込)に成長、成果?として現在、株式公開(ナスダック)を申請中です。
8.最後に・・・。
米国では、アマゾンの著しい成長で消費者のネット通販へのシフトが一段と進み、小売業が衰退、商業施設(リアル)の空き店舗が過去20年で最高になったとのことです。
日本もEC事業の伸展と活性化で、さらなる空き店舗が増えていくと思われます。
さらに、eMPの将来性は物流力と物流サービス・配送網、決済、資金力に対応したコスト負担力のある企業がECの世界で生き残れるのではと考えています。
日本も新型コロナウィルスの感染拡大で外出制限(4月15日現在)がかかり、食品、生活秘需品などのネット通販の需要が急増しています。
益々伸びるeMPの世界に於いて自社のみの成長ではなくeMPに関わるパートナー企業(生産者~消費者)との共存共栄を心がけ、物流コスト、物流サービス、物流品質・精度の最適化を目指すeMP全体を考える組織集団が成長するものと思われます。
そして、これからは高齢者や弱者を真に支援するeMPの出現を期待したいものです。
以上
(C)2020 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.