第337号 日本に物流センターはいくつ存在するか?(2016年4月7日発行)
執筆者 | 久保田 精一 (ロジスティクスコンサルタント) |
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目次
トラック運送会社数が6万社、日本のマクロ物流コストが40兆円など、物流の基本となる数字が色々とあるが、「物流センターの数」というのは、常識的に見えて実際には答えるのが難しい問題である。
言うまでもなく物流センターは企業物流システムの中核を担う拠点であり、その立地場所や規模、機能などの実態に対する関心は高い。しかしながら、物流センターは、①所有者の業種が荷主(経産省等が所管)と物流事業者(国交省が所管)にまたがること、②トラック運送業等と異なり、業法上の位置づけが単純でないこと、といった特性から、公的統計では直接的には調査されていない。また、知りうる限り、民間団体の統計・調査報告なども存在しない。そのため、拠点数など基礎的な情報も整備されていない。
そこで本稿では、物流センターの拠点数を中心に、関連する立地傾向等の実態について、整理してみることとする。
1.物流センターの分類・定義
まず、「物流センター」とは何か、について整理しておきたい。
物流センターの定義については、例えばJISの「物流用語」規格において規定がある。同規格で「物流センター」は、倉庫、トラックターミナル等と並んで物流拠点の種類の一つであって、「物流活動を構成する諸機能をもつ施設」であると定義されている(図表1)。すなわち、単純な倉庫・トラックターミナルなどではなく、複合的な機能を有した拠点を物流センターと定義している形である。
確かに、保管機能しか持たない倉庫などを「物流センター」と称するのは違和感が残るため、そのような単機能の拠点を除外することは妥当であるが、現実には積み替え・配送といった機能を全く持たない営業倉庫や、一時的な保管機能も持たないトラックターミナルといった拠点は、ごく小規模なものを除いてほとんど無い。一定以上の規模を持つ倉庫等は一般的に複合的な機能を有しており、実際、物流会社が自社の倉庫を物流センターと称している例は多い。
(例えば http://www.nittsu.co.jp/warehouse/services/index.html)。
また、そもそも語義的に「センター」と「拠点」に明確な違いはなく、実務的にも、「物流センター」と「物流拠点」とは明確に区別されずに利用される場合が多い。
このような実態を踏まえ、本稿では(定義は主たるテーマではないので)とりあえず、図表1の中程の列に図示した「一般的用例」の範囲に従い、倉庫、トラックターミナル等の相当部分を含む広い範囲の物流拠点が「物流センター」に該当するものと考えることとして具体的な検討に進むこととする。
2.統計等での物流センターの把握状況
前述のとおり物流センターそのものを調査したデータはないので、倉庫統計など、関連する統計データによって、物流センターのアウトラインを見ていくこととする。
(1)倉庫統計
他社の貨物を寄託契約に基づき保管する場合など、物流センターであっても倉庫業法上の規制を受けることになるため、そのような場合には倉庫統計の報告対象に含まれることになる。
倉庫統計は原則的に、業法上の事業報告ベースでの統計であり、報告数値に基づき、許認可を受けた倉庫事業者の実態(保管数量等)が月次・四半期等で公表されている。当然ながら、倉庫業の許認可を受けたトラック会社等についても含まれることになる。
営業倉庫のデータには野積み倉庫等を含むが、これらを除くごく一般的な営業倉庫である普通倉庫(1~3類)のみを見ると、面積は約4千万㎡となっている。
参考URL http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn2_000007_2.html
(2)経済センサス(事業所・企業統計)
事務所、工場、物流センター等を含む「事業所」の基本的な情報は、経済センサス(平成23年以前は事業所・企業統計。ただし経済センサスには従来の工業統計、商業統計等も含む)によって調査されている。
このうち、直近の調査である平成26年経済センサス(基礎調査)において、事業所の「利用形態」として、「自家用倉庫」「自家用車庫」等の区分が調査されているが、集計結果は残念ながら開示されていない。それ以前のデータでは、平成18年の調査においては、同様に「事業所の形態」として「輸送センター、配送センター、これらの車庫」「自家用倉庫・自家用油槽所」といった区別が調査されており、結果も公表されている。
これによると、図表2に示すとおり、これら「輸送センター等」、「自家用倉庫等」の物流拠点(事業所)は全国で5万カ所程度存在することが明らかとなっている。ちなみに事業所・企業統計では、調査員が事業所を訪問してその事業所の形態を区分し記入することとなっていたため、現況が比較的正確かつ悉皆的に把握されているものと考えられる。
なお、事業所・企業統計では事業所ごとの従業員数、売上高なども調査されているため、物流センターの実態を把握するうえで参考になるデータが入手できる可能性があり、次回以降の調査で集計データが公表されれば、より実態が正確に把握できる。
資料:平成18年事業所・企業統計
(3)法人土地・建物調査
法人が所有する建物(及び土地)の包括的な実態把握を目的とした調査であり、国交省により実施されている。直近の調査である平成25年調査の結果は執筆時点で未公表であるため、利用可能なもののうち最新となる平成20年調査(法人建物調査)の結果を見てみる。
本調査では、建物の利用現況別の施設規模等が調査されているが、現況の区分の一つに「倉庫」が設けられており、「倉庫」として利用されている建物の概要を把握することができる。
データについては次項でも紹介するが、例えば「倉庫」の棟数は全国で約12万棟、床面積は1.6億㎡などとなっている。
なお、建築物の所在・用途等の状況は官公庁によって正確に捕捉されているので、事業報告ベースの統計と比べて調査精度は高いと考えられる。一方、事業所・企業統計と異なり、事業活動を行っていないような(例えば社員が常駐していない等)小規模かつ利用実態の薄い建物も調査対象となってしまうため、特に棟数については実態よりも過大な数値が計上されることが問題である。
(4)建築着工統計
(3)はストックベースの統計であるのに対し、フローの統計として建築着工統計がある。建築着工統計では、建築物の「使途」として、事務所、工場等と並んで「倉庫」の区分が設けられており、「倉庫」の建築棟数等の概要を把握することができる。
なお、ここで「倉庫」と限定的に分類されているが、建築基準法施行規則で定められている用途区分のうち物流用途に関わるものは「自動車車庫」と「倉庫」しかなく、物流センターの相当部分が「倉庫」に含まれているものと考えられる(これは法人建物調査についても同様である)。
なお、平成26年度における「倉庫」の着工件数は約1.4万件、床面積8百万㎡などとなっている。
(5)東京都市圏物資流動調査
地域限定ではあるが、東京都市圏の自治体(都県・政令市)が構成する協議会によって、東京都市圏における物流施設の数、設立時期、業種等について10年ごとに調査されている。後述するように、全国の物流センター全体に占める首都圏の割合は高まっており、その実態を把握するうえでは有用なデータである。
参考URL https://tokyo-pt.jp/pd/index.html
3.統計データに基づく立地傾向等
若干本題から離れるが、以上の統計からわかる物流センターの立地傾向等について示ししたい。
(1)大規模化傾向 ~ 一棟あたり床面積が概ね倍増
建設投資が長期的に縮小傾向にある中で、物流施設の着工も縮小傾向にある。ただし、建築着工統計によると、「倉庫」については件数(棟数)の減少に比して床面積の減少がより緩やかであり、結果、一棟あたりの床面積は、概ね倍程度に拡大している(図表3)。
資料:建築着工統計
平成20年の法人建物調査により、床面積別の「倉庫」棟数を見ると、一般的に大規模物流施設の目安とされる1万㎡以上のものが約1,500棟となっている(現在は更に増えているはずである)。この棟数は、千㎡(約300坪)以上まで含めると約3万棟、500㎡以上まで拡げると約6万棟にまで増える。これら数値は、物流センターの数の一つの目安となる数字でもある。
資料:平成20年 法人建物調査
(2)都市部への集中傾向 ~ 関東への一極集中が進む
法人建物調査によって「倉庫」の地域別の床面積が分かる。これによると、関東が26%程度を占め最大となっていることが分かる(図表5)。
また、近年、物流拠点の集約化・大型化や大規模港湾周辺への移転が進展するに伴い、関東への集中化が進んでいる。図表6は建築着工統計により、「倉庫」の着工床面積を時系列で見たものであるが、平成6年時点での関東のシェアは23%に留まるのに対し、平成26年度には50%にまで増加している。この傾向が続けば、古い施設の改廃が進むに伴い、早晩、総床面積の4割程度を関東が占めることになると予想される。
資料:平成20年法人建物調査
資料:建築着工統計
関東:東京・神奈川・埼玉・千葉・栃木・茨城・群馬
中部:愛知・岐阜・三重
関西:大阪・京都・兵庫・滋賀・和歌山・奈良
4.物流センターの数・面積等の推定
さて、以上の整理を踏まえ、物流センターの数等について、検討を加えたい。
棟数に関わるデータとしては、先述のとおり、法人建物調査による数値(下表①~④)、事業所統計による数値(⑤~⑦)がある。事業所統計による「輸配送センター」等である事業所の数は約5万(⑤)であるが、ここには従業員がほとんどいない小規模なものも含むため、それを除外して一定以上の従業員数を有する拠点数を推計すると2.5万程度と見込まれる(⑦)。一方、法人建物調査による利用区分が「倉庫」である建物のうち、床面積が500㎡以上であるものが5.8万あるが(③)、これは事業所統計の数値との整合性から言って過大であり、千㎡以上である3万(③)程度の数が実数に近いと考えられる。
これを踏まえ、物流センターの数としては、③と⑦の数値の間(2.5万~3万程度)であると推計できる。
なお、⑦(3万)に相当する床面積は、1.31億㎡と推計される。これは普通倉庫(1~3類)の面積(所管面積)である4千万㎡の約3倍に相当する。また、1棟辺りの平均床面積は4千㎡程度ということになる。
なお、ここで推計された2.5~3万という数字を身近な事業所の数と比べてみると(図表8)、郵便局の数よりも多く、ガソリンスタンドよりも少ない程度の数となる。
資料:郵便局数:2015年9月末で営業中のもの、日本郵便
ガソリンスタンド:平成25年度末給油所数、資源エネルギー庁
コンビニエンスストア:2015年8月時点、日本フランチャイズチェーン協会
以上、物流センターの拠点数等についてデータを整理してきたが、残念ながら現状では概括的なデータしか入手できない。一方、物流業務に関わる労働者の需給の見通し、物流システム機器(マテハン機器)やWMSといった情報システムの潜在的市場規模の推計等、様々な観点から物流センターのマクロ動向には高い関心が持たれており、より精緻な調査・推計が行われることが期待される。
以上
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