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ロジスティクス

第481号  物流業界のモラルが再び厳しく問われている:飲酒運転は氷山の一角か、物流SDGsは未だ遠い(2022年4月7日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.悲惨な学童死傷事故で飲酒運転が発覚:点呼後のチェックはもはや不能?

  昨年、通学路において学童の悲惨な死傷事故が発生し、後にドライバーの飲酒運転だったことが発覚したのは、未だ記憶に新しい。狭い抜け道で、ガードレールも設置されていないという設備上の問題もあったが、ドライバーが仕事の帰りにコンビニで酒を買って飲んだという事実は、関係する者としては誠に衝撃であった。社会的使命を担う物流業界にとっては誠に致命的で、これを決して対岸の火事として見過ごすべきではない。兎角業界としてのモラルを問われることもあるが、この負の印象を取り戻すのはもう容易ではないはずだ。
  ドライバーは出発前に運行管理者の点呼を受けることが法令で義務付けられており、原則は対面だが電話等による方法も認められている。当然、航空機パイロットと同様に残存アルコールチェックも行われる。この日常の基本動作が蔑ろにされているとの指摘もあるが、大勢としては厳しい運営が行われていると信じる。しかしドライバーがコンビニで酒を買って飲むという行為は、もはや酒販における社会的規制も必要になるのではないか。当然、管理外の問題として個人の責任に帰するのではなく、スピード違反や交通事故撲滅と同様に、個人の行動を如何に管理内に留めさせるかという経営課題でもある。


(図表1:点呼の主だった規定)
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  かつてはMCA無線等で定時的な連絡を取り、業務進捗状況の確認も行われていたが、今やスマホの時代となり、一見便利なようだが逆に対面機会が少なくなる盲点もある。当日中の着荷確認情報が必要になる場合もある。システム端末としてドライバーを管理内に留め、データによりリアルタイムで管理状況の確認が出来る体制を更に進めるべきであろう。ドライバーは出発したらもう管理外で、業務品質管理には関われないのではなく、現場の生情報を把握するキーパーソンとして位置付けることが重要である。

2.テレビ放映された飲酒運転常態化の一面:サービスエリアにおける実態

  この事故を契機にあるテレビ放送で、高速道路サービスエリアにおける長距離ドライバーの飲酒実態が明らかにされた。これは氷山の一角だとしても決して許されないことで、とても看過出来るものではなかった。アナウンサーのインタビューに、売店で酒を買いキャビンで仮眠をして、数時間後に出発するというやり取りがあった。だが勤務拘束中であり、このような行為は断じて許されない。飲酒運転は常日頃から問題にされ、これだけ社会的監視が行われていても、プロとしてこのような実態は誠に嘆かわしい。就労管理と併せて、これは喫緊の課題である。
  サービスエリアで、このようにドライバーに酒を売ること自体も問題であろう。北海道新幹線開業後の奥津軽いまべつ駅から乗ることがあって、駅売店で酒を買おうとしたら未だどこにも設置されていなかった。隣接する道の駅に行ったら、酒は販売していないと言う。考えて見ればそれは車で買いに来る人にとっては当然であり、新幹線に乗車して車内販売が来る迄我慢した。コンビニでもサービスエリアでも、明かにドライバーとして分かる人に酒を売っている。一方、コロナ禍の緊急事態下で、飲食業では厳しい制限が続けられている。
  かつてアメリカを旅した時、高速道路サービスエリアで超大型のトラックが駐車していたのを見かけ、ドライバーが食材を買って乗り込んでいくのを目撃した。ツアーガイドの話では、キャビンに立派なキッチンが据えられていると言う。ここで自ら調理飲食し、隣の立派なベッドで仮眠する。この時、酒を買っていたかどうかは不明であるが、アメリカでは既にトラック1台から運送業として許可され、いわゆる一人親方である。自営業主として自らの責任が重大であり、飲酒運転等するはずがないと思っている。


(写真:アメリカの大型トラック)
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3.物流業のステータスがまた低下する:空疎なアウトソーシング構造

  この度の事故が発生して社会に大きな衝撃を与え、当該道路は30キロに速度制限されたが、この程度の対策では焼石に水であろう。またこの事故で、運送業界としてのステータス低下に繋がっていることは間違いない。この業界は慢性的な人手不足に陥っていて、ましてやこのコロナという大厄災の中で、苦戦していることは想像に余りある。固定費削減のため非正規雇用はもう当たり前で、業務の質確保も容易ではないだろう。業務品質管理が個人々のプレーヤーの力量によって左右されるのではなく、システムによってカバーされる仕組みを作っていく必要がある。ドライバーは管理外ということではなく、むしろ主役として位置付けていく。
  事業構造としても自車を最小化し傭車でカバーするということは、いわばアウトソーシングである。それは単なる外注とは異なり、基本は機能・責任分担である。委託側と受託側にも互いに管理責任があり、その管理状態が共通で可視化され、管理外になると直ちに処置されることが必須条件である。それが出来ていなければ単なる丸投げである。管理するということは定量化された目標値があり、それが適宜メンテされていて、PDCAサイクルが回っている状態である。このような運営が行われていなければ、マネジメントは言えない。


(図表2:管理状態とは)
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  過酷な労働環境の中でこのような理想を追求することは至難の業だが、少しでもそれを実行していかなければ物流業のレベルは向上しない。ましてやドライバーは物理的に固定化された空間にいるわけではなく、兎角管理外になりがちだが、それでも諦めてはならない。業務品質管理とは従業員参加型でやるのが理想だが、経営側からのトップダウン課題も示さなければ、時間ばかりが掛かって成果に乏しい。改善活動には、積上げ型と現状打破型の両面が常に必要である。改革を目指すのであれば尚更である。ノンアセット型の3PL事業であれば、この管理技術が最大の武器となる。

4.物流事業規制緩和が目指した意味は:質の競争と経営のレベルアップ

  物流事業規制緩和が施行されて、もう久しい。まずトラック事業が先陣を切り、次に倉庫事業も続いた。トラックの例で言えば事業への新規参入を促し、質の競争と経営のレベルアップを図る狙いがあった。最低保有台数は5台程度に引き下げられ、国が定めていた料金設定は自由化された。その結果、確かに事業者数は増加したが、その後横ばいとなった。認可料金は廃止され、原価計算が所定の範囲内であれば届出では不要となったが、厳然としてそのレベルは存在し未だに実勢料金の指標となっている。料金体系そのものも多様化し、認められない形もあるが物流業界の立場は依然として弱い。
  前述したアメリカではこれが既に1台、お隣の韓国でも同様になっており、日本で言う白ナンバーが公認されている。韓国では夫婦でトラックを購入し、自営運送業を営んでいるケースも報道されていた。その論議は未だ続けられているはずだが、果たして規制緩和の実は上がったのかどうか。倉庫事業では新規参入が余りなく、冷蔵倉庫業に至っては巨額の設備投資が必要となるので参入障壁が高く、更に市場は硬直的である。個人事業主とは、自らの責任が明確化されることであり、当該テーマである交通事故撲滅への第一ステップにもなる。もちろんこれらの事業主を組織化している、ノンアセット型のフォワーダーという業種もある。
  昨今のコロナ禍で拡大を続けている料理宅配は、自転車やオートバイによる個人ドライバーが請負う形になっている。これを1台の運送業と見るかどうかは未だ微妙だが、街中で急いでいる姿を見掛けると実に危険な場面もある。死亡事故も発生しているが、最近の判例では効率を求める余りの結果だとして、実刑が課せられた例もある。自転車とはいっても道交法適用であり、全く野放しというわけにはいかない。一方これをオペレーションする事業者側にも、責任がないとはいえない。商品のハンドリング上も、品質管理も誠に気になるニュービジネスである。運送事業としての検討が連動していないのは、片手落ちであろう。

5.物流事業における経営はどうあるべきか:物流SDGsとは単なる合言葉ではない

  物流業界においてもSDGs指針が定められ、社会的責任を遂行すべき体制作りが進められている。社会的モラルの確立や環境対応等はもはや当然であり、政府が定めた物流効率化法等の新たな課題も標榜されている。だがこれが個々の事業者にとって、具体的な行動規範となっているかどうかが問われている。それは単なる合言葉として掲げれば実行に繋がるものではなく、具体的な業務管理の中から志向していくしかないはずだ。実ビジネスとして、意味ある管理をどう展開するかであろう。業界団体やロジスティクスを推進する団体が、その先頭に立つべきである。
  そしてもはや物流という物理的機能レベルの管理ではなく、ロジスティクスという体系としての取組みが求められており、物流はその中の一つの要素に過ぎない。体系ということはシステムであり、それも自己完結する一企業内に留まらず、企業間としての連鎖管理が必要である。これがサプライチェーン・ロジスティクスで、更にその前提はグリーン・ロジスティクスということである。最近サプライチェーンという言葉はよく語られるようになったが、それは単なる物流と同義語ではない。物流業は機能提供としてあらゆる分野に関わり、全体のロジスティクス・プロバイダーとしてのビジネスチャンスがあり、これが3PLという業態である。それはどちらかと言えば、情報を駆使したソフト業務が中心だが,物流業界はよりリアルなシステムを担える可能性が高い。具体的に実物商品に触れているという意味は大きく、そして顧客との接点という位置にもある。
  物流業界としては新卒者が集められるような企業ステータスを現出させ、そのためにはもっと物流やロジスティクスの社会的意義を追求していく必要がある。更に女性や高齢者にとっても、働きやすい職場であることを証明していくべきである。私にとっての物流事業管理の原体験は、トラックが踏切内で立ち往生し電車に接触したり、真夜中に酒を飲んで道路に寝そべっていた人をはねてしまったり、この事故処理の経験が身体に染み込んでいて未だに脳裏から離れない。冷蔵倉庫事業では火災という致命的問題を何回も目撃してきた。冷蔵倉庫では断熱材としての、発砲ポリスチロール等の可燃性物質が大量に使用され、火災のリスクが高いのである。


(図表3:私の考える物流SDGs)
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以上




(C)2022 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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