ロジスティクス・レビュー

第436号 SDGsロジスティクス(後編)(2020年5月26日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

*前号(2020年5月14日発行 第435号)より

5.物流分野でのSDGs取り組みのポイント

(1)本業の延長線上での取り組み

  大企業・中小企業の取り組み事例から分かるように、SDGsだからと言って新規に取り組んでいるのではなく、従前の環境対策・地域貢献などの延長で取り組んでいる。
  ロジスティクス・物流分野でも、そのような本業を通じた取り組みが長く継続し、成果を生み出すものと思われる。
  「SDGsをやること自体を目的・目標にすると、『見せやすい=装いやすい』『上っ面で取り組むと、却って信用失墜になる』という、大川印刷の言葉や、「「ついでに、無理なく、達成感ある活動を継続したい」という石井造園の言葉は、長年の活動に裏打ちされた至言であろう。
  物流業界では、ドローンやロボットなど最新のテクノロジーを駆使することで、新しい顧客や市場が生まれたり、サービスを開発可能な時代になりつつあると言える。
  物流ビジネスの世界で、SDGsの「誰も取り残さない」という視点で考えるには、もう一度自社のビジネスをSDGsの17目標に即して見つめ直す必要がある。
  具体的には、自社のビジネスがSDGsの17目標のどれに合致しているかという検討であり、SWOT分析の強さ(Strong)にも近い。SDGs目標に合致した自社の強みを伸ばす取り組みである。

  上述の横浜丸魚を中心とする横浜市中央卸売市場水産部は、水産物卸売という本業を「目標14(海の豊かさを守ろう)」に結びつけた。同じように、「海の豊かさを守る」という点では、水産物とその加工品の保管・輸配送をしている倉庫業者・運送業者にも共通する。ただ、「海の豊かさを守る」という意識をもって仕事をしているかどうかだけの違いではなかろうか。
  筆者も、厚労省のトラック運送「取引改善・長時間労働改善」パイロット事業を通じて、農水産物や食品輸送のトラック運送業者が、いかに「海の豊かさ」「持続的な農業」や「飢餓をゼロに(食生活)」に貢献しているかを実感した。
  上述の大企業の事例として報告された、横浜冷凍やニチレイロジは、報告書の目標2「持続的な農業」だけでなく、目標14「海の豊かさ」にも貢献しているはずである。
  「海の豊かさ」では、海洋プラスチックごみも大きな課題であるが、プラスチック類の使用についてはレジ袋やPETボトルだけでなく、物流・ロジスティクスではストレッチフィルム・発泡スチロール箱も同様である。リサイクルの仕組みがあるとしても、減量・減容には業界挙げて取り組む必要がある。
  包装容器や緩衝材以外にも、例えば木製パレットについては、大川印刷のようにFSC認証の木材で作られたものを選ぶなど、「グリーン購入」的な調達も必要である。

図表4 FSC認証の木製パレット
(出所:JPR社ホームページ 赤丸内がFSC認証マーク。EU共通のユーロパレットで、EUではFSC認証の木製パレットの使用が求められる)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  「グリーン購入」では、低公害車など環境対応車両の導入は言うまでもない。
  このように、自社のビジネスを棚卸してSDGs目標と関連づけ、それを計画化して取り組むのが第一歩である。

  しかし、これは「後付けSDGs」として、現行の仕事を無理矢理17の目標に当てはめつたり、こじつけることになりかねず、それ以上の展開が難しく、取り組みのネタが限られるので、新たな目標探しが必要となる。

  そこで、「先付けSDGs」として、17の目標に対して、自社で何ができるか?目標やターゲットに沿った業務や方法を探して、実行することが始まる。

  SDGsの17目標と169ターゲットから、筆者が思いつくままに抜粋したのが、以下の項目(下線部分。順不同)であるので、参考にされたい。

目標5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
(以下、ターゲット)
5.1 あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する
(以下、物流業界で想定される取り組み例)
女性が働きやすいようにトイレ・休憩所などの設備を改善する

目標3 あらゆる年齢のずべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を増進する
3.6 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる
安全運転に努め、交通事故を半減する

目標7 すべての人に手頃で信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
7.3 2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる
燃費の良い車両に買い替える

目標11 住み続けられるまちづくりを
11.3 2030年までに、包括的かつ持続可能な都市化を促進し、すべての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する
都市内の配送効率化(共同輸配送、再配達の削減等)を推進する

目標12 持続可能な生産消費形態を確保する
12.5 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する
物流・ロジスティクスにおいて3R(Reduce,Reuse,Recycle)を推進する。具体的には、プラごみ(ストレッチフィルム等)の削減、段ボールの回収・リサイクル、包装材料の適正化、グリーン購入への切り替えなど

(2)SDGsに取り組むステップ

  SDGsに取り組む際の手順書である「SDG コンパス」(コンパスは羅針盤の意)を参照しながらSDGsに取り組む企業が日本でも多い。
  ここでは、SDGコンパスの内容を、物流業界バージョンになぞらえて簡単に説明するので、詳しくは同コンパスを参照されたい。

図表5 SDGコンパス 5つのステップ
(出所:GCNJ「SDGコンパス」 図には「SDGsコンパス」とあるが、「SDGコンパス」が正しい)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

①ステップ1.SDGsを理解する
  まず、上述の「SDGsとは何か」ということを全社員が知るステップである。
  企業がSDGs達成に貢献することにより、新たな事業成長の機会を見出し、事業リスクを下げることができるということを理解する重要なステップである。

②ステップ2.優先課題を決定する
  自社事業のバリューチェーンを作成し、SDGsの目標に対してポジティブあるいはネガティブな影響を与えている可能性が高い領域を特定して、事業機会や事業リスクを把握する。
  それには、上述のように自社の業務を棚卸・SWOT分析して、強み・弱み・機会・脅威を把握し、SDGs目標との結びつき・関係性を知る。
  17の目標すべてが各企業に重要ではないので、限られた資源(ヒト・モノ・カネ・情報)と業種・業態に応じて、最大の効果(貢献)が期待できる領域を把握・選択するために行う。選んだ領域で指標を選択し、データ収集を行うことで、優先課題を決定する。
  この辺りは、リスクマネジメントにおけるリスク査定と優先順位付け(何がリスクで、どのリスクの影響度が大きいか)と同じである。リスクマネジメントのBIA(Business Impact Analysis:事業影響度)のように、17目標のうちどれが最も自社の業務に影響を及ぼすか、関係があるかという観点で選ぶ(その方が、従業員の共感・取り組み姿勢にも好ましい)
  注意しておかねばならないのは、荷主が自社事業のバリューチェーン(サプライチェーンと言ってもよい)を構築する際に、そのロジスティクス(調達・販売・回収)において「ネガティブな影響が大きい」物流事業者は選ばれない可能性が出てくることである。
  そこで、優先課題の決定には、荷主の動向や意向にも配慮する必要がある。

③ステップ3.目標を設定する
  自社の取り組み目標におけるKPI(主要業績評価指標)を設定する。取り組み目標は、SDGsにネガティブな影響を抑制する(例えば、石化燃料の使用は温暖化ガス排出を増やす=マイナスなので、毎年1台ずつ車両を入れ替える等)だけではなく、ポジティブに貢献する(例えば、冷蔵倉庫入口にビニールカーテンを設置して入出庫時の温度管理をすれば、食品の品質保持=プラス面に寄与する等)ケースもある。
  例示した2点は、荷主や納品先等を含んだバリューチェーン全体を向上させる機会をも提供して、事業拡大に結びつく可能性がある。
  ここまでが、PDCAで言えばP(Plan)の段階である。

④ステップ4.経営へ統合する
  設定した取り組み目標や推進方法を自社の事業計画に盛り込んで、ターゲットをあらゆる部門に取り込む。そのためには、経営トップや幹部の積極的なリーダーシップがカギになる。
  SDGsバッジを付けるだけでなく、なぜ取り組むことが重要なのか、それが会社として発展につながることを従業員に明確に伝える必要がある。
  さらに、あらゆる財務目標、戦略目標、部門や個人の業績目標にも体系的に組み込み、その意欲をビジョンやミッションに明記した文章に反映させることも重要である(上述の大川印刷等の事例参照)。
  まさに、実行D(Do)の段階である。

⑤ステップ5.報告とコミュニケーションを行う
  SDGsに関する進捗状況を定期的に、できればSDGsレポートのようなもので、ステークホルダー(利害関係者)に報告し、コミュニケーションを行うことが重要である(大川印刷では、CSR報告会を開催)。
  そして、進捗度合いを確認し、翌年度(期)の取り組みに反映させる。
  C(Check)とA(Action)の段階で、以降はこのPDCAサイクルを回していくことになる。基本的には他の改善活動と同様に、会社の中でPDCAのサイクルを回すことが、SDGsに取り組むことになる。
  とくに、SDGコンパスで掲げられている「バリューチェーンにおけるSDGsのマッピング」では、調達物流から始まって販売物流・廃棄物流とロジスティクスそのものから、取り組み目標を選び出す(マッピングする)ように描かれている。
  それは、ライフサイクルを通じたサステイナビリティ(持続可能性)は、原材料調達→物流→加工→生産→販売→消費・使用→回収の全段階に物流が関わり合っているからであり、「物流なくしてはSDGsもあり得ない」と、筆者は感じている。

図表6 バリューチェーンにおけるSDGsのマッピング
(出所:図表5に同じ。マイケル・ポーター教授の「バリューチェーン」にSDGs目標を、ポジティブ・ネガティブの両影響でマッピングしている)
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  図表6を荷主のバリューチェーンとして見ると、今まで通りの物流を続けていると、「負の影響」である「目標11 持続可能なまちづくり」「目標12 持続可能な消費と生産」を阻害するとして、「最小化」(仕事を減ら)されてしまうことも危惧される。

  取り組み課題が決まったら、SDGsコンパスに従ってPDCAサイクルを回しながら、2030年に向けて進んでいくことになる。
  「10年先のことまで分からない」というのであれば、企業の中期経営計画(3~5年)に合わせて、「10年先のゴール」から逆算した「3年先」「5年先」の目標設定をするのが、呪術の「バックキャスティング方式」で、SDGsでも推奨されている。

6.終わりに

  物流・ロジスティクスにおけるSDGsの取り組みは、ようやく始まったばかりであり、手探りで進んでいると言ってもよい。
  筆者は、セミナーや大学の講義で「運送・保管から物流、ロジスティクス、そしてSCM(サプライチェーン・ロジスティクス)へ」と説明することが多い。
  それは、「部分最適→部門最適→全社最適→チェーン最適」への進化・発展とも言えよう。
  その先としては、これまで外部不経済(環境・省エネルギー・人手不足など)を乗り越えた「社会最適」(ソーシャル・ロジスティクス)を提唱していたが、それはイコール「SDGsロジスティクス」ではないかと、最近では思い始めている。
  本ロジスティクス・レビュー第427号(2019年12月17日)では、野口英雄先生が、食品流通の最近の動向から、「ソーシャル・ロジスティクスとしての社会最適システム再構築」を提唱しておられ、筆者も大いに賛同するところである。
  食品流通の最適化はSDGsの目標2「飢餓をなくす」にも通じることであり、SDGsロジスティクスにもつながるのではなかろうか。
  本稿が、2020年を「SDGsロジスティクス」元年として、物流分野におけるSDGsキックオフの一助になれば幸いである。

  2019年12月に脱稿後、2020年3月に筆者がいつも利用する横須賀線電車で、中吊り広告を見て驚いた。
  都内の有名私立中学校(中高一貫校)の2020年入試問題に、SDGsが出題されている(以下に、中吊り広告を書き写した)。小学生にSDGsに対して「何ができるか」と問い掛けている。
  既に、若い世代にはSDGsの考え方や行動が始まっている。物流・ロジスティクスという社会的なインフラに携わる我々こそ、そういう若い世代の「持続的な発展」のために、何ができるか、考え直してみたい。

図 中学入試問題2020年〈社会〉
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(筆者撮影:横須賀線電車の中吊り広告)
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(追補)

  昨年、本ロジスティクス・レビュー誌で数回にわたり、「働き方改革関連法」関連記事を連載させて頂いた。いよいよ施行段階に至り、連載当時に不明だったことや施行に向けて変更となった点が分かったので、2点追記する。

1.ハローワークの求人票様式が変更(2020年1月以降)
★「仕事の内容」「求人に関する特記事項」など、登録可能な文字数が追加された。
★また、ハローワーク内の検索用端末やインターネット上でも、同じ求人情報が公開される。
★今後の求人では、追加情報の登録が必要になる。
〔求人票の記載内容を充実させた例〕
①職種「ドライバー」→「ルート配送(近隣得意先のみ)」
「長距離運転ではなく、毎日自宅に帰れる」と分かる
②仕事の内容 「食品・飲料の配送」→「食品・飲料の積卸しはパレットでフォークリフト荷役。フォーク資格者は手当で優遇。未取得者は会社負担で取得」と明記(空白を含み、最大297文字=27文字×11行まで記載可能)
「仕事を具体的にイメージする」ことができる

2.「36協定書」の様式変更(中小企業は2020年4月以降の締結分)
★中小企業の場合、締結日が2020年4月以降の36協定書は、「自動車運転者(従来通り)」と「それ以外(月45時間、年間360時間が原則)」の2通を作成・提出となる。
法改正時には、従来の労基法通り「1社(事業所)1協定=1通」の原則であったので、「2段書き」の方向であったが、厚労省の解釈変更により「2通」となる。
★これは、トラック運送業に限らず、自動車運転者を雇用して自家輸配送をしている荷主(例:食品、建設資材等)にも適用される。
★法改正の主旨からは余り勧められないが、2020年3月31日までに36協定を締結・提出すれば有効であり、2020年4月以降も法改正による時間外労働の上限規制(上記、月45時間、年間360時間)は、次回の協定まで最長1年間は適用されない。

以上


  
【参考文献】

  • 村上芽・渡辺珠子「SDGs入門」(日経文庫、2019年)
  • グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)「SDGS Compass」
  • 経済産業省「SDGs経営ガイド」(2019年)
  • 日本経団連「企業行動憲章」(2017年改定)
  • デロイトトーマツコンサルティング「SDGsビジネスの可能性とルール形成(最終報告書)」(2017年)
  • (公財)埼玉りそな産業経済振興財団 News Release No.56-165(2019.11.25)
  • 野口英雄「令和になり、俄然注目され始めた社会的課題:誰がソーシャル・ロジスティクスの旗振り役になるか」(2019.12.17 ロジスティクス・レビューNo.426)
  • (一社)イマココラボ https://imacocollabo.or.jp/ その他本稿記載の各省庁・団体等のホームページ

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