第322号 段ボールへの属性情報バーコード表示の研究報告~商品のケース単位へのバーコード表示のあり方の将来像の検討~(2015年8月18日発行)
執筆者 | 森 修子 (一般財団法人流通システム開発センター ソリューション第1部 グロサリー業界グループ長・主任研究員) |
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執筆者略歴 ▼
目次
はじめに
流通システム開発センターでは、平成24年度より、商品識別コードに加え日付等の属性情報を表現したバーコード(以下、「属性情報バーコード」)の、段ボール(ケース単位)への表示にかかわる技術検証を実施してきた。平成24年度には、まずインクジェット印字機器(以下「IJP」)によるダンボールへの直接印字の技術水準について調査した。この検証では、段ボールへの属性情報バーコードのIJP印字は、さまざまな課題はあるものの、運用に向けた検討を継続できるレベルにあると判断できたため、続いて25年度には属性情報を表示したバーコードの印字の位置や品質と読み取りの関係について検討した。
今後はユーザーも交えて属性情報バーコードをケースに表示する場合、どのような点に配慮が必要か、実務的なガイドラインを作成する予定である。
研究の背景と平成24年度の検証
現在、特に加工食品の物流現場では商品の集合包装であるケース単位に文字や数字で表示された賞味期限等の日付情報の活用が進んでいる。段ボールケースに印字された情報は、卸売業の物流センターでの荷下ろしなどの際に、システムに手入力されており、商品の賞味期限日等にもとづくロケーション管理や出荷管理に利用されている。こうした情報もバーコード表示できれば、迅速・正確な処理が可能になると期待されている。
ただし、日付やロット番号などの可変情報が入った属性情報バーコードは、事前に印刷ができないため、生産・包装段階でラベルシールに印字して段ボールに貼付するか、包装材にIJP機器を用いて直接印字する必要がある。
現在、国内で商品の段ボール単位に可変情報のバーコードを表示しているのは医薬品・医療機器、食肉などの業界である。いずれもラベルシールに有効期限日やロット番号を表現したGS1-128バーコードを印字し、段ボールに貼付し、商品を流通させている。ラベル印字では、品質の良いバーコードを安定して印字できる利点がある。その反面、ランニングコストは相対的に高くなる。
一方で、近年、一部の商品メーカーでは、社内の商品管理に利用するために、属性情報バーコードを段ボール上にIJP機器を用いて直接印字する取り組みを始めている。更に、賞味期限日付だけでなく、製造ロット番号やケース単位のシリアル番号なども、QRコードなどの2次元シンボルで直接印字する企業も、ごく一部とはいえ存在する。こうした企業では、相対的なコストの安さからIJPによる直接印字を行っていると見られる。*画像をClickすると拡大画像が見られます。
バーコードを企業間の情報伝達に利用する場合には、一定の品質水準を確保する必要があり、バーコードの印刷品質評価基準としてISO/IECの国際規格として定められ、JIS規格も作成されている。印刷品質の評価には、高い順にグレードA、B,C,D,F(数字で表す場合は4.0~0.0)の5段階がある。また、企業間で流通するバーコードには、原則として、グレードC(1.5)以上の品質が求められる(各グレードのバーコードの品質の解釈は表1を参照)。 ただし、段ボールに直接IJPで印字されたバーコードについては、これまで社内での利用が中心であったことなどから、こうした規格や印刷品質についての配慮が浸透していない。しかし、将来、企業間で活用を進めていく場合にはバーコード品質に十分留意する必要がある。
そこで、平成24年度には、まずIJPで段ボールに属性情報バーコードをダイレクト印字する技術の水準を確認することを目的とし、GS1-128やGS1データバー拡張型バーコードを、搬送ライン上で板状の段ボールに印字し、個々のサンプルの印字品質を検証した。印字の際の搬送ラインのスピードや印字のデータの量、および、段ボールのライナ(表面の紙)の種類や、段ボールのフルート(波打った部分の厚さ)など、各種のパラメータを設定した。*画像をClickすると拡大画像が見られます。
図の1は、ライナの種類別に、どのような品質グレードのバーコードが印字できたかを棒グラフで表したものである。白ライナは表の紙が白いもの、一般ライナは茶色のものである。また、「白ベタ」は、一般ライナの上に白色を印刷したものである。段ボールの価格としては、高い順に白ライナ、白ベタ、一般ライナとなる。印字の結果、白ライナにおいては、サンプルの90%がグレードC以上であった。また、最も広く流通している一般ライナに印字したサンプルは9割がグレードDという品質であった。グレードDとなった最大の要因は、一般ライナの素材の色が茶色であり、バーコードのスペース部分(白に近いほどよい)が暗くなることから、属性情報バーコードのシンボル・コントラストが十分にとれないことが主な要因と考えられる。図2は、ライナの種類および印字の搬送ラインのスピード別に、代表的な印字サンプルの画像を比較したものである。印字スピードが速くなると、印字が少し薄くなることが確認できる。30m/分と40m/分では、少しインクが薄くなるが、当初予想と異なり、品質の差は無視できるレベルであった。実際の段ボールの製函・商品詰めのラインで50m/分で動くものはごくわずかであり、50m/f分のスピードに対応しないIJP機器も多いとのことだが、参考程度に実施した。*画像をClickすると拡大画像が見られます。
企業間で流通させるJANやGS1-128のバーコードではグレードC以上の品質が求められる。ただし、モジュール幅(バーコードの一番小さい単位)が0.635㎜以上のサイズのITFシンボルでは、そもそも一般ライナの段ボールに印刷することが多い点に配慮し、グレードD以上の評価であれば企業間で利用できることになっている。
白ライナで9割がグレードC以上を達成できたこと、一般ライナの9割以上でグレードDが達成できたこと、および、コントラスト以外の項目の評価も考慮すると、IJPによる段ボールへのバーコードの印字技術そのものは、将来の企業間における運用を視野に、更に検討を継続することが可能な水準であると判断した(24年度の検証結果はこちらを参照されたい http://www.dsri.jp/invres/pdf/houkoku_h24/20130919.pdf)。
平成25年度の検証
上記の結果を受けて、平成25年度には、属性情報バーコードを実際に企業間で活用することを念頭に、下記のニつのテーマで検証を実施した。平成24年度と同じく、一般社団法人日本自動認識システム協会に検証を委託した。
(1)二つのテーマでの検証
一つめのテーマは、段ボールに属性情報バーコードを表示する場合、すでに印刷されているITFシンボルに対しどのような位置に配置すべきか、である。
将来、属性情報バーコードを企業間で活用する場合においても、現在広く利用されており、マテハンシステムにも組み込まれている、ITFシンボルの表示をなくすことは考えづらく、2種類のバーコードの併記して運用することが必要となる可能性がきわめて高い。
ITFシンボルは、物流センターのソータ等で読み取ることを前提に、決まった位置に印字されている。属性情報バーコードも段ボールに表示した場合、商品の入出荷においては、ハンディターミナル等で読み取って賞味期限日付などの情報を取得するという利用がほとんどだと予想される。この場合、読取機器を読みたいほうのバーコードに近づければ読み取れるため、探し易さに配慮すれば、属性情報バーコードの位置は特段、問題にはならない。ただし、企業によっては、将来、現在ITFシンボルが読まれているのと同じように、物流のコンベア上を流れている段ボールに表示した属性情報バーコードを読み取る可能性もあると考えられる。このため、新たに属性情報バーコードを読み取ってケース単位の商品識別コードとともに、日付等の付加情報も利用したい企業も、また、従来通りITFシンボルを読んで商品識別コードだけを利用したい企業も、ともに支障なく利用できるような属性情報バーコードの位置を確認することが必要である。*画像をClickすると拡大画像が見られます。
二つめのテーマは、印刷品質がグレードDの属性情報バーコードでも、企業間の流通に利用できる水準について、何らかの指標があるかを調査することである。
上述のように現在のGS1標準でグレードD(0.5~1.4)のシンボルを、企業間で利用することが認められているのは、段ボールに印刷する前提の、最小バー幅が0.635㎜以上のITFシンボルのみである。ただし、平成24年度の検証を行った際、印字したサンプルのうち、グレードDのGS1-128やGS1データバー拡張型のも一部を、参考としてコンベアのライン上に設置されたリーダで読み取った時には、ほとんどを支障なく読み取ることができていた。
一般的に、読取機器の性能の向上もあり、物流の現場では、グレードD以下の品質のバーコードでも読取っている。グレードD以下の属性情報バーコードであっても、一定の品質要件を満たしていれば実際の読取には支障がない、といえるような指標が明らかになれば、段ボールに直接印字したバーコードも企業間で活用できる可能性が広がり、表示する側の企業にとっては、表示手段の選択肢が増えることになる。
(2)「位置」の検証
2つのバーコードの「位置(距離)」の検証では一次元バーコードであるGS1-128とGS1データバー拡張型、および、将来は物流でも活用が検討される可能性が高い、二次元シンボルのGS1 QRコードを、それぞれITFシンボルの上側または左側に一定の距離をとって印字した。これらのサンプルを、30~40m/分で動くコンベアライン上に設置されたリーダで、各100回読取りを試み、実際に読み取った回数を記録した。属性情報バーコードとITF-14の距離は、レーザ式スキャナ、オシレーションスキャナ(レーザの線を上下に振る方式)、カメラ式リーダなど、異なるタイプの読取機器が市場で稼働していることを考慮し、多くの機器で読めるように、表2のように想定した。
読み取り用のサンプルは、IJPメーカー3社の協力を得て、合計72個を作成した。これらのサンプルをバーコードの検証機で検証した結果、グレードF(0.0~0.4)やグレードD(0.5~1.1)などの、様々な品質のサンプルが得られたことを確認した。
なお、今回は、後述する「低品質シンボルの読み取り」の調査のためのサンプルを増やす目的もあり、IJP機器を用いて属性情報バーコードを印字した。ただし、実際の運用においては属性情報バーコードをラベルに印字して貼付することも当然の選択肢となる。
サンプルの読取には読取機器メーカー2社の協力を得て、オシレーションスキャナ、カメラスキャナなど、合計5種類の機器を使用した。一次元バーコードであるGS1-128および、GS1データバー拡張型の、48個のサンプルの読み取りでは、それぞれの読取に使用した機器において、上記の表2の位置や距離、および、サンプルの印字品質にかかわらず、100%読み取った。また、2次元シンボルであるGS1QRコードにおいても、今回使用したリーダでは100%読み取っている。
この結果から、表2に掲示した距離の範囲内に属性情報バーコードを表示すれば、ITFシンボルも、属性情報バーコードも、問題なく読み取ることができそうである。また、バーコードの左右の余白(QRコードの場合は上下にもある)を侵食しない限り、ITFと属性情報バーコードを近接させても読取りは可能である。なお、今回の検証では、ITFの左側に属性情報バーコードを置く場合、ITFから離す上限を設定した。しかし理論的には、搬送ライン上を動く段ボールに印字されたバーコードが一定のスピードで読取機器の視界に入ってくるとき、これ以上離れていても問題はない。*画像をClickすると拡大画像が見られます。
(3)市場の読み取り機器を考慮した「位置」は?
上記から言えるのは、あくまで、「技術的には、この範囲なら、必要なほうのシンボルを、コンベア上でも読めそう」ということである。ただし、実際に運用する場合、特に現在、ラインで利用されている読み取り機器に関する配慮が必要である。まず、レーザの線が一本のタイプのスキャナを考えれば、属性情報バーコードは、ITFシンボルの左側に、同じ高さに表示するという選択肢のみである。ただし、現在ではレーザのラインを上下に振る、オシレーションタイプの機器が広く普及しており、ITFシンボルの左側でも上側でも問題はなさそうである。 オシレーションタイプを前提に、属性情報バーコードをITFシンボルの上に置く場合は、なるべく間を開けずに近くにすることが望ましい。このタイプのスキャナの場合、上下のシンボルの間を開けるほど、読み取りの効率が下がるリスクがある(図6参照)。 なお、2次元シンボルは、現状ではコンベア上を動くことを想定した単位への貼付は標準となっていない。カメラの画角に間違いなく入り、読み逃しを防ぐため、ITFシンボルの上または左など、位置を決めたほうがリーダに負荷がかからないと予想される。今後、2次元シンボルの利用が進み、物流センターでも利用できるようになる可能性もあるが、これを見越して、GS1QRコードの表示位置については改めて検討が必要である。
(4)低品質シンボルの読み取りについて
一つ目のテーマである「ITFと属性情報バーコードの位置」の検証のために作成したもののほかに、低品質のシンボルのサンプル数を増やすため、IJP機器の印字濃度の濃淡の設定を変更し、さらに属性情報バーコードを印字した。印字濃度を最も薄く設定したとき、使用した機器によっては、バーコードそのものが「検証不可」となり、品質グレードが付けられないものも発生した。こうした、「検証不可」となったサンプルを除き、今回読み取った一次元バーコードには、グレードDでも比較的評価の低いサンプルも含まれていたものの、読取に使用したそれぞれの機器では、100%読みとった。グレードDのバーコードであれば、既存のリーダで問題なく読み取れる可能性は高い。
ただし、IJPで印字されたバーコードは、印刷したものに比べ、流通過程で品質が劣化するリスクも増えると考えられる。このことから、印字した時点で可能な限り高い品質を目指す必要がある(グレードDなら、その最高評価である1.4にできるだけ近く、等)。
なお、平成25年度には24年度と異なるライナ用紙(ダンボールの表に貼る紙)を利用したところ、IJP機器によらず、全体的に印字品質が少し低下したことを特筆しておく。25年度に使用したライナ用紙が、インクがにじみみやすい性質のものだったことに起因すると思われる。このことからも、IJP印字は素材や包装ラインのあり方を十分検討すべきであり、読取についても事前の試験を行うことが必須である。
平成27年度運用を視野にユーザー企業の検討を
流通システム開発センターでは、今後、これまでの検証から得られた技術的な情報を、商品メーカーや卸売業・小売業などのユーザーと共有していく予定である。段ボールへの賞味期限等の日付表示に関しては、特に賞味期限が一年以上ある食品については、文字情報としては年月日から年月表示に変わりつつある。また、ケース販売用のJANシンボルも表示されている場合もあるなど、スペースに関しての制約もある。ただし、もし属性情報入りのバーコードをケース単位に表示する場合には、将来の活用も考え、標準的な方法で行うことが望ましい。表示側、読取側双方にとって望ましいデータ項目やバーコードの大きさ、位置などについて、利用者のニーズや環境を考慮して検討の上、ガイドラインを作成する予定である。
以上
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