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WSセミナー

第392号 最近のロジスティクスの動向 ~コンプライアンス経営~(前編) (2018年7月24日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(流通経済大学 客員講師
株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

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*サカタグループ2018年2月20日開催 第22回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「最近のロジスティクスの動向 ~コンプライアンス経営~」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社日通総合研究所 顧問 長谷川 雅行」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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1.はじめに

  日通総研の長谷川です。前回に引き続きワークショップセミナーにお招き下さり、ありがとうございます。セミナーのテーマが、「ロジスティクス戦略の新動向〜流通革新とこれからの物流のあり方を考える〜」ですが、物流業界に限らず、人手不足、あるいは法令違反などが起きていますので、コンプライアンスについてお話しします。
  経営改善・現場改善のテーマというと、製造業などでは、P(Productivity:生産性)・Q(Quality :品質)・C(Cost:コスト)・D(Delivery:納品)・S(Safety:安全)・M(Man:人材、Morale:モラル)が挙げられます。
  最近はこれらに加えて、L(Law:法令)が重視されています。コンプライアンス(法令順守)の略では、コスト同様に“C”になってしまうので、“L”にしています。コンプライアンスを重視した経営方針である「コンプライアンス経営」については、お聞きになったことがあると思います。

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  コンプライアンスは、社会情勢の変化にあわせて、大きく変わりつつあります。
  一点目は、消費者の目は厳しくなり、企業の一挙手一投足まで見られているということです。法令に則ってきちんと経営をしなければなりません。
  二番目には、企業統制(ガバメント)でしっかり内部統制の構築をすることが必要となります。
  サカタウエアハウスさんのように、倉庫業としてお客様から貴重な資産である商品を預かっている場合、期末になると必ず、会計士、あるいは監査役から、商品がきちんと保管管理されているかという内部統制の報告が求められます。このように、物流業務についても、コンプライアンスが非常に厳しく、在庫管理(資産管理)や輸配送業務が、内部統制の一環として一定のルールにもとづいて、きちんと管理されているかということが求められます。
  例えばトラック運送事業者の場合、安全性優良事業者認定マーク(Gマーク)制度がありますが、「Gマークを取得しないと、輸配送業務にビットする資格がありません」という荷主もいます。
  コンプライアンスは一つ間違うと、会社をつぶしてしまったり、あるいは世間から「あの会社はブラック企業だ」「悪いことをしている」と言われてしまいます。
  社会の信用を得るためには、「自社のコンプライアンスが、きちんとできている」「コンプライアンスの仕組みを作らなければならない」のです。
  当然、会社は社会があって成り立つものであり、社会がなければ会社は成り立ちません。先ほど田中社長が仰ったSDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)、あるいは企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)については会社としても、きちんとやるべきことを実行して社会にアピールして行かねばなりません。
  事故が発生したときに、社会に対して適切に対応する。その対応を間違うと、大きな問題となって、新聞に書かれたりテレビで報道されたりするわけです。
  コンプライアンスは法令順守ですが、「法令さえ守っていれば良いのか」というと、個人を考えてみても、法令以外にモラル・道徳・倫理などが必要です。会社でも「法令を守る」というだけではなくて、社会的責任だとか、企業倫理まで含んだものが、コンプライアンスと、私は考えています。道路交通法や労働基準法など「法令さえ守っていれば良い」ということではないということです。
  貨物自動車運送事業者(トラック運送会社)は、全国で約6万者(国土交通省平成28年度報告)あります。なかには、コンプライアンス上の問題を抱えた会社があって、法令違反を起こすと、事業許可の取り消しや事業停止、車両の使用停止という行政処分が行われます。
  これまでは、死亡事故を起こしたとか、過積載により高速道路で捕まったというような事案が発生して、運輸支局が監査して行政処分に至りました。
  しかし、最近はそうではなくて、例えば、一般の人から「あおり運転」などの苦情・告発が警察になされて、警察から運輸支局に通報されて、その会社を監査したところ、法令に幾つか違反していたことが判明して行政処分されるケースが増えています。
  交通事故や過積載違反がなくても、労働基準監督署(労基署)の立ち入り検査で判明した過重労働や賃金不払い、年金事務所から指摘された社会保険料の納入遅れなどの法令違反、一般からの苦情までもが端緒となって、運輸支局の監査が入り行政処分に至る事態が実際に起こっています。

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  物流に関するリスクマネジメントのなかで、トラック運送業のリスクとは何かを私なりにまとめてみました。
  縦軸が発生確率で、上に行くほどよく起こります。横軸は損害額、右へ行くほど損害が大きくなります。例えば、7年前に起こった東日本大震災のような大災害は、100年に1回、1000年に1回と発生確率はとても小さいのですが、損害額は非常に大きいのです。火災・風水害、先日の福井の大雪などは、発生確率は小さいけれど損害額が大きくなります。
  起こしてはいけないことですが、貨物を落としたとか、バックするときに看板に引っ掛けたというような物損事故は、金額が小さいけれど発生確率は高くなります。
  また、場合によっては、荷主の倒産や海外移転、トラック運送会社の事故などが原因で取引がなくなるケースは、損害額が大きくなります。左右に広がっているのは、失った荷主に対する依存率が高いと倒産してしまうだろうし、依存率が低ければ影響は少なくて済むからです。
  先ほどの違反や苦情を端緒とした事業停止の行政処分、例えば「30日間の事業停止」になって1カ月は商売できないとなると、「法令違反」や「環境対応」は発生確率が比較的高く、大きなリスクになり得ます。
  本日は、さまざまな会社の方が来られていますが、皆さんの会社で、自分のところがトラック運送業であるなしに限らず、自社の事業リスクについて考えてみる参考にしていただければありがたいと思います。

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  ここで復習ですが、皆さんの会社は「会社法(かつての商法)」のルールに則って競争しており、大きく会社法という枠があります。
  さらに、先ほどお話した内部統制に関しては「金融商品取引法」がありますが、これは、上場企業とそのグループ会社に適用されます。
  一方で、業界独自の法令、食品メーカーさんだったら食品衛生法、酒類メーカーは酒税法、医薬品だったら薬機法など、業界毎に固有に適用される法令があり、「業法」と呼ばれています。
  物流に関して言えば、トラック運送業には貨物自動車運送事業法、サカタウエアハウスさんのような倉庫業には倉庫業法という法令が、それぞれの会社に「業法」として適用されます。非上場企業でも、会社法以外に自社が属する業界の「業法」が適用されます。
  上場した倉庫会社さん、三菱倉庫さんや三井倉庫さん、住友倉庫さんの場合は、金融証券取引法と倉庫業法の両方が適用されます。
  トラック運送業でも、西濃運輸さんとかヤマトホールディングスさんとか、先般上場された佐川急便(SGホールディングス)さんは、金融商品取引法と貨物自動車運送事業法の両方が適用されるというように、コンプライアンスといっても、会社によっては、商売する上で適用される法令が変わってきます。

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  そこで、自社のコンプライアンスについて「守るべき法令は何か」「どの程度まで守れているのか」、まず、このあたりから取り組まないといけません。
  コンプライアンスの5段階評価の方法は、トヨタ系の生産方式・物流方式のコンサルティングを実施している(一社)中部産業連盟のものです。
  通信簿と同じく1から5まであります。
  まず、レベル1はコンプライアンスを全然理解していない、法令順守活動が全く行われていない段階です。実際に少なからず法令違反も散見されます。
  次に、レベル2では法令違反は起こしてはいけないと思って努力はしていますが、部分的に法令違反している段階です。
  これからお話しするトラックドライバーの労働時間はこの段階です。
  それから、レベル3では最低限として法令だけは守られている段階です。「法令さえ守れていれば良い」わけではありません。
  レベル4では全て法令は守られているのですが、コンプライアンスのPDCA(改善のサイクル)が、うまく回っていない段階です。
  レベル5ではコンプライアンスのPDCAを含めて、「良くできています」という段階です。
  皆さんも、自分の会社の営業所・事業所で、それぞれの仕事・業種・業態に応じて、どの段階なのか評価していただきたいと思います。
  その時に、自社が守らなければならない法令とは何かをご存知ですしょうか。
  国交省の定義によれば、サードパーティロジスティクス(3PL)は、荷主さんから物流全般を包括的に受託します。そうなると、3PLは、荷主の業法にも、当然対応しなければなりません。
  医薬品を扱う倉庫の場合、倉庫業者としても薬機法に従って管理薬剤師を配置しなければならないなど、倉庫業法に加えて「荷主の商売に関係する法令を理解する必要がありますよ」ということです。
  法律そのものも変わっていきます。先ほど田中社長が話された、「総合物流施策大綱」は5年に1回見直しされているように、法令も頻繁に変わっていきます。経営者・管理者は、自社に適用される法令の改正について理解していますか。改正された法令に対応して自社のコンプライアンス度の見直し・チェックがなされていますか。
  物流については、特に、安全が一番です。「運賃や料金が安いほどよい」と言われますが、やはり、安全が一番です。
  安全には、交通安全や労働災害もありますが、輸送品質を含めての安全です。それから、環境対策も必要です。
  特に環境対策については、皆さんが利用しているトラック運送会社は、公共の資産である道路を、他の自動車や歩行者と一緒に使わせていただいて、事業を営み収益をあげています。
  メーカーさんのように工場の中で作っている、あるいは流通業のように自分の店の中で販売しているのとは大きく異なります。それだけに、安全や環境には配慮しなければいけないと私は考えています。

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  安全において重要なものが労働時間です。自動車運転者の労働時間の基本がこの図表です。労働基準法では1日8時間・週40時間と労働時間が決められていますが、それではトラックドライバー(以下、「ドライバー」)は荷物を運べませんから、ドライバーについては、別の労働時間が決められており、「改善基準(自動車運転者の労働時間に関する改善基準)」といわれています。
  厚生労働省が労働基準法の特例として決めているのですが、「1カ月の拘束時間が293時間」「1日の拘束時間は原則13時間、最大でも16時間、15時間を越えるのは週2回まで」などが定められているのです。
  会社に拘束されている拘束時間(勤務時間+休憩時間)が原則13時間ですから、24時間から13時間を引いた11時間が自分で好きに使える、睡眠・食事・私用などの時間、つまり「休息期間」です。「最低でも8時間以上、休息時間を取ってください」というのが、ドライバーのルールです。
  ドライバーは1日原則13時間で働くと、休憩時間を除いて、労基法の1日8時間を越した分については、時間外労働になります。
  ドライバーが、1カ月293時間(基準労働時間は、月間22日労働の場合、8時間×22日=176時間)働いたとき、1日1時間の休憩時間(月間合計22時間)を除いても、時間外労働は95時間(293時間-176時間-22時間)と、100時間近くなります。ドライバーに時間外労働をしてもらうために、トラック運送会社は労働組合と時間外労働の協定、通称「三六(サブロク)協定」を結ばなくてはなりません。
  では、時間外労働100時間で、社長と労組委員長が捺印した協定書を労基署へ持って行くと、受け付けてもらえないケースが増えています。
  なぜかというと、1カ月で100時間、あるいは2~3カ月平均で時間外労働80時間働くと、これは厚労省が定める「過労死ガイドライン」だからです。時間外労働を100時間したドライバーが脳疾患や心臓疾患で亡くなったりすると、社長さんは過労死の責任を問われます。ドライバーの長労働時間が問題になっているのには、そういう理由もあります。
  月間拘束293時間では、労基署から「三六協定の時間をもっと減らして持ってきてください」と言われるのです。
  このような実態ですから、ドライバーに若年層がなかなか入って来ません。私は仕事で、ドラック運送会社によく行きますが、若い人はほとんどいません。40代、50代、なかには私と同じように60代の方もいます。
  厚労省が発表した2017年12月の自動車運転者の有効求人倍率は、全国平均で3.09倍でしたが、需要が高い首都圏では、もっと求人倍率が高いのです。それほど高くないと言われている、九州・四国あたりでも、有効求人倍率は約2倍、東北は逆に高く、復興の関係で、建設業と取り合いになっています。また日本建設業連合会では、4月から第二土曜日は休もうと呼びかけています。そうでないと、建設業も人が集まらないのです。
  建設業だったら第二土曜日を休めるのに、トラックドライバーだったら先ほどの話では、月間293時間拘束で、長距離だったら2泊3日~4泊5日運行ですから、これではなかなか人手が集まらないのです。

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  トラック業界は、まだまだ高齢者や女性に優しい職場ではありません。配送トラックの後ろにカゴ台車を上下させる機械であるテールゲートリフターの装備、あるいは女性専用トイレの設置や、物流センターへの託児所・保育所の併設など、職場環境の整備が進められています。

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  トラックだけでなくて、バスやハイヤー、タクシーという運転の仕事は、全職業平均より労働時間が1割から2割長い、時間外労働時間も全産業平均と比べると非常に長い、それで賃金が安いため人手不足になっています。
  トラック業界でもドライバーが高齢化していますが、最も高齢化しているのはタクシー業界です。今タクシーは年金ドライバー(65歳以上の年金受給者)が増えています。

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  トラックがなぜ長時間労働になっているかというと、運転時間に比べて、手待ち時間が長いということがあります。手待ち時間も、もちろん給料の中にはいっていますが、ドライバーは「運転してナンボ」ですから、手待ちが多いと儲からないわけです。
  それから、宅配便の持ち戻りが多いなどもあります。例えばこの図の手荷役の例では、大型トラックにレタス1200ケースを手積みすると、最低でも2時間くらいかかります。それを、パレットやフォークリフトを使って荷役をすれば、2時間かかっていたものが、20分位に短くできるということです。荷役の機械化など物流効率化について、今度の「総合物流施策大綱」のなかで国が力を入れているところです。そのためには、この図にあるように、働き方改革として物流の透明化・効率化に向けた計画が立てられています。

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  ドライバー不足への対策では、先ほどお話しました労働諸条件の改善以外に、モーダルシフト、一貫パレチゼーション、共同物流の推進などがあげられ、昨年のワークショップセミナーの中で、お話しいたしました。(ロジスティクス・レビュー第366号367号に掲載)
  新しい対策は、宅配便の持ち戻り・再配達を無くそうという取組みです。
  国交省の自動車運送事業者の働き方改革についてのキャッチフレーズ、キーワードは、「長時間労働にブレーキ、生産性向上にアクセル」です。これはトラック、タクシー、バス事業を全て含みます。そのために国は様々な施策に取り組んでいます。

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  先ほどの「総合物流施策大綱」に基づき、具体的施策ごとの目標に対する実行計画である「総合物流施策推進プログラム」が1月31日に策定・公表されました。推進プログラムの進捗状況にも注目していく必要があるのではないかと思います。
  それを表にしたものが、こちらの図表です。これは、国交省だけでなくて、経産省、それから、労働時間については、厚労省、農水産物のパレット化については、農水省など、各省庁が一緒になってこういったことに取り組まないと、「働き方改革」が進んでいかない、物流全体が危機になると思います。

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  先ほどのドライバーの手待ち時間のように長時間労働を減らすには、荷主さんにも協力して頂かないと進みません。
  そこで、厚労省では3年間にわたって全国9箇所、27の事例を選んで、荷主と元請運送事業者、下請運送事業者がグループを作って、意見を出し合って、ドライバーの労働時間を減らしていきましょうということで、取り組みをした事例集です。
  厚労省のHP(http://www.mlit.go.jp/common/001136004.pdf)から、ダウンロードできます。

※後編(次号)へつづく



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